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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
座天使暴走編
59/71

#56 消失

佐倉は言った。

「今一番困るのは万里さんが戦略的撤退を計り、体勢を立て直して挑んでくることです。

それをさせないためは万里さんに早急に鈴木先輩を支配下に置かなければという強迫観念を植え付ける事が大事です」


万里さんは咲耶の力を正確には把握できていない節がある。

それこそが活路であるとも佐倉は言う。


「ポイントは

 『今なら自分でも何とか出来そうだけど、遅れるともう手に負えない』

と思わせることです」

その後暗い光が灯る目で佐倉が提案した作戦に、俺達はしばし絶句した。




一月一日午後十時。佐倉家焼失から約十二時間後。

俺と咲耶は何とか一通りの準備を終え、朱里さんと深冬さんが住んでいるアパートの地下室にいた。

朱里さんの部屋に入り口のあるこの部屋は朱里さんの工房らしい。


借家でこんな勝手なことを聞けば、そもそもここのアパートのオーナーは万里さんらしく、朱里さんが自分の工房を持ちたいと万里さんにねだった所、用意されたのがこの新たに地下室を作られたこの部屋だったらしい。

元々このアパートは様々な理由で実家にいられなくなったが、紅鏡的には手放したくない人材を囲っておくための物だそうだ。


その様な人間は大抵まともな働き口も無いのでこの家の家賃や生活費を稼ぐためにはどうしても紅鏡から仕事を請け負って生計を立てるより他無く、汞の治安維持の仕事の手伝いか丹砂の研究にその身をもって協力することになる。


深冬さんはあまり力を使いすぎるとその力に引っ張られてしまうらしく、力を使いたがらず生きる事を放棄しようとするので仕方なく佐倉が資金援助をすることになったらしい。

その代わりに今回の様に佐倉から要請があったときは、他の何を置いても優先して佐倉に協力してくれるのだそうだ。


聞けばこのアパートには他にも住人が住んでいて交流もそこそこあるそうだが、なぜ今回佐倉家を襲撃する際に声をかけなかったのか尋ねると、朱里さん、深冬さん、奏、小夜の四人以外は完全には佐倉家やその周辺の派閥と独自に関係を持っており、下手に計画を話してリークされては元も子もないからとの答えが返ってきた。

そういう意味でもよそ者である俺達は都合が良かったのだろう。


その住人達もついさっき咲耶に取り込まれてしまったのだが。


佐倉達は今頃市内の万里さんや万里さんに親しい人間達の工房を片っ端から建物ごと潰して回っている頃だろう。

一応周囲には人避けの結界も張って外から見れば何も起こって無い様に見せかけるホログラムの様な幻術も施されるが、実際に敷地内に入ればすぐにわかる事だ。




「私達にかけられた呪いは、その触媒となる護符を見つけるか、燃やせば解けますが、それはどこにあるのか察知できません。

というか、普通こういうものは絶対に見つからない安全な場所に透視等でも見つからない様な術をかけて保存するのがセオリーです」

佐倉家が焼失した直後、咲耶により一瞬にして鞠亜と魂の統合を果たし、完全な状態となってラジエルの記憶にアクセス出来る様になった佐倉が俺達に説明した。


かつて万里さんが呪いをかける際に行っていた動作や得意分野からどんな術を使ったのか割り出したらしい。

しかし、透視でも見つけられないのならどうやってそれを見つけるのかと尋ねれば、佐倉は至極当たり前のような顔をして答えた。


「だから、町全体に誰も出られないように結界を施し、護符が隠されていると思しき場所はは片っ端から燃やします」

それと同時に柿芝は顔をしかめた。

それを受けて佐倉は柿芝にだけ無理をさせるつもりは無いと言葉を続けた。


「柿芝君の術は血統によるものなので私には使えませんが、血統も関係なく民家程度なら一瞬で丸ごと焼失させる術はいくらでもあります。

中でも一番簡単で扱い易い物を鈴木先輩に伝えるので、鈴木先輩はここにいる全員にさっき私にやったみたいに知識と感覚が伴うビジョンを見せてください。

この面子なら皆すぐに扱えるようになるはずです」


そうして俺達が佐倉から伝えられたのは、いつか佐倉が扱って見せたどんな物体も一瞬で溶かす光の球の初級編の様な術だった。

一度結界を張った後、火種となる球を出して家屋に当てれば、一気に燃え広がって結界で遮られていない連続した場所は燃え盛り、燃やす物が無くなるまで燃え続けるそうだ。


幻術と結界は朱里さんが敷地の四隅に設置して気を込めるだけで結界を展開してくれる便利なアイテムを作って用意してくれたお陰でそちらを習得する手間は省けた。

後は佐倉、柿芝、修司、朱里さん、深冬さん、奏、小夜の七人で佐倉と朱里さんが知る万里さんと関係が疑われる工房全てを潰して回る。


「万里さんのことだから私達を支配する要となるような物をそんな解りやすい所には隠さないでしょうし、恐らくは万里さんしか知らない秘密の場所にでも保管しているでしょう。

