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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
禊編
50/71

#47 実験

籠目教の本部に到着し、客間に通され茶をすすり、数珠を外して庭を眺めながらしばらく寛いでいると、何か後ろからひそひそと話し声が聞こえた。


後ろは襖になっていて奥にも部屋があるのでそこからこちらを覗いているのだろうか。

話の内容が気になって聞き耳を立ててみる。


「アレが龍神様?後姿しか見えないわね。イケメンだったりするのかしら」

「仮にイケメンでも中身はミレニアム越えで筋金入りのロリコンだろ?六歳かそこらで姫巫女様を嫁にしてたんだから」

「どんな人なのかな、でも昔気に入らない奴の家に丸ごと大雨を降らして土砂に埋めたりしたんだよね・・・」

「あれはその家の人間が姫巫女様に手を出そうとしたからなんだろ?」

「あと、姫巫女様が友達を作ろうと神社に招いたら、嫉妬してその人間達を老若男女問わず次々に殺した事もあるんでしょ?」

「ということは、もしこれから来る一番若い姫巫女様に色目を使ってるって認定されたら・・・」


「いや、そんなことしないからな?」

俺は、思わず声のする方の襖を開けてつっこまずにいられなかった。


・・・その多くの恐れられる原因になった出来事を引き起こしたのは多分姫巫女の方だ。

それだと色々問題があるので全部龍神のせいということになっているのだろうが。


「うわっ!出た!!」

「ごめんなさいごめんなさい!」

「あら、思ったよりも若いわ」


襖を開けると、そこにいたのは活発そうな小学校中学年位の男子、怯えた様子の小学校低学年位の男子、そして二十代前半と思われる健康的な印象の女の人だった。


「だから何もしないって。俺は高尾龍太。清實さんに呼ばれて来たけど、咲耶が来るまで暇だし、良かったら話し相手にでもなってくれよ」


とりあえずしゃがんで一番怯えている男の子に話しかけてみる。

しかし男の子は今にも泣きそうな顔でオロオロするだけだった。


「私は山城やましろりんって言うの。厘って呼んでね。このオロオロしてる子は西川楓かえで、隣の男の子が西川樹いつきで、楓のお兄ちゃんだよ~。私達三人が今回の姫巫女様の実験を手伝うことになってるの。よろしくね」

怯えた様子の楓の背中をさすりながら、りんさんはニコニコと自分や隣の西川兄弟を紹介してくれた。


「それじゃあお許しも出たところだし、皆で座りましょうか~」

厘さんはそう言うなり楓の手を引いて俺がさっき座っていたのと向かいの席に座った。

「ほらほら龍太君も樹も早く早く」


厘さんに促され、俺と樹も席に着く。

「早速だけど、御瀧おんかみ神社に祭られてた龍神って、龍太君で間違いないの?」

身を乗り出して興味津々と言う様子の厘さんに圧倒されながらも、そうですけど、と答えると、やっぱりそうなんだー!と嬉しそうな様子だった。


「さっき話してたけど、今日来る一番若い姫巫女様の名前は咲耶っていうの?可愛い?どんな性格?好きなものは?」

厘さんは興奮した様子で矢継ぎ早に質問をしてくる。


「はい、名前は咲耶です。見た目は、清實さんをそのまま幼くしてツインテールにした感じで、性格は・・・まあ悪い奴では無いです。好きなもの・・・トマトジュース、とか?」


「清實さんを、幼くしてツインテール・・・?絶対可愛いじゃない!それに咲耶って名前、なんだか雅で可愛らしいわ!」


なんだろう、この既視感・・・・・そうだ。咲耶の事を語る鞠亜にそっくりだ。

もしかして、姫巫女というのは籠目教においてアイドルの様な存在なのだろうか、まあ、信仰の対象という意味では間違いなくアイドルなのだろうが。


「なあ、その咲耶さんって、どんな力を持ってるんだ?大人に聞いても教えてもらえないし、でも無茶苦茶強くて将来は世界征服するってこの前おっちゃん達が言ってたんだけど、ビームとか出したり必殺技とかあるのか!?」

