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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
禊編
51/71

#48 禊の儀

咲耶が厘さん達に力を付与して倒れた後、籠目教や鬼灯の人達と咲耶が倒れた原因について話し合った。

結果、咲耶の消耗が激しいのは禊の儀がまだ済んでないからだろうという結論が出され、禊の儀が済めば咲耶は、竹と同等の力を自在に扱う事が可能になるだろうと考えられた。


その結論が出ると、その場に集まっていた籠目教の人間は途端に色めきだった。

そりゃそうだ。今まで昔話程度にしか聞かされていなかった、様々な特殊な力を持っているだけでなく、異能の力を生み出し授けてくれる姫巫女が、今自分達の目の前に現れたのだから。


その恩恵を目の当たりにして、咲耶の禊の儀を執り行うことに異を唱える人間は一人もいなかった。

咲耶の禊の儀は、昔輝美さんが禊の儀を行った籠目教の本部の離れを使って行われることになった。


本格的な禊の儀には色々と準備や手順が必要だが、禊の儀の本質的な目的は姫巫女に儀式を通して暁津比売の人生を追体験させ、その魂に宿る暁津比売の記憶を蘇らせることにある。

と言っても、それを覚えているのは禊の儀を終えた直後だけで、暁津比売を降ろす真の器と言われた竹でさえもその記憶を長く憶えていることは無かった。


ただ、その禊の儀を行うと姫巫女の力は格段に強くなる。

竹は禊の儀を行うまでは自分の力に対して懐疑的だったが、禊の儀を行って以降はその力への自覚も生まれた様に思う。

つまり、咲耶が禊の儀を行えば、力が強くなるだけではなく、自分の真の力についても気付く事になるだろう。


しかし、現状でいきなりそんなことを言われても咲耶は理解できないだろうし、何より、そのせいで力を暴走させられても困る。

咲耶の力が竹と同様に自分の思い込みに合わせて世界を変えてしまう物なら、それこそ自覚がないうちに取り返しの付かないことを無意識にしてしまうことも十分にありえる。


今までそんなことにならずに済んできたのは、ひとえに輝美さんの封印のおかげだろう。

咲耶が自力で輝美さんからの封印を破ってからも、俺にかけられた封印は健在だったし、俺が封印を破って龍神の記憶を取り戻してからも、咲耶からの干渉をある程度遮断してくれる数珠を持たせてくれていたおかげで咲耶は俺に深く干渉することが出来ず、俺から力を引き出せなかった。

結果的に咲耶は自分の本来の力を十分に発揮出来ず、今まで何とか竹の時程の大きな問題は起こさずにこれたのだろう。


もしかしたらそのせいで咲耶は雛月に力を蓄えさせようとする様になったのかもしれないが。





「何よそれ、いきなり禊の儀とか言われても訳わかんないわよ」


咲耶は布団から体を起こし、不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。

昨日の昼に倒れて丸一日眠り続け、やっと眼を覚ました咲耶を今は俺と清實さんと輝美さんが囲む形で座っている。

厘さん達と別れた後から記憶がないらしい。


「大体、禊の儀って何なのよ?」

咲耶が寝起きなのもあり、尚も不満そうに尋ねる。

「簡単に言うと姫巫女の力を完全に覚醒させて力を安定させる儀式よ。実際、私の千里眼も、禊の儀を受けた後だと今まで視えていた物がより鮮明に、広範囲になったし、視える範囲もリアルタイムの物だけだったのが過去のことまで遡って視られる様になったのよ」

清實さんが禊の儀について咲耶に説明する。


「正直、私も清實さんも禊の儀をやったときの記憶はすっぽり抜け落ちてるから何をやったのか具体的にはわからないのだけど、確か龍神と宮司役の人と一つの部屋に入って何かやるのよ。

