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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
終の姫巫女編
64/71

#61 言ったそばから

二月の始めの日曜日の昼下がり、中村さんが訪ねてきた。

客間に案内すると、俺に見て欲しい映像があると中村さんは折りたたみ式のDVDプレイヤーを取り出した。


早速その場で映像を見てみれば、画面に見覚えのある顔が写った。

それは今朝放送された情報番組の今時の若者に冠婚葬祭の作法や料理の下ごしらえ等の一般常識を実践形式で出題する人気コーナーのワンシーンらしいのだが、それに咲耶にそっくりの顔をした女子高生が出演していた。


茶髪のショートカットに眼鏡をかけた彼女はなぜか鰤の煮付けを作るはずなのにカレールーを摩り下ろして味付けに使い、全く別物の創作料理をこしらえていた。

確かに旨そうではあるがコレは完全に別の料理になっている。

あんまりにも普通に全国ネットで顔を晒していたので当初偶然番組を見ていた中村さんも呆気に取られてしまったらしいのだが、すぐに慌ててその番組を録画したらしい。


自信満々な顔でカレー味の鰤の煮つけを作る画が中々衝撃的だったが、咲耶と同じ顔をした彼女が別系統の姫巫女であることは映像を通して視た気配からしてすぐにわかった。

「この子が別系統の姫巫女であることは間違いないとは思いますが、まさかその判断を聞きに来た訳じゃないんですよね?」

中村さんならこの映像を視れば直接視た時程ではなくてもすぐに彼女の素性位解るはずだ。


「うん。コレは事情の説明のための物でコレ自体は目的じゃない。

結論から言えば龍太君には咲耶ちゃんの説得をお願いしたいんだ」

そう言われて俺はやっぱりかと納得した。


咲耶が雛月に乗っ取られかかった前回の一件の後、一応記憶を改ざんされてしまった人間の記憶は元に戻ったのだが、記憶が改ざんされていた間の記憶はそのまま残った。

しかし咲耶は更にその記憶を何事も起こらなかった物に修正するのを拒否した。

結果、籠目教、紅鏡、鬼灯の鞠亜の存在を知るごく一部の人間には自分達に対する咲耶の力の絶対的な強さとその不安定さが知られることとなった。


おまけに現在魂を取り込んだ人間に影響が出ない範囲で少しずつ雛月から自分の感情を取り戻している咲耶は、すっかり年頃の、気難しい娘になってしまい籠目教はおろか達也さんや輝美さんにとっても扱いづらい状態になっている。

思春期の反抗期や大人への反発と自分のしたことによる罪悪感と重圧、その他もろもろの感情を一気に受け止めた結果、咲耶は現在自分の家族や籠目教の人間とどう接していいのかわからないのだ。

特に籠目教の一般の信者達との接触は極端に避けるようになり信者の前には禊の儀以来姿は現していない。


親父や輝美さん、中村さんや清實さん達は下手に咲耶に何かを強制してへそを曲げられるとそれこそ何が起こるかわからないのでとりあえず咲耶の精神が安定するまでは咲耶へ何か頼むことがあれば一度俺を通して俺から咲耶に提案する事になったのだ。


それに予言されていた咲耶が鞠亜に殺されるという未来はとりあえず回避できたものの、咲耶の死の危険が高まるという時期が終わる来年の春まではまだ油断は出来ない。

前回のことで外部からの要因だけではなく、咲耶自身が不安定になった時こそちょっとしたことが大事件に繋がることがわかった今、ただでさえ不安定な年頃の咲耶を不用意に刺激するのは避けたいのだろう。


今回、この別系統の姫巫女がこの全国ネットの番組に堂々と出演していた理由として考えられる理由は三つ。

・姫巫女である自分が不特定多数の人間に顔を晒す意味が解っていない

・顔を晒すリスクを踏まえた上で他の姫巫女達を釣って一網打尽にするための罠

・姫巫女は囮で多くの姫巫女達を釣るための枢魔派コミュニティの罠


だがいくら他を釣るための罠といっても直接顔を視れば相手の人となりや現在の居場所まで特定できる能力者がいるにもかかわらずあえて全国に向けて自分の顔を出すのはあまりにもリスクが大きすぎる。

