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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
全智のホムンクルス編
45/71

#42 ホムンクルスの作り方

学校からの帰り道、鞠亜が消えた。


それも忽然と。

それなりに人や車の交通もある一本道で片側は民家の壁、もう片側は道路だった。

ああ、きっと鞠亜を攫いにきたのだろうなと思った。


「やっぱり、文月と交代して正解だったわね」

「その言葉、今の状態だと見鬼の人間でも完全にただの独り言にしか見えないぞ」

道端で立ち止まって呟く咲耶に、俺は内側から忠告した。


今、俺は咲耶の魂の中にいる。

もっと言うなら咲耶の中の、普段文月が過ごしているスペースの様な所に隠れている。


咲耶曰く、咲耶の魂の一部を切り取って育てたのが雛月であり、蛇神の魂に咲耶の魂の一部を移植して主導権を乗っ取ったのが文月らしい。

そして文月は普段は咲耶のこの魂の中のスペースに隠れているという。


なぜそんなことをするのかといえば、そうすれば周りには咲耶の魂は普通に見え、文月等の存在も隠せるので正体を隠すには丁度良いそうだ。

少し前の俺なら何でそこで正体を隠す必要があるのかと思っただろうが、竹が殺された事を考えると今はそうしてくれた方が俺も安心できる。



「何が正解だったんですか?」

すぐ後ろで声がして、咲耶が振り向けばニコニコと笑みを浮かべた佐倉恵瑠が立っていた。

いつの間にか周囲には車も人影も消え、鳥の声も聞こえない空間に佐倉の声だけが聞こえた。

「別に。そろそろ仕掛けてくる頃じゃないかな~と思ってただけよ」

応戦するように咲耶も笑いながら答える。


実際、佐倉が仕掛けてくるのは遅かったくらいだと思う。

転校してきたその日にでも何らかのアクションを起こすかと思っていたのに、佐倉はこの一週間特に何かするわけでもなく修司のおまけと言う体で俺達によく絡んできた位だ。

その間にも例の視線を感じることはあったけど、それ以外は特に何も無く、咲耶が学校に施している仕掛けについてももう気付いているはずなのにそれについて言及されることも、その仕掛けを壊されることも無かった。


それどころかむしろ友好的にさえ接してくるのが腑に落ちなかった。


もしかしたら本当にただ仲良くなりたいだけなのかとも一瞬思ったが、例えそうだとしてもわざわざそのためだけに転校なんてしてくるだろうか。

修司とは親戚関係らしく、現在は修司の家に下宿している様だがこんな季節はずれの時期の転校、それも年頃の娘を一人で同年代の男がいる親戚に預けるなんてことを許すなんて、家庭の事情とは言っていたが、その親戚関係全体がグルになって咲耶を”狩りに来ている”可能性も感じた。




学校で初めて佐倉恵瑠本人に会った日、俺は家に帰るとすぐに親父に今日長崎から転校生が来たのだが佐倉恵瑠、もしくは佐倉と言う苗字に心当たりは無いか聞いてみた。

前に咲耶が長崎の術者に目を付けられたらしいと相談した時、長崎という地名に反応していたので何かしら心当たりがあんじゃないかと思ったからだ。


「・・・・・・つまり、その子が咲耶ちゃんに目を付けていた術者で、更に今日咲耶ちゃんの通ってる中学に転校してきたのか?」

親父は少し間を置いた後、確認するように尋ねてきた。

「その子と前に咲耶に目を付けた術者が同じかは正直わからないけど、この前咲耶といる時に誰かから視線を感じて逆探知したら女の子がいたって話しただろ?その子と転校生は同一人物だ。それは間違いない。

