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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
禊編
54/71

#51 献上と恩寵

「最初に私から皆さんへお願いがあります」

籠目教本部にいた籠目教、鬼灯の人間を全員集めた大広間で神妙な面持ちをした咲耶が話しだした。

無事に禊の儀が終わったこともあり、皆、少し緊張が解けてくだけた雰囲気の中でのことだった。


「皆さんの血統系の力は私が回収させてもらいました。これからはどうかそんな力のことは忘れて普通に暮らしていってはくれませんか?」


咲耶が発した言葉にその場は騒然となった。


実際に力を使おうと試した人もいたらしく、本当に力が使えなくなっていると解るとより動揺が広がったが、それでもパニックにまでならなかったのは既に咲耶が実験で新たに力の付与も出来ると証明していたからだろう。


「なぜそんなことをおっしゃるのですか?理由を聞かせてください」

誰ががそう言うと皆もそれに続くように咲耶に言い募った。


「このままでは皆さんを酷く危険に晒してしまうからです。禊の儀を通して私は思い出しました。姫巫女の真の存在理由を」


咲耶が深刻な面持ちでそう告げれば、さっきまで騒がしかった場が急に静まり、咲耶の言葉の続きを待っている様だった。


「姫巫女とは、暁津比売の血を引く人間の身体を使って封印された暁津比売の魂を現世に呼び戻す儀式によって生まれる存在で・・・その最終目標は暁津比売を地上に完全に復活させることにあります」


集まった人、一人ずつに語りかけるようにゆっくりと咲耶は言葉を選ぶ。


「そしてそのかつての暁津比売の魂を全て集め、暁津比売の復活の器になるために生まれたのが直系の姫巫女、つまり私です」


咲耶がそこまで言うとその場は色めきだったが、咲耶は更に言葉を続けた。

「ただし、その暁津比売の復活の器となるべくして生まれた姫巫女は私だけではありません。

ここでは便宜的に別系統の姫巫女と呼びましょうか。

彼女達もまた暁津比売の血を引き、その魂を代々に渡りその身に宿し、集めてきました。

そして、現在暁津比売の魂の多くは封印を解かれ、それぞれ別系統の姫巫女達の肉体に宿っています」


「それの、何が問題なのよ?」

先ほどから咲耶の目の前で話を聞いていた輝美さんが訝しげに尋ねた。


「暁津比売は元々一人なのよ。そしてその魂はバラバラに切り裂かれて封印された。

この中にも私達と同じ様な顔をした姫巫女の様な存在がいたコミュニティから移籍されて来たた方もいらっしゃると聞きます。

恐らくは彼女達こそ、私達籠目教とは別系統の姫巫女だったのでしょう。

そして、彼女達はどうなりましたか?」


咲耶が中村さんの方を見て問いかければ、全く別の方向に座っていた一人の中年の男の人が声を搾り出すように答えた。

「ある日、突然失踪しました・・・」

その言葉に共鳴するように中村さんを含めたその場にいた半数近くの人間が悔しげな顔をした。


「この籠目教が出来る元となった姫巫女の竹さんも失踪していますが、恐らく姫巫女の持つ暁津比売の魂を回収しようとする方々に殺害されたのだと思います」

「何でそんなことが言い切れるのよ」

すかさず輝美さんが咲耶の言葉に口を挟んだ。


「私も前に生まれた時、身内に売られてその団体に引き渡されそうになったからよ。

もっとも、その団体も気付いたら籠目教に吸収されてたみたいだけど」

咲耶が中村さんの方を見て自嘲気味に笑った。


以前から咲耶は中村さんの顔立ちやその能力に既視感を覚え警戒していたようだったが、中村さんの魂を完全に取り込んだ今、中村さんの家が属していたコミュニティも姫巫女が失踪し、既に消滅している事を知り、その警戒も解けた様だった。


「もしかしたらお母さんや清實さんも心当たりがあるんじゃないかしら。

だって竹さん以降の籠目教の姫巫女は皆、御龍神社の御神体の岩に封印された暁津比売の魂ではなく、地上をさまよっていた元別系統の姫巫女の魂なのだから」

咲耶の言葉に室内はざわついた。


「それは一体、どういうことですか?」

比較的前のほうに座っていた一人の老人が尋ねた。


「本来瀧澤家に伝わる姫巫女の魂は御龍神社のご神体だった岩に封印された魂で、それは竹の代で全て回収され、御龍神社における暁津比売真の復活の器は既に完成していたんです。