そして他の姫巫女達を集めるにしても自分の役目を自覚した姫巫女がまとまって押し寄せてくる可能性もあると考えると、姫巫女を狩ろうと考えているにしては危険すぎる。


咲耶一人でさえ既に三つの霊的コミュニティが相当に引っ掻き回されている現状を考えれば、一人ずつ見つけ出して各個撃破の方が安全だし確実だ。

万が一にも集まってきた直系の姫巫女達同士が互いに戦い、魂を奪い合うことになれば最悪その中からもう誰の手にも負えない力を持った姫巫女が誕生し、暁津比売の復活を早めることになりかねないことから枢魔派が意図して関わっているとも考えられない。


それらの点からやはりこの姫巫女は自分が不特定多数の人間に顔を晒すということがどういうことなのかわかっていないと考えるのが自然だろう。

実際自分が何者なのかわかっておらず、血によって力のみ受け継いでいるものの、それを持て余している姫巫女というのは相当数いるらしい。


中村さんや籠目教に流れてきた別系統の姫巫女に関わっていた人の話では、特に閉鎖的な田舎などだと本人もよく解らないままに祭り上げられ隔離され、隠されるのだそうだ。

そうして村の利益のために利用される。

しかし、だからこそ枢魔派コミュニティの目を逃れそれまで血を繋いでこられたとも言える。


姫巫女の中には俺の様に姫巫女のことを伝える蛇や龍などの眷属が付いている場合もあるそうだが、それらも姫巫女が殺されると同時に消されてしまったらしい。

だがそういった眷属を持たず血のみで続いている姫巫女の家系もあるという。


その多くの場合は伝承があやふやになったり消えたりして姫巫女本人もその家族もその力がどういうものなのか解らなくなり、持て余した力を封印して普通の人間として生活しようとするのが大半らしい。

ところがそのせいでその力のことは家系の中でタブー扱いになり、封印しきれず漏れ出る力に翻弄され、本人や周りも自覚もないままある日突然何者かに殺されたり自滅する事もあるという。


そして恐らくこの姫巫女はその自覚のないパターンだ。

それなら何者かに危害を加えられる前に籠目教で保護しようということになったらしい。

保護といっても一度咲耶が魂を取り込んで咲耶の眷属になってもらうことになるのだが、そうすれば当然咲耶からの加護を受ける事も出来るし、何かあったときすぐに助けることも出来る。


その事はもう籠目教では決定しているのだが、それにはどうしても咲耶の協力が必要でしかも事は一刻を争う。

なので俺から咲耶を説得して欲しいのだそうだ。

訳を話せば以前の咲耶なら普通に承諾しそうだが、現在の咲耶の場合、親父や輝美さんでさえ姫巫女についての話をしようとすると先に気配を察して逃げようとするので中々に面倒なのだ。


まあ結局話せば解るし、基本協力的なのだが妙に気を張って物事を深刻に考えすぎる節もあるので判断に前よりも時間がかかることもある。

それは咲耶が雛月に頼らず自分の意思で様々な事に向き合おうとしている結果であるし悪いことではないのだが、今回の様に即断即決が問われる場合は俺から咲耶に話して助言という名の説得をして咲耶の決定を早めるのだ。


早速咲耶の家に向かい咲耶を尋ねれば、丁度良い所に来たと出迎えに来た咲耶にそのまま部屋まで引きずり込まれた。

「今朝恵瑠ちゃんから動画が届いたのだけど」

そう言って咲耶がスマホをいじって俺に見せたのは先程俺が見せられた番組をテレビごと動画で撮った物だった。

テレビの画像を撮る時に写り込む黒い帯が邪魔だったが、写真も一緒に添付されていたらしく、こちらにはしっかりと黒い帯を避けて咲耶と瓜二つな顔をした少女が写っていた。


「これって、別系統の姫巫女って奴よね?どうしよう、今すぐ魂を取り込みに行ったほうがいいのかしら、でも多分戦闘になるわよね、もし私が負けて魂が取り込まれたら、私が魂を取り込んだ人達ってどうなるのかしら。

だけどこのまま放っておいたら多分別の姫巫女か枢魔派の人間に魂を奪われちゃうのよね。

ああ、でも私しようとしていることも同じことだし」


涙目状態で混乱する咲耶を宥めながら、この動画が佐倉から送られてきたのは案外都合が良いかもしれないと俺は思った。

佐倉にはもう知っているかもしれなかったが、一応姫巫女のことは既に説明してあるし、今朝のこの番組を見て咲耶に動画と写真を送って来たということは少なからずこの重大さも解っていることだろう。


佐倉は基本的に紅鏡の人間の魂を守ろうとしているので、もし咲耶がこの姫巫女の魂を狩りに行くと言えば万一にも咲耶の魂が逆に取り込まれる様な事態にならないように協力してくれることだろう。

そしてあらゆる呪術に精通している佐倉ならば、姫巫女の魂が何らかの封印を受けていたとしてもそれを咲耶が魂を取り込んだ後で解く事は容易いはずだ。


後はどうやって咲耶を説得するかだが・・・。

俺は咲耶が落ち着いたのを見計らって本題に入った。


「咲耶、別に咲耶はこの人の魂を取り込もうとしているとはいえ、危害を加えようとしている訳じゃないだろう?

