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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
座天使暴走編
62/71

#59 最後に笑うのは

「こっちだ」

文月はそう言って本来河原のある方へと歩き出した。

そのまま付いていけばさっきまで晴れていたのに急に辺りは霧に包まれ、かろうじて目の前を歩く文月の背中とすぐ隣にいる鞠亜が見られる程視界は悪くなった。


「ねえ龍ちゃん、一つはっきりさせておきたいことがあるんだけど」

目の前がほとんど白一色な道を歩きながら鞠亜が口を開いた。

鞠亜の聞きたいことはなんとなく予想はついた。


「龍ちゃんは咲耶ちゃんのこと、好き?」

前を歩く文月から目線を外さず鞠亜が俺に尋ねた。

予想通りの質問に、俺は用意していた答えをそのまま返す。


「好きだよ。雛月の言った通り、鞠亜のことが好きだった時期もあったけど、今俺が好きなのは咲耶だ。

もちろん鞠亜も友達として好きだけどな」

俺がそう答えれば、鞠亜は驚いたように目を丸くして俺の方を見た。


「なんか、龍ちゃん変わったね。前は真っ赤になって否定してたのに」

否定はしたがそんなに赤くなっていただろうか。

多分赤くなっていたのは他の理由だった様な気もするが。


「でも、それならいいの。龍ちゃんが本当に咲耶ちゃんのこと好きなら、私は応援するよ。

咲耶ちゃんには幸せになって欲しいから」

再び視線を文月に戻しながら鞠亜は呟くように言った。

その横顔は少し寂しそうだが笑っていた。



しばらく歩いていると急に文月は立ち止まり、ここだと目の前を指差した。

すると突然あたりの霧が晴れて目の前に家が現れた。

咲耶の家が、門も庭も無くむき出しの状態で俺達の前に建っていた。


家の外から二階の咲耶の部屋へ意識を向けてみれば、確かに咲耶の気配がした。

文月になぜこんなに簡単に咲耶の居場所を特定できたのか尋ねると、元々咲耶が逃げ込んだこの場所は文月の別の次元に結界を作る術をそのまま何重にも重ねて作った物らしい。

よってその術の本来の持ち主である文月にとっては咲耶の気配をたどりながらその何層にも重ねられた結界の中を移動して咲耶の下へ来る程度は造作も無い事らしい。


早速、鞠亜が玄関の呼び鈴を鳴らして咲耶を呼んでみた。

・・・返事は無かった。

いくら待っても反応がないので俺はドアを引いてみたが、やはり鍵がかかっていた。

しかし、念動力を使って鍵を開ければ、その後咲耶から何らかの妨害が入ることも無く、あっさりと俺達は家の中に入ることが出来た。


一歩家に足を踏み入れた瞬間、家全体から視線を感じたが、それ以上何か起ることは無く、俺達は一応辺りに注意を払いながら咲耶の気配のする二階の咲耶の部屋の前までやってきた。

「咲耶、話があるんだ。出てきてくれないか?」

軽くノックをした後呼びかけてみたがやはり返事は無かった。


「咲耶、入るぞ」

もう一度ノックをした後声をかけてからドアを開けようとする。

しかし、俺はドアを開けられなかった。


開けようとするのだが、不思議と全くドアを開けようという気にならないのだ。

鞠亜と文月も試してみたが、結果は同じだった。

咲耶が俺達にドアを開けさせる気をなくすよう精神干渉をしているのだろうということはすぐにわかった。

どうやらここまでが咲耶にとって俺達の進入を許せる限界らしい。


「わかった。じゃあここで話をするから聞いてくれ」

咲耶の居る部屋の中へ入ることは諦め、せめてそこで俺達の話を聞いてくれるよう俺は呼びかけた。

返事は無かったが、沈黙は肯定と取るからなと宣言すると、中からわかった。と咲耶の低い声が聞こえた。


声がかなり近い。

たぶん咲耶は俺達がいるドアのすぐ前にいるのだろう。

「咲耶ちゃん、雛月ちゃんから全部聞いたよ。

私全然存在を消されてたこととか気にして無いから、それも私のことを守ろうとしてのことだったんでしょ?

