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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
座天使暴走編
60/71

#57 迷妄の首謀者

「・・・本気で言ってるんですか?」

柿芝の顔がより険しくなった。

この反応からして鞠亜というのは俺が知っていなければおかしい名前なのだろう。


「ええっと、鞠亜っていうのは紅鏡の人間で、俺達が佐倉の作戦を実行する上で咲耶に魂を取り込まれたけどまだ生き返らされてないってことか?」

鞠亜というのが誰なのかはわからないけれど、柿芝の口ぶりから推測して俺は尋ねてみた。


柿芝は俺がそう言うと、急に呆然とした様子になったが、少し間を置いて気を取り戻すと、俺に小学校の卒業アルバムはあるかと聞いてきた。

確か俺の部屋のどこかにしまっていたはずだと答えると柿芝は今からそれを見せてもらえないだろうかと言い出した。

何でいきなりそんなことを言い出すのか解らなかったが、その鬼気迫る勢いに負けて俺は柿芝を俺の部屋に招き入れた。


柿芝は俺の部屋に入るなり結界を張った。周りの気配も警戒している様子だったが俺は何をそんなに警戒する必要があるのかわからなかった。


目的の小学校の卒業アルバムは簡単に見つかり、それを柿芝に渡すと柿芝はすぐにアルバムをパラパラとめくりだした。

その様子はまるで誰かを探しているかの様だった。


「始めに聞いておきたいんですけど、高尾先輩の幼なじみで今も親交があるのは誰ですか」

用意した座布団に腰を下ろし、アルバムを閉じた柿芝の第一声に、俺は首を捻った。

「咲耶だけど」


俺がそう答えれば柿芝はそうですね、と相槌を打った後更にこう続けた。

「咲耶さんだけですか?」


変なことを聞くなと思った。

「他には思いつかないな。

早瀬とは小学校は同じだったけど同じクラスになったことは無かったし、話すようになったのも去年からだし」


「高尾先輩は、咲耶さんの隣にいるこの女の子が誰なのかわかりますか?」

柿芝はアルバムを開いて中の一枚の写真を指して言った。


運動会の写真で咲耶と一緒に腕を組んで写っている栗色の髪の女の子、確かに俺はこの子に見覚えがあった。

咲耶と仲が良かったのなら見覚えがあって当然なのにそれ以上の強烈な既視感に襲われた。

アルバムをめくってその子を見つけるたびにそれは大きくなり、クラスの顔と写真が一緒に乗っているページでやっとその正体に気づいた。


慌てて押入れにしまっていた他のアルバムを引っ張り出してみれば、小さい頃の俺と咲耶と鞠亜が写った写真が沢山出てきた。

なんで俺は今の今まで鞠亜の存在を忘れていたんだ。


「思い出しましたか?鞠亜さんのこと」

俺が柿芝の問いかけに頷けば、柿芝は少し驚いたように目を見開いた。


「思い出せるということは、その精神干渉は完全じゃないということですね。

・・・それに鞠亜さんに関する物を完全に消しきれていないのはそこまで出来る程の力を扱えないのか、単純に気が回らなかったのか。

そうなると考えられる犯人は佐倉さんでしょうか」

柿芝の呟きに今度は俺が驚かされた。


どうしていきなりこの事態の犯人が佐倉ということになるのか。

尋ねれば柿芝は俺に向き直って考えを話し始めた。


「まず最初に咲耶さんの力が戻って鞠亜さんだけが生き返らなかったのは佐倉さんに魂を移植したからであり、作戦が終われば咲耶さんが鞠亜さんを生き返えらせるんだろうと思ってました」


だけどそうならなかった。

そしてそれを気に留める者は誰もいなかった。


この異常事態にようやく気付いた柿芝は、もしかして意図的に鞠亜の存在を無かった物しようとしている奴がいるのではないかと考えた。

それができるのはタイミング的に見ても鞠亜の魂を取り込んだ咲耶と、鞠亜の魂の片割れであらゆる呪術に精通している佐倉しかいないと考えた。


それに犯人は咲耶であれ佐倉であれ、現在もう周りの人間の精神を掌握している状態だ。

最悪、精神干渉の上手くいかない部外者は失くしてしまおうという考えの下、籠目教と鬼灯に加え全ての紅鏡の人間の魂を取り込んだ咲


耶と、鞠亜の魂を取り込んで完全体になった佐倉の二人と同時にやり合う事にもなりかねない。


どちらが犯人なのか、何の目的でそんなことをしようとしているのか、わからないことが多すぎたこともあり、柿芝は下手に二人を刺激するより何とか情報を収集して今後の立ち回りを考えたかった様だ。