むしろ咲耶が一度この人の魂を取り込んでしまえば、たとえこの人が誰に襲われてもすぐに助けることが出来る。

保護するって考えたらしっくりくるんじゃないか?実はさっき中村さんがそれと同じ映像持ってきて籠目教ではこの人を保護したいらしいんだが、そのためにはどうしても咲耶の協力が必要なんだ」


この人を助けるためにも力を貸してくれないだろうか。

咲耶にそう話せば、咲耶は少しためらった後俺の手を握った。


「・・・・・わかった」


「ありがとう、咲耶」

そう言って咲耶の手を握り返せば、急に咲耶は勢いよく立ち上がり

「じゃあ早速私は何をすれば良いの?特攻!?」

等と言い出した。顔は見えないが耳が赤かった。


「いや、特攻はやめろ。お前がやられたらその時点で終わるから」

咲耶を宥めながら中村さんから聞いた作戦を咲耶に伝える。


もう例の映像を視た中村さんと清實さんから大体必要な情報はもらっている。

このテレビに出ていた人の名前は梶原明菜かじわら あきな、地元の高校に通う二年生、十七才、家族構成は本人・父・祖母の三人暮らし、母と祖父は既に他界。

現在住んでいる家も清實さんが千里眼を駆使して特定済みだ。


一応力を抑える封印をされている様だが、既にその呪術を扱える母方の人間はおらず、顔が親子でそっくりだった事や人の考えていることが何でも解ったという特徴から母も姫巫女であったと推測されるため、ほぼ間違いなく直系の姫巫女であるが本人に自覚はない。

また彼女の周りに龍神等の眷属神の気配はない。


映像から読み取れたのはコレだけだそうだ。

そして現在彼女に直接接触してより詳しい情報を得るため中村さんと、何かあった時のために輝美さん、そしてもう一人籠目教の瞬間移動の力を咲耶に与えられた人が今から現地に向かうそうだ。


咲耶には清實さんの千里眼の力を使って三人の様子を見守りつつ、必要なら遠隔で援護、上手くいけば梶原さんの魂を輝美さん達が回収してすぐに咲耶の元へ持って来るのでそれを咲耶が取り込んで梶原さんを保護下に置いてしまえれば作戦は成功ということになる。

もちろん場合によっては他の姫巫女や枢魔派の人間とニアミスすることも十分にありえるのでその辺も臨機応変に対応しなければならないのだが、その場合でも出来るだけ咲耶には現場に出てこないようにと清實さんから言付かっている。


最悪、咲耶以外は殺されたとしても魂さえ回収できればまた復活させられるが、万が一にでも咲耶がやられてしまえばもう取り返しは付かない。

それに咲耶が他の姫巫女や枢魔派の人間に目を付けられるのも厄介なのだ。

説明をすれば咲耶は一応頷いてくれたが、現場に出てくるなと言われたのは不満だったらしい。


「それじゃあお母さん達に何かあった時どうするのよ!いくらでも蘇らせられるって言ったって、相手に魂回収されたらそれも出来なくなるのよ!?」

咲耶は憤慨したが、

「大丈夫、一応安全第一で危なくなったらすぐ逃げるとも言ってたし、そうならないように咲耶も三人を援護してやってくれよ。

多分もう現地に着いているはずだから」

と話せば、渋々といった様子で承諾してくれた。


準備が出来たら輝美さんに電話してやってくれ、それが作戦開始の合図だからと俺が促し、咲耶が電話をかける。

しかしいつまで経っても繋がらないらしく、咲耶は電話を切った後意識を集中させる様な素振りを見せた。

しばらくの沈黙の後、咲耶が呆然とした顔で俺を見る。

「お母さん達、どこにもいないんだけど・・・・」


清實さんの千里眼は自分の知っている人間の現在の様子をリアルタイムで視る物だ。

だからその力を取り込み、咲耶が使う場合でもまずは様子を視たい人間の姿があり、それから辺りの様子を探ることになるはずなので、視たい人間が見つからないなんてまずありえないはずだ。


他からの妨害が入った時以外は。




次回更新予定は7/18です。

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