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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
終の姫巫女編
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#67 黄昏の覚醒

「お前は、咲耶なんだよな?」

咲耶を背に乗せて目的地へ向かう最中、それは自然と俺の口から零れた。

「それ以外の誰だって言うの?」

不機嫌そうに咲耶は言い返してくる。

「俺はただ、咲耶がもし暁津比売として覚醒したとしても、それでも咲耶は咲耶であって欲しいと思ってるよ」

「・・・・・そう」

素直に気持ちを伝えてはみたが、今いち咲耶の感情は読み取れなかった。




「今から向かう村、邦治さんの生まれた家があるみたいね」

そんな咲耶の言葉と共に、俺の脳裏に複数の情景が次々に浮かんだ。

次々に倒れていく兄弟達、炎、喜ぶ両親、すっかり立派な屋敷に建て直された生家、閉鎖的村社会、生き神様、人間として生きるために


直後、咲耶の後ろに人一人分の重みを感じた。


「正直、今までの事や今回の事の犯人は、元々見当は付いていたんだよ。

ただ、どれも物的証拠に欠けていた。だからこそ賭けではあるが、今回の彼等の作戦に乗ったんだ。

ワイドショーに出てた姫巫女はただの偶然だが、いいきっかけにはなったよ」


その話しぶりから邦治さんであることはわかったが、声が若くなっている気がする。

同時に咲耶から見たであろう邦治さんの姿が脳裏に浮かんだ。


若返っている。


ちょうど昔、清實さんが若い頃に訪ねてきていた頃位だろうか。


「若返らせてみたわ。邦治さんも神人だから本来はこれ位の肉体年齢のはずなのに、わざわざ自分に呪いをかけて普通の人と同じ様に身


体が老化するようにしていたみたいだけど、どうせ村に着いたら高確率で戦闘になるのだしそれなら肉体も万全の状態が良いに決まって


るわ」

咲耶がさも当然の様に言う。


「正確にはある呪術の副作用だがね。しかし、それなりに重い呪いだったはずなのに、こうも簡単に無効化されると自信喪失を通り越し


てもはや笑いしか起きないな」

自嘲気味に邦治さんは笑う。

当たり前だが、咲耶の出鱈目っぷりは素人よりもより呪術に精通した人間の方がより実感できるのだろう。

しかし咲耶はそれを否定した。


「別にコレは無効化したわけじゃないわ。ただ、肩代わりしてもらって、私の中に保存しているだけよ」

それがどういうことなのか、俺にはよく解らなかったが、邦治さんはそれを聞くと少し納得した様だった。

言ってみれば人形に病気を肩代わりしてもらうような物らしい。


「首謀者達のことはもう解っている。というより、私は昔から彼等を知っていたし、彼等は昔から活動していた。

ただ、今までの私には彼等のやっていることを暴き、糾弾するだけの証拠も力もなかった」

静かに邦治さんは語りだした。


「だが今はそのどちらもある」

低い声で、しかししっかりとした様子で邦治さんは言い切った。


「私達はただ彼らの本拠地に向かい、彼等を咲耶ちゃんの餌にするだけでいい。既に村の周りには咲耶ちゃんに取り込まれ済みの信頼を


置ける人間達が逃げられないように結界も張ってある」

邦治さんが、まるで最初からこの状況を狙って居たかの様に話す。


「待ってください。彼等って誰ですか?そんなこと今まで一度も聞いたこと無いですけど」

たまらず俺が尋ねる。


「だって前もって君達にこのことを話してそのことを彼等に悟られたら困るじゃないか」

しれっと邦治さんは答える。


「彼等とは、ある神様に使える神人達だよ。彼等は自分達以外の神人を出来るだけ多く作り出して、その神の陣営に引き込もうとしてい


る。その方が力の強い神々が直接手を出せないこの物質界では優位に動けるからね」

結局、私達は神同士の勢力争いに巻き込まれているだけなんだよ。と邦治さんは苦笑した。


「私も昔はそれなりに熱心に勧誘されたが、既に色々経験して彼等のやり方には疑問を持っていたからね、その話は断ったよ。お陰で自


分の身体が普通の人間と同じ速さで老化していく程自分の命を削り取る呪術を使わされることになったけど、お陰で私は人間として生き


られるようになった訳で、正直それには感謝さえしている位だよ」

懐かしむように邦治さんは続けたが、どうもその言い方が俺は引っかかった。


「神人の寿命をそれ程までに縮める術って、一体なんなんですか?」