・・・・・それに、私は龍ちゃんのこと今も昔もなんとも思ってないし、咲耶ちゃんが龍ちゃんのこと好きって言うなら応援するよ!」


勤めて明るい声で鞠亜が語りかける。

当たり前のように今も昔もと言われるとなんとも言えない気分になるが、鞠亜はあんなに咲耶のことが好きだと言っていたのにそんなにあっさりと身を引ける物なのだろうか。

まあその方が俺としてもありがたいのだが。


「・・・・・・・・知ってる」


ポツリと部屋の向こうで咲耶が呟いた。

咲耶も鞠亜とは長い付き合いだ。こんな時鞠亜がどんなことを考えてどんなことを言うのかは最初から予想も出来ていたのかもしれない。

しかし感情と思考はまた別物で、雛月の言う通り咲耶にとっては帰ってその反応が自分に人間的な未熟さを感じさせて悔しく思うのかもしれないが。


「咲耶、雛月が取り込んだ魂由来の感情は全て取り込んでいる今、咲耶の中にあるのは咲耶自身の感情だけだ。

今までずっと雛月に流してたから急に感情があふれ出して戸惑ってるだろうが、それが普通なんだ。

嫉妬だとか罪悪感だとか、皆それを自分の中で受け止めて成長していくんだ」

そう俺が言い終わった直後、バチリと大きな音がして俺と鞠亜はドアの前から弾かれてしまった。


「そんなことわかってるわよ!わかってるけど、ああするしかなかったんだもの!

でも今の私がそんなことに心を乱してたら、それこそ力が不安定になって何が起こるかわからないんだもの!

私はもう一生こうするしかないのよ!!」


咲耶がそう叫ぶと同時に、一瞬酷い立ちくらみがした。

鞠亜と文月を見れば、俺と同じ様によろめいていたが、その瞬間まるでテレビの映像が乱れる様に、二人の姿が消えかかった。

すぐにそれは直ったが、鞠亜も俺と文月を見て驚いた顔をしていたのできっと俺も同じ様に姿が消えかかったのだろう。


咲耶が言う心を乱すと力が不安定になる。というのはつまり今の様に咲耶の心が乱れると咲耶がの力によって実体化させた物の存在も危うくなることもあるということなのかと思うと血の気が引いた。


そしてああするしかなかった。というのも、幼少期、家族愛や周りの人間に求められることに飢えていた咲耶は寂しさも嫉妬も恐怖も全て押し殺して否定しなければ自分を保てなかったと言う事なのだろうか。


だから雛月に全てを放り投げて自分の精神の平穏を保つより他無かったし、今となっては直系の姫巫女としての責務を果たし、既に自分が魂を取り込んでしまった人間達の存在を保つためにも今更雛月を自分の中に受け入れ同化させることは出来ない。

と咲耶は言いたいのだろう。


「だけどその結果が咲耶の精神を守ろうとする雛月の暴走で、鞠亜の存在を消そうと咲耶の干渉下にある人間の記憶を改ざんしたり、関係のある物を丸ごと消しさることになったんだ。

