#43 カウンター
「じゃあ痛覚遮断してる所に痛覚を上書きしちゃいますね」
佐倉はそう言って可愛らしく微笑むと、串刺しにされた咲耶の元までやってきて静かに咲耶の手を握った。
「っ・・・・!!!」
しかし、次の瞬間声にならない悲鳴を上げて膝をついたのは佐倉の方だった。
同時に咲耶を串刺しにしていた槍も消える。
「相手の精神に感覚を上書きしようと干渉するというのは、当然今みたいに相手に干渉するつもりが逆に干渉されるリスクもあるとわかった上での行為だったのよね?」
咲耶が勝ち誇ったように言った。
「・・・それとも、そんな事にも気が回らなかったのかしら?」
咲耶の相手の精神や魂に干渉するという行為はまず相手の魂と少なからず繋がる必要がある。
そのためには何が必要か?
意識の同調だ。
親しい人間同士は無意識にお互いの意識を同調させる。
それを糸口として咲耶は少しずつ相手と同調の深度を深めていき、最後には相手の魂、精神、肉体の全てに干渉できるようになる。
そしてその同調の深度によって相手に干渉できる幅も決まる。
さっきの様に幻覚を見せたりする位であれば、今の咲耶なら別段親しくなくても相手の魂の気配さえわかれば、つまり一度でも直接会えば可能だと言う。
最も痛みをや匂い等を感じさせたりとその幻覚の精度を上げるためにはより相手の魂の気配を知り、それに意識を同調させなければならないらしい。
鞠亜の様に小さい頃からずっと一緒に育ったような親しい人間になら、より深く、日常的に感覚を支配し、視える物を視えないようにしたり意識の操作も可能だそうだ。
相手の人格を否定することにも繋がるので咲耶は必要以上にはそれを操作しようとは考えていないらしいが・・・。
とはいえ、それ程になるまでにはそれなりに時間もかかるし、何より相手が柿芝の様に親しくなっても相手にある一定以上は踏み込ませない護身の法を身につけていればそれもできなくなる。
しかし、今回の様に相手が咲耶に干渉しようと咲耶の精神に同調してきた場合は別だ。
相手に精神を同調するというのは自分の方からある程度相手の方に意識を合わせるということで、それに合わせて咲耶も相手に干渉すれば、完全にお互いの意識は繋がり、その場合、相手が自分に干渉するよりも深く相手に干渉した方が主導権を握る。
これはタイミングや干渉する意識の持ち方に大きく左右される様だが、今回は上手く行った様だ。
この後、より深く干渉し、佐倉の意識を上辺だけでも変えられれば、より佐倉本人への干渉もしやすくなるし、相手方の情報も得られるだろう。
当初の計画と違い、予想外に早くこのチャンスが回ってきた。
しかしそんな俺達の思惑はあっさりと消え去った。
佐倉が、意識を上書きしている最中にあっさりと咲耶の干渉を跳ね返したのだ。
護身の法を佐倉が身につけていたのは予想通りだったが、既に結構深く干渉していたはずなのにこうも簡単に跳ね返されるとは。
「幻術しか使えない相手に私が負ける訳ないと思っていましたが、まさか精神干渉で一瞬でも主導権を取られるなんて予想外でした。まあ私も流石に鈴木先輩を舐めすぎていたと少し反省します」
服に付いた汚れを掃いながらなんでもない様に佐倉は立ち上がった。
「でもまあ、それならそれで幻術以外の方法で鈴木先輩に勝てばいいだけです」
そう宣言してこちらに向かってかざされた佐倉の右手に拳大の光が集まったかと思うと、ものすごい速さでこちらに飛んできて、咲耶のすぐ隣を掠めて10メートルほど先の民家の壁に当たり、きれいな丸い穴が開いた。
「全てを溶かす超高温な光を閉じ込めた様な物だと思って下さい。当たらなければすぐそばにいても熱さも眩しさもそんなには感じませんが、当たったらその当たったものを一瞬で溶かします」
もう一度右手にさっきと同じ球を作りながら佐倉が続ける。