樹が横から目を輝かせて聞いてきた。

「もう、樹ったら、そんなのからかわれたに決まってるでしょ。でも、私もどんな力を持っているのか気になるわ」


それを受けて厘さんも乗っかってくる。

というか、その咲耶が世界征服をすることを望んでいるおっちゃん達って・・・。


「あー、ビームはわからんが、必殺技は持ってるぞ?」

「マジで!?なんて名前?」

樹の目がさらに輝いた。

「ア、無制限混沌のアンリミデッドカオススクリーム・・・」


今更ながら、自分で口に出してみると想像以上に恥ずかしかった。


しかし樹少年はお気に召したらしい。

「なんかよく解らないけどかっけー!それで怪獣をやっつけるんだな!」


「怪獣?・・・いや、強いて言うなら妖怪に近いと思うけど」

咲耶が今まで戦ってきたものを思い起こしてみる。

能面さん、こっくりさん、黒い影、蛇神・・・・・佐倉は・・・ホムンクルスとか言われてた。


うん、妖怪だな。


「それで倒した妖怪を仲間にしてバトルさせるの!?」

楓も斜め向かいの席から身を乗り出し目を輝かせながら聞いてきた。

何か、色々アニメやゲームが混じってる気もするが・・・


「あ、でも倒した奴を仲間に加えたりはしてるな」

一人?だけだが。

「そいつ強い?」


樹が尚も目を輝かせながら聞いてくる

「まあ、強いとは思う」

「じゃあ龍神様とどっちが強い?」

間髪入れずに楓が聞いてくる。


「そんなの俺・・・」

「ならその身体に入ったままやってみるか?」

聞き覚えのある声に振り向けば、咲耶と咲耶の首周りに巻きついた文月がいた。


「正直、条件によって結構変動すると思うわ。ちなみにありえないことだけど、その身体が二つあって、その肉体を使って戦えと言われたら、文月が勝つと思うわよ?逆に体なし私からの補助も無しなら龍太が勝ちそうだけど」


当たり前のように咲耶が話に割り込んできたことで、一時、部屋の中はすっかり静まり返ってしまったが、厘さんの


「姫巫女様!?」


の声の後、部屋の中は急に騒がしくなった。


その後はそれぞれ自己紹介をして、とりあえず新しく座布団を出し、咲耶を席に座らせた後、厘さん達がしばらく咲耶に群がって質問攻めにしていた。

質問が落ち着いた所で咲耶が訳がわからないという様子で俺の方を見た。

「今朝お母さんにそろそろ顔見せをしに行こうって言われて、何のことか解らないまま連れて来られて、とりあえずここで待ってる様に言われたんだけど、なんで龍太がいるのよ」


「まあ咲耶の家と俺の家は遠縁だけど一応親戚だしな。この前俺の中身見せた時に話さなかったか?」

「そこまでは聞いてないわ。龍太の中身が昔私の家の神社が祭っていた龍神だとは聞いたけど」

咲耶は少し不機嫌になり、一瞬部屋の中に沈黙が流れたが、それを破ったのは楓だった。


「咲耶さん、その首に巻いているのが仲間にした妖怪ですか?」

目を輝かせながら文月を指差す楓、そして文月が俺の方に視線を向けるのとほぼ同時に視線を逸らす俺。

「妖怪・・・・?まあ分類的にはそうだろうな。一般的には蛇神も龍神も妖怪に分類されるんだろうしな」

そう言いつつ俺の方を見てくる文月の視線が痛い。


「それじゃあ、咲耶さんが待っている間の暇つぶしと私達の自己紹介もかねて、ゲームでもしましょうか」

厘さんはそう微笑んで立ち上がると、樹と楓を自分の隣に立たせた。


「実は私達は三人共それぞれ血統系の違う異能の力を持っているのですが、それはどんな力か、推理して当ててみてください。

楓と樹は兄弟ですが、それぞれ父親と母親から別の力を受け継いでます。

咲耶さんは一人に付き三回まで質問か指示ができるから、もし解ったらその時点で答えてもいいですけど、間違えたらその時点で負けですよ。

龍太君は答えを言っちゃダメだからね!但し龍太君は一人に付き一回だけ咲耶さんにヒントを与えられます」


いきなり何を言っているのかと思ったが、要するに、これが咲耶の力を試す実験なのだろう。

恐らく全員異能の力があると言いつつ、一人か二人はそんな力を持っていなくて、咲耶が思い込みで新しく異能の力を相手に付与できるか、また、他の力を持っている人間に対して別の力を持っていると咲耶が信じた場合、その力はどうなるのか。ということを見たいのではないだろうか。