儀式は一日で終わるし、それで今の力を使う度に激しく消耗するような事がなくなるなら安いものでしょう?」

輝美さんが清實さんの言葉に続けるように言った。


「じゃあ私の場合、龍神はいいとして、宮司役は誰がやるの?健さん?」

咲耶が俺達三人の顔を順番に見てそう尋ねれば、輝美さんが口を開いた。


「私の時の宮司役をしてくれた健太の父さんは健太に禊の儀の事を教える前に死んでしまったのよ。

だから健太は禊の儀について何も知らないけど、今まで龍神として儀式を見てきた龍ちゃんなら儀式のことも知ってるわ。

だから咲耶の場合は儀式は全部龍ちゃんがやってくれることになったわ。

儀式自体は龍ちゃん一人でもできるみたいだから」


「・・・ちょっと龍太と二人にしてくれないかしら。色々話したいことがあるの」


咲耶が少し黙った後にそう言うと、清實さんと輝美さんはわかったと言って部屋から出て行ってしまった。

部屋には俺と咲耶だけになり、沈黙が流れた。


二人が出て行ってしばらく経った後、咲耶は静かに口を開いた。

「その禊の儀は、具体的に何をするの?私は何をしなければいけないの?」


「儀式の内容は、宮司役以外の人間には知らせちゃダメなんだ。姫巫女が全くの予備知識なしで当日儀式に望むことに意味があるからな。

事前にやってもらうこととしては、儀式の前日と当日には食事を抜く。一週間前から肉類も控える。当日は雛月と文月は咲耶の魂の一部を使っている以上、必ず咲耶の中に戻して、咲耶の魂が完全に揃った状態で儀式をする。ってところだな」

俺は儀式の一週間前から当日までに咲耶に求められる事を出来るだけ簡潔に述べた。


「その魂を完全に揃えた状態でする儀式って、どれくらいかかるのよ」

そう尋ねる咲耶の声はいつもよりも低く、抑揚が無かった。


「丸一日は必要だな」

俺がそう答えれば、咲耶はまた黙った。

「・・・その魂を完全に揃える時間を、もう少し短くすることって出来ないかしら」

「肝心の儀式がほぼ丸一日使うものだから、多分無理だろうな」


咲耶が何を懸念しているのかはなんとなくわかった。

きっと雛月と長時間同化していることがしんどいのだろう。

特に今は雛月が四六時中鞠亜に付っきりで鞠亜に寄って来る悪霊を取り込み続けているので雛月も相当に力を蓄えているはずだ。

そしてかなりの力を持った雛月と長時間同化するとなると、それだけの長い間雛月と向き合うこととなるからだ。


どんなに見た目を変えても、力を蓄えて強くなり咲耶とは別の意思で動くようになっても結局、雛月は咲耶の一部であり咲耶自身が認めたがらず自分から切り離した影だ。

自分が認めたくなくて切り離した物と長時間向き合うことになるのだ。


だが、これを期に咲耶はちゃんと雛月と向き合ってみるべきだと俺は思う。

それに成長して自然に変わったのではなく、咲耶は無理に自分の中の感情や衝動を押さえつけて今のように振舞っているのだとしたら、それこそ今すぐにでも改善すべきだ。


鞠亜が咲耶を殺すとして、その原因が雛月なら、雛月が本気で咲耶を殺そうとする前に、また雛月という存在を咲耶の中に戻しまえばいい。

それに雛月だけじゃなく、それ以外にも咲耶が殺される可能性はあると清實さん達は言っている。

竹の時の様に、ある日突然尋ねて来て咲耶の命を奪っていくかもしれない。

鞠亜に寄って来る悪霊を取り込み力を蓄えた雛月を咲耶が取り込んだなら、また俺が側にいなかった時に何かあっても、文月もいることだし上手いこと撃退できるかもしれない。


そんなことを考えていると、咲耶が膝を抱えてポツリと呟いた。

「その儀式を終えたとき、私は私でいられるのかしら・・・」

「大丈夫だよ。雛月は咲耶の分身なんだろ?だったら一つになったって、元々同じ存在なんだから、それが本当の咲耶だろ」

俺はすぐに答えた。


「・・・・そう、ね。・・・説明聞いたらなんだかまた眠くなってきたわ。二度寝するから出てってくれる?」


咲耶の返事が随分と弱々しかったのでどうしたのかと思えば、あくびをしながらまた寝るからと言われ部屋を追い出された。


月曜が体育の日で休みなので、咲耶は籠目教本部にもう一泊することになったと今朝輝美さんから聞いた。

今は自重している様だが、昨日の話し合いの様子からして籠目教の人間は皆咲耶に強い関心を持っているので、咲耶帰るのは早くても月曜の夕方になるんじゃないだろうか。


俺は咲耶の様子も気になるし、籠目教の人間が咲耶にこれからどう接するのかも気になっていたが、龍神だった時と違い、今は四六時中咲耶の側にいることなんて出来ない。

清實さんや親父からも好きなだけ滞在したらいいと許しも出たので咲耶が帰るまで一緒に籠目教の本部に滞在することにはなったが、俺は咲耶との距離の取り方がわからずにいた。

