飛田俊雄の場合 08
第八節
「機長、少々お待ちください」
独特のイントネーションのささやく様な声だった。空港内のアナウンスみたいと言えば分ってもらえるだろうか。
「私たちには情報共有させていただけるということでしたよね?」
きりりと引き締まった凛々しいCAの直訴だった。
顎に手をあてて考えている飛田。
「ふむ…変身しても殆ど動揺してないな。負けなれてるのかな?」
「こうなったら考えても仕方がないからですよ」
にこっと笑う。強がりなのか余裕なのか。
斎賀は鼻孔を自らのメイクが甘い香りでくすぐっているのを感じていた。
「いいだろう。話し合いたまえ。ただ、一分だ。計っておく」
「有難うございます」
にっこり笑って会釈すると、カートを引きずりながらも懸命に急ぐ“女走り”で橋場の元に駆け寄ってきた。
「…すいません。負けちゃいました」
女に見下ろされるとは…と思う橋場だったが、何より「両手に華」状態となっていることにドギマギする。
この戦いをやっていると、仲間が女にされるのは日常茶飯事なのだが、それにしてもここまで魅力的な美女に囲まれる形になるのは複雑である。
「…ヒントは掴めたのかよ」
腕組みをしている橋場。
「あの方はきっと能力としては普通です。今回の立ち回りの秘密ですけど…」
「何だ?」
何となくメイクも決まった美女スチュワーデスの顔を正面から見据えるのが恥ずかしくて視線を落としてしまうが、そこには膝丈のスカートから伸びる黒ストッキングに包まれた脚線美があったのだった。
「…橋場さん聞いてます?ボクの脚ばっかり見て…やらしいなあ」
「ちょ!おま!…」
「とにかく予想です。恐らくイメージの問題なんですよ」
「イメージ?」
「僕らって、メタモルファイト中は、とにかく相手のガードをかいくぐって攻撃を当てることを考えるでしょ?」
「まあな」
「でも、実際はそこで相手を『変身させてやる!』って強く思い込むことが必要じゃないですか」
「…確かに」
「恐らくその能力の使い方が物凄く上手いんですよ」
「それはガードとかフェイントが上手いってことじゃないのか?」
「それもありますが、その先です。ガードやフェイントは普通の戦い方におけるセオリーですが、ボクたちがやってるのはメタモルファイトです。触った後のイメージまで自分をしっかりコントロール出来ているかどうかにヒントがあるんじゃないかと思うんですよ」
「あのおっさんは、戦いそのものというよりは「メタモルファイトそのものの」ベテランってことか」
「そういうことです。だからむしろ普通の戦いのセオリーは使えません。使えなくはないですが、その常識に縛られることで邪魔にすらなります。結局ぼくらがやってたのは、メタモルファイト要素を添付した単なるケンカの延長に過ぎなかったんです。…そこでボクが考えたのが」
「そこまで!」
飛田の声だった。
(続く)