「もちろん身体に当たったら触れた部分が一瞬で溶けます。一瞬なので痛みを感じる暇も無いでしょうが、残った部分は結構熱かったり痛かったりするんじゃないでしょうか。とりあえず怪我をする前に降伏してくれると嬉しいです」
「嫌よ」
咲耶が即答すると同時に佐倉の腹に日本刀が刺さった。
正確には、腹の間に刺さるようにいきなり日本刀が現れた。
「同じ手は何度も・・・」
通用しない、と言いたかったのであろう佐倉は途中で言葉をつまらせた。
大方干渉を跳ね退けようとしたのにそれができず、日本刀を消せないからだろう。
まあ、幻覚じゃなくて本当に刺さっているのだから無理も無い。
「たとえ幻でも、本人がそれを現実と認識すれば、それは現実になるのよ」
ニヤリと咲耶が笑った。どうやらこれも幻術で押し通すつもりらしい。
佐倉は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに元に戻り、小さくため息をついた。
引き抜いて捨てられた刀は、あっさりと姿をを消した。
同時にさっきまで刀が刺さっていた佐倉の服には穴が開いたが、そこには血の跡も無く、傷口らしきものも見えたが見る見る塞がっていった。
どうやらコイツも咲耶と同じく怪我を一瞬で治す術を持っているらしい。
「・・・・幻術の精度や可能性については今は置いておくとして、先輩の答えは解りました。とりあえず、一度体験してみてください」
呆れたように佐倉が光の球を放つ。
咲耶がそれを遮る様に壁を出現させれば、その壁に球と同じ大きさの穴が開いたが、光の玉は消えていた。
どうやら物に当たるとそれと一緒に消失するらしい。
「つまり、幻覚の物質化もできる・・・ということでしょうか。まあ、盾を作ったところで回り込めばいいんですけどね」
気がつけば二つの光の球が咲耶のすぐ隣に浮いており、こちらが存在に気付いた途端に光は咲耶の右膝と左足首に当たって消えた。
「っ・・・!!?」
光が激しく光って消えた後、咲耶がうつぶせに倒れていた。
見れば咲耶の右膝から下と左足首から先がなくなっている。
すぐ近くには切り離された右膝と左足の足先が転がっていたがそれと咲耶の傷口までを繋いでいた部分が消失していた。
咲耶は咄嗟に痛覚を遮断したようだが動揺したらしく冷や汗をかいていた。
続けて、先ほど作った壁が消えた。
「次は腕をもらいますね」
佐倉が背後に大量の光の球を従えながらニッコリと笑った。
勝てる気がしない。そう思った。
「咲耶、一旦引こう」
俺が咲耶に提案すると、咲耶も感じた事は同じらしく静かに頷いた。
許可がでたので、俺は咲耶の中から出て、佐倉の前に姿を現した。
佐倉が警戒して構えると同時に竜巻を起こして巻き上げた砂等で光の球を打ち消す。
やはりあの球は何かに当たるとそれと一緒に消失するらしく、それは砂等の小さなものでもいいらしい。
その隙に咲耶を乗せて飛び去る。
「この結界の規模や種類はわからないけど、これを破らない限りはここから出られないわ。鞠亜の気配も感じられないし、同じ場所に同時に何層かの結界を設けてるんだと思う。鞠亜が狙いならそっちをより深い層に入れるはず・・・」
咲耶が考えを話す間にも、透視で俺達を追跡しているのであろう佐倉からの視線を感じるし、大量の光の球が俺達を追いかけてくる。
余り高く飛んでは電柱や家にぶつけたりその辺の砂等を巻き上げて光の球を消すこともできなくなるので、必然的に高度は制限され、そのせいである程度道に沿って逃げなければいけなくなるので動きも制限される。
しかもこの結界、案外狭い。飛び回って前に通った場所に戻る感覚からして校庭も含めたウチの中学の敷地位しかないんじゃないだろうか。
まあ元々閉じ込める目的ならそれ位の方が逃げ回られる側としては追い詰めやすくていいだろう。
そんなことを考えている間にも無数の光の球が四方八方から飛んでくる。
俺達を中心に竜巻を起こしてまとめて球をかき消しながら、このままではこちらが消耗するだけだと考えていた時、視界が大きく歪んだ。