そしてそこから姫巫女が暁津比売になるためには、他の別系統の姫巫女達を殺害し、その魂を取り込んでいく必要があるのです」


「つまり、姫巫女を殺すのは別系統の姫巫女であり、暁津比売の真の器になる姫巫女はその使命を帯びているという事ですか?」

ざわついた室内で、奥の方に座っていた中年の男性が手を上げて立ち上がり、咲耶に質問した。


「そうなります。しかし、当然そんなことを進んでしようとする姫巫女はほとんどいません。

龍神の魂を持つ龍太の話では、当事、竹さんもその使命を放棄して御龍神社の姫巫女として生きていく事を選択しました。

龍神も竹さんのその意思を尊重しました。ところがその結果があの惨事です」


そこまで咲耶が言い切った所で、近くに座ってた小学生位の女の子のが

「”あのさんじ”ってなんですか?」

と、咲耶に尋ねた。


「竹さんの実家だった御龍神社は焼け落ち、竹さんは失踪しました。

竹さんが失踪した日の朝、龍神は竹さんから彼女の兄である大吉さんを守るよう強く求められその要求を呑みました。恐らくそれが被害を最小限に抑える方法だったからです。

神社には彼女一人となり、彼女は失踪しましたがおかげで彼女以外の人的被害は一切無く、今まで瀧澤家が集めてきた暁津比売の魂を持つ龍神を逃がし、瀧澤家の血筋も守ることができました」


静まり返った室内を見渡しながら更に咲耶は言葉を加えた。

「しかし、姫巫女を殺すのが別系統の姫巫女だけとは限りません」


「どういうことですか?」

今度は最前列に座っていた大学生位の青年が咲耶に尋ねた。


「それは俺から説明します」

俺が咲耶の横から口を挟めば、皆の視線は一気に咲耶から隣にいる俺に移った。


「暁津比売はかつて彼女を疎ましく思う者達によりその魂を切り刻まれ封印されました。そしてその者達は現在もその影響力を残しています」


気のせいか、俺を見る周りの視線が痛い。


「清實さんから聞いたのですが、現在は枢魔派(すうまは)と呼ぶそうですね。

表向き今の世界の秩序を守り、平和を愛する霊的コミュニティの大まかな方向性を示すものだそうですが、彼等が守ろうとしているのは自分達だけが呪術を独占し、暁津比売を含む自分達以外力を封じた世界です。

俺から言わせればそれこそ欺瞞であり、暁津比売が世界を治める世界こそ真にあるべき世界の姿なのです。

そしてなにより俺はもうみすみす姫巫女が奴等に攫われてその魂が封印されるのを見逃すことなんてできない」


そう俺が宣言すれば、一部の人間からそうだそうだと歓声が上がった。

先程別系統の姫巫女の話で悔しそうな顔をしていた連中だった。


「そして私ももう差し迫った現実に目を背けるわけには行かないのです」

咲耶がそう言うと、厘さんが鶏の入ったケージを持って部屋に入ってきた。

「見てください」

咲耶が立ち上がって鶏の入ったケージに手をかざした瞬間、鶏が一瞬にして肉片に変わった。


一部から小さな悲鳴も上がったが、咲耶はかまわず話を続けた。

「念動力で体中に色んな方向の力を加えて引きちぎりました。皆さんに見ていただきたいのはこの後です」

咲耶がそう告げて再びケージに手をかざすと、引きちぎられて飛び散った肉片が一瞬で元の鶏に戻り生き生きと動き出した。


「肉体を再生して、魂を一度私が取り込んだ後操作して元通りに戻せば表向きはこの様に生き返ったように見えます。しかし、この鶏の魂はもう私の一部になってしまっているので、私がこの世に生きている限り、その魂はこの世に固定され死んでも成仏することは無く、私の物であり続けます」

そこまで言い終わった後、急に咲耶は崩れ落ちるように座り込み嗚咽を漏らした。


「ごめんなさい・・・!

