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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
全智のホムンクルス編
41/71

#38 見ぃつけた

「私、暁津比売だったみたいだからとりあえず他の魂が封印されている所も片っ端から壊してまわって魂を取り戻そうと思うの。そうしたら私の力が完全に戻ってこの世界がまた私の物になるわ」

夕陽が差し込む教室で咲耶が俺の座っている席の机に腰掛けてそう言った。

咲耶はいつに無くニコニコと楽しそうに笑っていたが、なぜか俺はそいつが咲耶だとは思えなかった。

竹とも雛月とも違う、別の何かのように思えた。

俺が何も言えずにいると咲耶はゆっくりと俺の方に手を伸ばし、俺の首を両手で掴んだ。

「私が私になったのだから、龍太ももうそんな面倒な体に入っていなくたっていいのよ?これからはまたず~っと一緒ね」

咲耶は優しく語り掛けるように言いながらその手に力を入れた。


細い咲耶の腕からは考えられないような力が加わり、抵抗しようにも全く体に力が入らないまま俺の意識が遠のきかけた時、突然咲耶の胸から刀の切っ先が現れた。

傷口からはどくどくと血があふれ出し、咲耶の手からは力が抜け、咲耶はそのまま俺の方に倒れこんできた。

何が起こったのかと顔を上げれば今度は満面の笑みを浮かべた柿芝が立っていた。

「その人はもう咲耶さんじゃありません。危険ですから殺してしまいましょう」

なにを言っているんだ。そう声を上げようとしたが声は出ず、体も動かなかった。

「死体を残すのも憚られるので燃やしちゃいますね」

柿芝がそう言うなり火種もないのに咲耶の体が急に燃え出した。

俺にもたれかかる形となった咲耶が背中から燃えていくのを俺はただ見ることしかできず、やめろと大声で叫んだ自分の声で目が覚めた。


気持ち悪いくらいに心臓がドキドキと大音量で存在を主張するのを聞きながら携帯を見て時刻を確認すれば、まだ夜中の二時半だった。

こんな時間になんて夢を見るんだと気が重くなった。

あの日、山の中の神社で柿芝はいきなりためらい無く咲耶を刺した。

霊的なものだけを斬る術だったんじゃないかとも考えたが、それなら勾玉が入っていた壷や、咲耶の服まで切れるはずが無い。

まさか、柿芝はあの瞬間本当に咲耶を殺そうとしていたのかとも思ったが、それなら咲耶が無傷だったのはなぜなのか。

いつか俺の体を剣で貫いて重傷を負わせながらそれを全く無かったことにした時の様に咲耶が自分を刺されたこと自体を無かったことにしたのなら、なぜ咲耶の服は破けたままだったのだろう。

しかも本人達はあんなことが合ったにもかかわらず、その後も平然と話しギクシャクした様子も全く無かった。

今叩いたのはそこに蚊がいたからですよ。わあ、ありがとう。というのとさして変わらない様なノリの気がする。

鞠亜も鞠亜で咲耶を刺した柿芝はお咎め無しで咲耶の破けた服を見ていた俺には非難の目を向けてくるという普通ではありえない様な反応をしている。

これは、俺がおかしいのだろうかそれとも咲耶からの干渉によって俺以外がおかしくなっているのだろうか。

・・・いや、しかし咲耶は柿芝には上手く干渉できないと言っていた。

そんなことを悶々と考えている内に外は明るくなり始め、気がつけば枕元においていた携帯のアラームが鳴り出した。




黒の記憶が戻って封印が解かれてからというもの、俺は自分がどんな力を使えるのか、どれ位の力が出せるのかを日々試すようになった。

結果、わかったことは今の俺が使えるのは黒の時の半分にも満たない程の弱い力で、尚且つ力を使えば気絶はしないものの、消耗も激しく、先日親父立会いの下、周囲に誰もいないことを確認した後河原で竜巻を無理に起こそうとしたところ、一瞬強い風が吹き辺りの石が巻き上がったと同時に俺のプッツリと意識は途絶えた。

目が覚めたら俺は体のあちこちに痣や切り傷を作って土手で伸びていた、親父の話によると巻き上げた石がそのまま俺達の上に降り注いで大変だったそうだ。


「肉体は霊的な力をこの物質界に出力するための変換機だからな」

親子揃ってボロボロになって家に帰る途中、親父はそう言った。

親父曰く、基本的には現世に肉体を持たない存在は、力の大きさにかかわらず神だろうが妖怪だろうがこの世界には何の影響も及ぼす事ができないらしい。

しかし、霊感のある人間に取り入ったり信仰という形で現世に肉体を持つ者に自分の存在を強く信じさせることにより、現世と自分のいる次元とを繋ぎ、それを通じて現世に干渉できるようになるらしい。