目眩等ではなく、文字通り世界が歪んだ。
一瞬何事かと気を取られて、直後我に帰り、あたりを警戒すれば辺りに光の球は無く、結界はすっかり元に戻っていた。
「今、鞠亜の気配がした!」
驚いた様に咲耶が俺に言った瞬間、俺達の頭上になにやら巨大な魔法陣の様な物が現れた。
それに気付くと同時に俺達は物凄い圧力を感じて下の公園の砂場に叩き落された。
俺が顔を上げると少し離れた場所に待っていたように立っている佐倉の姿があった。
「そろそろ実力差もはっきり解ってきたと思うんです。私はこの後も色々やることが残っているので早く負けを認めていただけるととても助かるんですが」
少しむくれたように佐倉は俺達の前に来てしゃがんだ。
幻術と光の球の次は重力の操作だろうか、この余裕そうな様子からしてまだ他にもいろんな術が使えそうだ。
「そう、それは大変ね。ところで、何であっさり私達にかけた圧を解いているのかしら?」
身体を起こして砂を掃いながら咲耶が静かに尋ねた。
「私なりの優しさですよ。それに、もしまた先輩が逃げたところですぐまた今みたいに捕まえられますし、なんだったらまた逃げてもらっても良いですよ」
佐倉はめんどくさそうに言った。
「あらそう。ところで丁度今、ちょっと面白いこと思いついたのよ。さっき光の球が沢山飛んできて竜巻起こしたとき、結界が一瞬崩れかけたわよね?おまけに鞠亜の気配もしたから、鞠亜のいる結界のより深い部分まで揺らいだことになる」
佐倉の表情が少し曇った。
言葉を続けながら咲耶は俺にゆっくりとまたがった。
右膝と左足の先はまだ消えたままの状態だ。
俺は咲耶の身体がずり落ちないよう気をつけながらゆっくりと身体を宙に浮かせた。
佐倉も警戒してか立ち上り、俺達から少し距離をとる。
「もしかしてこの結界っての中って力の飽和点みたいなものがあって、結界内の開放された力の総量がそれを超えると今の状態を保てなくなるんじゃないかなぁって思うのよね。
ちょっと試してみましょうか。
なんだったらさっきの魔法で邪魔してもいいわよ?その方が結界内の力の総量も増えるし。」
咲耶がそう言うなり俺は咲耶から力を吸い取られるような、搾り出されるような感覚に襲われた。
そしてその搾り取られた力は咲耶の右手に集まっている様に感じた。
「せっかくだし、久々にやってみましょうか」
気の集まり方と咲耶のその言葉に、俺は咲耶が何をしようとしているのかすぐにわかった。
「無制限混沌の歌( アンリミテッド カオス スクリーム)!!!」
空に向かって高く突き上げられた腕から放たれた膨大な気の塊は、咲耶の予想通りこの結界内の飽和点を超えたらしく、再び世界が大きく歪んだ。
龍神の状態になって、初めてこの技の全貌が解った気がした。
要するに腕に俺や雛月から根こそぎ気を集めて放つ、どっかのゲームやマンガ等で見たことあるような技だ。
視界が大きく揺らいだ後、何かが壊れたような気配がした。
辺りの空気や雰囲気がなんとなく前より開放的なものに変わった気がした。
しかし相変わらず周囲に人の気配は感じられず、鳥や蝉の声も全く聞こえなかった。
「・・・・・鞠亜のいる方の結界と繋げて、飽和点を上げたみたいね。鞠亜の気配がするわ」
上げていた腕を下ろしながら空を見上げて咲耶が呟いた。
「今みたいなのを元の世界で放たれて周りに影響が出る方が危ないですし、仕方ありません。それに、結界内の飽和点が上がった今、私も大技が使えるようになりましたし、もう先輩が私に勝つ術はありませんよ」
佐倉の顔は幾分か引きつっていたが、それでもまだ自分の優位は変わらないと主張したいようだった。
「つまり、この結界もやっぱり構造的にはさっきの結界と同じで、飽和点を越えるとこの結界は今度こそ全て崩れるし、新たに結界を張りなおさないで既存の結界と繋げてる所を見ると、すぐに張れる結界でもない様だし、恵瑠ちゃんは外の世界に私達の力が及ぶ事の方が私がせっかく攫った鞠亜の所に到達するより恐いのよね」
