#64 修羅場
「竹、なのか・・・?」
俺が尋ねれば、嬉しそうに竹は頷いた。
「ええ、また会えて嬉しいわ黒!これからはずっと一緒よ」
最後の言葉に不穏な物を感じつつ、一応聞き返す。
「ずっと一緒って、どういうことだ?」
竹は屈託の無い笑顔で答える。
「だから、そこにいる子は私が取り込んで私と一つになるのよ。
そうしたら黒は今まで一緒にいられなかった分も私と一緒にいたことになるし、これから先もずっと私と一緒にいられるわ」
「あら、おかしなことを言うのね。貴方を取り込むのは私だし、そこの貴方の眷属も私が取り込むわ」
上機嫌で話す竹に咲耶が割って入る。
「急にどうしたの?私が貴方を取り込んだところで、貴方の魂が消えるわけじゃないのよ?貴方も私になるだけだわ」
一方、竹は不思議そうに小首を傾げる。
「だったら貴方が私に取り込まれたら良いじゃない。どっちも同じなんでしょう?」
咲耶が尚も不機嫌そうに言い募れば、竹はおかしそうにクスクスと笑った。
「でも、黒が好きなのは私なんだから、私が主人格になった方が黒も喜ぶでしょう?」
さも当然の様に竹が言い切る。
しかし咲耶は竹の発言を物ともせず笑い飛ばした。
「今更、昔の女が正妻気取りで出てきても、なんで自分が勝てると思ってるのか皆目見当もつかないわね」
「でも、結局あなたって私の代わりでしょう?黒は私以前の姫巫女のことは忘れると言ってくれたのだけど、それってつまり私が今までの姫巫女の中でも一番ってことでしょう?」
「仮にそうだったとして、貴方の後に出てくる姫巫女も含めて一番だとは言っていないじゃない。
現に今の一番は私なのだから、ここは私が貴方を取り込むのが筋だと思うわ」
咲耶は顔は笑っているが目が笑っていない。コレは相当にキレている。
対する竹は相変わらずニコニコと笑っている。多分竹の中では圧倒的に自分の言い分が正しいことになっていて、咲耶に対しては『何言ってんだこいつ』状態なのだろう。
そういえば俺は竹がごねたり泣いたりする所を見たことはあるが、本気で怒っている所を見たことがない。
竹の周りの人間が竹の機嫌取りに終始していたこともあるのだろうが、思ったことがすぐに実現してしまう能力と合間って、他人の悪意という物が理解できていないのかもしれない。
竹が直接身に迫って感じた悪意というのは実の兄である大吉に殺されそうになったことと、十五の頃実際に何者かによって殺害されてしまった時の二回だけだ。
そういえば竹は大吉の肉体に耕四郎の魂を移植した時も、さっきまで自分を殺そうとしていた大吉の身を案じていた。
そして今、どういう訳だが再び俺の目の前に現れた竹は、その立ち居振る舞い明らかに本人であるとわかるが、十中八九何者かの手により利用されてここにいるのだろう。
少なくとも竹にここに来るよう指示した奴がいるはずだ。
・・・竹の後ろに控えている大吉の姿をした奴も怪しいが、その手の奴が他の場所に潜んでいたり今この瞬間も監視していたりしてもおかしく無いだろう。
それが竹を殺して魂を回収した人間なのか、更にその人間から竹の魂を奪った人間なのかは知らないが。
多くの姫巫女を取り込ませる核として採用されているのは恐らく竹の性格によるものだろう。
姫巫女の力を管理し支配しようとするにせよ、女神と祭り上げるにせよ、竹の天真爛漫な性格というのは非常に扱いやすい。
というか、他の姫巫女達の事を思い出したり、直接見たりして思うが、よくこんな力をもってここまで擦れることもなく育った物である。
これは本人の気質だけでなく周りの環境が大きいのだろうが、そこまでの条件が揃っていたのも今にして思えば奇跡的なことであるかもしれない。
竹は雛月のごとく負の感情を理解せず、お陰で清實さん考案の姫巫女達に共通するトラウマを抉る作戦も竹には全く通用しなかった。
だからこそ様々な姫巫女の思念が蠢く空間においても正気を保ち、一人勝ちできたのだろう。
