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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
全智のホムンクルス編
43/71

#40 僕の夏休み(中編)

しとしとと静かに雨が降る昼下がり、僕が橋を渡っていると目の前に人影が見えた。

傘もささずにフラフラと足元もおぼつかない様子で歩いている。

もしかしたらうっかりこの裏世界に紛れ込んでしまったのかもしれない。

靴も履いていない様だし僕が始めてこの世界に来た時の様に室内からいきなりこの辺に投げ出されたのかもしれない。


声をかけようとして、少し違和感を覚えた。


髪が長いので恐らく女の人だと思うけど、後姿だと思ったそれはどんどんこちらに近づいてくる。

元は白かったのであろう・・・服もかなり汚れてボロボロになっているし、右手には何かを持って引きずっている様だった。

もしかしたらもう既に何かの異常にに巻き込まれてしまったのかもしれない。

僕は急いでその女の人に声をかけて駆け寄った。


そして後悔した。


女の人の右手には子供の腕が握られていたけれど、その腕から先は擦り切れて、もはや肉塊と化していた。

「・・・の、・・・・くい・・・・・・か・・・」

何かをもごもごといっている様子に顔を上げれば、目と鼻の先に女の人の顔があった。

口は裂け、顔中に掻き毟った様な跡があり目は血走っている。


「私の顔は醜いかあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

女の人はものすごい強さで僕の腕を掴むとそう叫んだ。

ものすごい形相で叫ぶ彼女の顔を目の当たりにした瞬間、彼女の顔が潰れた。

次に僕を掴んでいた腕、胴体と次々に体の一部が潰れていく。

まるで見えない鈍器で殴られたかのように。




「それじゃあ修司は夏休み中にある程度力を制御できるように恵瑠ちゃんと特訓だな」

「長崎から引っ越してからは近くに力を流せる裏世界みたいな物も無かったから、身代わりを立てたり、なるべく修司の希望を叶えて精神的なストレスを減らしたりしていたけれど、いつまでもそうする訳にも行かないものね」

「修司の力は西洋魔術よりやから門外漢のおい達が手出しするより、その系統の専門家に任せるのが一番やろ」

「もっと言うなら、西洋魔術の中でもお母さんの使っとるものじゃなくてギルバート君の方に近いから・・・やっぱりそがんなると一番確実なのはおばあちゃんの実家の佐倉さくら家になるし、修ちゃんも佐倉家の恵瑠ちゃんとは昔から仲が良かし、それが一番よかと思うとよ」


僕が普通の生活を送りたいと切り出した後、僕の家族は皆口々にそう言った。


というか、それなら僕はおばあちゃんに習いたい。


そう答えれば、佐倉家の長女でありながら跡取りになれなかった自分よりも、魔術の名門佐倉家でも神童と言われる恵瑠ちゃんに習った方がきっとためになると説得されたが、そもそも僕は魔術師にはならないのでそんな高度な物は必要無い。


「修司お兄ちゃんは才能もあるんだからもし後で気が変わっても十分対応できる位の知識を身につけておいても損は無いと思うの」


恵瑠ちゃんが僕の横で力強く言い切ったが、むしろ損しかない気がする。


「僕って何か特別な力でも持ってるの?」

今まで生きてきて全くそんなことを感じた事はなかったけれど、皆の言い方が気になって聞いてみた。

「あるよ。魔術師としてはこれ以上ないくらいの才能が」

そう答えたのは恵瑠ちゃんだった。


「修司お兄ちゃんは小さい時よく生霊を飛ばしてたって言ったよね?要するに魂や精神の一部が肉体から遊離しやすい体質ってことなんだけど、それはつまり日常生活で友達と喧嘩したり、気に入らない人間が周りにいる時、その気持ちだけが無意識に体から離れて相手を攻撃しだすってことなんだけど、これは相手だけではなく生霊を飛ばしてる本人も危険なの。例えば気に入らない相手に生霊を飛ばして怪我を負わせたとして、その後飛ばした生霊はどうなると思う?」