そしてその転校生は長崎から来た。咲耶に目を付けた術者本人かその関係者だって不思議じゃないだろ?」


俺がそう答えると、親父は大きくため息をついた。

「正直に言うと、佐倉と言う苗字にも恵瑠という名前にも心当たりはある。

というか、長崎から来て何かしらの術が使えて、苗字が佐倉といったら思い当たる家系は一つしかないし間違いないだろう」

「なんだよ、その家系って」

なんとなく、家でなく家系と言う言い方がひっかかった。


「鞠亜ちゃんのお母さんの実家で、代々魔術を扱っている家系だそうだ。ただ、そうなるとその子の目当ては多分、咲耶ちゃんじゃなくて鞠亜ちゃんだろうな」

親父はそう言うなり立ち上がり、少し天野さんの所に電話してくるとそそくさと部屋を出て行ってしまった。



しばらく電話をして戻ってくると親父は、

「これから天野さんの家で話し合いをすることになった。龍太も来なさい。そこで天野さんの家の事情も説明するから」

そうして俺と親父が鞠亜の家に向かった。




鞠亜の家に着けば、出迎えてくれたのは鞠亜の母親である倫子ともこさんではなく咲耶の母親の輝美(てるみ)さんだった。

輝美さんに案内されてリビングに通されると深刻そうな顔をした鞠亜の両親がいた。

鞠亜の姿は無く、隣の咲耶の家に遊びに行かせたと言っていた。


親父や鞠亜の両親の話をまとめると、鞠亜の父の秀明ひであきさんと倫子さんは共に血統系と呼ばれる、たまに異能の力を持った人間が生まれる家系の生まれで、更に倫子さんの家では儀式魔法や錬金術等の秘術も扱っていたそうだ。


と言っても秀明さんの家はもう何代も前にその手のことからは身を引いていたが、秀明さんはその家系の形質を強く残していたそうで、紅鏡と言う地元の術者のコミュニティを通してそれを自力でコントロールして押さえ込める様になる訓練を受けたが、それ以外は普通に過ごしていたらしい。


倫子さんの方は実家が現役だったので自宅で訓練を受けたが、魔術に対してそれ程の才能は無く、早いうちから跡取りは妹に決まっていたので、周りに迷惑をかけない程度の基礎的な力の扱い方を覚えた後は倫子さんも比較的普通の生活を送っていたそうだ。



違和感に気付いたのは倫子さんが秀明さんと結婚し、鞠亜を妊娠していた時らしい。


腹が目立ち始めたあたりから、日に日に腹の中の子供の気配が変質していくのを感じ、それと時を同じくして身の回りにやたらと怪我人が増えたり、度々ポルターガイストや電気機器の不自然な不調等の怪奇現象に見舞われた。


倫子さん曰く、あの土地でそんなことが起るのは普通はありえないそうだ。

何でも特殊な結界や術が何重にも施されていて万一誰かの異能の力が暴走しても完全に押さえ込めるようになっているという。


そして同時期に子供を身籠っていた妹の侑子さんも同じような調子だったが、そちらは最初こそ酷かったものの徐々に収まった。

一方倫子さんの方は日増しに身の回りの怪奇現象が酷くなり、実家に相談してみたものの、鞠亜が生まれるまで事態は改善しなかった様だ。


鞠亜が生まれると、今度は倫子さんではなく鞠亜のそばで怪奇現象が起こるようになり、それまでは倫子さん自身はどんなに酷い怪奇現象に見舞われてもかすり傷一つ負わなかった倫子さんも度々怪我をするようになった。


しかし鞠亜の方はまったくの無傷であり、今までの怪奇現象の原因が鞠亜であることは明らかだった。


生まれて数ヶ月も経っていない今でさえこんな状態の鞠亜を倫子さんは自分で育てて行く自信もなく、この手のことに関しては専門家である倫子さんの実家からの申し出もあり、その後倫子さんは鞠亜を佐倉家に預けた。


しかし倫子さんはそれから実の娘を手に負えないからと手放してしまったことによる喪失感と罪悪感に酷く苛まれることになった。


一方秀明さんの方はいくらか引っかかることがあり、しばらく娘の様子を見るためだとか、大変お世話になっているお礼だとか差し入れを持ってきた等と何かと理由をつけては佐倉家によく出入りするようになり、小さい頃に力のコントロールのために一緒に訓練を受けていた昔なじみや、訓練を見てくれた恩師等に手当たり次第に連絡を取り、佐倉家のことを嗅ぎ回った。



気になったのは


倫子さんと侑子さんが身籠っている時、最初侑子さんの身の回りでのみ起っていた怪奇現象がいつの間にか倫子さんの身の回りでだけ起るようになったこと。


秀明さん自身は寄り()しの家系で、先祖は心霊を自分の体に乗り移らせ宣託を託宣したりしていたらしいということ。


佐倉家は様々な秘術に通じているが、特に召喚術に秀でているらしいと言うことだった。


何より、以前酒の席で侑子さんと話した時、侑子さんがホムンクルスについて語っていたことがひっかかったらしい。

侑子さんが語るホムンクルスとは、人造の身体に何らかの精霊の魂を入れることにより、生まれながらにして人間の持たない知識を持つ存在を創ることができるというものだった。