「何よ、龍太は三人の力はもう知ってるの?」

咲耶が俺の方を見た瞬間、頭の中に声が響いてきた。

『指示はこちらで出しますので今は口裏を合わせて置いてください』


どうやらこの部屋の様子はどこからか監視されていて、テレパシーで指示を出してくれる様だ。

ということは、やはりこれが咲耶の力を試すための実験なのだろう。


「実は、咲耶さんが来る前に同じ遊びをしたんですよ。ちなみに質問や指示は攻撃系・防御系・補助系・その他のどれが一番貴方の力に当てはまりますか?とか、貴方の能力を見せてくださいなんて物でも大丈夫ですよ。解りにくくしますから!」

厘さんは、ニコニコしながら咲耶に説明をした。


「なんだか面白そうだわ。ところで、敬語はやめにしませんか?堅苦しいですし」

咲耶は割と乗り気で、あっさりとゲームの参加を決めた。


「わかったわ。それじゃあ敬語は無しにして・・・まずは私が相手よ!咲耶ちゃん」

厘さんが咲耶の方へ身を乗り出した。


「それじゃあまず、厘さんの能力を見せて」

「ええ、わかったわ。それじゃあ・・・」

厘さんは縁側の方に行くと、一本の小さな小枝をみつけて持ってきた。

それと同時に、枝は見る見る成長し、葉を付けた。


「これが私の能力なんだけど、わかる?」

厘さんは成長した枝をくるくると指先で回しながら笑った。

「・・・・・植物を、成長させる?」


「残念はずれです。正解は・・・」

厘さんはさっきの枝を折り、その部分を合わせるとそこを撫でた。

すると折れた枝同士が一瞬で元の様にくっついた。

「生き物の怪我を治す力でした~人間にやるのは気が引けちゃったから枝でやったけど、なんなら人間のも見る?」


厘さんが何か刃物を持ってくると言うと、咲耶はそれを止めた

「・・・いや、いいわ。確かに引っ掛けね。植物が成長しているとしか思いつかなかったわ。治癒力を高める力で、枝が成長して見えたのは、折れた先の部分を元に戻そうとしていたのね」

咲耶が厘さんが持っている枝をまじまじと見て呟いた。

「咲耶ちゃんはもっと質問やヒントを最大限に利用していかないと~」


「むう、次よ!」

楽しそうに笑いながらに厘さんに指摘され、咲耶は少し悔しそうだった。

「じゃあ次は俺が!」

次に名乗りを上げたのは樹だった。


「じゃあ、樹君の力は攻撃系・防御系・補助系・その他のどれが一番貴方の力に当てはまる?」

どうやら今度は系統を聞いて先に情報を絞り込むつもりらしい。

「うーん、補助かその他か迷うけど、そもそも何をどう補助したらいいのかわからないし、その他かな」


しかし、樹の答えは、なんともわかりにくい物だった。

「・・・・樹君の力を見せてくれる?」

「じゃあ、俺がこの襖の先の襖に入るのをちゃんと見といてください」

樹はそう言うと俺達の目前の襖を開けて、奥の部屋に入ってしまった。


「じゃーん」

しかし次の瞬間には俺達の後ろの襖が開いて中から樹が出てきた。

「普通に考えれば、テレポートだけど・・・・」


咲耶が考える様に厘さんの方を見れば、

「一回間違えたら終わりだからね!ヒントは龍太君からどうぞ」

とニッコリ笑って俺を差した。

そして咲耶と目が合う。


「龍太、ヒント!」

咲耶にそう言われた瞬間、俺の頭の中にまた言葉が響いた。

「楓が入って行った襖の向こうは調べなくていいのか?」


咲耶はその言葉を聞くと、ハッとした様に目の前の襖を開けた。

襖の向こうにはもう一人の樹がいた。


「貴方は本物の樹君?」

「・・・はい」

咲耶はそれを聞くなり、後ろの方にいた樹の頭を軽くはたいた。


「痛い!」

それに悲鳴を上げたのは、さっきまでそこに立っていたはずの楓だった。

「幻術ね。楓君に自分の姿を被せて私達に見せていた。多分私達が反対の襖の前に立っていた樹君に集中していた時に楓君は開いている横の襖から反対の部屋に回りこみ、かつ楓君がまだそこにいると信じさせるために楓君の幻も残した。違う?」


「わぁ、大正解!」

厘さんが楽しそうに手を叩いた。

「なんだよ!結構自信あったのに!」


樹は大分悔しかったらしい。

この反応を見る限り、樹の能力は本物なのだろうか?