その干渉できる度合いはその存在の元から持っている力よりもそいつが存在している次元と現世との近さと自分の存在を出力させる人間の気質や信心によるものが大きいらしい。

ここで言う信心とは一般的な信仰だけではなく、例えば自分は悪霊に取り付かれているんだと強く信じ込んでしまう様なある種の思い込みも含まれる。

ありもしないものでも強く存在を信じることによりそれに近いものが寄ってきたり、タルパの様な形でその存在を新しく生み出してしまうこともあるらしい。

しかもこの場合、本人には自分が生み出したものと言う自覚が無いままそいつを育ててしまうので、知らないうちに本物の悪霊が出来上がってしまったりするという。

まあ普通はそこまでなるのはそうそういないと親父は締めくくったが、規模は違えど咲耶や竹の力も要するに根本はそういうことなのだろうか。

そういえばいつかの能面さん騒動の時、咲耶は随分と楽しそうにしていたが、早瀬とは以前から交友があったようだし、能面さんの話は実はもっと前から知っていたのではないだろうか。

もしそうだとすると話の本質は御龍神社周辺で起っていた妖怪騒動と何も変わらない。


「つまり姫巫女というのは、個人でも力を持っているが、同時に何代も瀧澤家の人間の霊力を取り込んできていた龍神から力を取り出せる娘を作るためのシステムだったんじゃないかと思うんだが」

親父は腕を組んでそう話したが、それでは説明のつかないことがある。

「でも竹がいなくなって、耕・・・大吉と行動していた時も俺は力を使えてたぞ?」

「それは多分、竹さんが失踪する朝に大吉さんと黒を結び付けたという術に関係があるんじゃないか?実際大吉さんは自分の魂に宿る霊力を全て龍神に奉げる儀式をしていた世代の人間のはずなのに見鬼だったらしいからな」

恐らくそれは大吉の魂に耕四郎の魂を上書きしたからそうなったのだろう。

しかしそれはつまり霊感もあるということではあるので、結局俺はその大吉の体を使って力をこの世界に出力していたということだろうか。


「なあ、でもそれって必ずしも霊感がないとダメなのか?例えば瀧澤家でも他の姫巫女以外の人間とか」

「まあ無理だろうな。元からある霊力を封印されているならともかく、瀧澤家の人間は生まれたらすぐにその身に宿る霊力を龍神に奉げていたらしいから、向こうの世界とこちらの世界を繋ごうにも肝心の向こうの世界とのつながりが完全に絶たれた状態だったんだ。

霊感というものは血統の他にも魂の資質や生まれ育った環境や本人の気質等、ある程度条件が揃わないと備わるものじゃないからな。

霊感がある人間というのは言うなれば現世に重なり合うように存在している別の次元にも同時に存在している状態で、力の弱いものは別の次元に存在する霊的な物へ干渉する力も弱いが、それから受ける影響も少なくて済む。しかし抵抗する力も弱いので悪霊に取り入られてあちらの次元に魂が引っ張られるとかなり危険だ。

逆に力が強ければそれらへ自分からの干渉がしやすいので反撃や防御もしやすいが、その分力の弱い者よりあちら側の世界の影響を受けやすい。

しかも強い力を持った者同士が側にいれば本人達の意思と関係なく互いに影響し合うことになる。

だからこそお前達三人の力は輝美に封印されていたのだし、一概にどちらが良いとも言えないな」

つまり、霊感なんて無い方が一番安全ってことかと問えば、まあ言ってしまえばそうなんだがな。と親父はため息をついた。


「しかしそれが完全に無ければその分神仏からの加護も受けづらい。まあその神仏からの加護で本当は霊感があるのに全く感じなくされている場合もあるけどな。輝美の封印はそれを現世で人間がやっただけだ。それに肉体に魂を宿している以上、完全に霊的な物からの干渉を防ぐことなんてできないだろうしな。

例えば咲耶ちゃんみたいな自分の身近な存在の魂に直接干渉するような力を持った人間が身近にいれば、全く霊感が無くてもそいつの魂は咲耶ちゃんから干渉を受けることになる訳で、要するに霊感があろうと無かろうとそんな存在と同じ次元にいてその力の射程範囲に入っている時点で霊的な干渉を受けることになるんだよ。