しかし、それを踏まえて今の状態を考えると非常にまずい。
要するに竹は雛月の強化版の様な存在であり、当の咲耶といえば、散々力を制限している雛月にさえ隙を突かれてしょっちゅう振り回されている。
恐れを知らない人間というのは、こういう時強い。
そんな俺の考えをよそに、気が付けば俺は竹と咲耶がこちらを見ていた。
「黒は私とこの子、どっちが好きなの?」
「もちろん私よね。龍太」
どうやら言い合っても埒が明かないので俺に決めろということらしい。
「咲耶だな」
即答した。正直、もしコレで竹が多少なりともショックを受ければ咲耶も取り込みやすくなるのではないかという思惑もあった。
敗北を知らない人間というのは、同時に最初に破れた時、立ち直り方を知らない分脆くもあるから。
が、やはり竹はレベルが違った。
「え~、私じゃないの?」
と頬を膨らませながら拗ねた後、
「まあいいや、どっちにしろその子取り込んだらその子は私になるんだし、何も問題は無いよね」
ニッコリ笑って宣言した。
「まあ、最初からこうしてれば良かったのよね」
一方咲耶も待ってましたとばかりにニヤリと笑った。
「やはりダメだったか」
ぽつりと竹の後ろにいた男が漏らした。
次の瞬間、咲耶の足元には見覚えのある魔法陣が浮かんだ。
確か佐倉の重力魔術だったはずだ。
「このパターンもいい加減慣れたわね」
咲耶はそう言うなり自分の足元に新たに魔法陣を構築し、竹が出したであろう物を打ち消した。
「この術を使えるということは、やっぱり恵瑠ちゃん達も取り込まれてたのね。
まあいいわ。どうせ取り返すし、既に恵瑠ちゃんと知識を共有している以上、既存の術は私に通用しないわ」
そう言うなり咲耶は竹に向かって念動力の刃を放った。
竹はかわすでもなくそれをそのまま受け止めたが、一瞬切り傷が出来ただけですぐに治ってしまった。
「こんなの、攻撃の内にも入らないんだから!」
しかし竹がそう言った次の瞬間、激しく燃え上がる炎が竹を包んだ。
「姫巫女でもなんでも回復する間もなく肉体が消滅すればひとたまりも無いはずよ」
徐々に燃え尽きていく炎を見ながら咲耶が呟く。
「ふぅん、そうなんだ。良い事聞いちゃった」
直後、咲耶のすぐ背後から竹の声が聞こえた。
見れば竹が咲耶の肩に覆いかぶさるように手を置きながら笑っていた。
俺は慌てて咲耶の後ろにくっついた竹を念動力で弾き飛ばす。
きゃっ!と小さな悲鳴を上げた後案外あっさりと竹を引き離すことは出来たが、竹はそれが気に入らなかったらしく、次の瞬間には人間の頭程の大きさの石が咲耶の頭に直撃した。
咲耶はその場に倒れると動かなくなり、咲耶の頭からじわじわと血が滲み、地面に大きな染みを作っていた。
「この子もすぐに怪我が治るというのなら、回復なんてできないようにすればいいのよ」すごいだろうと言わんばかり竹が胸を張る。
「それに、既存の術がどうとか言っていたけれど、それなら即興で新しい術を考えれば問題は無いわ」
竹が無邪気に笑う。
「見て見て、昔は力のコントロールとかあんまり上手に出来てなかったけど、今は思い通りにこんな事も出来るの」
楽しそうに竹が話すと同時に今度は咲耶、というか、咲耶が横たわっている地面から炎が上がり、瞬く間に咲耶の身体を覆う。
俺は慌てて咲耶を背に乗せた後、近くにあった消火栓を破壊して咲耶に水を浴びさせ炎を消す。
視界の端に何かがこちらに飛んで来ているのを捕らえて回避すれば、こちらに飛んできた何かが公園にあった木にぶつかり、爆発した。
背後でどうして避けるのかと不服そうな竹の声が聞こえた。
「じっとしててくれれば黒には当たらないわ!後はもうその子の魂貰うだけなんだから邪魔しないでよ」
地上から宙に浮いている俺を見上げながら竹はこちらに声をかけてくる。
同時に俺の頭の中にある閃きが駆け巡った。
俺は地上に降りると、上機嫌でこちらに駆け寄ってくる竹をよそに、咲耶の体を念動力で宙に浮かべると、そのまま空中で爆発させた。