龍神の頃なら自分が姫巫女の側に常にいるのは当たり前だったが、人間である今は違う。


廊下に出ると、縁側の咲耶が寝ている部屋から少し離れた位置に待っていましたとばかりに腰掛けていた中村さんと目が合った。

「やあ、咲耶ちゃんの様子はどうだった?」

中村さんはニコニコと笑みを浮かべ、随分と上機嫌だった。


「・・・随分楽しそうですね」

「理由は龍太君もわかるだろう?」


理由、というのは咲耶が竹と同様の力を持っていることがわかり、更に姫巫女の力がより強くなるとされる禊の儀を咲耶も受けることが決まったことだろうか。


「まあ、なんとなくは。俺に、何か用でしょうか?」

「うん。ちょっと二人で話したいんだ」

俺が尋ねれば、中村さんは尚も機嫌が良さそうに答えた。

「わかりました」


俺は中村さんに促され、今いる場所から少し離れた部屋に移動した。

部屋に入ると空気に妙な圧迫感があった、結界でも張っているのだろう。

つまり、これから話す内容はあまり人には聞かれたくない物、ということか。


「昨日咲耶ちゃんの魂を視るついでに龍太君の魂も視て気づいたんだけど、龍太君は、まだ完全に龍神の記憶を取り戻してないよね?」

いきなり事実を言い当てられてギクリとしたが、できるだけ平静を装って

「どうしてそう思うんです?」

と中村さんに尋ねてみる。


「竹さんより前の姫巫女の記憶がほとんど読み取れない様になってたからね。

黒は一度竹さんに他の姫巫女の記憶を全て消されて、その後その消された記憶を思い出すことも無かったし、龍神の記憶を取り戻してしばらく経っても竹さん以前の姫巫女の記憶が戻ることは無かったんだろ?大吉さんが資料を見て調べた知識はあるようだけど」

当たり前のように言い当てられ、何も言い返せなかった。

魂の記録を読む力を持つ中村さんの前では隠し事は出来ない様だ。


「安心してよ。まだ誰にも言っていないし、この部屋にも清實さんに見られないように結界が張ってある」

中村さんはニッコリと笑ってそう言ったが、その言い方が少し引っかかった。

その言い方では、中村さんは咲耶よりも、清實さんにこの話を聞かせたくないということになる。


「龍太君は、竹さんに黒と名づけられる前の自分がどんな存在だったか思い出せるかい?」

ここで嘘をついても無駄だろうと思い、俺は素直に答えた。


「・・・・・正直、ほとんど思い出せません」


「だろうね。多分龍神の存在はずっと姫巫女と共にあり、姫巫女のためにあったんだろう」

肩をすくめながら中村さんが言った。


「僕は人の魂の記憶を読み取って本人が憶えていないことまで知ることが出来るけど、どういう訳か竹さんに消された記憶は僕にも読み取れないんだ。

だけど、咲耶ちゃんだったらその記憶も思い出させることが出来ると思うんだ。

龍太君には、咲耶ちゃんの禊の儀の前に竹さんに消された記憶を思い出しておいてもらおうと思って」


中村さんのその言葉に、俺は何か不穏なものを感じた。

「それで、俺にどうしろって言うんです?」

「簡単だよ。咲耶ちゃんに竹さんからかけられた昔の姫巫女のことを思い出せなくなる呪いを解いてもらえばいいんだ。

魂の記録を視る限り、本当に記憶が抹消された訳じゃなくてただ思い出せないようにされてるだけみたいだからね。

別に龍太君が本来持っているべき記憶を思い出すだけなんだから、何も問題は無いだろう?」


確かにそうではあるが、俺はこのタイミングでそんなことを進めてくる中村さんの真意がわからなかった。

「龍神は、姫巫女が死んだらその魂を自身に取り込む。

次に同じ系統の力を持った姫巫女がいれば、それまで取り込んだ同系統の姫巫女の力を禊の儀を終えると同時に龍神から自分の力に上乗せして引き出せる様になる。

そしてどの系統にも属さずあらゆる物を自分の思い通りにしてしまう力を持った竹さんは、それまで何人も生まれてきていたはずの透視系の力が使えなかった。つまり、龍神からエネルギーは引き出せても力その物を引っ張ってくることは出来なかったと考えられる」