僕はわからないと首を横に振った。


「気が済むまで相手を追い詰めた生霊は、それで満足するとそれまで自分を保っていた目的が無くなって消えてしまうの。でも一緒に飛んできた魂の一部だけは残って目的も無くその辺を彷徨い続けて元の体に戻ることはほとんど無い。浮遊霊みたいになるの。そうして日常的に生霊を飛ばし続けた場合、体の中の魂はどんどん磨り減り続けるし、それは寿命を縮めるだけでなく自分の魂その物をあちらこちらに捨てている様な物だから、大部分の魂は肉体が死んでも成仏することも無くあちらこちらで彷徨い続けることになるの」


何それ恐い。

と思ったけど、それが何で魔術師としての才能に結びつくのかと僕は尋ねてみた。


「魔術と言うのは突き詰めていくと自分の精神や魂を肉体に連動させてコントロールしていろんな事象を起こすものだから、修司お兄ちゃんみたいに自分の精神の働きによってそれらが体の外へ分裂して勝手に目的を達成させようとする体質というのはかえって都合がいいの。だから修司お兄ちゃんが勝手に生霊を飛ばさないように自分の精神を完全にコントロールできるようになれば、同時に意識的に精神の一部や魂の一部を使って攻撃したり防御したりできるようになるよ。言ってみれば、修司お兄ちゃんは力のコントロールを覚えればそれだけで即戦力になれるの!」


何の?と聞けば、もちろん裏世界の管理!と恵瑠ちゃんは元気に答えた。

僕は直接恵瑠ちゃんの裏世界での戦闘を見た訳ではないけれど、家が爆発したり、そこから30メートル位離れた木に、その木が倒れる位強く叩きつけられる様な激しい戦闘、しかも下手すると今回みたいにあの世界に閉じ込められる危険もあると考えると、僕は例え対抗できる力を持ったとしても全くそれに参加したいとは思わなかった。


「そもそも、恵瑠ちゃんは何であんな大変な目に遭ってまであの仕事をしているの?」


確か歳は確か僕より一つ下だったので去年まではランドセルを背負っていた女の子が、いくら才能があるとはいえ何であんな危険な仕事をさせられているのか。

働かされていると言っていたがまさか跡取りになるための修行として強制されているのかと問えば、恵瑠ちゃんは首を横に振った。


「あの仕事にはは自分で志願したんだよ~、力の扱いを憶えた人間の紅鏡こうきょうへの貢献は義務付けられてるけど、別にそれは他のもっと楽な仕事でもいいし、能力によって選べる部署の幅は変わるけど、その中でどの部署に入るかの選択は自由なの。

元から魔術を扱ったりだとかそういうことが生業の家系だったら普通は力の扱いは自分の家で習うけど、何代も前にそれが途切れた血統系の家系だとそれを教える人がいなくて、結果力の使い方もわからないまま、いきなり何かの拍子に大事件を起こしちゃったり、そうはならなくてもそのせいで周りと上手くやっていけなくなったりすることが多々あるの。

だから私はそれを防ぐための裏世界の管理の仕事に志願したの。

裏世界もちゃんと定期的に異常を消さないと不安定になって異常が現実の世界にも出てしまうし、その仕事ができる能力と意欲のある人間は少ないから、私にその能力があるのならそれを役立てたいと思うの」


使命感に燃えているらしいその顔に、少し後ろめたさを感じて話題をそらした。


「ところで、血統系の家系って何?」


僕がそう聞けば、恵瑠ちゃんは特に気に気にする様子も無く答えてくれた。

「魔術を扱う家系には種類があって、始めにその家系特有の特異な体質があって、それを応用した魔術を扱う血統系と、錬金術や儀式魔法とかの研究を主とする秘術系の二つあるの。

後者は別に血の繋がりが無くても継承可能だけど、前者の後継者は血が繋がっていることが絶対条件な上に、個人の才能によるところも大きいから、本家筋の家系が完全に途絶えた後で、何代か後に隔世遺伝的にその遠縁に才能を持った人間が生まれたりすることもあるの。

