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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
終の姫巫女編
66/71

#63 再会

現実の喫茶店を模して別次元に作られた無人の喫茶店で、俺達は新たに一名の協力者を加えて今後の方策に話し合っていた。


この新たな協力者は名前を卜部清彦うらべ きよひこといい、見方によっては二十代にも四十代にも見えるような年齢不詳の大柄な男の人だ。

どうやら現在町の一部を覆っている結界の周りに人避けや例の結界からの影響を封印する結界を施してくれており、籠目教本部に設置された結界も卜部さんによる物らしい。


一度、邦治さんが本物の方の喫茶店への支払いを済ませるために結界から出る時、帰りにもう一人連れて来ると言い、十分としない内に支払いを済ませて連れてきたのがこの人だ。

鬼灯に所属する咲耶に取り込まれていない人間で、結界呪術の専門家らしい。


「では全員揃った所で早速作戦会議といこうか」

邦治さんが話し出すと、間髪いれずに

「ここはやっぱり私があの結界の中に入ってアレを全部取り込むしかないと思うの」

と咲耶が思いつめた顔で言い出した。


「だから咲耶が直接最前線に出るのはリスクが高すぎるって言ってるだろう」

と俺は呆れながら口を挟む。


直後、深刻そうな顔で卜部さんが口を開いた。

「いや、しかしながら実際姫巫女達の力が影響し合い、異界レベルに捩れてしまったこの事態に収集をつけるにはそれが一番外部への影響も少ない。

追々の事を考えてもこの方法が一番だと思うよ」


確かにこの事態を一見何事も無かったかの様に処理するためには最終的に咲耶が姫巫女達の魂を取り込む以外ないだろう。

そしてそれ自体には俺も賛成だ。

だが、だからといっていきなり咲耶をあの結界の中に投入したとして、あの姫巫女達の意識や力がごった煮状態で互いに影響しあっている特殊な空間の中で咲耶が正気を保って他の姫巫女達を倒し、全て取り込めるかというと、雛月がいるとはいえ中々無茶な話である。


基本的に直系の姫巫女は思考や願望、思い込みをそのままあらゆる形で現実にする力を持っており、しかもそれは本人の自覚が無くても発動する。

そしてそんな人間が一箇所に集まって閉じ込められた場合、それは本人達の意思に関係無く互いに作用し合い、それこそ何が起こるか解らない。


そんな所に既に疲弊している咲耶をいきなり放り込んだところで、相手も同じ姫巫女で、更に複数いる以上、あまり良い結果は期待できないだろう。


「・・・・・ねえ、思うんだけど、今あの結界の中を支配しているのは姫巫女達の無意識に発せられた思念だったりそれによって引き出された力な訳でしょう?

それならその精神を一つの方向にまとめて自滅する方向へ導いて、全員心身共に戦闘不能状態になったところをまとめて取り込めば咲ちゃんの負担も減ると思うのだけど」


咲耶の手によってすっかり元の姿に戻った清實さんが控えめに手を上げて小首を傾げながら提案した。

確かにその案ならば咲耶の危険を最小限に減らした上で咲耶に結界の中の姫巫女の魂を取り込ませる事ができる。

問題はどうやって姫巫女達の精神をそんな状態にもって行くかという事だが・・・・


「私、輝ちゃんや咲ちゃん以外の姫巫女って、話には聞いたことあったけど実際生で視たのってさっきの子が初めてだったの。

だけど、力の程度の違いこそあるけれど、姫巫女の育つ環境やそれによる心の闇って結構似通ってると思うのよ。

実際、今日の朝の放送を見て魂を集めようと飛んできた結界の中の姫巫女達って、彼女を支える支持母体があって他の姫巫女の魂を集めようって考えがあるからこんな短時間で集まったのだし、そういう姫巫女達しか結界の中にいないのなら、よりその傾向は顕著になると思うのよ」


清實さんが力説する。

同時に清實さんの抱えてきた心の闇とやらもなんとなく垣間見えたような気がした。



その後もいくらか話し合ったものの、結局は清實さんの案が採用されることになった。

まずは清實さん、邦治さん佐倉、鞠亜、修司が結界の中に入り姫巫女達の精神に介入し、恐らく結界の中にいる姫巫女に共通するであろう心の闇を刺激し、自身の存在を否定するような思想を植えつける。


後は一旦清實さん達は結界の外に出て、自体が収束するのを待つ。

無理そうな場合はその場で結界を張って落ち着くまで待機するしかないが、なんだかんだで相手は直系の姫巫女達であり基本的に常識は通じない者として考え出来るだけ安全策を取っていきたい。