そして鞠亜の記憶を失くしていた俺は、さっき確認した様に俺の記憶は昔の写真を見ればすぐに戻った。

昔の写真なんて簡単に今の記憶との矛盾に気付きそうな物がそのまま残っていたとしても、もし咲耶が本気で鞠亜の存在を消そうとするなら俺の記憶がその写真を見た程度で蘇るなんて事はありえない。


なぜなら咲耶は相手の記憶を丸ごと変質させる形で書き換えるからだ。

そんなことになれば何を見たってそもそも記憶自体が変質しているのだから思い出せるはずがない。

それに、咲耶がその気になれば鞠亜に関する写真だっていくらでも改ざんできるはずだ。


それに咲耶には親友である鞠亜の存在を消すメリットなんて無い。

鞠亜がいなくなって一番得をするのは鞠亜に魂を返す必要も無くなり常に完全な状態でいられるようになる佐倉なのだ。


あらゆる呪術に精通しているというのなら、咲耶の目をかいくぐって咲耶の干渉下にいる全員になんらかの記憶の操作をすることも可能なのかもしれない。


万里さんは眷属と言っていたが、咲耶に魂を取り込まれるということは要するに咲耶を中心とした魂のグループに強制的に入れられるということなので、もしトップの咲耶が精神干渉を受けてしまえば咲耶との魂のつながりを通してその眷族と言われる存在達にもその影響が現れる可能性もある。


柿芝の話を聞きながら俺はああだからあんなにも居心地悪そうにしていたのかと納得した。

しかし柿芝のその推測も、何か腑に落ちないというか違和感の様な物を感じたがそれがなんなのかはわからなかった。


「高尾先輩、いつか付けていた数珠はまだ持ってますか?」

一通りの説明を終えた後で柿芝が俺に尋ねてきた。


以前俺が親父から貰った内外の呪術的働きを遮る数珠のことだろう。

咲耶の禊の儀のゴタゴタで燃やされて以降、建物などと一緒に咲耶に修復されたが、その後は付けなくなってしまった物だ。

「持ってるけど、アレも一度柿芝に燃やされた後に咲耶に修復されたものだから、もう咲耶がその気になればいつでも消せるだろうし付けてても意味無いと思うぞ」


「・・・・・・・・・・は?」

柿芝の顔が引きつった。

咲耶の物質化は完全にただ思い描いた物体をその場に出現させるだけの物だと思っていたのだろう。


しかし実際は違う。

咲耶が物質化させる物は有機物であっても無機物であっても全て半霊半物質の性質を持つ。

つまり咲耶の力により霊界と呼ばれる次元に咲耶のイメージする物が形作られた後それをこちらの次元にに引き寄せているのだ。


咲耶の力によってそれらは物質界に顕現し留まっているので、咲耶が殺されるようなことがあれば咲耶が蘇らせた人間同様にそれらもこの次元には存在が出来なくなる。

俺達のいるこの世界からは消滅してしまうのだ。


だから咲耶は一度自分が物質化させて作った物なら人の身体だろうが物だろうがいつでも自分のさじ加減一つで一瞬で消し去ることが出来る。

柿芝も咲耶が新しい自分の身体を作って乗り移った後用済みになった元の体が消えていくのを見たことがあるだろう?と俺が問いかければ、納得した様ではあったが俯いて黙ってしまった。


しばらく沈黙が続いたが、柿芝の携帯の着信音でそれは破られた。

携帯の画面を見て柿芝は一瞬目を見開いた後着信画面を俺に見せた。

佐倉からだった。


出てみるように俺が促せば、柿芝は少しためらうような素振りを見せた後、恐る恐るという様子で電話に出た。

最初柿芝は少し緊張していた様だが、それからすぐに驚きの声をあげ、その後は間の抜けた相槌を繰り返した。


「話したいことがあるらしくて、これから成美先輩とこちらに来るそうなんですが、大丈夫ですか?」

電話を切った後柿芝が困ったように言って来たので俺は丁度良いと歓迎した。




佐倉と修司の話を聞くと、どうやら二人とも鞠亜のことは忘れていた様だが、それでは説明つかない記憶が多すぎることに帰り道二人で話していて気付いたらしい。

そして今の佐倉にそんな簡単に偽りの記憶を植えつけられるのは咲耶しかいないという結論にいたり、唯一咲耶に取り込まれていない柿芝に相談しようとした所、丁度柿芝の方も俺とその事について話していたので一度四人で集まって話をしたいという話になったらしい。