私は皆さんをこの鶏と同じ様にしてしまったんです。

禊の儀の最中に力が暴走して、気が付けば既に皆さんを・・・・私に出来たのは今の様に皆さんを表向き元と同じように生き返らせただけで、もし今後私が他の姫巫女や枢魔派の人間に殺され魂を奪われることがあれば、私だけでなく皆さんの魂まで所有権を奪われて取り込まれ、ただのエネルギーとして燃料の様に燃やされてしまうかもしれません」


部屋の中に咲耶の涙声だけが響いた。


「だから、私は他の姫巫女にも枢魔派の人にもこの魂を奪われる訳にはいかないのです。

そのためにはもう他の姫巫女の魂を全て集め、暁津比売としての力を取り戻して他の誰も手を出せなくなる力を持たなければなりません。

道は険しいでしょうが、今は龍神の魂を持つ龍太もいてくれますし、龍太と共に暴走する私を正気に戻してくれた悠人君もそれに協力してくれると言ってくれました」


咲耶は自分の両隣にいる俺と柿芝を交互に見ながら涙ながらに訴えた。


「皆さんの魂は何としても守り通すつもりですが、今のまま皆さんが血統系の力を持っていれば、私だけでなく皆さんまで目を付けられて今の生活も壊されてしまうかもしれません。

皆さんだけでなくその親戚や友人等、親しい人にまでその被害が及ぶかもしれません。

私は皆さんの肉体だけなら再生できますが、それ以外の人達までは魂を取り込んでいないので蘇らせる事は出来ません。

皆さん自身の生活や皆さんの大切な人を守るためにもどうか異能の力を捨て、普通の生活を送っては貰えないでしょうか」


辺りは静まり返ったが、先ほど咲耶に質問したの学生と思われる青年が立ち上がった。

「そんなのは、勝手です。

俺も咲耶様が他の姫巫女の魂を集めるのを手伝います。俺は少しですが未来予知が出来ました!

もしまた咲耶様からその力を貰えるのなら、咲耶様に降りかかるあらゆる脅威を事前に予知してその回避に全力を尽くします!」


青年に続く様に今度は咲耶の目の前にいた厘さんが口を開いた。

「私も、同じ様に咲耶ちゃんに協力したいわ!私の持っていた力じゃ役に立たないかもしれないけれど、この前楓にくれたような力をくれれば咲耶ちゃんを守れるわ!」


そして更にそれに続く様にその場にいた籠目教の人間が我も我もと立ち上がった。


「・・・・・いいの?本当に私に協力してくれる・・・?」

咲耶が涙を浮かべて籠目教の面々にそう問えば、もちろん、当たり前だという声があちこちで木霊した。


「皆さん、ありがとう」


少し腫れた目で咲耶が微笑めば、部屋の中に籠目教の人間の地響きのような雄たけびが響き渡った。

その後は皆それぞれ自分の望む能力を咲耶に申告し、順番に一人づつ力が与えられた。

ただし親御さん方からの強い要望もあり、十歳以下の子供達は満十一歳になってから力を与えられることになった。


鬼灯の面々はその様子を終始苦々しそうな顔で見ていた。


鬼灯の人間も咲耶に力を奪われたらしく、咲耶が皆に新しく力を与えていた時も一貫して自分達の元の力を返してくれるように言っていた。

咲耶はその求めに応じ、鬼灯の人間にも力を与えた。


この場合返したというのが正しいのだろうが。


咲耶の演説と能力の付与式は夕方まで続き、全員に異能の力が行き渡った所でお開きとなった。

柿芝はその後鬼灯の面々に連行され、俺も咲耶と咲耶が昼頃まで寝かされていた部屋に引っ込んだ。




「恐ろしい位に台本通りの反応だったな」

部屋に戻り結界を張った後、俺は咲耶に話しかけた。

咲耶に新しく肉体を作り直してもらってからというもの、前よりも随分楽に力が使える様になった。

「まあそうなるように皆の記憶を覗いて確認を取ったり、それに合わせた演出で反応を誘導した部分もあったしね。流石に鬼灯の人達は全く引っかからなかったけど」


「というか、魂が完全に咲耶の物になってるんなら、こんな回りくどいやり方しないでも、鬼灯の人間もひっくるめて強引に干渉すればよかったんじゃないのか?」


そう、今回の演説で咲耶は一切の精神干渉を行っていない。


籠目教の人間の記憶に合わせて演説の内容を考えたり、演出のために厘さんの家から家畜の鶏を借りる手筈を整えたり等の準備もしていたが、精神干渉して皆を従わせるのならそれらの準備は全て必要なかったはずだ。