そして姫巫女達が共倒れした頃合を見計らって咲耶が結界の中に入って姫巫女達の魂を取り込み、優位な状態を保てればひとまずは大丈夫だろう。

最近は自身の成長のために咲耶は自分の感情位はじぶんで受け止めようとしているが、それでも取り込んだ人間のトラウマや心の闇などは背負いきれないので基本的に今は全て咲耶の分身である雛月に肩代わりしてもらっているのが現状だ。


前回雛月が暴走したこともあり、俺としては基本的にはあまり雛月に強い力を持たせたくはなかったのだが、背に腹は代えられない。

咲耶が既に結構疲れていることも気がかりだが、現状ではこれ以外に方法は無いだろう。

いざという時は俺がしっかりしなくては。




作戦は今のところ予定通り進んでいる。

清實さん達はやはり首尾よく脱出とは行かなかったようで、結界の中が荒れている今もそこから出られない様だが、咲耶によると五人ともとりあえず結界を張って今のところしのげている様なので、コレが収まるまでその結界が持つことを祈るばかりだ。


俺と咲耶と柿芝、卜部さんは結界の境目が出来ていている公園の一角で結界の中の様子を窺っていた。

一見何も無いようではあるが、意識して目を向ければ確かにエネルギーを隔てている大きな壁を感じる。

まあ隔てているのは卜部さんが張った結界の方で問題はその結界で覆っている中身なのだが。


「なあ、咲耶」

「なによ」

疲れてないか?あんまり無理するなよと言いかけて俺は口をつぐんだ。

咲耶が疲れているのなんて見ていればわかる。それにその咲耶に無理をしてもらわねばどうしようもないのが現状だ。


問題は咲耶の精神のバランスであるが、前回雛月に何でもかんでも押し付けるな。みたいなことを言った手前、今は緊急時なので何も考えず全部雛月に丸投げしてしまえとも言えない。

まあ現状を考えればそうせざるを得ないことは咲耶も解っていると思うのであえて俺が言うべきことでも無い気がする。


がんばれ、とか頼むというのも何か違う気がする。

・・・・・・・・・。

「・・・なんでもない」

なんと言っていいのか解らなかった。


「どうしたのよ、プロポーズでもしようとして不吉なことに気付いて途中でやめたの?でもコレが終わったら思いを伝えようと誓うのもよくある死亡フラグよ?」

「ちげえよ」

言ったそばから咲耶にからかわれ咲耶の方を見れば、顔を真っ赤にしていた。


「・・・・自分で言って照れるなよ」

「て、照れてなんか無いわよ!」


そう言って咲耶はそっぽを向いてしまったが、丁度柿芝は俺と咲耶を挟んで並んでいるのでそっぽを向いた瞬間柿芝と目が合ったらしい。


咲耶はしばらく硬直した後静かにその場にしゃがみこんで俯いてしまった。

依然咲耶の耳は赤い。

ちょっと立ちくらみがしたとか言っているが言い訳であることがバレバレだ。

そんな咲耶を見つつふと顔を上げると、柿芝が何か声をかけたほうが良いのかどうか迷ってる様子でオロオロしていた。


本来なら二人ともすぐさまこの場から離れたい所なのだろうが、結界の中が大人しくなったらすぐにでも清實さん達を救出に行かなければならないためにこの場を離れられず、更に背後で卜部さんがニヤニヤと生温かく見守る視線を送ってきているというかなり居心地の悪い状況だ。


しばらくすると柿芝も俺と卜部さんの視線に気付いたらしく、そっぽを向いてしまった。

・・・佐倉もそうだが、神人というのは案外精神年齢は年相応なのかもしれない。


その後なんとも言えない沈黙が続いた後、急に結界の中の気配が静まった。

咲耶もそれに気付いたらしく立ち上がって結界の方を視ていたが、すぐに俺の目にも咲耶の視ているらしい映像が浮かんだ。


誰もいなかった。


清實さん達はおろか、先に結界の中で姿を消した輝美さん達や他にいたであろう別系統の姫巫女やその関係者、たまたま近くに居合わせた一般人、誰一人として結界の中に存在しなかった。