俺の部屋についた二人に鞠亜の写真を見せて話をしたところ、二人ともすぐに鞠亜のことを思いだし、そしてついさっきまで完全に鞠亜の存在を忘れていたことに青ざめた。


柿芝が先程まで話していた佐倉がこの精神干渉の主ではないのかと先程まで考えていたことと、記憶が戻るのなら恐らく咲耶は犯人ではないという考えを二人に述べれば、佐倉と修司も柿芝の考えに頷いた。


では一体誰が犯人なのか?


「犯人が私でも咲耶さんでもないのなら、犯人は鬼灯の咲耶さんに魂を取り込まれた人間じゃないですか?

幹部の人間が咲耶さんに取り込まれたということは彼等の持つ秘術の流出や消滅の危機と常に隣り合わせですし、特に鬼灯の人間は自分達が代々積み重ねてきたそれら相当な誇りと執着があるようですし」

佐倉がそう話せば、まあその辺が妥当な線かもしれませんねと柿芝が相槌を打ったが、それもどうなんだろうと俺は思った。


もっと解りやすい、単純な答えが目の前に転がっているはずなのにそれが全く出てこない。


「なあ、咲耶にも同じ話をして話を聞いてみたいんだけど、いいか?」

俺がそう提案すれば、

「確かにそれで鈴木さんの記憶が戻って天野さんが生き返れば犯人は誰でもとりあえず問題は解決するよね」

と修司が賛同し、佐倉と柿芝もそう簡単にいくとは思えないがと言いつつも賛同してくれた。


俺は念のためにと柿芝に以前数珠に施されていた様な術を施した札を作って貰い、数珠を付けた。




咲耶の家を訪れた俺達は絶句した。

本来咲耶の家の隣にあるはずの天野家の家が無く、天野家の家があった場所はそのまま鈴木家の庭になっていた。

鞠亜だけではなく、天野家の人間自体がこの町に来ていなかった事になっているらしい。


心なしか以前より立派になったような気のする鈴木家の周りの囲いを潜り、玄関の呼び鈴を鳴らせば部屋着に着替えすっかり寛いでいたらしい咲耶が出て来た。


大事な確認をしたいので十分だけで良いから話を聞いてくれと言うと、とりあえず中に入れと促され、俺達はリビングに通された。

丁度輝美さんと達也さんは夕食の買出しに一緒に出かけていたらしく家には咲耶しかいなかった。

「咲耶、天野鞠亜って知ってるか?」

「聞いたことあるような無いような、アイドルか何か?」


鞠亜のことを尋ねれば、予想はしていたがやはり咲耶も鞠亜のことは忘れていた。

その後俺は佐倉や修司にやったみたいに小学校の卒業アルバムを見せて鞠亜のことを説明した。

写真に写っている鞠亜はほとんど咲耶と一緒に写っているので佐倉と修司よりも鞠亜のことは思い出しやすいはずだった。


しかし、咲耶はアルバムを見ながら首を捻る。

「どこにいるの?その鞠亜って子は」

その言葉に俺達が慌ててアルバムを覗き込めば、そこに鞠亜の姿は無かった。


さっきまで写っていたはずの鞠亜の姿がそこには無く、代わりに鞠亜がいた場所には別の女の子が写っていた。

同じ様に他のどの写真にも鞠亜の姿は無く、クラスの各自の名前と顔が乗っているページからは天野鞠亜の名前と写真が消えていた。


まさか咲耶が鞠亜の存在を無いものだと認識してしまったからそれに合わせて鞠亜の存在が無かった様に周りの世界が改ざんされてしま


ったのだろうか。

・・・いや、それは無いはずだ。

今の咲耶は鞠亜の存在自体を知らないのだから知らない物の存在をピンポイントで消すなんて出来ないはずだ。


咲耶は急に深刻な顔をして俺達が押し黙ってしまったのを不審に思ったようだったが、咲耶が何か言おうと口を開きかけた時、咲耶の家の電話が鳴った。

ちょっと出てくると俺達に断った後咲耶は電話に出たが、その話している声は見る見る緊張した物に変わり、その様子から用件がただ事ではないとわかった。


「お父さんが、車に撥ねられて病院に運ばれたって、今すぐお父さんの所に行かなきゃ、私まだお父さんの魂は取り込んでないからこのままだとお父さん死んじゃうかも!」

咲耶は狼狽した様子で俺達に説明しながらも、すぐに自分の部屋に行って上着を羽織って出てくると、悪いけど話はまた今度聞かせてと言われた。