でも、それで良いんです。コレは万里さんへの『私達にかけた呪いの法がばれていて、私達はその触媒を探している』というアピールなんですから」

佐倉は前に持ってきた作戦の情報交換用のノートを取り出して広げた。


「そして全ての工房を壊し終わったら、結界の中の町全体に大きな魔術を展開します。

そうするとさっきまでの行動からして町丸ごと吹っ飛ばして触媒を消そうとしていると考えるでしょう。

もし触媒が結界の外にあり、万里さんの本体も結界の外にいたとしても、紅鏡に属する人間の大多数が住むこの町全員が鈴木先輩に取り込まれることになり、その場合少なくとも万里さんと母以外のこがねの人間全員の魂を取り込むことにもなります。」


ノートに図を描きながら佐倉が説明をする。

「魂を取り込むということは、その人間の力を全て手に入れるということです。

そして鈴木先輩が結界の中にいる以上万里さん達は手出しが出来ないし、更に鈴木先輩は紅鏡の優秀な人材を手駒として扱えるようになる。

その事実だけで万里さん達には十分な脅威になるでしょう」


「つまりそれを阻止しようとするために万里さんが私の所に来て魔法陣から私を出して支配して、私が取り込んだ恵瑠ちゃん達に干渉して魔術の発動を止めようとするってこと?」

話を聞いた咲耶が小首を傾げながら尋ねた。


「まあ鈴木先輩さえ支配下に置けたら後は自分達だけ脱出して術を発動させて、紅鏡の他の人間の魂も回収させて全部自分の支配下に置く事を選ぶかもしれないですけどね」

佐倉は呆れた様な諦めた様な表情でため息を付いた。


要するに紅鏡を支配する組織の構成員を支配する咲耶を支配すれば全てを支配することになる。

ということだろうか。もはやなぞなぞの様だ。


「でも、町全体に結界を施したり町丸ごと吹っ飛ばす様な魔術を展開したりなんて他の紅鏡の人間が黙って無いんじゃないですか?」

柿芝が不審そうな顔で尋ねる。


佐倉はそれを物ともせずに答える。

「だから結界張った後はすぐに紅鏡の人間を片っ端から狩って行くの。

万里さん側に加勢されてもめんどうだし、咲耶さんにその魂を献上すればこちら側の手駒になるし。

お正月は大体この辺の家は本家の家に分家も含めて皆で集まって正月を祝うことが多いから、見つけ出すのは楽だと思うわ。

後は紅鏡に属して無くても結界に気付いた人間も狩っていくべきだと思うの。

結界の精神干渉に対する抵抗力を持っているということだから、騒がれても厄介でしょう?」


佐倉は昨日まで咲耶に取り込まれることに対して警戒感を持っていたり、紅鏡に属しているかそうでないかに関わらず関係ない人間は巻き込まない様にと考えていたはずだ。

なのに今は当たり前のように咲耶に取り込まれたことを受け入れ、更にそれを関係の無い人間にも強要しようとしている。

コレは今の状況から判断して佐倉が自主的にそうしたのか、それとも・・・




時刻が十二時を指し日付が変わろうとしていた頃、急に頭上から圧迫感のような、何かが迫ってくる様な感覚に襲われた。

どうやら佐倉達が工房を一通り潰し終え、次の段階に移った様だ。


この魔術は展開から発動まで三十分近くかかるらしいが威力は絶大で、その威力の強力さと範囲の広さから金の決定で禁術指定を受けたらしい。

万里さんなら町の上空に展開された魔法陣を見ればこの魔術がなんなのかすぐに解るはずなのだそうだ。


この魔術も町全体を覆う結界も、見鬼で無い人間には何も視えず、感じられないそうだが紅鏡に関係なくても感覚の鋭い人間なら違和感を覚える。

だからこそ騒がれる前に取り込んでおくべきだと佐倉は言っていた。


全ての工房を潰し終わり咲耶に魂を届けられた魂の量は籠目教の人間を取り込んだ時の比ではなかった。

そしてその魂質も高いものが多いらしく、それらを取り込んだ直後咲耶は酔っ払いの様に焦点の合わない目でゲラゲラと笑いだしていたたが、それも落ち着き現在咲耶は工房の床に佐倉が用意した魔法陣の描かれたシートを敷いてその上にソファを出して毛布を被って横たわっている。