人間にその様な精霊を降ろして話させたところで、どうしてもその人間個人の思想や意識によって考えが言語化される前に捻じ曲げられて完全に正確な情報は降ろせないと侑子さんは言った。


「だけれど人造の肉体はあまりに脆くて、培養器から出ては生きていけない。

この世の神秘全てを知っていたところでそれを体現する術を持たない。

だから、例えば霊的に優れた血統の人間の身体に秘密の領域と至高の神秘の天使の魂を召喚して、入れたら地上と天界の全ての秘密を知り尽くしたホムンクルスができるんじゃないかしら。

胎児は三ヶ月を過ぎれば人間になるけれど、二ヶ月目までは胎児に魂は宿っていないそうよ」


正直なところ、秀明さんは鞠亜が生まれた時には薄々感づいていたらしい。

つまり、侑子さんは自分の子供に天使の魂を入れてホムンクルスを作り、しかし思いの他その魂の力が強すぎて安定しないので同じ時期に妊娠していた神霊に耐性の強そうな肉体を持つ鞠亜にその魂の一部を分け、鞠亜と倫子さんを怪奇現象の身代わりにしたのではないか。ということだった。


しかし、小さい頃から侑子さんのことを知っていた秀明さんはそれを簡単には受け入れられなかった。

倫子さんと侑子さんは小さい頃から近所では有名な仲良し姉妹だったし、秀明さんも倫子さんもよく侑子さんには助けられたそうで、秀明さんは侑子さんを本当の妹の様に思っていたからだ。


だがある時気付いた。


もし鞠亜が侑子さんの娘の恵瑠ちゃんが最初に入れようとした天使の魂を身体に入れても完全に制御できるようになるまでの一時的な器であるのなら、恵瑠ちゃんが成長して、将来天使の魂を抜き取られた時、鞠亜はどうなるのか?


倫子さんが違和感に気付いたのは妊娠三ヶ月以降だったが、秘術はそれ以前から行われていた可能性があり、もし三ヶ月以前の場合、鞠亜の中には人間の魂は入っておらず、魂が恵瑠ちゃんに戻されればそれは即ち死を表す。

仮に人間の魂が先に入っていたとして、何重にも張られた結界を物ともせずあんな強烈な怪奇現象の数々を引き起こすような魂が入れられて、無事なものだろうか。


その時、何としてでも娘を守りたい、助けたいと理由も無く、しかしとても強く思った。


しかし、こんなことを真正面から佐倉家に言ったところで、一笑に付されるのが落ちだろう。

しかも、佐倉家は紅鏡というそこら一帯の異能の力を持った家系や秘術を扱う家系を取り仕切っている地域コミュニティにおいて、絶大な力を持っており、最悪親子揃って握りつぶされて終わりだ。


逃げようにも当ても無く、鞠亜を守ろうにもまず鞠亜自身を自分達の手に負える自信が無かった。

そんな時に白羽の矢が立ったのが、本州の農家に弟が婿養子として入った神田家だった・・・。


そこまで聞いて、俺はハッとした。


季節ごとによく野菜や果物を送ってきてくれる鞠亜のおじさんの家なのだが、神田家というのは毎年御龍神社に奉納していた米を作っていた家であり、竹が跡取りに天候を操る力を与えた家だ。

他の人間は竹に与えられた力により株で成功したり起業したりしてかなり潤っていたのだが、この家は最後まであの土地で龍神を奉り田畑を耕すことを選んだ家だった。


元々自分の土地を持っていたのも大きかったのだろうが。


竹が失踪して耕四郎と竹を探しに出てからは全く様子は知らなかったが、どうやらあの土地に残り続け、籠目教ともつながりを持っていたらしい。

俺が龍神だった時、力が必要な時に清實さんに耕四郎と呼び出されることはあったが、耕四郎が死んで自由になった後も、基本的には青善寺に居付き呼び出された時しか清實さんの元には行かなかった。


