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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
終の姫巫女編
68/71

#65 親殺しの顛末

「・・・・・壁ね」

結界の端の、透明な壁をなぞりながら咲耶が呟いた。

本来、この結界の壁の向こうには柿芝達がいるはずなのだが、先にはこの結界内の町と同じく通行人の一人もない無人の景色が広がっている。


俺達は今、町を覆っている卜部さんの結界の端の部分に来ている。

佐倉曰く、結界の端の様子で結界の種類をある程度か絞れるらしい。


「末端のこの処理の仕方と複数人の術者が必要な永続的な結界ですか・・・。

思い当たる物はいくつかありますが、どれも神レベルの存在を無期限で封印する強力な代物ですね」

お手上げとでも言いたげな笑いを浮かべながら佐倉が言った。


「何か、ここから出る方法は無いの?」

咲耶が振り返り、佐倉に尋ねる。


「内側からはまず無理でしょう。何とか外側の柿芝君に連絡を取って外から結界を壊してもらえば可能でしょうが、結界の中から叫んでも声は聞こえないでしょうし、携帯は高確率で戦闘で壊れるからって皆、卜部さんの勧めで柿芝君に預けてきたじゃないですか。

つまり現状では打つ手無しです」

やれやれと言った様子で佐倉が首をゆるく横に振った。


「じゃあやっぱりこの壁を破壊するしか・・・」

再び壁に向き合う咲耶を佐倉が止める。


「無駄ですよ。元々神を封印する用の結界です。そんなことしてもただ消耗するだけですよ。そうなれば疲弊した状態になった時に付け入られる隙が出来るだけです」

きっぱりと佐倉が言い放つ。


「ならどうすればいいのよ」

くってかかる咲耶に、佐倉はこともなげに言い放った。

「簡単ですよ。待つんです」


・・・・待てばいい。とはどういうことなのか。

俺が尋ねれば、簡単なことことですよと佐倉は笑う。


巫蟲ふこの術というのは簡単に言えば呪術に使役する使い魔を作るための術なのだが、その使い魔を操作できなければ意味がないらしい。

そして使い魔を支配する程の力量の無い未熟な術者が自らが作り出した使い魔に食い殺される事も珍しくはないらしく最もこの術を行う場合に警戒すべきことなのだそうだ。

そして基本的に生物由来の使い魔を使役する場合には洗脳を施す。


恐らく卜部さん達側の狙いとしては自分が誰かもわからないままに感情に振り回される姫巫女だった存在に咲耶も飲み込まれ、自我の境界もわからない状態になることを期待したのだろうと佐倉は分析する。