今の状態を放置すれば、今後もっと酷い事態を起こしかねないのは咲耶もわかるはずだ」


「・・・・・私に、どうしろって言うのよ」

しばらくの沈黙の後、咲耶の涙声が返ってきた。

「今すぐじゃなくてもいい。少しずつ、最初は自分の感情だけでも雛月から取り戻そう」


「無理よ。禊の儀で雛月も成り行きで取り込んだ後、私もそうしようとした。でもそれだと今の私を保つことが出来なかったからこうなっているのよ。

良いじゃない雛月に任せたって。結局雛月だって私なのだから、私が自分で自分の感情を受け止めているのと同じ事だわ!」

俺の言葉を遮る様に咲耶が言った。


咲耶はいつも雛月を自分の分身だと言っていたが、当の雛月は自分は自分であり咲耶では無いと前に言っていた。

きっと咲耶も本当は気付いているはずだ。

自分が本心では雛月を別の存在であると、そうであって欲しいと願っていることに。

そうでなければ雛月の存在は成り立たないのだから。


「咲耶と雛月が完全に同じなら、なんで咲耶は雛月が鞠亜の存在を消そうとしていたことに気付かなかったんだ?」

俺のその言葉に対する咲耶の返事はいくら待っても無かった。


「咲耶」

「帰って」

俺がまた話そうとすると、ピシャリと咲耶はそれを遮った。

「今は放って置いて・・・・」


その後は俺と鞠亜がなにを語りかけても何の返事も返ってこなくなってしまった。


確かにこの状況なら普通はしばらく落ち着くまでそっとしておいて欲しいだろうし、そうした方がいいのだろう。

しかし、今の咲耶をこのままの状態で放置するのはあまりに危険だ。

放って置いて自己嫌悪の末に自分の存在を消そうとでもされるとそれこそ本当にもう手に負えなくなる。


普通はそう思っても実行できないが今の咲耶ならいとも簡単に出来てしまう。

そして本気で咲耶が干渉下にある人間への記憶の改ざんを行ってしまえばもうそれを取り戻す事もできなくなる。

だからこそ俺はここで引く訳にはいかない。


しかし放っておいてくれと咲耶に言われてしまった以上、これ以上咲耶に何か言っても逆効果にしかならないだろう。

どうした物かと俺が考えていると、説得は失敗に終わった様だな、と先程までずっと俺達の様子を傍観していた文月が口を開いた。


「咲耶、一つ提案がある。咲耶は自分が今どうすべきなのか解った上で感情の整理がつかないのだろう?

それなら心が休まる良いまじないがある。試してみないか?」

文月がそう提案するも、扉の向こうからは一切の反応は無かった。


一体何をするつもりなのかと文月を振り返ってみれば、いつもと変わらぬ涼しい顔で笑みを浮かべていた。

若干警戒をしつつも文月の言葉を待つ。


「なに、簡単なことだ。咲耶がここに居る二人を自分の手で殺して再度その魂を取り込めば良い」

空気が凍った。


「今咲耶が心を乱している最たる原因はここに居る二人だろう?だったら今一度、今度は咲耶の意志で二人の魂を取り込んで咲耶が根本的にそこに居る二人よりも上位の存在であることを自覚すべきだ。

既に二人の魂を咲耶が取り込んでいる以上、この二人の魂も思考も感情も全ては咲耶の物だ。

だから気に入らなければ記憶の改ざんでも感情の書き換えでも好きにすれば良い」


何を言っているんだコイツはと俺が声をあげようとした所で、もっとも、と文月は言葉を続けた。

「ここに居る二人はそんなことをしなくても咲耶のことは諸手を挙げて受け入れるだろうがな」


・・・・・・つまり、何が言いたいんだ?