いつだったか、竹の噂を聞きつけてやってきた東京の学者が竹に念写や透視等といったものをやらせてみたことがある。

透視で密閉された箱の中の紙に書かれた文字を当てようとしたが、竹が答えた文字は学者が書いたものとは全く別のものだった。

しかし答え合わせに箱を開けると竹が答えたのと同じ文字が書かれた紙が入っていた。要するに竹が自分の答えに合わせて箱の中身を変えたのだ。

念写は成功したが、それもたぶん竹の思いによって現実が書き換えられた結果だろう。


学者は始めは興奮して竹の力を世間に発表すればすごいことになるぞと息巻いて頻繁に御龍神社に足を運んでいたが、竹の些細な思い違いから竹に愛車を一瞬で消されてしまい、代わりにと全く別の車をまた一瞬で出された辺りからぱったりと来なくなってしまった。

最後に竹と会った時、また来るといいながらも竹とは目を合わせようとしなかったし、挙動不審で、その声は酷く早口で振るえ、どもっていた。

そんな人間はその前も後も沢山いたので取り立てて珍しくも無かったが。


中村さんは今まで籠目教に報告されてたり保存されている資料や記録を基にした姫巫女の力についての考査を話し出した。

「つまり、竹さんは力の扱い方はわかるようになったのかもしれないが、禊の儀以降も他の姫巫女の力を引き出せるようにはなっていないと考えられる。系統が違うといわれればそれまでだけど、基本的に姫巫女は暁津比売の魂の一部を持ち生まれてくる。

要するに天候を操る姫巫女の力も未来を予知する姫巫女の力も、元はそれら全ての力を持った一柱の神の力の一部だ。

だからその姫巫女達の完成形であったはずの竹さんが、暁津比売も出来たはずの透視が出来ないなんておかしいんだよ。

何か出来ないような理由があったはずだ」


確かに、竹は暁津比売の真の器になると言われ、禊の儀直後はこれから他に封印されている暁津比売の魂も集めると言っていたのに次に目を覚ました時にはその発言その物を忘れてしまっていた。


「姫巫女は龍神が溜め込んだ過去の姫巫女の力を自分に降ろす。

だけど、その龍神に過去に魂を取り込んだ姫巫女達の記憶がないことによってそれに支障が出てるんじゃないだろうか。

正直、そんなもの無くても竹さんの力は圧倒的だったし、いくらでも応用は利く。

でも、龍神が取り込んだ姫巫女達の魂に自由にアクセスできず、使えない力があると言うのなら、それは暁津比売の完全な復活とは言えないんじゃないかな」


生き生きとした様子で語る中村さんに、俺の中の違和感は更に増した。

「どうして、そんなに暁津比売の復活にこだわるんですか?中村さんは、昔から籠目教にいた人じゃないですよね?」

そう、中村さんは昔から籠目教にいた人間じゃない。


少なくとも、竹に直接力を与えられた信者の子孫ではない。

俺は竹が耕四郎以外に他人の記憶を覗くような力を与えているのは見たことがないし、そんなことをしてはこちらの内情が筒抜けになってしまうので耕四郎がそんな力を自分以外の人間に竹が授けるのを許すはずがない。

恐らくは前に清實さんが言っていた、他のコミュニティから亡命してきた人間なのだろう。


「暁津比売をこの物質界に降臨させようとしているのは、籠目教だけじゃないんだよ。

名前もやり方も全く違うけど、僕の実家でも似た様なことをやろうとしてたんだよ。

それに、暁津比売の血を引くのは、瀧澤家だけじゃないしね」

その言葉に、俺は固まった。


「咲耶ちゃんには、実はあることに関する記憶だけが思い出せない呪いにかかっていて、それを解くには咲耶ちゃんにあることをしてもらう必要があるとでも言って適当なおまじないでもしてくれるように頼んだらいいんじゃないかな。