「反魂の術だよ。ある魂を制御しやすい様に条件付けされた肉体に定着させたんだ」

俺はようやく合点がいった。

そして首を捻りちらりと咲耶の方を見れば目が合い、咲耶は邪悪な笑みを浮かべた。




見覚えのある鬼灯の人達が張っている結界を潜って村に入れば、日は傾きかけていたもののまだ明るいというのに辺りは静まり返ってい


た。

周りを見渡せば何軒かの家はあるが、まるで人の気配は感じられない。

大方戒厳令が出されて非戦闘員はどこかに避難してるか家の中で息を殺しているのだろうと邦治さんは語ったが、当たり前のようにそん


な話が出る時点でこの村が普通じゃないことは解った。


「多分、悠人はあの先の無駄にでかい家にでも連れて行かれたんだろう」

村の中でも一際大きな屋敷にの前にさしかかった時に邦治さんが言った。

「・・・・・あの屋敷はなんなんですか?」

「私の生家だよ。今は完全にさっき言った神人達の勢力に乗っ取られてしまったけどね」

・・・俺は、この人と話すと度にまるで地雷原を突っ走っているかのような気分になるなと思った。


「龍太、鬼灯だけでなく紅鏡や籠目教の人達も個人の記憶辿ってったら大体こういうことに行き当たるし、別にこれも珍しいことじゃ無


いのよ」

きっと咲耶が今なんでもない様にこうやって話していられるのは、やっぱり雛月のお陰なのだろう。

そんなに多くの人間の暗い過去だとか地雷を、全て自分の事の様に受け止めるというのは、まとものな神経をしていたら耐えられないの


だろうと今はよく解る。


「ということは今、村の戦力はあの屋敷辺りに集中していて、それ以外の人達は避難するなり息を潜めるなりしていても結界のせいで村


からは出られないってことよね」

「まあ力のある人間が全員束になって結界を破ろうとしたらどうしようもないだろうが、今のところその様子は見られないね。

それなりに守りの厚い場所に避難しているのかもしれない。

ただ、咲耶ちゃんの力の性質を知った上でこの配置なんて、いかにも取り込んで下さいと言わんばかりで、罠みたいじゃなか」

そんなことを邦治さんと話しながら村の様子を観察しているらしい咲耶の声は、随分と楽しそうな物だった。




屋敷の周りには家を守る様に結界が張られていたが、邦治さんは俺達がその結界に近づいた瞬間、いきなり刀を出して結界を破った。

すかさず、咲耶が千里眼を用いて柿芝の居場所を見つけたらしく、屋敷のあの辺りに向かえと俺に指示を出す。

俺が咲耶の言う場所へ向かおうとした直後俺達は何者かに叩き落とされ屋敷の中庭へ墜落した。


体を起こし、あたりを見渡せば、そこは高級感の漂う白い砂利が敷き詰められ所々に点在するように岩が置かれた庭だった。

目の端に、何かが這って咲耶から離れていくのが見えた。

庭からはとても嫌な感じがした。


「ようこそいらっしゃいました姫巫女様」

上からの声に頭を上げれば、真っ白な肌に白い着物を着た女がふわふわと宙に浮いていた。

女はそのまま縁側まで降りてくると、そのままそこに腰掛けた。

着物は遠目でも解るほどに高級感の漂う物だった。

合わせは左前になっていたし帯や襦袢も色の着いた物だったのだが、どうも女の肌が白すぎるせいか死に装束に見えた。


「こんにちは、早速だけど貴方達の魂を貰いに来たの。ついでに悠人君も迎えに来たわ」

咲耶が立ち上がりながら憚りもせずに宣言する。

「まあ恐い。でも、それは無理だと思いますわ」

ニッコリと女が笑った瞬間、俺たちは自分達に突き刺さる無数の視線に気付いた。

十や二十ではきかない、何百ともあろう目が俺達の様子を窺うように見ていた。


同時に、急に身体をあらゆる方向から圧迫されているような息苦しさに襲われた。

俺達を囲むように配置された岩からその押しつぶされそうな圧力が発せられている様な気がしたが、身体は一切動かせず、どういう訳か


電撃も念動力も使おうとしたが一切発動しなかった。


「その岩は、暁津比売の魂を封じ込めていた岩の術式を解析して新しく構築した物を組み込んだ岩なんですのよ。

だから姫巫女様は力を発動することは出来ないし、力の源である主がそんな状態なら眷属だって同様に無力化されるのです。

素敵でしょう?」

優しく語り掛けるような嘲るような、そんな笑顔を女はこちらに向けた。


「おかしなことを言うのね。その岩が閉じ込めてたのなんて、暁津比売の魂のほんの欠片に過ぎないじゃない。

そんな破片程度を封じ込める方法で、今の私を封印できると本気で思っているの?

