いきなりの政略結婚。
美形の隣で親友をやっていたため自分への恋愛感情には鈍感になってしまった娘さんと、言葉が足りなすぎる近衛騎士団長の話 。
祝福と歓喜の声がここまで聞こえる。
「おめでとう。」
ベットに横たわりながら、静かに私は呟いた。
見たかったな、あの子の姿。
私の親友は、とても、とても美しく、男気溢れた子。
見慣れた私でも、時折目が眩みそうなほど綺麗で格好いい。
喧嘩っ早いのが玉に瑕。
それが短所でもあったけれど、まっすぐに相手に立ち向かっていけるその姿に、心に、救われたし憧れたものだ。
彼女と容姿を比べられ、彼女に立ち向かっていけない苛立ちを私がぶつけられるたび、颯爽と現れ助け出してくれた。
まるで、王子様。
でも相手をぶちのめした後は、いつだってボロボロ泣いて私を抱き締めて彼女は言う。
『嫌いにならないで。』
喧嘩もするし、イラっとすることもある。
それでも、泣き虫で意地っ張りな私の王子様を嫌いになんてなるわけがないのに。
王子様な彼女も、私も年を取り、年頃の娘となった。
けれども彼女は変わらなかった。
本物の王子様に出会うまでは―…
恋する彼女は、更に美しくなった。
彼女の思い人は王家の由緒正しい第一王子。
二人は、時にぶつかり、時にすれ違いながらも互いに手を取り合って生きることを選んだ。
今日は、二人の婚約披露。
今はバルコニーに立ち民衆に姿を御披露目しているのだろう。
思うようにならない体を、何とか窓がある方へと向ける。
「彼女が最後は笑顔で、元気に伸び伸び城で生きていけますように。」
強ばる指を、何とか組合わせ祈りを捧げる。
ほんとは寂しい。
けれども、それ以上に幸せになって欲しい。
「貴女は、いつだって彼女の事ばかりだ。」
不意に男の声が聞こえて、振り返ろうとするが体が軋んで呻くのみで終わった。
「無理をするな。」
男は私を抱き起こすと、顔をのぞきこんだ。
「…近衛騎士団長…?」
艶やかな黒髪に濃紺の瞳。麗しの鉄面皮と呼ばれる美形な人が、やや心配そうに私を覗きこんでいる。
どうでもよくないけど、顔が近すぎる。
というか、この人王子の護衛のはずなんだけれど。
何故ゆえここにいるんだろうか。
「なんでここに?」
「勇気ある優しきご友人を見舞いに。」
『勇気ある優しきご友人』とは私。
王子に片思いしていた令嬢に過激な人がいて、彼女と私を拐った。
何かされる前に助け出されたが、その直前に令嬢が激昂。
短剣で彼女に切りかかった。
とっさに間に入った私は、背中に切り傷をおった。
縛られていた縄があったおかげで傷は深くはなかったけど、短剣には毒が塗ってあった。
死にいたるものではないが、熱で三日三晩寝込むほどには強い毒が。
私の意識は切りつけられてから4日目に戻ったが、散々彼女に泣きながら怒られた。
もう二度としないと約束したけれども、そんな機会にほいほい恵まれたくない。というかもうできない。
肩甲骨の間には傷痕が残った…らしい。
自分では見られないのでよくわからない。
治癒魔術というのもあるが、私は魔術を受け付けない体質で傷痕は消せなかった。
自分の身も厭わず、友を助けた優しき勇敢なる人。
数日は声が出ず、ベットから起き上がる事もできない私の知らぬ間にそう讃えられていたようだ。
父から話を聞き驚いたものだ。
私としては、その場の勢いでしたことで、使命感やら優しさからした事ではないのだ。
みんなに泣かれるやら心配されるやら、叱られるやらで、怪我人にはもっと優しくしてくれればいいのに…
ぼんやりと考えていると、左手の薬指に指輪が通された。
「なんですか、これ」
「結婚指輪だ。」
誰とだ。
眉がよる。結婚はいずれできたらいいな、とかは思っていたが見知らぬ人といきなりはかなり嫌だ。
「親友とこれまでとなるべく変わらず会いたいだろう?
恩人の君は、政治的にも利用されやすい。
望まぬ相手と無理矢理結ばれずにすむし、結婚していれば狙われても守りやすい。」
「誰と?」
要は王子に近い間柄か、味方と政略結婚をしろと言うことか。
訪ねると、近衛騎士団長は眉間にしわを寄せ「私とだ」と言った。
そんなに嫌そうにしないで欲しい。
不本意なのはお互い様だ。
美形は眺めてるくらいが丁度良い。何が悲しくて、旦那の引き立て役になりたいものか。
「分かりました。
断ると面倒ですしね。仮の夫婦になればいいんですね。
ああ、愛人が何人いようと気にしませんから。」
近衛騎士団長の眉間のしわは更に深くなり、無言で私を寝かせると去っていってしまった。
何なんだ、一体。
私は知らない。
彼が本気でプロポーズしたことを。
困惑したり、緊張すると眉間にしわが寄る癖があることを。
彼が不本意で政略結婚したとの勘違いは、
その後数年間解けないことを私はまだ知らない。
この後、王子達に報告に行き、主人公の親友に腹パンチをくらいます。(笑)
もしかしたら続編を書くかも。