「だから咲耶は最初から罪悪感なんて感じる必要は無いんだ」

まるで咲耶が自分の干渉下に置いた人間は咲耶の所有物なのだから咲耶がそれをどう扱おうとも省みる必要は全く無いとでも言いたげだ。

それではただの独裁者だ。いや、咲耶の出来る事を考えればそれよりもたちが悪いだろう。


「まあ、咲耶が直接手を下すのが嫌なら今私が変わりに手を下してそれを咲耶に渡す形でも良いだろう。

沈黙は肯定と取るんだったな・・・」


文月がニヤリと俺達に笑いかけた。

「ダメ!!」

次の瞬間、咲耶の部屋のドアが勢いよく開いて咲耶が飛び出してきた。


咲耶は勢い余って文月に飛び掛る形になったが対する文月は咲耶を正面から受け止めてた。

しかし咲耶を受け止めたままガッチリと離さない文月と無事な俺と鞠亜を見ると咲耶は

「謀ったわね!」

と既に泣いた後だったらしく目元を赤く腫らしながら更にまた涙目になって文月に抗議した。


「さっきの言葉は方便でもなんでもなく純粋な提案だが?」

文月の言葉に再度咲耶が固まった。

「咲耶が出てこないのなら私が手を下しても良かったが、やはり咲耶が直接手を下すのが一番良いだろう。

より自分がやったのだと認識できるのだからな。

なに、魂を取り込んだらまた生き返らせてやれば良いのだから大して問題も無いだろう」


咲耶の両肩に手を置き、子供に言い聞かせるように膝をついて咲耶の顔を覗き込みながら文月が言う。

こちらに背を向けた状態で咲耶は立っているので表情はわからないが、その後姿からは十分に困惑と怯えが感じ取れた。


「やめろ文月。そんなことしてもかえって逆効果だ。

大体、気に入らない事をいちいち事実を書き換えて無かったことにしてたら、咲耶は今までと何も変わらない、心の成長が止まったままだ。

咲耶に精神的にも成長して欲しいからお前は雛月を咲耶と切り離すことにも協力してくれたんじゃないのかよ」


俺が文月に問えば、もちろんだと頷いた。

「咲耶が精神的にも成長して、雛月に依存しない状態になるのが私も望ましいと思う。

しかし、それは人としてじゃない。神としてだ」


そこでようやく俺は文月の真意を理解した。

文月は咲耶を特別な力を持った人間ではなく、その力をもって人々を支配する神にしたいのだ。

だからこそ文月は咲耶に支配者たる自覚を持てと言っているのだ。


自分の記憶はそのままに周りの人間の記憶を改ざんさせ、咲耶とその干渉下にある存在との咲耶の絶対的な優位さを身をもって自覚し、その力をもって干渉下に置いた人間達を支配せよということなのだろう。


直系の姫巫女の最終目標は他に散らばっている暁津比売の魂を全て集め、暁津比売として地上に肉体をもって復活することにある。

そのための姫巫女でありそのための御龍神社、籠目教である。


確かに咲耶はいずれ神となる。なってもらわねばならない。

だがそれは今じゃない。


清實さんや輝美さん、親父等は少なくとも今は普通の人間として生きて欲しいと願っているはずだ。

「咲耶は人間だ。少なくとも今は」

「家屋を一瞬で消し去る程の高温で焼かれてもまだ息があり、更に十分もしないうちに完治する人間などいるのか?」

俺の言葉に文月が立ち上がり、嘲るように返す。


「いずれは咲耶も神になる。だけどそれは今じゃない。

人として精神が成熟しきらないうちに神としての力を持ってもロクなことにはならない」

たまらず俺が言い返せば、更に文月も言い返してくる。


「おかしなことを言う。いずれ神になるのなら今なっても同じ事だ。

人としての人生の記憶など人間の魂を取り込めばいくらでも得られるだろう」

「違う、実際に自分が体験して得た記憶だからこそ意味があるんだ」

「そんな物、いくらでも書き換えられるだろう」


俺達の主張はそのままいくら言い争っても平行線のままだった。


「二人ともやめて!咲耶ちゃんが怯えてる」


俺達の言い合いを止めたのは鞠亜だった。

鞠亜の言葉に釣られて咲耶を探せば、いつの間にか鞠亜の後ろで小さくなって俯いていた。


「私は咲耶ちゃんがまた元気になるなら一晩中だって咲耶ちゃんに語りかけるし、必要なら咲耶ちゃんに刺されてもかまいません。

でも本当にそれで咲耶ちゃんは元気になるの?