俺はそれが不思議でならなかった


「そんなことしたら、最悪その人の人格その物が書き換えられてしまうこともあるのよ。ただ干渉しているだけならいざ知らず、完全に私が魂を所有してる分、書き換えを消し去られることは無いけれど、無茶な干渉はその魂その物を変質させてしまうのよ」

急に咲耶の顔色が曇った。


「魂が変質すると、具体的にどうなるんだ?」

俺が尋ねれば、咲耶が苦々しげに口を開いた。

「元の人が持っていた思考も感情も全て私が上書きした記号的な物に置き換わってしまって、きっと最終的にはその魂の存在その物が損なわれてしまうわ。

そして私がそれを再生しようとしても、それは私から見たその人らしい反応であって、その人本人の物ではなくなるのよ」


「やけに詳しく語るんだな。人の魂を取り込んで蘇らせるのは初めてじゃなかったのか?」

「取り込んで蘇らせてはいないけれど、今鞠亜の魂が極めてそれに近い状態に陥っているのよ」

咲耶のその言葉に、ようやく俺は合点が行った。


「・・・・詳しく聞いても良いか?」

そう問えば、咲耶はしばらく黙った後、静かに話し出した。


「前に話したでしょ?鞠亜の魂に深く干渉して操作できるって。

最初はただ私や龍太への悪霊の被害を逸らしたり、悪霊を呼び寄せる原因が魂にあるならそれをどうにかすれば良くなるんじゃないか。

それに鞠亜の魂が持つエネルギーは膨大だから上手く利用できないか、なんて思ってた。

だけど、健さんやお母さんが鞠亜に施してた封印以外にも鞠亜には色んな暗示や魂の操作がされてたみたいで、私が何かする度に鞠亜が少しづつおかしくなっていった。それを修正しようとすると更にどんどんおかしくなっていった」


腕を抱えてか細い声で話し出す咲耶に、これはただ事じゃないと感じた。

「鞠亜がおかしくなっていったって言うのは、具体的にどんな風におかしくなってったんだ?」


「いつの間にか欠落したようにあることに対する興味を全く持たないというか、事態の認識と感情が繋がっていないというか、反応が不自然と思えることが多々出てきたの。

例えば、龍太の中身や籠目教のこと、それから鞠亜の家のこととかを説明した時、鞠亜は状況は理解しているのに随分とおっとりした反応だったでしょう?」


そう言われて俺はゾクリとした。確かにその通りだ。

前に咲耶が鞠亜の目の前で柿芝に刺された時、鞠亜はどんな反応をしていた?

確か咲耶を刺した柿芝を咎めるでもなく、切られたことによって露になった咲耶の肌を俺が見ていたことに対してムッとしていた様だった。


「・・・・・・まあ、俺もそれに心当たりが無い訳じゃない」


そこまで深刻な状態になっていたのは知らなかったが。

しかし、清實さんから聞いた佐倉家が鞠亜と修司に行っていた思考の操作等のことを考えると、それが咲耶からの干渉と合わさって何か鞠亜の自身に悪影響を及ぼした可能性も考えられる。


佐倉家の計画では、鞠亜は将来修司の身体を乗っ取り佐倉の婿となり、二人の間に生まれた子供が鞠亜や佐倉の魂を完全に吸収し、座天使の長であるラジエルをこの世に肉体を持って顕現させることになっていた。

そしてそのために鞠亜や修司は自らその役割を進んで果たすようにそれに合わせた感情と思考を刷り込まれていた。


「鞠亜の様子がおかしくなってきてる事に気づいた時、私はとんでもないことをしてしまったんじゃないかって、恐かった。

そんな風にちぐはぐな反応を返してくる時でも、鞠亜がいつものように笑いかけてくるのが後ろめたかった。

だから、今回恵瑠ちゃんに鞠亜の事をお願いしたのは、鞠亜の魂に何らかの操作を施したらしい佐倉家の恵瑠ちゃんなら、その操作を施した人間を呼ぶなりして何とかしてくれるかもしれないって考えもあったの」