佐倉は今日一日で大量の魂を取り込んで少し自分の中のバランスが崩れてしまったのかもしれないが、しばらくすれば元に戻るだろうと言っていた。


満足そうな顔で眠る咲耶に、そろそろ万里さんが来るかもしれないと声をかけて起こそうとした時、目の前の光景に少し違和感を覚えた。

さっきと何か違うような。


注意深く違和感の正体を探って、ようやくそれに気付いた。

俺達と同年代位の女の子が咲耶の寝ているソファの下に敷かれた魔法陣が書かれたシートに液体をまいている。

所持している色の付いたポリタンクや匂いからしてガソリンだろうか。


気付けば普通にそこにいるのについさっきまで全くその存在に気付かなかった。

多分極端に存在感を失くす魔術か何かだろう。

俺は女の子に気付いていないフリをして近づくと、念動力で首をねじ切ってその魂を食らって回収した。


途端に先程まで微かにしか感じなかったガソリンの臭いが室内に充満した。

臭いが鼻を突いて気分が悪くなるレベルだ。

一応この工房には誰か入ると空気が震えてすぐ解るようになているはずなのだが、それさえも気付かなかったということか。


ということは自分の認識している物を無視させる様な物なのかと考えていると、目の前に淡く光る小さな赤い光の球が目の前を通った。

それが何のためにこの場に現れたのか、気付くのとほぼ同時にそれは小さく火花を散らして消え、俺達足元のガゾリンに引火し、朱里さんの工房は爆発・炎上した。



怪我自体は何てこと無い。この程度の火傷は俺と咲耶ならすぐに治る。

工房への入り口から朱里さんの部屋の窓にかけて空気の通り道が出来たのか外からの冷たい風が吹き込んでくる。

おかげで工房内の物もよく燃えていた。


咲耶の下にあった干渉を遮る魔法陣を書いたシートも燃えてしまったが、佐倉の提案で咲耶の力を使ってシートの下の床だけコンクリートに変えシートと同じ魔法陣を彫っていたお陰で万里さんからの干渉は防げている。


「娘の工房にいきなりガソリン撒いて放火かよ」

体を起こしながらそう呟けば、

「よその家の新年会でいきなり殺戮を始める人間がそれを言うのかね」

という声が背後から聞こえ、振り向けば咲耶を魔法陣の外に連れ出そうとして結界に弾き返される万里さんの姿があった。


すぐに念動力で押さえつけようとしたがその時には既にそこに万里さんの姿は無かった。

「ふむ。今朝の騒動でも思ったが、我が娘ながら結界を張らせることに関してはすばらしい技術と才能だ」

声のした方を振り向けば、表面だけ煤けた机の上に感心した様子の万里さんが立っていた。


もう一度念動力を送ろうとしても気が付けば万里さんの姿は無く、今度はすぐ左隣で声がした。

「それだけに心底残念だ。なぜ娘は我々の崇高な目的が理解できないのか」

その声に姿を確認するよりも早く腕で振り払っても空振りするだけだった。


「なんで子供が自分の考えに手放しで賛同してくれるの前提なんだよ」

苛立ち紛れにそう言えば、今度は俺の前に現れた万里さんが大げさに両手を振った。


「親の考えに何でも手放しで賛同する子供べきなんて思って無いさ、そんなの思考停止した被支配者の発想だ。

私は娘に自分で考え、自分の意思で私達の目的に賛同して欲しいんだよ。

どうしたら娘を説得できるのか・・・」

別段困ってもいない様な調子で万里さんは肩をすくめた。


「朱里さんが自分で考えた上で賛同できないと判断したんだろ」

俺がそう答えれば、万里さんはそうだそこなんだと俺の元に詰め寄って来た。


「今まで娘が望んだものは何でも、おもちゃでも服でも研究資料や道具に素材、施設だってそれこそ金や手間を惜しまず与えてきたというのに、どうしてあの賢く素直で心優しい私の娘がこんな事をするのか!」

目の前に万里さんの顔が迫って着た所で首を刎ねようとしたが、またしてもそれは失敗に終わった。


「どう考えても他から悪い影響があったとしか考えられないんだよ。

まあそんな君達も、これからは私達が正しく導いてあげるから安心しなさい」

万里さんがそういい終わると同時に身体に妙な浮遊感を感じた。


「今外で恵瑠ちゃんが展開している魔術は以前私が考えたものでね。今この建物全体にアレの規模の小さい物を展開しているんだよ。

規模が小さい分発動までの時間も短くて済むんだ」

得意気に万里さんが笑った。


佐倉が今展開している術と同じものなら、展開時にそれなりの重力がかかるはずだが、先に俺達へ自分達の周りで起る事象を無視させる術かけて置けばそれも気付けないということか。