そして速やかにその魂を回収する。
「やっぱり私を選んでくれたのね」
竹は嬉しそうに笑ったが、その次の瞬間には竹の腹に大きな穴が空き、竹は何が起こったかわからない様子できょとんとこちらを見つめていた。
最初からこうしていれば良かったのだ。
どうしてこんな簡単なことに今まで気付かなかったのかといえば、多分本当は既に思いついていたのに竹への未練のせいで無意識に選択肢から消してしまっていたのだろう。
竹の身体を見れば、既に傷口は塞がっていたが、竹はただ静かにその場に立ち尽くしていた。
「咲耶は回復を止められていた以上、あの怪我じゃもう無理だった。だからせめて最後は俺の手で葬ってやりたかった・・・。
竹、さっきも言ったが、もう俺にとっての一番は咲耶だったんだ。
咲耶を殺せば自分が一番になると思った様だが、俺は咲耶に手を出したお前を許すことは出来ない。
竹・・・・お前の魂を俺にくれないか?俺はもうこれ以上お前を嫌いになりたくないんだ」
自分で言っておいてなんだが、流石にこの台詞はあんまりだと思う。
竹は酷くうろたえていたが、俺が沈痛な面持ちで見つめていると、静かに俺の方へ寄ってきた。
「ねえ黒、黒は今私のこと嫌い?私の魂あげたら、また私のこと好きになってくれる?」
酷く怒られた子供のようにしょんぼりとした様子の竹に、胸が酷く締め付けられたが、俺が黙ってその言葉に頷くと、
「そっかぁ、じゃあ良いよ。黒にあげる。その代わり、これからはずっと一緒だからね」
と竹は困ったように笑った。
俺は竹の魂を取り込むと、公園に飛び散った咲耶の肉片から適当な物を選ぶとそれに先程回収した咲耶の魂を入れた。
直後、目の前に完全な状態の咲耶の身体が出来上がり、咲耶の魂は肉片から新しい身体へと移って行った。
「・・・・・自分で指示出しておいて言うのもなんだけど、竹もよくあんな手に引っかかったわね。
人を疑うという事を知らないのかしら」
すっかり元通りになった咲耶が腑に落ちないという顔で呟いた。
「いや、竹は薄々気付いてたよ。さっきのが俺と咲耶がひと芝居打っているだけなんじゃないかってな」
俺がそう答えれば、咲耶はより不服そうな顔をした。
「だったら、どうしてあの無茶苦茶な要求を飲んだのよ?
私だったら、じゃあ生き返らせてやるから魂よこせって言うと思うのだけど。
というか、龍太ももっと上手い言い回しを考えなさいよ。あれじゃあ伝えたい事の要点を繋げただけじゃない」
「たぶん、そうやって俺と咲耶が結託して竹をどうにかしようとしているのを目の当たりにして、俺の気持ちがもう竹には無いと思ったからじゃないか」
俺の意見に、そうだとして大人しく言う事を聞くものかしら?と不思議そうに咲耶は首をかしげながらも俺から竹の魂を受け取った。
「・・・・・ところで、貴方はいつまでそこで見ているつもり?
竹を取り込んでも消えない辺り、竹の眷属という訳でも無いみたいだけど」
先程からずっと手を出すでもなく俺達と竹のやり取りを見ていた大吉そっくりの男に咲耶が話しかける。
「まあこちらとしては、どちらが勝っても姫巫女の魂が一つになれば問題はなかったからな」
肩をすくめながら男は笑った。
「それで、その姫巫女の魂を一つにした咲耶になんの用だ」
咲耶と男の間に入って俺が問えば、用があるのはむしろお前だと俺を見て男は言った。
「お前は今、自分自身の役割について、どの程度認識している?」
どうせ竹に記憶を改ざんされたお陰であまり鮮明には覚えていないのだろうと男は言葉を続けた。
「・・・・暁津比売を復活させる。それだけわかっていれば十分だろ」
俺が若干むっとしながら答えれば、男は足りないな、と鼻で笑った。
「今やるべきことはそれであっているが、暁津比売とはなんなのか、復活させた後はどうするのか、どうして姫巫女には他にも龍神が付いている者がいるのか、どれも答えられないだろう?