俺達もこんな状況で話を続ける訳にもいかず、また明日改めて話をする事になった。

咲耶が家を出る時に俺が龍になって病院まで連れて行こうかと言うと、大丈夫だと咲耶は答えた。

咲耶は蛇から龍の姿になった文月に跨り病院まで飛んでいってしまった。


考えてみれば咲耶は自分の周りの人間にもいくらでも力の付与ができるのだから、咲耶の使いである文月がそれによって姿を変えようが新しい力を獲得しようが何の不思議も無い。

それなら病院へ咲耶を乗せて飛んでいくのは後で肉体に戻す必要のある俺じゃなくてもいいはずだ。


「すっかり力を使いこなしてますね、咲耶さん」

しかしそんな柿芝の呟きになんとも言えない気持ちになった。





家に帰ると玄関までわざわざ親父が出迎えに来たと思ったらそのまま客間に連行され、なぜか客間には中村さんがいた。

「龍太君、まずいことになった」

「知ってます」

開口一番中村さんが神妙な顔つきでそう言いだすので思わずそう言い返さずに入られなかった。


中村さんの話を聞くと、どうやら籠目教の咲耶から予知の力を授かった人間達が軒並み咲耶が数日中に殺されると予知して騒ぎになっているらしい。

しかも幼なじみの女の子に殺されるらしいがその幼なじみの女の子が誰なのかがわからない。


前に清實さんが見た夢を書き留めたものや、中村さんの手記にその条件にぴったりの天野鞠亜なる少女の名前があったが誰も鞠亜のことがわからず、輝美さんに聞いても咲耶の幼なじみにそんな子はいないと言われ、それでも予知は変わらずに籠目教では騒ぎになっている


らしい。


「君は、その天野鞠亜という女の子のことを知っているかい?」

中村さんにそう聞かれたので俺は先程までの事を包み隠さず話した。

それには親父も中村さんも言葉を失っていたが、俺はそれよりも何かもっと大事なことを忘れている気がしてもどかしかった。


「神人である咲耶が死ぬ場合というのは、具体的にどんな場合なんでしょうか?」

俺が尋ねれば、中村さんはそうだね、まだ龍太君にはちゃんと説明していなかったと俺に軽く謝罪した後、神人の死について話し出した。


神人として完全に覚醒した人間には基本的に寿命は無いそうだ。

なぜなら自らの意思によっていくらでも肉体を修復したり新しく作ったりすることができるから。


ただし不死身という訳ではない。

何らかの理由により魂を奪われ、他の存在に魂を吸収されてしまった場合、魂の器である肉体を修復したりスペアを作る間もなく破壊された場合、そして、魂と肉体を繋ぐ精神を破壊され魂を肉体に繋ぎ止めて置けなくなった場合、つまりは魂と肉体と精神の結びつきが壊された時、神人は自身を現世に存在させることが出来なくなるのだそうだ。


そして現在咲耶は明らかに何者かの精神干渉を受けている。


非常に危険な状態なのだ。

しかも咲耶が死ねば、咲耶だけでなく咲耶が蘇らせた人間も物も全て消える。

被害が竹の時とは比べ物にならない。


「達也さんの事故も、咲耶ちゃんの精神を不安定にさせる為にその犯人が起こした物かも知れない」

中村さんが苦々しげに言う。

「予知の結果を踏まえるとその犯人はその鞠亜という子なのかもしれないが・・・・・」

中村さんはさらに言葉を続けるが、鞠亜が咲耶にそんなことをするはずがない。


それこそ鞠亜の思いと逆行するはずだ。

俺は過去に中村さんが将来鞠亜が咲耶を殺すと言っていたことを思い出したが、それでも納得がいかない。

大体そんなことして鞠亜に何の得があるというのか・・・・


・・・・・・・・・・・そういえば、あの時中村さんは何を阻止したいと言っていたのだったけ?

文月は、何から咲耶を守りたいと言っていたのだったか。

それを思い出したとき、やっと俺の中のモヤモヤとした霧が晴れた気がした。


本当に、どうして今まで雛月の存在を忘れていたのか。

アイツが・・・雛月が犯人なら全ての辻褄が合うじゃないか。




次回更新予定は6/20です。


2014/6/20 改行がおかしい部分があったので直しました。

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