そうなれば簡単に自分達の都合のいいように姫巫女の集合体を洗脳する事ができるからだ。


しかし今回の場合、姫巫女達を集めてトラウマを刺激して精神的に追い詰め、共食いを加速させたまでは良かったが、例外が二つあった。

姫巫女達を精神的に追い詰めた負の感情を全く受け付けない竹と咲耶である。

厳密には咲耶の場合はそれを全て雛月に流していただけなのだが。


つまり、多くの姫巫女やその悪想念もまとめて取り込んでいるにも関わらず、正気を保っている。

相手にとってはコレが問題なのだそうだ。

このままでは咲耶に洗脳を施そうとした所で受け付けない。


結果、咲耶を洗脳するため卜部さん達は次の三つの方法の内どれかを選ぶことになる。

一つ目は咲耶を開放し、作戦は成功したということにして次の機会を窺う。

二つ目は咲耶が結界から出ようとしてあれこれ手を尽くし、すっかり心身共に疲弊しきった所を狙う。

三つ目は結界の中に魔物を放ち直接咲耶を疲弊させる。


一つ目の方法は、力を強めた咲耶を外に出してもリスクばかり高く、更に成功率も高いとは言えない。

絶対に咲耶に恨みを買うこともなく、円満に懐柔出来る様な切り札が無ければまず選ばないだろう。

なので一つ目の咲耶を外に出すという案はまず消える。


そして二つ目は佐倉が咲耶を静止することにより今消えた。

必然的に咲耶を疲弊させるには三つ目の方法しかなくなる。

ところがその場合、術者の方も仕事が増え、それなりに消耗する事になる。

この場合、対処の仕方さえ間違えなければかなりの確率でこの結界から出ることが可能であると佐倉は言う。



そうこうしている内に先程の佐倉の言葉を裏付けるように俺達の前に黒い人形の影が複数現れた。

黒い影達は静かにと俺達の元へ迫ってきたが、佐倉がパチリと手を叩くと俺達の足元に半径二メートル程の魔法陣が現れて光り、それと同時に俺達の目の前まで来ていた影は押しのけられるように魔法陣の外へと追いやられ、魔法陣の外から顔は無いがこちらを見つめているように見える。

黒い影はそれから次々に現れたが、皆一様に魔法陣の中には入れないらしく、少しすると魔法陣の周りには黒い影の人だかりが出来ていた。


「とりあえず外の影はもっと数が集まるまで放置します。

ところで要、貴方はどうして姫巫女の加護を受けようとしているのにもかかわらず鈴木先輩に取り込まれようとしないのかしら?

それとも、鈴木先輩に取り込まれてしまえば、鈴木先輩を管理するのに都合が悪いのかしら」

佐倉は振り向いて要の方を見据えた。


「姫巫女というのは不安定な状態であり、周りへの影響力も大きい。

だからこそ自らの力と暁津比売の意識が完全に覚醒し、精神と力が安定するまでは姫巫女と魂を共有しない方が効率的に守れる。それだけだ」

対して要も真っ直ぐに佐倉を見つめ返した。


「それは、貴方は鈴木先輩のことを信用しないけど、鈴木先輩には貴方を信用しろということかしら」

わざとらしく大げさにリアクションをしながら佐倉が言う。

「随分とむしのいい話ね。そんなんだから今まで姫巫女達とも一定以上の距離を縮められなかったんじゃないの?」


佐倉の狙いは要も咲耶に取り込ませることなのか、咲耶の要に対する印象を操作したいのか、はたまたただ要の反応を見ているだけなのかは解らないが、俺と咲耶が若干置いてけぼりにされいている気がする。


「そう言うお前は、どうして姫巫女の側についているんだ?天使の様だが、それならお前の所はそもそも自分達以外が強い力を持つことは酷く嫌っていたし、そもそもお前達の長は母である暁津比売を先頭に立って殺した神々の一人だろう」


「そうですよ?」

しかし直後の要の発言と佐倉の回答に俺は固まることになる。


それじゃあ今まで名前が出てた枢魔派というのは・・・


佐倉はそんな俺達の疑念に答える様にこちらに向き直った。

「私が仕えていた神の息のかかった組織に枢魔派に分類される物も確かにあります。

でも私はそちらに属するつもりはありません」

「それは、紅鏡が神代派だから?」

すかさず咲耶が尋ねる。


「いえ、それはあまり大きな要因ではありません。

鈴木先輩は、暁津比売がどうして子供達に殺されたかわかりますか?」

「・・・・意見が対立したとかかしら?」

首を傾げながら咲耶が答える。


「彼女が全ての神々や世界を統べる最高神だったからです。

神には人間の様に寿命が無い以上、その神の力が衰えない限り最高神は半永久的にそのままです。」

ですがその間にも次々に神々は生まれ、知恵をつけ力をつけ自我を持つ訳です」

「すると、どうなるの?」

尚も咲耶は首を傾げる。


「全てを統べる最高神の座を欲する者が現れ、戦いを挑みます。

そして自分の親でもあるその神を倒せばめでたくその神が次の最高神です。

暁津比売も最高神だった実の父親を完全に飲み込んで唯一の最高神になりましたし、その実の父親も自分の実の父を解体して新たに世界を作ったりしてましたし、それはある種の摂理です」