そうすれば必ず呪いは解けるはずだからって言ってさ。

まあ、実行するかしないかは龍太君に任せるよ」

俺が固まっているうちに中村さんはそう言い残して部屋を出て行ってしまった。


慌ててもっと詳しく話を聞こうと廊下に出たが、もう既に中村さんの姿は無かった。




籠目教本部から戻った週の水曜日、柿芝が俺の家に訪ねてきた。

前日に話したいことがあると連絡があったので、俺は柿芝をそのまま俺の部屋に案内した。


特に結界を張るでもなく俺に促されるままに勉強机の椅子に腰かけた柿芝に、

「なんだ今日は結界は張らなくていいのか?」

と聞くと、

「今回は別に誰かに聞かれたくないという訳でもないので」

そう柿芝は答えた。


「高尾先輩は、雛月がどんな存在だと考えていますか?」

茶菓子でも取りに行こうとした俺を引き止めて、柿芝は話し出した。

「どんなって、咲耶の分身だろ?咲耶から禊の儀のことでも聞いたのか?」

俺がそう尋ねれば、柿芝は小さく頷いた。


「その分身の本質は、どんな物だと思いますか?」

「・・・俺の知り合いの人は、咲耶が認めたくない自分の部分を切り離した物じゃないかって言ってたよ。

俺もそうなんじゃないかと思う」

「それは、どんな部分を切り離した物だと思いますか?」

柿芝は、一体俺から何を聞きだしたのだろうか。


「咲耶が自分の中で認めたくないものだろ。俺はそれは何でも問題にはならないと思うよ。それがどんな物でも、元は咲耶から生まれてきたものだし、それとまた一つになったって元に戻るだけで、咲耶は咲耶だ」

「雛月はただの咲耶さんの分身ではなく、既に様々な物を取り込んでるんですが、それはどうなんですか?」


「でも、別に今の所雛月に大きく変わった所はないし、それは全部雛月が押さえてるってことだろ?そして咲耶はその雛月に対して優位に立っている様だし、別に今の所は問題は無いだろう」

俺がそう答えれば、柿芝は少し怪訝そうな顔をした。


「・・・・・高尾先輩、もし咲耶さんが雛月と完全に同化したとして、その中身が雛月になってしまったら、どうしますか?」

「それのどこに問題があるんだ?雛月は咲耶の魂と精神の一部からできてるんだ。だったら本来は一つであるのが自然だし、その結果咲耶の性格が若干雛月寄りになった所で、それが本当の咲耶なんじゃないか?柿芝は知らないだろうけど、小さい頃の咲耶って雛月みたいな性格だったしな」


「・・・もういいです。話したかったことは終わったので、僕は帰ります」

柿芝は一瞬何かを言いかけた様だったが、言葉にする前にやめた様だった。


「なんだよ、せっかく来たんだからもっとゆっくりしていけよ」

帰り支度をする柿芝を軽く引き止めてみれば、

「いえ、ちょっとこれから用事があるので」

と一蹴されてしまい、柿芝は帰ってしまった。

・・・・・・・最近俺の周りでは言いたい事だけ言ってすぐどこかに言ってしまう人間が多い気がする。




その後、俺は咲耶に竹以前の姫巫女の記憶を復活させてくれるよう頼むことも無く、雛月が何か大きな問題を起こす様なことも無く季節は過ぎ、俺達は禊の儀を行う冬至の日を迎えることになった。


禊の儀では儀式を行うその前後も色々とやることがあるので、俺と咲耶は忌引きということにして学校を休むことになった。

と言っても今年の冬至は日曜日だったので、休むのは明日の月曜日だけで済んだ。


禊の儀は姫巫女が儀式を通して暁津比売の人生を追体験することに意味がある。

姫巫女には儀式の内容についての予備知識を与えず、追体験は本番の一回だけに限られる。

そうすることにより姫巫女の中でのこの体験がより印象的になるからだ。


姫巫女は儀式が終われば儀式の内容は忘れてしまうが、それでもその体験をすることにより、姫巫女の魂は俺の中のかつての姫巫女達の魂と、暁津比売の魂と強く結びつくことになる。

それが禊の犠だ。



禊の儀は始めに、姫巫女に暁津比売を降ろす事から始める。

本当は姫巫女の中の暁津比売を呼び覚ますと言った方が近いのだろうが。


まず姫巫女は宮司に暁津比売を降ろすための祝詞が書かれた紙を渡される。

ゆっくり読んでも一、二分程度で読み終わる短いものだが、それを読み終わったら最初に戻り、また読み上げる。

それを姫巫女はただひたすら繰り返す。


祝詞の内容は暁津比売を褒め称え感謝するものだが、正直祝詞自体に深い意味は無い。

禊の儀のこの祝詞は毎回その代の宮司がその時々の暁津比売に対する感謝を短い祝詞にして作る物だが、この短い祝詞を繰り返し読ませる目的は、姫巫女に単純な作業を繰り返えさせ、ある種のトランス状態に導くことが目的だからだ。