あるのはただ誰もいない住宅街だけだった。


直後、全身に突き刺さる様な視線を感じた。

まるで虫かごの中の虫をかごの外から観察するような、そんな視線。

どこから見られているかは全く解らないが、直感的にその視線の主は解った。


この視線の主は、咲耶と同じ顔をした、別系統の姫巫女だ。

どこにいるのは全くわからないが、結界の中にいるらしいことだけは解る。

いや、きっとこの姫巫女はあえてこちらにその情報を流して俺達を結界の中へと誘っているのだろう。


「・・・・・行くしかないわね」


咲耶が結界を見据えて静かに呟く。

多分あの姫巫女さえ倒して魂を取り込めば、清實さん達も輝美さん達も皆生き返らせることが出来るだろう。

しかし、複数の別系統の姫巫女達や佐倉達等いくらかは腕の立つと思われる人間をこうもあっさり取り込んでいる事を考えるとそれが可能なのかは疑問符が浮かぶ。


しかし、もうこちらの身内が相当数取り込まれているこの事態の中で、こちらも今更引くという選択肢は無い。

第一、逃げた所で当たり前の様に結界の外を透視してくるこの姫巫女なら容易く結界を破って追って来きても不思議ではないし、その場合はただ被害が増えるだけだ。


ここはもう腹を括るしかない。


「咲耶、このイメージを直接相手に送るのって、俺にもできるようにしてくれないか?多分この会話も例の姫巫女に視られて筒抜けだろ


うし、色んな情報を一度に沢山伝えられるのはでかい」

俺がそう頼めば、咲耶は静かに頷いた。


結界には俺と咲耶が入り、卜部さんと柿芝は外で姫巫女が外に出ないよう結界を何重にも強化してもらうことになった。

二人とも咲耶に魂を取り込まれておらず、万が一咲耶がやられた場合でも結界を維持できるというのはでかい。


本来結界には大きく分けて二種類あり、いつでも即席で出来るが常時術者がエネルギーを送り続け無いと維持出来ない物と、特別な準備が必要だが一度作ったらその後はエネルギーを送らなくても維持できる物に分かれるらしい。

一般的に外部からの透視などの干渉を受けないために一時的に張る結界は前者なのだが、長期的に何かを封印したり守ったりするためには後者を使うらしい。


今回、例のゴスロリの姫巫女から咲耶が引き継いだ結界や、その周りを覆っている卜部さんの結界は前者なのだが、この場合あんまり長時間になると術者の負担が増えるため、卜部さんがこの規模の結界を一人で維持する場合、精々数時間が限度であるため、長期戦になった時のことも考えてその間に力を送り続けなくても維持できる強固な結界を張る必要がある。


そしてそれはさすがに卜部さん一人では厳しいらしく、もちろん応援は呼ぶが、作業はかなり大変な物になるため一人でも多く形式的な結界を張る心得のある優秀な助手が必要であるらしかった。

結果、柿芝は後援で卜部さんの助手を務めることになった。


ちなみに咲耶はその話を聞いて

「え、結界って常時力を送り続けないでも維持できる方法があったの?」

と驚いていた様だったが、卜部さんに咲耶も今内側の結界を張っているのに疲れないのかと聞かれ、


「最近は、結界を作ったり維持したりするのがそんなに大変って感じたことがないから解らないわ。

そういえば禊の儀をやる前は結構それで疲れてた気がするけど・・・」

と不思議そうに答えていた。


多分、禊の儀以降は沢山の人間の魂を立て続けに取り込んだ分エネルギーだけは有り余っていて、ただその魂からもたらされる情報に振り回されていただけだからだろう。

まあ、その魂の情報のおかげで死にそうにもなっていたが。




結界に入ってみるとそこは妙に生温かい風の吹く、何の変哲も無い住宅街だった。

外から結界の中を見たときとあまりにも変わらない様子が、より不気味だった。


気配を探ろうにもそこら中に例の視線を送ってきた姫巫女の気配と視線を感じるので早々に俺達は場所の特定は諦めて向こうの動きがあるまで適当にそこらを散策する事にした。


それからしばらく歩いていると、キィ、キィ、とどこかから金属音が聞こえてきた。

俺と咲耶は顔を見合わせると、すぐに音のする方へと向かった。


姫巫女は、いくつかの団地に囲まれた小さな公園のブランコに乗っていた。

しかし、俺はそれよりも、その姫巫女の背中を押してブランコを揺らしている人物に目が釘付けになった。

そこにいたのは耕四郎、いや、瀧澤大吉だった。

服は現代の物であるし、見た目も二十歳前後だが、昔、毎日のように見ていたその顔を俺が見間違えるはずがなかった。


姫巫女は既にこちらに気付いているらしくブランコに乗りながらニコニコと笑い、手を振ってくる。


どういうことなのか、仮にこの男が大吉だとすると、この姫巫女・・・・・

そんな俺の動揺をよそに姫巫女はブランコから跳び降り、満面の笑みを浮かべて俺の方に駆け寄ってきた。


「久しぶりね、黒」


俺の顔を覗きこみながら無邪気に笑うその姿は、紛れもなく竹だった。




次回更新予定は8/1です。

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