「要するに、猿山のボス猿の世代交代の様な者なのかしら」

「・・・・・・・・・まあ、そんな感じです」

今の間は、あまりのスケールダウンっぷりに何か言おうとしたのだろうが、話の腰を折らないために佐倉がそれをこらえたのだろう。


咲耶の解釈に、一気に壮大な話が身近な物になった気がした。



「親殺しの方法は毎回決まった方法は無いのですが、前回の暁津比売を殺す際、数柱の神がそれに参加し暁津比売を魂ごとバラバラに切り刻んでそれぞれその力を山分けしようとしたんです。

ところが暁津比売は以前世界そのものとなった父を丸呑みする形で取り込んでいましたので、切り刻まれて魂がバラバラになった瞬間に世界そのものも分割されてしまいました。

結果、物質界を中心に世界がいくつもの次元ごとに階層が分かれ、魂の波長が合わないとその次元に留まれないようになってしまったんです」

それから一息ついてから佐倉が説明を再会した。


基本的に魂の波長の高さというのは神々の力の強さに準じる物であり、暁津比売殺害を企て次期最高神になろうとする程強い力を持った神々やそれに参加はしていなくとも暁津比売に準じる力を持っていた神々は、次元が分かたれた事により皆物質界には直接干渉できない、超高次な次元へそれぞれ飛ばされてしまったらしい。


更に次元の高さだけでなく波長のタイプによっても次元を分けられるので有力な神々は互いに連絡を取ることも困難になり、莫大な力を秘めつつ世界を分ける原因ともなった暁津比売の魂は物質界にばら撒かれたまま放置されることになった。


それからは前回佐倉が説明した様に各神々が自分の力を強めるために自分の眷属に暁津比売の魂の発掘を命じたり、暁津比売を復活させようと魂を集めたり、神々の住み分けができている現状を維持しようと暁津比売の魂を封印して回ったりする者が出てきて各々の眷属が物質界で代理戦争を繰り広げている状態なのだそうだ。


「そして私の仕えていた神は自身がその親を殺して最高神になろうとしたこともあり、極端に自分が創造した眷属達が自分以上の力を持つことや、他の神々に対して興味を持つこと嫌がるんですよ。

まあ力をつけて自分を殺しに来たり、他の神に自分の眷属が寝返って殺しに来るとか、そういうのをすごい恐れているんです」


やれやれといった様子で佐倉が肩をすくめる。

確かに子供が親を殺すのが一般的で自分もそれを企てたことがあるとなれば、自分の身内が自分に牙を向けるというのは一番避けたい事態なのだろう。


「だから私達は彼の眷属であり続ける限り、彼以上の力は絶対持てないですし、そういう風に創られているんです。

ただそれなりに有能な部下も必要な訳で、私みたいな全能では無いけど彼の持ち得る全ての知識を持ち、更に独自の考えを持ち色々編み出しちゃう様な存在が作られる訳です。

たまに有能に創りすぎて反乱起こしたりしますが」

まるで世間話をするような軽い調子で佐倉が話す。


「でもそうやってどうしても自分はこれ以上力を持った存在にはなれないのかと考えるとそれなりに思うこともある訳で、見込みのある人間に自分の知識を授けて神人に進化させてみたり、反乱軍に知恵を授けたりしてみたくなるんですよ。

そうする事によって今の頭打ちの現状を打破できるんじゃないかと思って」


「それで、どうなったの?」

自嘲気味に笑う佐倉に咲耶が続きを促す。


「せっかく直接指導までして神人に進化しても、皆さんその神秘体験のお陰ですっかり信仰に熱くなっちゃって召し上げられた後、普通に盲目的なまでに忠誠誓っちゃうんですよ」

佐倉は少し遠い目をした。


「でも、それじゃあ意味が無いんです。

何度か反乱軍に加担して殺されそうになったことはありましたが、まあ、懺悔して改心したって言ったらあっさり許されましたよ」


「なんだそのゆるい処分は」

思わずつっこまずにはいられない。

自分の眷属に殺される事を恐れているにもかかわらず、そんな上っ面だけの謝罪でしかも何度も裏切りを繰り返している奴相手になんでそんな寛大になれるのか不思議だ。


「基本、彼は自分に忠誠を誓う存在には寛大ですよ。

まあ流石に自分を本気で殺せるレベルの奴がそんなこと言っても許さないでしょうが、相手がいつでも自分が殺せるような存在なら基本自分を崇めているのなら多少のことは大目に見る。という方なので」