そして建物ごと吹っ飛ばす術で俺達が死ななくても万里さん的には今咲耶の足元にある魔法陣さえ破壊できれば良いという訳か。

先程までのおしゃべりも俺達を工房の外に出さないための時間稼ぎか。


なるほどな、と感心している間に辺りは光に包まれ朱里さん達が住んでいたアパートは一瞬で吹き飛んだ。


俺はしばらく待って体がある程度回復した所で瓦礫をどかして外に出た後アパートの周りで先程の術を展開していた人間の首をねじ切った。

年はもう少し下なのだろうが、どこと無く顔が小夜に似ていた気がした。


その後、魂の回収をしていると背後から背中にに手を置かれ次の瞬間には小夜に似た顔の少女の身体がみるみる元に戻り、生き返った少女は不思議そうに辺りを見回した。

「コレでもう魔法陣から出てもばっちりだわ!」

振り向けば爽やかな笑顔をした咲耶がいた。


万里さんの分身が工房に現れた時点でほとんど勝負は付いていたのだ。

あれ程に分身を意のままに操れるということは、少なくともその持ち主はそれなりに分身に意識を傾けているはずだ。

その分身の魂に干渉すれば逆に干渉される恐れのある毒があったとしても、それらを遮る魔法陣の中にいれば安全である以上、そこから万里さん本来の居場所を逆探知をすることも可能だ。


そして万里さんは咲耶がそうやって見つけ出した遠方の相手に直接自分の使いを送れる事を知らない。

本人が意識を完全にこちらに傾けている間に万里さんの魂は文月に食われ、その文月を通して魂に干渉し触媒の隠し場所を見つける。

後は現地で文月に肉体を与えて実際にその触媒を見つけさせれば呪いは解けるはずだが、念のために触媒は全て燃やしてもらった。


今頃文月は万里さんの記憶を元に町中の彼の協力者を探し出し、その魂を食らい尽くすことに専念しているだろう。


「なあ咲耶、一つ提案があるんだが・・・・」

どうやら小夜の実の妹らしい朝美あさみやさっき取り込んだ女の子の生い立ちを知って静かな怒りに震える咲耶に俺はあるアイデアを授けた。




「ダメだ!父さんはお前の結婚相手は三高以外認めないぞ!そんな身長以外の条件を満たしていないヒモなんて朱里にふさわしくない!」

深冬さんの部屋で皆集まり作戦成功の祝いをしているとドアが勢いよく開いて万里さんが入ってきた。


「あ、あの!力の抑え方も解るようになってきたので、これからはもっと汞の仕事を請け負ってお金も稼ぎますし、学歴が気になるのでしたらこれから大検の勉強して大学にも・・・」

勢いよく立ち上がって緊張した様子で万里さんに向かう深冬さんの顔に今はもうサングラスは無い。



深冬さんがしどろもどろになりながらも話していると、朱里さんも立ち上がって万里さんに言い返した。

「いつの時代の話ばしよっとねお父さん!

学歴なんか高い収入を得るためのものやけん、別に稼げれば無理に行く必要はなかし、深冬の力があれば実力主義の汞ですぐに出世できるわ!」


「朱里さん・・・・!」

朱里さんのその言葉に深冬さんが感激していると更に朱里さんは言葉を続けた。


「そいに、深冬とはそがんことじゃないから!」

えっ、と深冬さんが驚いて朱里さんの方を見る。


「何だそうだったのか、朱里に会いに来たら隣の部屋にいるなんて書置きがあるし、隣の部屋に来たらいきなりプロポーズなんてされてたからてっきり・・・」

そして万里さんも二人の様子を見て朱里さんが全く深冬さんを相手にしていないことを悟ると安心した様に一気にトーンダウンした。


「あいは深冬がいつも言うとるネタだから!」

「朱里さん・・・・・」

少し怒った様に朱里さんが言えば、それと反比例する様に深冬さんが萎れていった。




咲耶はあの後紅鏡に属する全員の魂を取り込んだ。

あらゆる魔術と紅鏡の事情にに精通する佐倉が加わった今、紅鏡において咲耶の敵となる人間はいなかった。


県外にいたりする人間もあったが、親しい人間を通じて干渉し、それを伝って文月が現地に現れ、彼等の魂を食らってまた咲耶の元へ戻る。ということを繰り返せば案外簡単に出来た。