だとしたら確かに相当素敵な頭をしているのね」

振り返れば咲耶がこれ以上無い位に悪意に満ちた笑みを浮かべていた。


そしてそれを証明するかの様にたちまち風はざわめき雲が渦巻き、ゴロゴロと不穏な音を立てる。

「そんな、要!」

女が何やら印をきったが、何も起らなかった。

辺りを見回せば、岩の陰に隠れて身体を丸めている一匹の白い蛇がいた。


多分、咲耶が要に不信感を抱いて、いつも雛月にしている様に文月に取り込んだ要の魂を押し付け、実体化させて切り離したらしい。

女の様子的に、要にはいつか万里さんが咲耶に仕掛けた毒の様に咲耶にわざと一度取り込まれた後に内側から悪さをする予定だった様だ


きっと咲耶を封じるための本命は要の方で、だからこそ咲耶が最初に岩の封印を物ともしていなかった時よりも要が機能していないと発


覚した時の方が取り乱しているのだろう。


しかし次の瞬間、咲耶の身体は刀で貫かれた。

続いて咲耶の首を刎ねようと咲耶の背後に刀を振りかぶった男が急に姿を現したが、そちらは邦治さんによって防がれた。

どうやら封印が無理と解って、また咲耶の魂を細かく刻んで小分けに封印することにしたらしい。

咲耶は自分に刺さった刀をゆっくり撫でたかと思うと、静かに口の端を吊り上げた。

すると咲耶に刺さっていた刀は消え、それと同時に邦治さんと交戦していた男の身体を貫いた。

その隙に邦治さんが男の身体を一瞬にして灰にする。


「刀に宿った術者の魂の欠片を取り込んで、前の持ち主の元に戻って同じことしてこいって命令してみたの。

魂の宿る物なら、なんだって同じことが出来るわ」

ニヤニヤしながら咲耶は女に語りかける。


「なんだかもうめんどくさいから、全部焼き払っちゃいましょうか」

咲耶がそう呟いた後、咲耶を中心に放射線状に放たれた炎の壁は、丁度それを押し返す形で燃え盛る別の炎の壁によって相殺された。

「まあまあ、せっかく遠路はるばる来たのですから、そんなこと言わずにもっとゆっくりしていって下さいな」

あたかも客人をもてなすかの様に女が笑う。


それと同時に周囲からは念仏の様な呪文の様な物を唱えている声が聞こえだし、先程とは比べ物にならない程の力で俺達は地面に押さえ


つけられた。

今俺達を視ている神人達が、俺達の自由を奪う術を一斉重ねがけでもしているのだろう。

頭を捻ることすらままならない。


しかしあんまり危機的な状態になると逆に頭の中は冷静になる物らしく、こういうのを数の暴力というのだろうな。とか、肌に砂利が食


い込んで痛い。そういえば痛覚の遮断ができない等とのん気な考えが浮かんだ。いや、きっとコレは俺の考えじゃない。

咲耶の考えが俺に流れ込んできているのだ。直感的にそう思った。

目を閉じて意識を集中すれば、そこには確かに咲耶との繋がりを感じた。


先程からいくらか試してみたらしいが、どうにも電撃や念動力も千里眼も何もかも特殊な力は咲耶も使えなくなってしまったらしい。

ただ、咲耶も自分の内の気配に意識を向けると、俺との意識の繋がりは感じるらしかった。

「今、私は全く外に自分の力を発する事は出来ないけれど、私と繋がっている龍太に対してなら力を発せられるかもしれない」

そんな妙に確信を持った咲耶の考えが俺の中に浮かび、俺もこの現状を打破できるのはコレしかないと思った。


再び目を開ければ、何か糸の様な物が俺達を縛り上げていた。

そして、目の前には先程の女が随分と長い刀を手に持って立っていた。

同時に前にスーパーでやっていたらしいマグロの解体ショーの光景が浮かび、咲耶ののん気な感想に少し笑った。


「きっと龍太なら、この程度の拘束なんて簡単に破れる。目の前のこの人だって一瞬で倒せるし、それどころか、この屋敷にいる神人達


が束になってかかってきたって、絶対勝てるはず」

咲耶は、はなから自分が負けるなんて考えていないようだ。


「だって龍太は、誰よりも強いんだから」


そんな咲耶の声が俺の中に響いた瞬間、今まで俺を押さえつけていた力が何事も無かったかの様に消え去った。


全てが俺の思うようにできた。

咲耶の前で刀を振り上げた女を一瞬で消し炭にし、俺達を押さえつけていた奴等の気配を探って見つけ出すとすぐに全員消した。

屋敷の中全てを見通して、柿芝以外の全員の身体を消滅させてその魂を咲耶に取り込ませた。


屋敷の結界が消え、村全体を見渡せば、概ね佐倉や輝美さん達が片付けてくれていた様だが、いくらか残党もいたのでまとめて消した。

咲耶とより密接な繋がりを持った人間に、要と同様の咲耶を内側から操るための精神干渉を施すことが目的だった様だが、既に操ろうと


した側の人間全員が咲耶に取り込まれ、完全に支配されてしまった今、それも無意味だろう。


柿芝は屋敷に連れ込まれた後、屋敷の神人達に自分達神人がいかに優れた存在であるか、そして彼等を指揮する神がどんなに偉大な存在


であるかを延々語られた様だったが、全く心に響いていない様子だった。

邦治さんは日頃の教育の賜物だと笑った。


その時、俺はとても気分が高揚して妙なテンションになっていた。

そして何かをやらかした、ような気がする。気がするというのは、その辺りの記憶があいまいでちゃんと憶えていないからだ。


確か、顔を真っ赤にした咲耶にキツイ一撃を貰ったような気はする。




次回更新予定は8/28です。

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