秘術系でも何代か前に血統系の人間の血が入っていて子供には全く遺伝しなかったけど孫の代になって突然その力を持った人間が複数出てくる。なんてこともよくあるのよ」


それに、力が発現するのは子供の時だけじゃなくて、大人になって突然発言する人なんかも結構いるんだよと恵瑠ちゃんは教えてくれた。

それが前に恵瑠ちゃんの言っていた、『家系的に力はまだ発現してないけれどこれからそうなるかもしれない人間』ということなのだろう。

つまり、ギルバートさんはその血統系の魔術師で、僕もその体質を受け継いでいる。ということなのだろうか。


「私達が所属している神代派の組織は紅鏡こうきょうって言うんだけど、その中にはいくつか部署があってそれぞれ役割や所属している人間の顔ぶれが違うの。

まずこの組織の今後の方針とかを決める意思決定機関がこがね。十二人の極少数で構成されていて、今までの組織への貢献や、研究成果などによって選ばれるから、そこに入るにはある程度の実績が必要なんだ。

次に丹砂たんさ、これは主に錬金術や魔術の研究を行っている機関で、まあ解析斑みたいな感じかな。入るにはある程度の研究の実績か、秘術系の家系の跡取りである必要があるよ。

次に私も所属しているのが(みずがね)。金の決定したことの実行部隊みたいなもので、普段の活動は裏世界の管理だよ。こっちは業務に危険も伴うから、一定以上の戦闘力がないと入れないよ。

最後に一番人数が多いのがなまり。大部分が一般的な普通の生活を送りながら自分のできる範囲でボランティア的に紅鏡に協力してるよ。主な仕事はさっき言ったような誰も力の扱い方を教える人がいないような異能者の教育だよ。あんまり特殊な物だと丹砂が担当するけど。ここは特に入る条件は無いから、上二つに当てはまる能力の無い人や、普通の生活を送りたい人は自動的にここの所属になるよ」


恵瑠ちゃんは続けてそう説明した。

「でもその話だと、僕の教育は恵瑠ちゃんの仕事の範囲外じゃないの?」

「修司お兄ちゃんの場合は少し特別な事情があるの。お兄ちゃんの生霊は一般的な物よりも明らかに質量が重い、というか強い力を持っているの。その力は放っておけば勝手に魂を文字通り削っていく様な物だけど、一度コントロールを憶えればそれだけで凄い力を身につけることになるから、一時的に形だけでも紅鏡に協力して離反したりする意思が無いことを明確にしておかないと、あらぬ疑いをかけられて面倒なことになるんだよ。

一瞬汞みずがねで活動して、普段は鉛に所属していても、必要ならそちらに加わる気があるって姿勢をアピールしないと」


あらぬ疑い。と言う言葉には少なからず嫌な印象を受けた。

自分達に協力して役に立っている間は助けてやるけど、そうじゃなければ敵とみなすと言っているようなものだ。

おばあちゃんが枢魔派との小競り合いがたまにあるとか言っていたけど、そのせいなのだろうか。


「血統系の人の中には思春期を迎える頃辺りに力が弱まって大人になるころには完全に消えてしまう人もいるから、修司の場合はその方が一番良いんじゃないかと思って黙っていたのだけど、最近は力が弱まるどころかむしろ身代わりも追いつかない有様で、だからもし修司が力のコントロ-ルを憶えて最低限角が立たない程度に紅鏡に貢献するのも嫌だというのなら、表向き力は二次成長を迎えると共に消失してしまったことにして力を封印することになるわ」


母さんは恵瑠ちゃんの言葉に続けるように言ったけど、紅鏡では思想上の理由で力の封印はできないのではなかったのかと聞かずに入られなかった。


「確かにばれたら結構大変なこつになるやろね。実際、封印するとやったら佐倉家の力を借りるこつになると思うばってん、今の金は、十二人中、四人が佐倉家の人間や佐倉家の親戚筋の人間だから、そいが公になると、どこまでの人間がそれに加担しとったかとか他にもこっそり力を封印していた人間がおるとじゃなかかとか、色々波紋は広がるやろね。力を封印したから敵だ!なんていう人はおらんやろうけど、快く思わん人は結構出てくるやろね」

「ただギルバートもその才能ゆえに祭り上げられて最終的には殺されたと言っても過言ではないから、修司にはできるなら普通の生活を送って欲しかったのよ」


おばあちゃんの言葉にはやっぱりかと思ったけど、母さんの言葉にはまた別の不穏な気配を感じた。

僕と似たような体質だったギルバートさんがそのせいで祭り上げられて最終的には殺された・・・?