咲耶がその気になればいくらでも文月に新しい能力を付与できることも大きかった。


万里さん達が話す崇高な目的とは確かに人を神人に進化させることではあったが、その本当の目的はその神人達を完全に自分達の支配化に置き、その力を自分の物とすることにあった。


「いくら自分が修行を続けても研究を進めても自分自身は神人にはなりえないと悟った絶望と嫉妬がこいつ等を駆り立てたんだろう」

万里さんの魂を直接食らった文月はそう言っていた。


実際その計画の内容は狂っているとしか言えない様な物だった。

支配すべき神人を作るにしても神人となるにはそれなりに生まれ持った条件が必要だ。


強い力を持った血統は紅鏡内にはいくらでもある。

精神は精神干渉を駆使していくらでも都合の良い様に操作して人為的に作れる。

高い魂は召喚術の応用で新生児の身体に入れることが出来る。


だから強い力を持った血統系の夫婦の子供の身体に強い力を持った魂を呼び出し、閉じ込め、その親も含めて洗脳する。

しかし完全に洗脳してしまうとある一定以上の力は使えるようにならず、洗脳を解くと新しく得た力を持って反撃してきたりと苦労はあった様だが、それら全ての対処は無機質で事務的だったとも佐倉は語っていた。


「親の考えに何でも手放しで賛同する子供べきなんて思って無いさ、そんなの思考停止した被支配者の発想だ」


万里さんは朱里さんのことを思ってそう言っていたが、結局それ以外の人間はみな万里さんにとって支配するための存在であり、実験動物と変わらなかったのだろう。


自分達よりも優れた力を持つ物を支配することで自分がより優れた存在であるとでも思いたかったのだろうか。


それにしてもおかしいと咲耶は首を捻る。主犯は万里さん一人だとして、どうやって万里さんは強い力を持つ血統系の人間を簡単に洗脳できたのだろうと。

それなりに強い力を持った人間なら霊的な洗脳に対する耐性も強いはずで、それをも押しのけて洗脳してしまう程強い術や方法を編み出したのかと思ったがそんな様子も無いと。


咲耶は万里さんと侑子さんを含む、ラジエルの降臨と人間の神人化の支配を企てていた人間の記憶を改ざん、研究資料は全て処分し、全員ただの子煩悩な親馬鹿に仕立て上げた。

結果が先程の万里さんだ。


最初、俺は半ば人体実験の様なつもりで万里さん達の記憶等を好きに操作してどう干渉すればどのような影響が出るのか徹底的に試してみるといいと話したのだが、その結果は随分と平和的な物だった。


しかし、佐倉から妙な話も聞いた。

干渉を繰り返すうちに魂が変質すると言うのは十分にありえることだが、それはあくまで思想や思考の変化であって、俺達が言う不自然な興味の欠落というのはありえないと言っていた。


そんなことが実際にあるのか佐倉に問わると、俺も咲耶もなんでそんな心配をしていたのかわからず首を傾げた。


その後紅鏡では表面上は前と変わらないままだ。

金のメンバーもそのままで、佐倉に今なら全員咲耶の干渉下にあるから満場一致で金には入れるのではないかと問えば、金の人間が全員咲耶の干渉下にあるのならもう自分がそこに入って意見する必要もないと首を振った。


元旦に壊して回った町も殺された人達も全て元通りにし、話もひと段落して俺達が埼玉に戻ったのは一月三日の夕方だった。

どういう訳かすっかり咲耶に懐いた佐倉も付いてきた。


佐倉はもう無理にこっちに来る必要も無いんじゃないか?と問えば、

「紅鏡のことはこれでもう安心ですし、もう向こうにいる必要も無いんです。

それなら咲耶さんがいるこっちでもいいじゃないですか」

と言われた。


修司はなぜか爽やかな笑顔で

「それなら仕方ないね」

と笑っていた。


柿芝は終始思いつめたような顔をしていた。


空港から電車を乗り継ぎ、各自の帰路に着いたとき、俺の家の前で柿芝と二人になった別れ際、柿芝にずっと顔色悪いけどどうかしたのかと問えば、柿芝は深刻そうな顔を上げて真っ直ぐ俺の目を見た。


「高尾先輩は、咲耶さんが町も人も全て元通りに戻したのに、鞠亜さんだけ死んだままになっている事について何も思わないんですか?」

そう言われて俺は首を傾げた。


「鞠亜って誰だ?」

次回更新予定は6/13です。

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