それともこれも演技なのか。

「じゃあ、最後は僕です」


最後の相手は楓だ。

楓は、多分小学校に上がったばかりではないだろうか、そんな子に何か作戦を考えられるのかとも思ったが、入れ知恵をする人間は周りにいくらでもいるので、特に問題は無いだろう。


「まず、貴方の力を見せて頂戴」

「わかった!」

そう言って楓は湯飲みの中に残っていたお茶を飲み干すと、その湯飲みを持って意識を集中させた。

すると、楓が出来た!と笑顔を浮かべて机の中に置いた湯飲みの中には、並々と注がれた水が入っていた。


「・・・・・これは、他所から持ってきた物ですか?」

「そうだよ~」


「逆に、この湯飲みの中の水を消すことも出来ますか」

「出来るよ~」


「まあ、なんとなくわかったけど、龍太、一応ヒント」

咲耶は、これは簡単だと言いながらも、ヒントを求めてくるのは、一回目の失敗があったからだろう。

そして同時に俺の頭の中に言葉が浮かぶ。


「テレポートじゃないぞ」

「えっ!」

なんだ違うのかと思いながら咲耶に告げれば、咲耶もそう思っていたらしく、随分間抜けな声を上げた。


「ちなみにもう一切の質問やヒントは受け付けられないのであしからず」

そして釘を刺すように厘さんが言った。


「・・・・物質化、とか?」

咲耶が自信が無さそうに答える。


「残念、正解は水分の操作でした~」

厘さんがニコニコと笑いながら宣言した。

「水を、気体、液体、固体に変化させたり移動させたり、自由に操作できるよ!」

続けて楓がさらっと話したが、なんだそのチート能力。


「何それ凄い!」

咲耶もそう思ったらしく、結構な勢いで食いついた。

「じゃあこの湯のみの中の水を凍らせる事も出来たりするのよね?見てみたいわ」


咲耶のその様子を受けて、楓が湯飲みに手をかざす。

「水を、凍らせる・・・」

楓がそう呟くと、みるみる湯飲みの中の水は凍っていった。


「こんな力があるなら、いつでもカキ氷が食べ放題ね!」

と咲耶は笑ったが、厘さんも樹も楓も、皆信じられないという顔をして絶句していた。


・・・・どうやら力の付与が成功してしまった様だ。


「咲耶~準備が整ったから行くわよ~」

そしてタイミングを見計らった様に輝美さんが現れた。


「えっ、でも私もっと三人の力見たいんだけど」

「後でまた見せてもらいなさい」

そんな会話をしながら俺達は引きずられていく咲耶を見送った。


俺が楓の方を見ると、凍った湯のみの中の水を前に腰を抜かしている楓がいた。

「ホントに、できるようになっちゃった・・・・」

その言葉が、全てを物語っていた。


「あれ、おかしいな、今朝まで出来てたのに、テレポートが出来ない!」

その横で樹が力が使えなくなっていると騒ぎ出した。

どうやら本当の力はテレポートで、幻術は他の人間がかけていたらしい。


バタリ、と樹が声を上げたのとほぼ同時に何かが倒れる音がした。

「咲耶?どうしたのよ咲耶!咲耶!」

廊下から咲耶の名前を呼ぶ輝美さんの声が聞こえてきた。




その後部屋にやってきた清實さんや他の大人の人達に聞いた話をまとめるとこうだ。

・厘さんの力は確かに治癒だが、それは植物相手に限られる。

→人間にも使える様になった。

・樹が見せた力は確かに幻術だが、本来西川家に伝わる力はテレポートで、幻術はこの部屋を監視していた他の人が見せてた。

→テレポートが使えなくなり、幻術が使える様になった。

・楓はそもそも異能の力は持っていなかった。

→自分の血統とは全く関係の無い水の操作の力を獲得。

もはや咲耶の力が竹と同じ物であるということは疑いようが無かった。


しかし、咲耶は彼等に力を与えた直後、倒れた。