咲耶は両手で顔を覆いながら肩を震わせて言った。

「咲耶は、鞠亜をどうしたいんだ?」


「鞠亜は私の大切な親友だもの。出来れば元に戻したいし、あの体質も何とかしてあげたい。

もし恵瑠ちゃん自身が鞠亜を守ろうとしてくれているのなら、とも考えたけど、佐倉家自体は将来的に鞠亜に死んで修司君と一体化してもらわないと困るみたいだし、最終的には鞠亜も修司君も恵瑠ちゃんも殺される予定みたいだし、今はその辺を清實さんや邦治さんが目を光らせてるといっても、やっぱり長くあそこに鞠亜を任せてはおけないわ」


そう言って顔を上げた咲耶の眼には強い意思が感じられた。


「私はもう鞠亜の魂を完全に取り込むこともできるのだから、もうあちらに頼る必要も無いわ。

恵瑠ちゃんや紅鏡の人間全員の魂を取り込んで干渉下に置けば、記憶を覗いてどんな術を鞠亜に施したのか解るだろうし、戦力的も大分安定すると思う。

それに、そうなれば三人共死ななくてもよくなるわ。

正確には殺せなくなる。だけど」


咲耶の考えはわからないでもないが、その計画は実際穴だらけだ。

「魂を完全に取り込んだ今でも鬼灯の人間を完全に掌握できていないのをもう忘れたのか?

仮に魂を取り込んだとして、そんなに上手く行くとは思えない。

それに、神人の柿芝にいたっては魂も取り込めなかっただろ」


「仮にそうなっても、恵瑠ちゃんは今の紅鏡のやり方には思うところがあるみたいだし、それを変える為に紅鏡の中で権力を握りたいみたいだから、その辺を軸に説得したい所ね。

まあ私もいきなり貴方を魂ごと私の所有物にします。絶対悪いようにはしませんとか言われても絶対に信用できないけどね」


「それで簡単に信用するような奴は色々と別の問題がありそうだけどな」


二人でため息を吐き、先は長そうだと感じた。

ただ、俺にとっては咲耶が強い目的意識を持って暁津比売の魂を集め、暁津比売を復活させる気になってくれたのは大きな前進だった。


「それよりも、今一番気になるのは悠人君だわ。鬼灯の人達と今頃何を話しているのか・・・」

私の殺害計画とか考えられてたら困るわね。と、咲耶は頬杖をついた。

「部屋には結界が張られてるとして、鬼灯の人間の視界を乗っ取るとかできないのか?」


「試してみたけど弾かれちゃうのよ。無理やりすることも出来るけどその場合さっき言ったみたいに魂の変質が起る可能性もあるし、魂を完全に取り込んだとはいえ、取り込んだ人の魂も大事にしたいのよ。

どんな風に干渉したらこうなるってわからないから迂闊に手も出せないし」

鞠亜の件がある以上、咲耶としても強引な魂への干渉は憚られるのだろう。


「なら、柿芝が話に来てくれるのを待つしかないな」

煽るように咲耶に言えば、咲耶はあっさりと俺の言葉を肯定した。

「そうね。それに後で隙を見て記憶を覗き見ること位はできるかもしれないし」


「でも柿芝は、魂の記憶も改ざんできるんだよな?ならそんな感じで外部の人間が記憶を覗こうとした時に偽の記憶を見せる術を持ってて、しかも鬼灯の人間がそれを共有している可能性もあるんじゃないか?」