祝詞はそんなに長いものではないのでしばらく繰り返せば姫巫女は音を覚えて紙を見なくても祝詞を唱えられるようになり、紙を見る姿勢をとったまま、目の焦点は合っていない状態で延々と祝詞を上げ続ける様になる。

そして龍神はその状態の姫巫女の魂の一部を食らって取り込む。

自我をそぎ落とされた状態の姫巫女の魂は龍神の中にある今までの姫巫女達の魂と簡単に同化し、龍神と姫巫女の魂は完全に繋がった状態になる。


後は宮司が姫巫女を導きながら暁津比売の生涯をまねさせて追体験させる。


竹に記憶を消されているので俺は儀式で行う大まかな暁津比売の人生しか知らないが。

儀式の内容は大まかにはこんな感じだ。


宮司はまず短剣で自分の腕を切って杯に入れ、姫巫女にその血を与える。

姫巫女はそれを飲み干し、宮司から刀を受け取ると今度は自分で宮司の身体を切りつけ、その血を啜る。

宮司はその場に倒れて、龍神が姫巫女の身体に宿る。この場合は憑依と言った方がいいのだろうか。


その後姫巫女は宮司に真似事だが先ほどの短剣で刺され、倒れる。

龍神が姫巫女の身体から出て、龍神の中にある完全に一つになった姫巫女達の魂の一部をまた姫巫女に戻し、姫巫女が立ち上って儀式は終了する。


正直それぞれの行為がどんな場面を現しているのかはよくわからないが、姫巫女が刺された後に龍神から魂を戻されて立ち上がるというのは、暁津比売を復活させようとしてる今の状態を指しているのかもしれない。



禊の儀を行う日、俺と咲耶は籠目教や鬼灯の人間に見守れる中、禊の儀のための準備が整えられた籠目教本部の敷地内にある離れへと向かった。


今日は必要ないので、普段つけている数珠は外し、泊まっている部屋に置いてきた。


俺と咲耶は今日に備えて一週間前から肉を絶ち、昨日から食事は一切取っていない。

今まで親父から禁止されていたので人生初の断食だったが、案外人間は一日位なら何も食べなくても平気な事がわかった。

儀式の直前には身体を清めるための禊をしたが、それは普通に身体を洗うだけなので瀧に打たれたり冷水を被ることも無く、風呂で普通に身体を洗った。

少なくとも竹の代から普通にお湯で身体を洗っていたので問題は無いはずだ。


離れに入り、準備を整え、俺は咲耶の隣で楽しそうにはしゃいでいる雛月に咲耶の中に戻るように言った。

雛月を鞠亜から引き離すに当たり、咲耶g佐倉に自分の留守中に鞠亜を守ってはくれないかと提案した所、むしろこのまま雛月を鞠亜から引いてくれてもかまわない。というか、引け。と咲耶の申し出を快諾してくれたそうだ。


まあ、俺と咲耶としては鞠亜が危険な目に遭わなければそれでいいし、佐倉は佐倉で雛月がいる分今まで迂闊に鞠亜に近づけなかったのだろうから、そういう意味では利害は一致しているのだろう。


咲耶が雛月を自分の中に戻したのを確認して、俺は咲耶に祝詞が書かれた紙を渡した。

祝詞は前回輝美さんの禊の儀の時に使われていた物を俺がうろ覚えで写した物だ。

その後咲耶は俺の指示通り祝詞を読み上げ、しばらくして祝詞を読み上げる咲耶の目がぼんやりとしてきた所で俺が肉体から一旦出て咲耶の魂の一部を食らおうとした時、事件は起った。


俺が肉体から出た瞬間、咲耶は祝詞を読み上げるのをやめ、俺の首根っこを物凄い勢いで掴んだ。


「久しぶりね。時雨しぐれ


見上げれば咲耶が俺を両手で捕まえて満面の笑みを浮かべていた。


いや、こいつは咲耶じゃない。


直感的にそう思うのとほぼ同時に板の間から木の枝がするすると伸びてきて、たちまち俺を埋め込むような形で立派な木になってしまった。


床一面に様々な花が咲き誇り、甘い香りが漂った。




次回更新予定は4/18です。

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