俺はお前と同じ姫巫女の魂を集める龍神だ。一応聞いておいて損は無いんじゃないのか?」
大吉の姿までして竹の機嫌を取っていた割りに、いざ戦闘となるとただ見ているだけで全く竹に手を貸そうとしなかったこいつの立ち位置がいまいちわからない。
信じるかどうかは話を聞いた後判断するとして、それでも一度こいつの話しを聞いてみるのも良いかもしれない。
とりあえず男の申し出に頷き、話を聞くことにする。
話の内容をまとめる。
暁津比売はかつて全ての世界を支配していた地母神であったが、ある日自分の子供達に殺害され魂を切り刻まれバラバラにされてしまう。
ところが世界そのものであった暁津比売を切り刻んだ結果、世界そのものが複数の次元に分かれてしまった。
特に強い力を持った子供達程物質界から遠く離れた高い次元へと飛ばされてしまう。
結果、遠い次元に飛ばされた神々は莫大なエネルギーを秘めた暁津比売の魂が封印されている物質界に直接干渉できなくなってしまい、それぞれの眷属を使い、自分こそが次の覇権を握るためにそれぞれ他の神より多くの暁津比売の魂を集めようとしている。
だがその暁津比売の魂の処遇についてはそれぞれの派閥によって大きく分かれ、自分達の母である暁津比売を復活させ、独占的に加護を受けようとする者、暁津比売の魂その物を取り込み、自らが次の暁津比売になろうとする者、現在の有力な神々の次元が分けられ住み分けが出来ているこの世界の構造を維持するために暁津比売の魂を封印されたままにしようとする者等様々なのだそうだ。
そして、龍神族である俺達は最初の暁津比売を復活させて加護を独占しようとしているグループに属している。
暁津比売の魂を持った姫巫女達のというのは、それぞれが暁津比売という一つの人格を構成するパーツのようなもので、同一人物でも、陽気な面があったり、傷つきやすい面があるような物らしい。
つまり全ての姫巫女が暁津比売であり、暁津比売を構成する一部であるという訳である。
そして独占的に加護を得ようとするに当たって、ただ姫巫女を復活させるだけでなく、姫巫女に気に入られる事が重要になってくるらしい。
そこで竹や、咲耶など直系の姫巫女に毎回いたく愛されている俺に注目が集まったというわけだ。
どうやら全体的に見ても、姫巫女にここまで愛されるというのは珍しいのだそう。
龍神は大体母への思慕の念から姫巫女に少なからず惹かれるのだそうだが、竹の力によって自分の使命を忘れていたというのが大きいのかもしれないと男、要は言った。
どうせ要というのも通称のようなものなのだろうが。
だからこそ一定数の姫巫女の魂が一つにまとまった今、俺に真実を告げて元の龍神達のコミュニティの中に俺を連れ戻し、ゆくゆくは俺に暁津比売となった咲耶との橋渡しをさせたいらしい。
「なる程、そういうことですか」
要の話を聞き終えると同時に背後から声が聞こえ、振り向けばいつの間に復活したらしい佐倉が後ろに立っていた。
「・・・何で佐倉がいるんだ」
「恵瑠ちゃんの意見も聞いてみたくて」
俺が咲耶に尋ねれば、咲耶は事もなげに答えた。
佐倉の魂は天使の物であるそうだが、今の要の話を踏まえれば佐倉は龍神とは別の神の使いであり、失楽園の話から察すると多分佐倉が仕えるその神は龍神族と対立していたのではないかとも思える。
失楽園は神の庭の管理を任されていたアダムとイブは他の木になった実は食べても良いが、生命の木と知恵の木になる実だけは絶対に食べてはいけないと言いつけられる。
そこにある日、蛇がやってきて知恵の実を食べるようイブをそそのかす。
結果二人は知恵の実を食べ知恵を身につけるが、同時に老いたり病気で死ぬようになってしまう。
もう一つの生命の実を食べれば再び不老不死となるが、それでは神と同じ存在になってしまうため、人間が自分と同じ力を持つことを恐れた神はアダムとイブを楽園から追放し、二人をそそのかした蛇は手足を切り落とされて地を這う姿にされたという創世記の挿話である。