なんとなく口に出して、改めてその可能性に気付いてしまうと、そうとしか思えなくなってくる。

疑心暗鬼に陥っているだけかもしれないが。


ここである疑念が生まれた。

籠目教において人の内面を探れるような力は清實さんと中村さんしかもっていない。


清實さん自身の力は強力ではあるが、使い勝手が悪いのでもっぱら中村さんに頼ることになるだろう。

しかしその中村さんも以前中村さんは柿芝の魂の偽装を本人を直接視ただけでは気づけていなかった。

更に鬼灯には精神干渉の術がある。


清實さんは鬼灯に対して本人達の意思を尊重した上でお見合いの世話位ならしてもいいと言っていたが、鬼灯側としては精神干渉して意思を操作し、更に魂の偽装によりそれさえも隠蔽してしまえば籠目教側にはそれが全くわからない。

当事者の意思などあって無い様な物だろう。


鬼灯は籠目教の血統系の血を取り入れたい様だったが、こんな事がまかり通るならばこれはただの体のいい人身売買ではないだろうか。



そんなことを考えていると、外から柿芝の声が聞こえてきた。

「咲耶さん、少しお話があります」

俺は部屋の結界を解いて柿芝を部屋に入れた。


「さっき、鬼灯(うち)の人間から咲耶さんをたぶらかしてあわよくば高尾先輩から奪うよう言われました」


俺が結界を張りなおした直後、柿芝がそう切り出した。


「いや、言われたとしても、それを本人達の前で言うなよ」

思わずつっこまずにいられなかった。


「清實さんから聞いた話によると、そんなことしたらそれこそ鬼灯が丸ごと高尾先輩に潰されそうなので無理です。と断っときました」

なんだ、断ったのか。と俺が思っていると、横から咲耶があらぬことを言い出した。


「まあ、当たらずとも遠からずな感じよね」

「え、違うんですか?」

柿芝が不思議そうな顔で咲耶に聞き返したが、俺は嫌な予感しかしなかった。


「おい、やめろ・・・」

今の咲耶はこれまでの御龍神社の姫巫女達とも魂の共有することでその記憶も共有している。


「姫巫女の起こした不祥事を隠す言い訳に使われてたことも多かったけど、昔ある姫巫女が幼なじみの男に恋をして、でも結婚は出来ないって嘆いてたら、その男を龍神が殺してその魂を取り込んだのよ。これでコイツともずっと一緒にいられるだろう?って」


・・・記憶は確かにある。

あの頃は全てを解決できる唯一の方法だと思っていたんだよ・・・。


「優しいんだか残酷なんだかわかりませんね」

柿芝が呆れた顔で相槌を打つ。


「しかもそれ一回だけじゃなくて、結構な回数やってるのよ。

姫巫女の魂取り込んで解ったんだけど。

でもやっぱり姫巫女には自分を見てもらいたかったみたいで、禊の儀が済んだ辺りから人間の姿に化けて迫ったりとかも・・・」


「やめてくださいお願いします!!」


思わず咲耶の両肩を掴んでしまったが、俺のその反応が面白かったらしくニヤリと咲耶の口元が釣りあがった。


この反応は、マズイ。


「禊の儀って、本来数え年で十二歳ですよね」

そして柿芝が眉を潜めながら俺の方を見てくる。

「その位の年頃の女の子って、恋とかにあこがれ始める時期でもあるから、姫巫女の注意が他に行く前に。ってことみたいだけどね」


「そのくせ、たまに他の男に掻っ攫われそうになって、慌てて相手の魂を取り込んで龍神との同一化を計るって・・・・」


柿芝の視線が痛い。


「小さい頃は龍神の姿の方が物珍しいから受けがいいけど、ある程度成長すると姫巫女も人間の男の方がよくなるみたいね」

「なあ、そろそろやめてもいいだろう?」

ますます上機嫌になる咲耶をどう止めたものだろうか。


「焦り方的に黒歴史みたいなものなんでしょうか」

にこやかに柿芝が咲耶に燃料を投下した。


「心外だわ!どの姫巫女だって本気だったのに、というかそれ以外の選択肢をことごとく潰していったくせにそれを黒歴史扱いなんて!」

咲耶が芝居がかった口調で大げさに言った。


「お前等完全に楽しんでるだろ!」

俺がそう抗議すれば、


「あ、ばれましたか」

「ばれちゃしかたないわね」


と柿芝と咲耶がなんでもないような顔で言い放った。

なんで息ぴったりなんだよ!と思わずにはいられなかった。


「それはともかく、僕は鬼灯の他の人間よりも咲耶さんに信用されているというか、距離も近いし、今回唯一咲耶さんに魂を取り込まれていないので、咲耶さんの様子を探りつつ、上手い事行動をコントロール出来るようにがんばることになりました」