清實さんがこの先結婚する事を余り望めなかったのと、後何年かすれば次の姫巫女が生まれるだろうという予感があったのが理由なのだが。


実際輝美さんは耕四郎が死んだ五年後には生まれた。

・・・俺が輝美さんの元に押しかけて付きまとい、最終的に青善寺に預けられるのはもう少し後になるのだが。


籠目教の信者は御龍神社の氏子や竹を崇拝していた人間が多く、大部分は竹により異能の力を与えられていた人間や、耕四郎から異能の力を与える許可は下りなかったが、竹や竹に与えられた力の恩恵を大いに受けていた人間だった。

不思議なことに竹の失踪後、竹の崇拝者に与えられた異能の力は消失したが、その次の次の代あたりの人間からまたちらほらと竹に与えられたのと同じ異能の力を持った人間が現れだした。


その子供を無理矢理奉り上げて竹と同等の奇跡を望んだり、異能の力を持った人間と交われば交わった人間もあるいはその力を得られるのでは、とか、血で力が遺伝するのならその血をすすれば、肉を食らえば等と考え他にも色々と籠目教に入っていない、過去の竹の崇拝者の子孫も巻き込んで実際に竹を知っている世代の人間達が暴走し、あちこちでトラブルを起こした様だ。

しかしそれも清實さんが教主になってそいつらを締め上げた辺りからだんだんと大人しくなっていった。

あんまり言う事を聞かないときは清實さんが俺を呼び出して文字通り雷を落としたりした。


そんな清實さんの苦労の甲斐もあり、一時は離れた比較的まともだった元御龍神社の氏子達も籠目教に入信し、籠目教は極一部の土地に限られるが絶大な影響力を持つ宗教団体に成長した様だ。

そしてそれを支えているのはどうやら清實さんが自分の人生を投げ打って守った異能の力を持った人間達だった。

例えばほんの少し先の未来を自在に見る力があれば、株は常に大きな収益を上げられるし、人一人分の力しか出せない念動力でも、それを自分の身体の動きに乗せて使えばスポーツにおいては今迄の記録を大幅に塗り替えるような大きな結果が残せる。

そしてそんなスター選手は大きな広告塔にもなるし、色んな方面にコネクションができるらしい。


最初はその力の使い方になんだそれインチキじゃねぇかと思ったが、その異能の力もその人間個人の力であり100%自分の力を使って結果を出しているのだからこれはズルでもなんでもなく正攻法なのだと言い返されると上手い反論が思いつかなかった。

実際超能力者だ何だと言って騒がれるよりも、ある才能に秀でた普通の人間として生きていった方が得なのだろうとは俺も思うし、異能の力も言ってみれば一つの才能な訳で、それを生かそうとすることが悪とも言えない。


ただ一般的な、俺がこの十三年人間として普通に生きてきた中での感覚としてはどうなんだろうとも思う。



話は逸れたが、秀明さん達夫婦は弟の明弘あきひろさんから籠目教や御龍神社の姫巫女の話を聞き、弟夫婦の伝で紅鏡とは無関係である籠目教の千里眼の姫巫女である清實さんを頼り、その清實さんから紹介されたのが封印の姫巫女である輝美さんと、俺の親父らしい。

その後は鞠亜を連れて家族三人で生まれ逃げるように故郷を離れ、鞠亜は俺や咲耶と一緒に輝美さんに力を封印されたりそれを破ったりしながら今に至るということなのだそうだ。


「・・・つまり鞠亜はその倫子さんの実家の佐倉家の秘術か何かの巻き添えで今の祟られ体質になって、しかもそのままだと鞠亜は殺されるかもしれないと思って籠目教に助けを求めて、輝美さんのいるここまで逃げてきたけど、雛月が逆探知された弾みで鞠亜がその佐倉家の人間に見つかったってことか?」