いつだか早瀬がその話をした後に『ここに出てくる蛇というのは実は龍のことで、龍の手足を切り落として地を這わせたから蛇なのではないだろうか』と言っていたのを思い出す。
まあその後この話は世界を支配する爬虫類型宇宙人の話になっていったのだが・・・・。
しかし、ここに出てきた蛇というのが龍神だったとすると早瀬の考えも割りと良い線をいっていたのかもしれない。
「こいつの言っていることはある程度事実ですが、だからといって全てを鵜呑みにはしない方が良いですよ。鈴木先輩」
佐倉の声に怒気が混じってる。
「要するに皆さんが言う所の暁津比売を都合良く扱うための道具が欲しいだけなんです。・・・というか、その姿も血縁者を装って姫巫女に近づき、機嫌を取るための物でしょう」
佐倉が俺と咲耶を挟んで要を睨みつける。
まあ確かに要側のやり方に思うところがあるのも事実だ。
一度竹を殺害して取り込んでおきながら、扱いやすそうだからと恐らくは別の姫巫女に取り込ませた竹の魂をその姫巫女の主人格として引きずり出し、恐らくは他の瀧澤家の人間や御龍神社周辺の人間達には手を出さない等と約束して丸め込んだのではないだろうか。
そういう意味では確かに姫巫女を道具扱いしている様にも感じられる。
姫巫女の魂を集めているのならなぜその後の姫巫女達のもとにも魂の回収に来なかったのか不思議に思っていたが、そういう密約があったのなら説明はつく。
最も、ただ要達の狙いはあくまで直系の姫巫女だけだからということも十分に考えられるが。
「確かにこの姿は竹本人の要望を聞いた結果の姿だが、十分に力を発揮してもらうために姫巫女の機嫌を取ろうとする事は悪い事ではないだろう。
少なくとも、自分の本来の目的や素性を明かさず様子を窺っている様な奴に言われる筋合いは無いと思うが」
対して要も負けじと応戦する。
「私の正体自体は既に皆さん知っていますし、目的については今後時期と人を見て話す予定でした。
何しろ身内に別の勢力が入り込んでいましたので。
鈴木先輩、ちょっとこの空間の結界を解いてみてください」
別勢力とは何のことを指しているのか、そんなことを聞く間もなく佐倉は咲耶に結界を解くよう指示を出した。
咲耶は少し不思議に思った様だが、その場は大人しく佐倉の指示にしたがって町全体を覆っている結界を解いた。
しかし当然外では卜部さん達が結界を張っているので外側の結界だけが残る。
「向こうに透視出来る人間がいるかはわかりませんが、どんな結界の張り方をしていても少なくとも結界を管理している卜部さんには内側の結界が消えたことはわかるはずです。そうすれば誰かしら透視を出来る人が中がどうなっているのか確認するでしょう。
本来ならその時点で結界は解除されるはずですが、多分いくら待ってもそんな気配は無いと思いますよ」
佐倉はお手上げというように手をヒラヒラとさせながら言う。
「どうしてそう思うの?」
すかさず咲耶が尋ねる。
「巫蟲の術、蠱毒と言う方が有名でしょうか。古代中国で毒虫同士を喰い合わせて最後に残ったむしを呪術に使うという術ですが、結界の中に姫巫女達を閉じ込め喰い合わせる。今の状況に似ているとは思いませんか?」
佐倉の視線が咲耶から俺に移った。
「前に柿芝君の話を聞いて気になってたんですよ」
更に佐倉は続ける。
「神人への進化という謳い文句で自らの能力にコンプレックスを持っている霊的コミュニティに所属する人間をそそのかしてイカれた秘術を実行させようとする存在が、もしかしたら紅鏡や鬼灯に入り込んでるんじゃないかなぁって」
佐倉のその発言を裏付けるように、いくら待っても結界は解除される事がなかった。
次回更新予定は8/8です。




