安藤士郎の場合 37
第二十節
のんきな声が廃工場に響き渡った。
「もしもーし!」
ウーだった。
「中華姉ちゃん?」
「僕の狙いが正しければ…これで終わりです」
見られるリスクを承知でか、立ち上がって手を振る乙女。
「こっちでーす!ウーさーん!」
一瞬遅れてこちらを確認するウー。別れた時の女子高生スタイルではなく、何時の間にやら普段着に戻っていた。
「…?ケンちゃん?」
「はい!」
「随分可愛くなっちゃってまあ…んなところで何やってんのよ」
その瞬間だった。
ぼうん!とお嬢さまになってしまうウー。
純白のブラウスにボータイ。黒のロングスカート。今の橋場たちと同じお嬢さまスタイルだ。
同時に二階から悲鳴が上がる
『わひゃあああぁぁぁああああああっ!』
「何だ!?」
「やった!決まった」
ガッツポーズで飛び上がるお嬢さま。
「何なんだよ!何だか分からんぞ!」
「付いてきて下さい!ウーさんもこっちへ!」
目の前の障害物をジャンプで乗り越え…るなどというはしたないことはせず、女走りで回り込む斎賀。
「あーらヒデちゃんまでそんなカッコで」
「誰がヒデちゃんだ!」
強がっても緑なす黒髪に大きなリボンをなびかせ、長いスカートをはためかせるスタイルでは説得力が無い。
「こっちです!」
スカートの前部分を掴んで持ち上げながら、上品な革靴をカンカン言わせつつ待望の階段を駆け上がる斎賀。続く橋場とウー。全員お嬢さまスタイルだ。
(続く)