命に別状は無かったようだが、全身の気をすっかり使い果たした様な状態になっていた。

結局咲耶はその日、一中眠りっぱなしだった。


「やっぱり、雛月の方に自分の本来の力を分け与え過ぎて、力の使用に何か制限が出てるんじゃないかしら」

清實さんがため息混じりに言った。

「竹は同じことをしても、ケロッとしていたというのなら、今の咲耶と竹との違いの中に、原因があるはずよね・・・」

輝美さんが腕を組みながらも落ち着かない様子で呟く。


「違いと言うのなら、決定的な違いがあるだろう。竹さんやお前さん達二人の姫巫女は禊の儀を受けているが、咲耶ちゃんはまだだ。

姫巫女の力が禊の儀以降により強くなるのなら、それが一番怪しいだろう。禊の儀を行うのは数え年で十二、つまり十一歳。

二人共その頃に禊の儀をやったと言っていただろう。咲耶ちゃんは現在十三歳、禊の儀を行わずに来てしまったことで何か問題が出てきているんじゃないか?

咲耶ちゃんは既に神人として覚醒している。力を抑えることだけに終始していればいい時期は終わったはずだ」

邦治さんは、普通に考えてそれしかないだろうと呆れたように言った。


「でも、私も輝ちゃんも、禊の儀って何をしたのか、その辺の記憶がすっぽり抜け落ちてしまっているのよ。何か準備が色々あったはずなのに。その方法は全部御瀧神社の跡継ぎにしか教えられてきていなくて、最後にそれを知っていた健ちゃんのお父さんもそれを健ちゃんに伝える前に死んでしまったし・・・」

清實さんが困ったように言う。


「今ここにいるだろう。ずっと前からその儀式を見守ってきた存在が」

邦治さんはそう言って俺の方を見た。




俺も咲耶が倒れたのは、禊の儀を行っていないせいだろうとは思った。

恐らく竹なら、今の様に自分の魂の一部を分割して雛月を作り出そうが、村人全員の精神に深く干渉して全てを支配したとしても、ケロッとしているだろうから。

実際竹はそれに近いことを何度か平気な顔をしてやってのけている。


だが、もし咲耶もそうなったとすれば、咲耶は本当にもう神と呼んでいい存在になる。

そうなったら、籠目教や鬼灯の人間は咲耶をどうするつもりなんだろうか。

また竹の様に生き神と祭り上げるのか、下手に外に出して何かされると困るので、ずっと自分達の手の届く範囲に閉じ込めて置くのだろうか。


咲耶はそれを望むのか。

そういえば、咲耶は以前、最終目標は昔の力を取り戻すことだとか、元々全ての力は自分のものだったとか、そんなことを前に言っていた気がする。


竹は、禊の儀を終えた後、後はあちこちに封印されている魂を取り戻すだけだと言っていた。

つまり、暁津比売の復活のためには真の器となりうる直系の姫巫女が禊の儀を行い、暁津比売としての記憶を取り戻し、どこかに封印されている魂を取り戻す事が必要。ということなのだろう。


大吉は、御龍神社も、姫巫女も、それにまつわる儀式も、全ては暁津比売をこの世に復活させるための、とんでもなく気の長い儀式なのではないかと考えていた。

そして、暁津比売のことを調べるにつれ、それは実はとてつもなく邪悪なものなのではないかと考えた。


俺は竹より以前の姫巫女達の記憶は無く、暁津比売がどんな存在なのかもわからない。

ただ、きっとそれは、姫巫女達に共通する容姿や性格の原型なのだろう。

そして竹に記憶を消される前の俺は、その暁津比売を復活させるために代々の姫巫女を守ってきたのだろう。


咲耶が竹と同じ存在であり、そして暁津比売が二人と同じ存在であるのなら、俺に咲耶の禊の儀を妨げる理由なんて無い。




咲耶の禊の儀は今年の冬至に行われることになった。





次回更新予定は4/11です。

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