それは、正直何が何でも避けたい。しかし、これで力を封印してもらってもしばれたら、それこそ僕だけでなく親戚一同が大変なことになりそうだ。

力のコントロールを身につけるのは僕としても望むところだ。無意識に自分の魂を削ってるなんて恐ろしすぎる。

しかし、それのせいで紅鏡への貢献を義務付けられるというのは、どの程度のことだろう。

恵瑠ちゃんの様に裏世界で戦えと言われると気が引けるが、できる範囲での手伝いくらいならば・・・そう考えたが、僕はついさっきその手伝いのような形で魂ごとバラバラにされて裏世界の空に舞ったのだった。


「ちなみに僕が力のコントロールを身につけたとして、紅鏡に貢献ってどの程度のことをやればいいの?」

「まあ、修司お兄ちゃんは住んでる所が遠いし、とりあえず貢献するという姿勢だけアピールすれば良いから夏休みの間だけ私の助手として付き合ってくれたらいいよ。本来は丹砂とか鉛の仕事なんだけど、新人研修ってことにすれば問題ないし」

「え」


耳を疑った。いつの間にか僕が一番仕事がきつそうな(みずがね)に所属することになっている。

「大丈夫。夏休みの間だけだし仕事はあくまで私の補助だから!」

「・・・・・ちなみに、力のコントロールって、普通はどれくらいの期間かかるようなものなの?」

「う~ん、本人の資質や力の種類によって大きく異なるし、人によってはやってみたらすぐにその場で力を使えるようになったり、逆に一年以上かかる人も結構いるかなぁ。もし夏休みが終わっても憶えられない場合は、仕方ないから進捗具合によっては、修司お兄ちゃんだけこっちに引っ越してくるかだねぇ」


・・・・・・・今現在、僕が力のコントロールがどれ位でできるようになるかは全くわからない。

それなら、こちらに引っ越してくることも考えなければならないだろう。

しかし、こちらに引っ越してくるようなことがあれば、力のコントロールを覚えた後もなんだかんだと理由をつけて年がら年中汞(みずがね)の仕事を手伝わされることになりそうな気がする。


そう考えると同時に、幼少期の悪夢としか思えない様なトラウマの数々が頭をよぎった。

最悪、夏休み中のほとんどを(みずがね)の仕事に費やすことになったとしても、出来が悪くてこちらに引っ越してくることになるのはゴメンだ。

前に父さんが言っていた家族で東京にと言う話も結局は力を完全に封印するか、逆に力のコントロールを憶えるかした後の選択肢だ。

後者はどれくらい大変なのか未知数だが、前者は論外だ。

僕はそう自分に言い聞かせ、できるだけ早く力のコントロールを憶えられるよう必死でその特訓に取り組むことを決めた。




見えない攻撃は彼女が完全に動きを止めてからも続き、最後には彼女自身が肉塊に変わってしまった。

僕がそのおぞましい光景に動けなくなっていると後ろから声がした。


「だから常に魂を体に留めて何かあった時も飛ばすのは極力精神だけにしないとダメだってば」


恵瑠ちゃんは呆れた様子でそう言いながらうっすら消えかかった肉塊の中から何か光の玉のようなものを取り出すと僕の体の中に入れた。

僕は今、恵瑠ちゃんの助手として裏世界に来ている。

どうして力のコントロールを憶えようと決めた次の日にいきなり実践に出されているのか。




特訓初日、僕が恵瑠ちゃんの家に呼び出され、やったことといえば、椅子に座って四拍子で息を吐いて二拍子で止める、そしてまた四拍子で息を吸って二拍子で止めるというボックス呼吸なる呼吸法と、それを毎日決まったセット数こなしてその中で気付いたことをノートにまとめるように言われただけだった。

余りに簡単なメニューに拍子抜けしたが、これを続けることにより体の中の気を意識できるようになると言われた。

思ったよりも平和的な方法に安堵しつつ、僕が帰ろうとすると恵瑠ちゃんに呼び止められた。

一日の特訓メニューはもう一種目あるらしい。

どうせこれもさっきの呼吸法と同じ安全なものだろうと、その時の僕は油断していた。

そしてそのすぐ後に恵瑠ちゃんに裏世界に連れてこられて今に至る。


「修司お兄ちゃんが生霊を飛ばすのって昔から感情が昂ぶった時だから、その時の気の流れや自分の中で何が起こっているのかを体で理解するには、実際に危機に陥ってみるのが一番だと思うの。もちろん本当に危なくなったらすぐに私がフォローに回るし、今回みたいに魂も一緒に飛ばしちゃったら回収して戻すよ。最初は何がなんだかわからないと思うけど、場数を踏めば自分の精神状態や気の流れに意識を向ける余裕も出てくるから」