咲耶は俺の上にまたがりながらうつぶせに寝そべり、宙に浮いたままの状態で少し上の方から佐倉を見下ろす形になりながら言った。
この声色からして恐らく咲耶は挑発するようなニヤニヤした顔をして言っているのだろう。
不思議な物で、今の格好だとまるで咲耶が佐倉を追い詰めている様だ。
実際の状況は真逆なのに。
佐倉もそう感じているらしく、随分と不快そうな顔をしている。
「今度はどれ位の大きさのを放ったら飽和点に達するかしら」
咲耶の右腕に、また気が集まりだした。
更に今回は雲行きが怪しくなり、急に風が吹き荒れ始めるおまけ付きである。
最もこれは、全て咲耶の幻術によるただの演出に過ぎないのだが。
正直、咲耶はさっきの結界を壊すので結構限界に来ている。
力その物は俺の物だが、それを咲耶が現実の世界に出力するにもそれなりに消耗する。
今、佐倉を挑発するように俺の上に横たわるように乗っているのだって、実際は体を起こしているのも相当辛いからだ。
足の怪我だって治そうと思えばすぐにでも治せるのにそれをしないで痛覚の遮断と止血しかしていないのは治すだけの力を回す余裕が無いからだ。
とにかく、今はこれで少しでも時間を稼げたらいい。
その間に咲耶がこの結界内にいる鞠亜に干渉して、雛月を使ってこっちに気を取られている佐倉へのだまし討ちをすれば、勝てなくても一瞬でも佐倉に干渉して結界を解かせる位の隙は生まれるかもしれない。
一方佐倉の方は、意外にもこれに正面から向き合うつもりらしく、なにやら呪文のようなものを詠唱し始め、足元に魔法陣らしきものが浮かび上がり、身体にも何か紋章のようなものが浮かび上がっている。
さっきの様に結界が壊れるのを恐れて何も手出しをしてこないかと思ったら、むしろ向こうも一撃必殺の構えである。
よほどこの結界の耐久力に自信があるのか、もう結界が壊れるのは避けられないのでそれなら最後に一発放って勝負をつけてしまおうということなのか、恐らく後者なのだろう。
このままでは、打ち負ける事必至である。
いや、それはいい。
それよりも佐倉が攻撃を放った後、上手い事直撃を避けて結界が崩れれば隙を見て俺が鞠亜も探して咲耶と二人まとめて逃げることも可能だが、問題は佐倉からの攻撃を避け切れなかった場合だ。
あの攻撃が直撃すれば、即死もありえるのではないかとも考えられる。
最悪、結界は崩れなくても、上手く攻撃をかわして佐倉が渾身の攻撃を放った隙に干渉すれば、結界くらいは解けるかもしれない。
その前に干渉を弾かれる可能性の方がはるかに高いが。
鞠亜からのだまし討ちの成功の可能性も同じ位のものだが、そもそも、今俺が感じられる鞠亜の気配はここからだと結構離れた距離にある。
・・・・・・・もしかして、詰んだか?
そんな考えが頭をよぎった瞬間、俺達の頭上にまた魔法陣が現れた。
そして同時に魔法陣から大量の光の矢の雨が降った。
避けきれない、そう思った瞬間、光の矢が止まった。
加えて、咲耶がさっき佐倉が唱えていた呪文と似たような言葉を言った途端、光の矢は魔法陣の中に戻っていった。
さっきまでぐったりとしていた咲耶の身体はすっかり元の元気な状態に戻り、無くなった右膝や左足の先も靴や靴下と一緒にみるみる再生していった。
「もう結界も解くわね」
咲耶がそう言った次の瞬間には、辺りは普通に周りに人がいるいつもの通学路に戻っていた。
鞠亜も当たり前の様にすぐ隣にいた。
同時にバチリと音がして、周りを見回してみたが、佐倉の姿は見つからなかった。
さっきまで誰もいない町にいた、家にも帰れなくて彷徨ってたら、ついさっき突然身体に変な模様が浮いてきて何事かと思ったら消えてて元に戻っていた。
取り乱しながら今まで起った事を説明する鞠亜と、良い仕事をしたと言わんばかりの勝ち誇った顔をしている雛月に、なんとなく何が起ったのかは察しがついたが、一応咲耶に何をやったのか聞いてみることにした。