気を取り直してという様子で柿芝が俺たちのほうに向き直った。


「随分開けっ広げだな」

そう呟けば、開き直った様子で柿芝は続けた。


「どうやって取り入るか方法は任せられてるので、とりあえずありのまま話して咲耶さんの反応を見てみようかと思いまして」

心なしか柿芝は吹っ切れた様子だった。


「好きよ。悠人君のそういう躊躇の無い所」

楽しそうに咲耶が笑った。


「なのでこれからも度々行動を共にしてもらえると助かります」

邦治さん達の手前もありますし、と柿芝は続けた。

「その場合、私は悠人君からのサポートを期待してもいいのかしら?」

咲耶がそう尋ねれば、柿芝がもちろんだと頷いた。


「・・・じゃあ、明日辺りに修司君の家に鞠亜を迎えに行こうと思うから、付き合ってくれるかしら?」

咲耶は少し考えるそぶりを見せた後、柿芝に話を振った。


「いいですけど、修司って誰ですか?」

「恵瑠ちゃんのはとこで恵瑠ちゃんが下宿してる家の男の子よ。それで恵瑠ちゃんは鞠亜といとこ同士なんだけど、今鞠亜の魂の気配探ってみたらすぐ側に修司君と恵瑠ちゃんがいるし、この時間に一緒にいるってことは、泊まりの可能性も考えられるわ」

一応明日まで俺達は忌引きで学校を休むことになっているので行くとしたら夕方だろうか。


「・・・・・・なんで前回鞠亜さんを誘拐しようとした人間に鞠亜さんを預けてるんですか」

咲耶の話を聞いてようやく話の本筋を理解したらしい柿芝が呆れた様子で尋ねた。

「しょうがないわ。もう鞠亜の魂が色々とえらいことになってて雛月を取ったら鞠亜の命に関わる様な状態で、更に元々佐倉家でかけられていた暗示とか呪術とかの上に健さんやお母さんや私の術とかが複雑に影響しあってたせいでもうこっち側ではどうにも出来なかったのよ」


「それ、向こうでもどうにかできるんですか?」

「鞠亜の魂の存在自体、向こうの呪術によるものだし、実際、鞠亜の魂の気配を探ったら普通に元気みたいだし、どうにかなったみたいよ。そしてそんな鞠亜の魂を私が完全に取り込めば、その力の恩恵も受けつつ、今度こそ完璧に鞠亜を守れるわ」

咲耶が意気込んだ様子で答えた。


「つまり、鞠亜さんを殺すんですか?」

途端に柿芝の声が低くなった。

「殺すのではなく、共に生きる運命共同体になるだけよ」

ニッコリと咲耶は笑った。


「僕の様な精神干渉を得意とする訳でもない奴から簡単に思考を誘導されて罠にはめられるような人が主となった運命共同体ですか」

柿芝が静かにそう話せば、咲耶の顔からも笑顔が消えた。


「・・・図分突っかかるのね」


「僕は、人は皆自分の意思で考えて行動すべきだと思います。それでどんな結果になろうとも、物事の判断は自分ですべきだと思います」


言いながら膝の上の拳を強く握る柿芝を見ながら、コイツは過去に何者からか精神干渉でも受けて酷い目にあったのだろうかと思った。


そういえば、柿芝は千にも同じ事を言っていたような気がする。


「じゃあその人が自分の意思で考えて私の加護下に入る判断をしたら?」

咲耶がそう問えば、柿芝は少し言葉につまりながら答えた。


「・・・・それは・・・本当にその人が自分の意思で決めたのなら、その判断を尊重します」


「なら鞠亜がそれを望んだなら悠人君はその判断を尊重するのね?」

まっすぐに柿芝を見つめながら咲耶は言う。

「・・・・精神干渉は無しですよ」

そう答える柿芝の眉間には皺が寄っていた。


「わかったわ」

咲耶は柿芝のその皺を指でぐりぐりと伸ばしながら再びニッコリと笑った。




次回更新予定は5/9です。

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