ニッコリと笑ってなんでもないように言っているが、それはつまりこれからしばらく僕は毎日今のような体験をしなければならないということだ。


肉塊があった場所に目を向ければ既に跡形も無く消えていた。

恵瑠ちゃんの話しぶりからしてアレは僕がやったということなのだろうが、僕はどうしてあんなことが起こったのか全くわからなかった。

小さい頃から僕は無意識に生霊を飛ばしていたということは、今まで僕は無意識にアレを周りの人間に向けていたということになる。

今までに友達が事故にあったり病気になったりしたことは多々あったが、一体そのうちのどれ位が僕の生霊によるものなのだろう。

中には少なからず入院することになった友達もいる。


そう思うと一気に気が重くなった。

それと同時に何か大事なことを忘れているような気がしたけど思い出せなかった。

一体なんだったんだろうと悶々と考えていると、恵瑠ちゃんに背中を軽く叩かれた。

「何を考えてるかしらないけど、自分を責めたりしたらダメだよ!修司おにいちゃんの場合、それはダイレクトに自分への呪いに変わっちゃうから」

僕を心配してくれているのだろうけど、最後の方の言葉で更に僕の血の気は引いた。


一応母さん達が身代わりを立てて生霊が他に行かないようにしたり精神が安定するように色々手を尽くしてくれていた様だけど、それにしても僕はよく今まで大きな問題も起こさず生きてこれたなとしみじみ思った。




「身代わりって、何をしていたの?」

僕が恵瑠ちゃんに特訓に付き合ってもらうことが決まった日、恵瑠ちゃんも帰り皆リビングから解散し出した時に僕は気になって母さんに聞いてみた。

「なんて事は無いわ。修司の服や持ち物に修司が生霊を放ったらそれを私が管理してる紙人形の方に誘導するよう術を施してただけだもの。後は生霊がその人形に乗り移ったら人形を破いて残った魂をおやつにでも入れて修司に食べさせれば元通りよ」

なんて事は無くなかった。


そういえば小さい頃から今まで当たり前のように家に帰ったら母さんがおやつを用意してくれていたけれど、一体その内のいくつに僕の魂が入っていたのだろう。

それに、小さい頃から両親は僕のやりたいことや興味を持ったことは何でもやらせてくれたし、欲しいといったものは大抵のものは買ってもらえた。

それもやはり僕の機嫌を取って精神を安定させるという意味合いが強かったのではないだろうか。


そう考えると、なんだか後ろめたかった。


おじいちゃんやおばあちゃんが小さい頃からよく遊んでくれたのも、同じ理由なんじゃないだろうか。

そんなことを考えていると、不意におじいちゃんに声をかけられた。

「ところで修司、最近レーシングゲームにはまってるんやけど、一緒にやらんか?」

おじいちゃんの目はキラキラと輝いていた。

すごくやりたそうだったのでおばあちゃんと父さんも交えて四人でプレイすることになった。


・・・強い。というか、コースの全てを熟知した無駄の無い走りと道に落ちているアイテムを必ず拾って邪魔してくる律儀さ、一体どれだけやりこんでいるんだと少し引いた。


しかもおばあちゃんも負けず劣らずの腕前だ。

龍太が同じゲームを持っていたのでたまに何度かプレイしたことはあるが、こんなエグイゲームだったけ、コレ・・・・。

そして当たり前のように僕と父さんに大差をつけておじいちゃんとおばあちゃんがゴールした。

まだかなり残った距離をただ作業的に走りながら、父さんの方は既に心が折れて母さんに代わってくれないか聞いて断られていた。


「じゃあ次はパズルゲームやりましょう。今度は負けないわ」

そう言って今度はおばあちゃんがパズルゲームを持ってきた。


落ち物パズル系で最大四人まで同時プレイが可能なのだが・・・。

案の定ゲームはおじいちゃんとおばあちゃんの独壇場となり、僕と母さんが早々にゲームオーバーとなったのを尻目におじいちゃんとおばあちゃんが目にも留まらぬ速さでブロックを積み上げては消し、素人目にはもはや何が起こっているのかすらわからない。

