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王四公国物語-双剣のアディルと死神エデル-  作者: 浅水 静
揺籃(ゆりかご)の章
1/22

プロローグ

初出

 こんな結末に至る事は、彼の頭の中に無かったといえば嘘になる。


 だが早過ぎた。


 瞬間的に悟った後、薄れ行く意識の中で思い描いたのは、彼の息子へ対して未来を失わせる事への『詫び』と後悔だった。




 財務一等書記官であるディッタースドルフ伯ルプレヒトが執務室で自刃により死亡した事件は、発表された当時は宮廷でのゴシップの種として席巻したが、一ヶ月もしない内に人々の記憶から忘れ去れていった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「……いくのか?アーダルベルト」

 初老の偉丈夫の男が少年に向かって問いかける。


「はい。……閣下には、並々ならぬご恩を賜り、お返しできぬのも心苦しいのですが……」


「恩などと……他の文官からの締め付けが厳しい中、父上のルプレヒト殿が唯一軍の味方であった。父上の尽力が無ければ、軍の維持さえ危うかった。それを思えば、恩などいか程の……」


 閣下と呼ばれた男の横に立つ男性も沈痛な面持ちで少年に呟いた。


「ヴィルフリート様、有り難う御座います。

 されど、これ以上、王都に身を置けば閣下が、クラインシュミット家が不興をかわれます。

 お気持ちだけで……」


「……アディル……済まぬ……」


 深々と一礼して退室する少年を見送り、クラインシュミット侯ゲオルクは、軍務省相であるはずの自分がいかに無力であるかを痛感していた。

 宮中闘争の盟友を失っただけではなく、その嫡子、それも齢14歳にしてあれほど聡明な少年をその身一つで放逐しなければならない事は懺悔の念に耐えれぬものがあった。


「父上……この度の宮廷よりの沙汰、余りと言えば余り……。

 確かに宮中で自裁は不興を変われるかとも思いますが、ディッタースドルフ伯の長年の忠節や人柄を思えば、通例であれば、病死扱いが普通。

 増してや爵位剥奪、家名家財の没収、その上、成人に満たぬ息子まで王都追放では、まるで謀反人扱いではありませんか!

 やはり……陛下が幼年なのを良い事に摂政---」


「言うな!」


 ゲオルグは、息子を叱咤するとゆっくりと窓辺へ近づき、使用人に見送られ門を出て行こうとする少年に目をやった。


「ヴィルフリート……あの子は、鄙びた地でもやって行けるのだろうか?」


「剣と盾の扱いは、年令のせいでもありますが小柄で……お世辞にも上手いと言えませぬが、双剣の扱いは群を抜くものが有りました。私との立合いでも時々、背筋か寒くさせられたものです。

 なにより、ディッタースドルフ伯から受け継いだ聡明さと見識の才が……きっと、大丈夫ですよ」


「うむ、……転出先は確か……」


「はい、幸い王立学校で同期だったフェリクスの領ですので、事前に目を掛けて貰える様には連絡はしています。

 だだ、彼奴は前年、領主を継いだばかり……領内の寄り子の取りまとめに四苦八苦しているようなので、どこまで頼れるものか……」


「ディングフェルダー辺境伯フェリクス殿か……

 願わくば大神の加護が有らんことを」


 少年は、門を出たところでもう一度、深々と頭を下げ振り返る事無く歩み始めた。

コメディです

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