俺がそう尋ねれば、まあ平たく言えばそうだと親父は頷いた。


「鞠亜と咲耶は二人とも今隣の家にいるけど大丈夫なのか?それにその佐倉家のホムンクルスって、前に親父達が言ってた鞠亜の片割れだろ?家だってもうバレてるかも・・・」

「そうかもね。まあでも心配ないわ。家にはガッチガチに結界張っといたし二人には家から出ないように言っておいたし。何かあったあらすぐわかるわ」

輝美さんはなんでもないようにそう言った後、だからこれからどうするか皆で話し合いましょうと俺を宥めた。



親父は前にも説明したが、と前置きして、鞠亜ちゃんは恵瑠ちゃんとその天使の力を扱うためにセットで魂を分けて作られたんじゃないかと話した。

要するに佐倉が携帯ゲーム機だとすると、鞠亜はそのバッテリーに当たるのではないかということだ。


佐倉の方は鞠亜が側にいなくても電源コードを使えば動ける範囲は限定されるが使えなくは無い。

一方バッテリーの鞠亜の方は一人だけでは全く使い道が無い。

しかし鞠亜と佐倉が揃えば、佐倉は制限無く鞠亜から自在にその膨大なエネルギーを引き出せるようになる。


そして、なぜかはわからないが一人の人間に納まらないとわかっても無理矢理にでもその天使の魂を人間の身体に押し込んだということは、魂が全てこの物質界に置かれている事がこの秘術において重要であると考えられる。

もし鞠亜ちゃんを殺してその魂を恵瑠ちゃんに入れるつもりでも、特に用意無しで鞠亜ちゃんを殺せば、その魂に逃げられたり横から攫われる危険もあるので十分な準備が整うまでは鞠亜ちゃんには直接手を出さないだろう。


まあ俺が相手の立場なら、先に鞠亜ちゃんを掻っ攫って自分のホームグラウンドで魂を移し変えようと考えるだろうがね。と親父は最後にそう締めくくった。



紅鏡と言うのは術者同士長崎の地域コミュニティの様だが、その規模を考えると籠目教の戦闘能力のある異能の力を持った人間だけでは抑えられそうもないし、現在籠目教は別件で別の団体に目を付けられている状態らしく、下手に人員を動かせないらしい。


「籠目教って、清實さんが教主になる前はホントあちこちでトラブル起こしてて、その被害に遭った人間が大体今60から70代位の歳の人が多いんだけど、異能の力を持ってるせいで籠目教に色々と被害にあってってケースがほとんどだったらしいんだけど・・・」


ああ、黒の記憶にもありましたね。と俺が相槌を打つと輝美さんは少し罰の悪そうな顔をした。


「その異能者が籠目教とのトラブルの被害に遭って、他の、例えばさっき話した術者同士のコミュニティに亡命したとして、今それ位の歳にもなると結構古株にもなるしその組織の幹部にまでなる人間もいたりするのよ」


つまりどういうことですか?と俺が尋ねると、

「つまりその組織で出世した人間がひょんなことから籠目教がまだ存在していることに気付くと、過去の忌まわしい記憶が蘇って問答無用で籠目教ウチを潰しに来たりするのよ」

輝美さんはため息混じりに言った。


「まあ、清實さんはむしろ他のコミュニティとの接触の機会と捕らえてるみたいだけどね。ただ誤解を解いて和解するまで完全に話し合いだけで平和的に済む事なんて稀なのよ」

お陰で輝美さんも事あるごとに駆り出されるらしい。


「要するに何が言いたいのかと言うと、今籠目教はあまり人員を割けないし、鞠亜ちゃんを保護している私達のバックに籠目教があると相手にわかった場合、一触即発の事態もありえるってことよ。私達の方で何とか手を打っとくけど、それも間に合うかはわからない。

向こうから仕掛けてくると言う事も十分ありえる。だからそんな時のために緊急時の知恵を授けておくわ。だけど結して正面から力比べで押し合おうなんてしちゃだめよ。無理だと思ったらなんとしても逃げて生き延びるのよ」


そうして輝美さんに授けてもらった知恵はなんとも拍子抜けする物だった。


もしもの時は数珠を外して肉体を捨てる。

それだけだ。


龍神としての記憶を取り戻した今の俺ならそうすることでまた元の姿に戻れる。

そして元の姿に戻れれば、姫巫女である咲耶を通じていくらでもその力を行使できるし、咲耶自身の力も強化される。



咲耶と鞠亜には一応親父達との話が終わった後に鞠亜の家の事情だとか紅鏡についてなどは一通り俺から説明し、もし何かあってもできるだけ戦闘は避けるよう言ったのだが、俺の話を全て聞き終わった直後の咲耶の第一声は、