その後10分の激闘の末今度はおばあちゃんの勝利で終わったが、その時僕は思出だした。


そういえば、遊んでいる時のおじいちゃん達って、いつも目がキラキラしてたなぁ・・・・・。

たぶん、よくおじいちゃん達がよく遊んでくれたのは自分達が遊びたかったからなんだろうな、と思った。

少し気は軽くなったけど、格ゲーで回避不可能なハメ技を連発して瞬殺はやめて欲しい。



そんな昨日の出来事を思い出して僕が出した結論は、


 余り深く考えないようにしよう。


だった。



おじいちゃんの家に戻ると靴が二足増えていた。

きっと母方のおじいちゃんとおばあちゃんが来たのだろうと思った。

母方のおじいちゃんとおばあちゃんは僕が生まれて少しした後に長崎市内に移り住み、今は小さな喫茶店を経営している。

今思えば家族ぐるみで紅鏡に保護を求めた、ということになるのだろうか。

というか、魔術師といっても色々な宗派の様な物があるようだし、僕の家族はそれぞれどんな系統の魔術師なのだろうか。

そんなことを考えながらリビングに向かうと案の定父方と母方の祖父母に父と母が勢ぞろいしていた。


「修司元気にしとったか、大きゅうなったなぁ・・・じいちゃんが修司くらいの時よりか大きかとじゃなか?」

母方の祖父母は僕を見ると随分嬉しそうだった。

僕の小さい頃の記憶ではもっと片言の日本語と英語を交えて話していたような気がするけど随分と日本語が流暢になっていた。

そして訛っていた。

なんとなく母方の祖父母の馴染みっぷりが垣間見えた気がした。


「修司は、何か夢でもあるとね?」

世間話をして和気藹々とした雰囲気になった頃、話が途切れるのを見計らって母方のおじいちゃんが口を開いた。

「特には無いけど、周り見迷惑をかけずに静かに暮らしたいかな」

「まだ十代とに随分と年寄り臭い希望じゃなかとね」

僕の答えに母方のおじいちゃんは不満な様だった。

自分でもそう思う。でもついさっきの裏世界での出来事を考えるともし僕が誰かを蹴落としてでも叶えたい夢ができた時、完全に力をコントロールできるようになっていたとして、自分の意思で相手に生霊を飛ばすことにならないか恐いのだ。


僕がそう答えれば、母方のおじいちゃんは大げさにため息をついた。

「よかね修司、欲望を持つのは悪いことじゃなかと。良かことよ。人は欲望や願望があるけん、そこに向かって努力すっし、それによって進歩もすると。人は自分の願望を叶えるために生きとると。もし修司が、将来誰かを蹴落としてでも叶えたい夢ば持ったとなら、そん時は迷わず蹴落とせば良か。力の扱い方もわかっとって、本当に自分の意思でそうしようと決めたとなら、じいちゃんは止めない。同時に、その行動を取ったことで起こったあらゆる事象も全て受け入れるっていうのならそいも一つの答えたい」


「僕は受け入れたくないからそうしたくないのであって、それなら自力で何とかするよ」

そう答えれば、ならやらないんだからそんな心配すること無いじゃないか、と言われた。

まあそうなのだが。・・・・僕は何か行動を起こしてそのせいで責任を負うのが嫌だったんだなと気付いた。

だからといって答えは変わらないが。

「おじいちゃんは、どうして魔術師になろうと思ったの?」

「そがんと、自分の願いば叶ゆるためたい」

おじいちゃんはそう言って豪快に笑った。


「願いって?」

「まあ色々あっけど、一番は神代をもういっぺんってとこかな」

「前に父さんの方のおじいちゃんもそんなこと言ってたけど、神代って何?」

「世界の本来あるべき姿たい。寿命や病は無くなり、人間一人一人が神となる世界」

その後話は途切れてギルバートさんがどんな人だったかという話題に移ってしまったので、結局おじいちゃん達が目指す神代とはなんなのかよくわからなかった。


まさか魔術を極めて神にも等しい力を得ようということなのかとも考えたが、色々と無理があるような気がする。




次回更新予定は2/21です。

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