飛田俊雄の場合 06
第六節
「こっちから行くぞ!」
またヘロヘロパンチだ。
しかし今度はフェイントしてのキックである。
だがそれは、格闘家の放つ「ローキック」ではなくて、単に素人による「脚を狙った蹴り」だった。
膝を上げてカットする光。
完全にブロック出来る訳ではないが、膝を上げて迎え撃つことで格闘家の放つキックですらある程度威力を減じることが出来るのだ。
その狙いがバッチリ嵌った…はずだった。
「ふむ…今日は出血大サービス…Dカップだ」
「へ?…あああああっ!」
また謎の性転換現象が光を襲う。
ちゃんとカットした筈のキックによるものなのか、光の乳房は女の物になっていた。それもいつもよりも大きなDカップサイズである。
長い髪に大きな乳房をぶら下げた光だが、それ以上に精神的なショックが大きい。
「馬鹿な…」
離れたところで観ている橋場と斎賀。
「どうなってやがる。こちらの攻撃は全部ガードされて、ヒットしても効かない。それでいてあちらの攻撃はブロックしても全部通る。試合にならんぞこれじゃ」
「…凄い」
「感心してる場合か!これから俺たちもやるんだぞ!」
「今考えてます」
「特殊タイプか?」
「いや、違うでしょう。これはレクチャーだと飛田さんは言ってました。何か使い方に秘密があるんですよ」
「使い方?」
最初の試合が決着しようとしていた。
胸まで女性化した光は戦意喪失気味であり、立て続けに食らった攻撃をモロに受けて反撃もままならず、精神的抵抗も出来なかった。
「うわ…うわわあああああっ!」
全身がぐにぐにと女性化していく。
すらりと背が高く、スマートにしてスレンダーな女性となった光の身体を、ピンストライプのスカートスーツ、紫色のスカーフに、うっすらと肌色の透ける黒いストッキングが覆っていく。
「これは…」
「…変態野郎が…」
光はすっかり『大人の女性』の魅力あふれるCAとなってしまっていた。
「あ…」
「どうかな?着心地は。悪くないはずだが…」
「…参りました」
ぺこりと頭を下げる光。
隅々まで凛々しい「綺麗なお姉さん」になってしまっている。
「潔くてよろしい。解除条件は…」
といって耳打ちする飛田。
傍目には完全に「仕事の打ち合わせをするパイロットとスチュワーデス」という図である。
救いは、恐らく光自身がこの構図を橋場や斎賀ほどには客観的に観ていないであろうということだけだ。
「いいかな?」
「はい。有難うございました」
綺麗に両手をスカートの前に揃えてお辞儀をするCA。
いつもの学生服…女子の…に比べても面影が全く無いほどの変身ぶりだった。
どこからか出現したカートをからからと引きずって二人の元に帰ってくる。
(続く)