咲耶ちゃんには色んな人の魂を取り込んで自分の物にした自覚が足りないって言ってたけど、その自覚があったから咲耶ちゃんは必死に自分の心を押さえつけてたんでしょ」


俺達の前で両手を広げて咲耶を庇う様にして立ちはだかりながら鞠亜は俺達を威嚇した。

鞠亜とは幼稚園からの付き合いだが、こんなに声を荒げて怒りをあらわにしている鞠亜を俺は初めて見た。

俺達をしばらく黙ってろと言わんばかりに鞠亜は睨むとそのまま後ろに居た咲耶の方へ向き直った。


「咲耶ちゃん!」

咲耶の方へ一歩踏み出し手を伸ばした鞠亜の手はビクリと肩を揺らして後ずさる咲耶の前に動きを止めた。

触れるのは諦めたらしくゆっくりと腕を下ろしながら鞠亜は真っ直ぐと咲耶を見据えた。


「私ね、咲耶ちゃんが好き。好きで、大好き過ぎて、出来る事なら龍ちゃんの体乗っ取って結婚したい位好き。

だけどそれは龍ちゃんじゃないし、咲耶ちゃんが一番好きなのは龍ちゃんだから、龍ちゃんの一番が咲耶ちゃんってはっきり解ったらそれを私は応援しようって決めてたの。

でも、私は咲耶ちゃんが思うような立派な人間じゃ無いの」


それから咲耶は自分の咲耶への思いの丈を切々と語りだした。


幼少期、身を寄せていた親戚の家で怪奇現象に悩まされ、お陰で親戚や近所の子供からも気味悪がられて遊び相手がいなかったこと。

この町に引っ越してきて、咲耶が鞠亜と一緒にいてどんなに恐ろしい目に遭っても変わらず自分を受け入れてくれ、笑いかけてくれたことがどんなに嬉しかったか。


その自分が咲耶に愛されているという実感が欲しくて内心より咲耶が酷い目に遭って、それでも変わらず自分と一緒にいてくれることを常に夢想していていたら、実際に同じ事が起こってしまったこと。

それでも期待通り変わらずに鞠亜に笑いかけてくれる咲耶に胸が痛んだが同時にとても嬉しく、その夢想をついに咲耶を殺しかけるまでやめられなかったこと。


罪悪感と自己嫌悪からその思いが全て自分に向いて、日に日にそれが酷くなっても今度は自分を助けようとしてくれたこと。

何があっても味方でいてくれる咲耶が、別の人格を作って自分の恐怖や嫌悪の感情を押し付けてまで自分と一緒にいようとしてくれた咲耶が、どうしようもなく愛おしく思えたこと等を、涙ながらに語った。


「だから、本当は私は咲耶ちゃんに嫌われて当たり前の存在だし、守ってもらう価値なんて無かったの。

だけど咲耶ちゃんに嫌われるのだけは嫌だった。

でも、今は咲耶ちゃんがそれで心が落ち着けられるなら、咲耶ちゃんに殺されても存在を消されても良いって思えるの。

私の存在が無かったことになっても、私の魂が咲耶ちゃんを構成する一部になれるならそれは嬉しいなって思うから」


鞠亜が言い終われば、咲耶は怯えた様子ながらも鞠亜を見据えた。

「そんなの、幼稚園の時から薄々気付いてたわ。

だからこそ嫌悪も嫉妬も恐怖も、全部雛月に丸投げして、時には雛月を身代わりにしないと鞠亜と一緒にいることなんて出来なかったのよ」


その言葉に、鞠亜は心底驚いた様で、え、と声が漏れた後しばらく沈黙していたが、いきなり咲耶に向かって飛びついて咲耶を抱きしめたかと思うとまた声を上げて泣き出した。


「咲耶ちゃん!咲耶ちゃん!最初から解ってて、それでも何も言わないで一緒にいてくれてたなんて、雛月ちゃんが切り離された時も私に気を使ってその事言わなかったなんて」

大分しゃっくりや濁点が入ってて聞き取りにくかったが、多分鞠亜はこんな事を言っていたのだと思う。


「いや、でも確信があった訳じゃ、ない、から・・・・」

対する咲耶は居心地が悪そうに鞠亜を引き離そうとしていたが、がっちり掴まれているらしくそれは叶わない様だった。


「良いこと思いついた!咲耶ちゃん、今度こそ私の存在を完全に消して、私を咲耶ちゃんの物にして」


鞠亜・・・いったい何を言い出すんだ。

呆然と佇む俺と文月の存在を無視してなおも鞠亜が言葉を続ける。


「それで雛月ちゃんも咲耶ちゃんの中の負の感情も全部私に頂戴!」


直後、発された鞠亜の言葉に、俺は今日で何度目かは解らないが絶句した。




次回更新予定は7/4です。

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