「あんなに長い呪文唱えて、何をやっていたのかと思えば、鞠亜に干渉しようとしていたみたい。結果、鞠亜と繋がってる私とも繋がる事になって、雛月を使って私と繋がってることを気付かないように精神干渉もしつつ、結界や、その後展開した光の矢の術式の情報を盗み見て、それに割り込んだり無効化したりしただけよ」
随分とご機嫌の様子で咲耶は語るが、心なしか顔が赤く見えた。
目の焦点も合っていない。
「それにしても、恵瑠ちゃんに干渉して気付いたんだけど、鞠亜の波長で干渉すると、色んな術の知識が流れ込んできてね、それを鞠亜の中の魂に当てはめて力を出力すると・・・・」
言いかけて咲耶は鞠亜に寄りかかるように倒れた。
咲耶の額を触った鞠亜が凄い熱だと慌てた。
もしかしたら佐倉に干渉したことで、何か咲耶の中で影響が起きているのかもしれない。
「雛月、文月に連絡って取れるか?今どんな状態なのか知りたい」
「咲耶を通じて意識は共有してるから、テレパシーみたいなことはできるけど・・・あ、今の所、成美君とは特に戦闘も無く雑談で済んでるみたい」
「じゃあ、今すぐ切り上げて青善寺に戻ってくるように伝えてくれ。もしかしたら佐倉がそっちに向かった可能性もあるし、そうなったらあいつ一人でどうこうできる相手じゃないし、今のところ身内で別次元に引き込むような結界を張れるのはあいつだけなんだ。
修司の様子も夏休みが終わってから少しおかしかったし、何か起こる前に離れてくれ」
『何か起こる前に離れてくれ』
これは修司や文月を案じての言葉と言うよりは、咲耶が倒れた今、咲耶を守るために少しでも咲耶の周りに戦力を集中させておきたいという気持ちの方が強かった。
俺は咲耶と鞠亜を乗せて、俺の家に向かった。
『何かあった時は青善寺に駆け込んで事態を説明する』
これは前に佐倉家や紅鏡の話を鞠亜の家でした時に決めたことだ。
もちろん鞠亜と咲耶にもそのことは説明したが、今の鞠亜の様子は咲耶を心配してはいるが、事前に説明があったとはいえ、随分と落ち着いている。
鞠亜と咲耶に今の事態の説明をした後に俺が龍神の姿を現した時にも、
「ああ、だから龍太って名前なんだね~」
で済ましていた。
もっと他に聞くことがあるだろう?
俺がなぜ龍の姿でいるのか。
鞠亜の魂のこととか。
紅鏡の話とか。
・・・。
「龍太が龍神?知ってたわよ。小さい時に自分で言ってたじゃない」
と、割としっかり昔のことを覚えていた咲耶はともかくとして、普通はもっと恐がったり悩んだりするものではないだろうか。
鞠亜は、小さい頃からの度重なる心霊体験や怪奇現象のせいでその辺の感覚がすっかり麻痺しているのか、雛月の干渉によりそういうものだと思い込んでいるだけなのか。
どちらもあまり微笑ましい理由ではない。
家に着いて玄関の戸を鞠亜が開けると、玄関にはいくつもの靴が置いてあった。
こんな時に来客だろうかと、とりあえず咲耶を俺の部屋のベッドに運び、鞠亜にここで少し待っているように告げ、下の階の客間を覗いてみることにした。
客間には、親父と輝美さんと清實さん、そして七十代位のお爺さんと、親父と同世代位の夫婦、そしてなぜか柿芝がいた。
和気藹々とした雰囲気の中で一人だけ笑顔が引きつっている柿芝と目が合ってしまったので、思わず声をかけた。
「何があったんだよ?柿芝」
「え・・・」
当たり前のように話しかけてしまったが、そういえば柿芝にはまだこの姿を見せたことは無かったことに話しかけてから気付いた。
柿芝は目の前の龍が俺だと気づいてない様だ。
その様子を見た清實さんが説明を始めた。
「龍ちゃん、私達ね、結婚することになったのよ。こちら柿芝邦治さん」
「どうも、ご紹介に預かりました悠人の父の邦治です」
清實さんに隣に座った七十代位のお爺さんを婚約者であると紹介された。
「えっ・・・」
今度は俺が絶句する番だった。
次回更新予定は3/14です。