要するに佐倉はどうあがいても自分が仕えている神を超えられないので腹いせに度々謀反を企てるも、どうあがいてもその神を超えられないからこそ毎回許されているというなんとも皮肉な事態が起こっている。ということだろうか。

「だからこそ、私は何度でも懺悔し謀反を企てる訳です」

佐倉はとても良い笑顔でそう締めくくった。


「それにもう鈴木先輩の眷属になった以上、彼からの影響は現在ほぼ無いに等しいですし、万が一また殺されそうになってもそれなりに言い訳も立ちますし。

もし彼を殺せるのならそれこそ万々歳です。

鈴木先輩はあんまり自分の眷属の力に対しての考えがシビアではないのが非常に良いですね。

紅鏡のことでお世話になったこともありますし、正直、次の寝返り先は是非ここにしようと思っています」


「・・・つまり、今恵瑠ちゃんはその前に使えていた神様でなく私の味方ってことで良いのかしら?」

佐倉の言葉に少し間を置いてから咲耶が口を開く。


「はい。これからじゃんじゃん精霊や神々を取り込んで、ゆくゆくは有力な神々も物質界に引きずり出してどんどん取り込んで行きましょう!」

対して咲耶の話を聞いた佐倉は興奮した様子で捲くし立てる。

本当にどうしてこいつの主神はこいつを野放しにしているのだろうかと思えるくらいに楽しそうな顔をしている。


「・・・・・今の恵瑠ちゃんにとって、鞠亜や修司君って、何?」

しかし次の咲耶の言葉に佐倉はハッとしたような顔になった。


「そうですね。二人には信仰だとかそんな物に捕らわれないで自分を持ったまま神人として力を付けて、この先私の無二の仲間になってくれること期待しています。

力を付けて、自分の考えを持って、その上で二人が私の側にいてくれたら嬉しいです」

佐倉は先程とは打って変わって真っ直ぐしっかりと咲耶を見つめて答える。


多分、佐倉のラジエルとしての考えが見えてきたところで、それも踏まえた上で佐倉恵瑠という人間は現在ある種自分の保護下に置いていると言っても良い鞠亜と修司についてどう考えているか聞きたかったのだろう。

そしてその事は佐倉も察したらしく、その佐倉の答えに咲耶も安心したようだった。


「それならいいの。改めてこれからよろしくね」

咲耶が柔らかく笑って佐倉に右手を差し出せば、佐倉もすぐにそれに答えた。

「はい。こちらこそ」


「でも私はその神様みたいに寛大では無いから、その辺も覚えててくれると助かるわ」

佐倉の手を握って笑顔のままの咲耶が釘を刺す。

もちろんですよ。と佐倉も即答したが、それが演技なのか本心なのかは今一わからなかったが、少なくともこの様子なら今すぐに敵になるということは無さそうだとは思った。


「ところで、要は私に取り込まれるのは嫌なのかしら」

話が一段落付いた所で咲耶は要に向き直った。

先程の佐倉の発言を気にしているらしい。


「いや、とんでもない。今の貴方なら十分魂も精神も安定しているのでもし貴方が望むならいくらでもこの魂は差し出そう」

笑顔で左胸に手を当てながら咲耶の顔を覗き込むように頭を下げながら要が答える。

その一連の所作はまるで用意してきたかの様に完成されていて、それが帰って空々しい物に思える。


「ありがとう。それじゃあ、貴方達に指示を出している元締めの所まで案内して所属している者全ての魂を取り込みたいと私が言ったら、貴方は大人しくそれらを私に差し出してくれる?」

「ああ、もちろんだとも。ここから出たら必ず」

訝るように咲耶が問えば、要はより一層笑みを深くして頷いた。

次回更新予定は8/15です。

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