「でももし向こうから手を出してきた場合は、正当防衛は成り立つのよね?」

だった。


咲耶としては自分のテリトリーを荒らそうとする輩はできるだけ早めに叩いておきたいらしかったが、だからそれは無理だと言ってるだろとしばらく言い争い、結果妥協案として今日みたいに何か起こりそうな日は俺と文月が交代することになった。


文月は何でも咲耶の願いを聞き入れるので咲耶の暴走を止められないだろうと言うのと、俺の方が咲耶と一緒の時に扱える力が強いこと、そして文月の方は俺の身体に入った途端あっさり天候を操ったりと、俺よりも力のコントロールが上手かった事が決め手だった。


まだ自分の社を持つ蛇神だった頃、信仰する人間もいなくなり、物質界への影響力もジリ貧状態だったにも関わらず、祟りを恐れる人間に片っ端から干渉して夢に出たり事故を多発させたりして社を守ってきただけのことはあるようだ。




「私、本当は先輩達と仲良くなりたかったんですけど、実は家庭の事情でそうもいかなくなってしまったんです。なので、もし良かったら私達の側に寝返ってはもらえないでしょうか?悪いようにはしませんから」


胸の前で両手を合わせて佐倉が咲耶に語りかける。

今度の掃除当番代わってくれない?貴方の番の時は私がやるから。みたいなノリの困り顔でそんなこと言われてもこっちが困る。


「あら奇遇ね。私も恵瑠ちゃんとは仲良くしたいと思ってたの。でも私が寝返るのは無理だから恵瑠ちゃんの方がこっちに来てくれないかしら?歓迎するわ」


一方咲耶もニコニコと笑いながら言葉を返すが目が笑っていない。


「ごめんなさい。私には立場もあるのでそうほいほいお誘いに乗るわけにも行かないんです」


佐倉はそう続けたが、最後の方は咲耶の

「もうまどろっこしいから戦って負けた方が勝った方の傘下に入って鞠亜も手に入れるで良いんじゃないかしら」

と言う声に遮られてしまった。


「わあ!素敵な提案です。その方がわかりやすいですし手間も省けます。それじゃあどちらが勝っても恨みっこ無しですよ」


しかし佐倉はむしろ嬉しそうにその案に乗ってきたが、明らかに自分が勝つと信じて疑わない様子だった。


「ええ、恨みっこ無しよ」


咲耶がそう言い終わった瞬間、佐倉の両の手足が勢い良く切り裂かれ佐倉はその場に倒れた。

切り離された四肢はふわふわと空中を漂い、全て咲耶の腕の中に納まった。


「今すぐ負けを認めると言うのなら、止血もするし、この手足も返して元通りに戻してあげられるのだけど、どうする?嫌だと言うのなら、今感じないようにしている痛みを感じる様にして、もう少し血を流してもらうことになってしまうけど・・・・」


佐倉の腕や足が付いていた部分からはドクドクと血が溢れ出し、佐倉の倒れた周りには、大きな血溜まりができていた。

咲耶は少し困ったような顔をして佐倉を見下ろしていた。


「嫌です」


しかし佐倉はニッコリと笑った瞬間、バチリという大きな音と同時に立ち上がった。


佐倉の手足は既に元に戻っており、咲耶の腕の中にはもう何も無かった。


「成る程、鈴木先輩は幻術使いなんですね。籠目教には血統系の術者しかいないと聞きますし、鈴木先輩の家系は幻術使いの家系ですか?中々に血の匂いや生暖かさもリアルで良かったです。ただ、真っ先に痛みを乗せて畳み掛けてしまわないから、相手にこの事象を疑うきっかけを与えてしまうんです。幻術と言うのはこうやるんですよ」


楽しそうに佐倉は両腕を広げた。

同時に咲耶の足元から大量の槍が生えて咲耶は身体を複数の槍で串刺しにされた。


が、最初から幻覚だと解っているからか、随分と平然としていた。

「勉強になったわ。まあ、私は今痛覚遮断してるからこの幻覚にちゃんと痛みが乗っているのか解らないけど」



「じゃあ痛覚遮断してる所に痛覚を上書きしちゃいますね」


佐倉はそう言って可愛らしく微笑むと、串刺しにされた咲耶の元までやってきて静かに咲耶の手を握った。

次回更新予定は3/7です。


2014/3/5

最後の恵瑠の台詞を一部修正しました。

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