それ以外にも個人ではなく血筋に憑く物や生霊なんて物もあるし、霊感が無くても霊的な物の影響を受ける例外なんていくらでもあるさ。

本人に全く力が無くても強い守護霊が憑いていて守られてる場合もあるしな」

要するに、ケースバイケースだな。そう親父は締めくくったが、そう言われるともう何も言えなかった。




不意に右肩でバシッ!という大きな音と衝撃が弾けた。

「雑念が混じりすぎだ。頭を空にして呼吸に集中しろ」

背後で親父の声が聞こえた。


俺は今生まれて初めて座禅を組んでいる。頭を空にするというが中々難しく、次から次へと最近の出来事や考えが浮かんで頭の中をグルグルとまわる。

封印を解いた今、もう俺の行動を制限する必要もないだろうと親父から許可が出たのだ。

思えばウチの寺は禅宗系にもかかわらず、俺はこの歳になるまでまともに座禅を組んだことが無かった。

小さい頃親父がやっているのを見て真似しようとしたら、まだ早いと言って止められた。

読経も一緒に経を上げることは許してくれてもその経の意味を教えてもらったことは一度も無かった。


昔、アニメで見た超能力者の真似事をやろうとしたときはなぜだか酷く叱られた。

代わりに親父は俺にゲーム等のおもちゃ類を良く買ってくれたし、定期的に好きなマンガでも買ったらいいとおこづかいとは別に図書券も貰っていた。

今思えば、全ては何かの拍子に俺が封印を破ったりそうでなくても不具合を起こさせて、それのせいで咲耶や鞠亜に悪い影響を与えるのを避けるために俺の興味を逸らしたかったのだろう。

そんなことを考えているとまた親父に肩を叩かれた。

座禅を組んで肉体の波動を魂に近づけることにより、力を使った時の反動を軽くしようということらしいが、なぜ頭を空にした結果肉体の波動が魂に近づくのか、正直理屈はよくわからない。




籠目教本部から帰ってから日課になった座禅を終えて自分の部屋で休んでいた時、ふと修司のことが気になった。

もう八月も後一週間と少しを残し、夏休みも終盤だ。

山の中の神社で咲耶に長崎の術者に目を付けられたようだと言われた時には肝が冷えたが、あれから約三週間、特に俺の周りで変わったことは無い。

特に咲耶から口止めもされなかったのでこっそり親父達にも相談したが、下手に清實さんに透視してもらって逆探知されるとより面倒なことにもなりかねないらしく、現状では特に手の施しようも無いと言われた。

ただ長崎という地名を出した時に、長崎のどの辺かわかるかと少し親父が眉を潜めたのが気になった。

咲耶からは長崎としか聞いていなかったので俺もそれ以上は答えられなかったけれど。


修司に何か変わったことが無かったか聞けば、何かわかるかもしれない。

そんな淡い期待を抱きつつ、俺は修司にライポでメッセージを送ってみた。

『久しぶり。長崎はどんな感じだ?』

するとすぐにに返信が来た。

『昨日帰ってきたところ。親戚関係で色々ありすぎて訳がわからないよ・・・』

まあ、親戚関係でも色々あったのだろうし、修司的には観光どころじゃなかったのかもしれない。

『なんかよくわからんが、大変だったんだな』

『うん、しかもこれからの方が大変になりそうっていうね・・・』

その言葉だけで修司のうなだれた姿が目に浮かぶようだった。

『そうだ、今度気晴らしにどっか遊びに行こうぜ!』

『ありがとう。でも夏休み一杯は他にも用事が立て込んでて遊べそうに無いんだ。学校が始まったらまた遊ぼうよ』

『そっか残念だ。じゃあまた今度な』

そう返事を打って俺は思った。前に修司が家出した時にもしかしたら自分が父親の本当の子供ではないかもしれないと言っていたことを思い出した。

しかし、それでこれから大変になるとはどういうことなのだろうとも思ったが、人の家の事情をあんまり邪推するのも憚られたので、その辺のことはもし修司が相談してきたらその時に考えることにした。


第一、俺の方も姫巫女だ龍神だと色々あってそれどころじゃない。

・・・そういえば、咲耶は今何をしているのだろう。なんとなくそう思った時、手の中の携帯が急に鳴った。

画面には咲耶の名前が映し出されていて一瞬驚いたが、すぐに気を取り直して携帯に出た。

「もしもし龍太?今から出てこれるかしら」

特に予定も無かったので、行けるよ、と答えると咲耶はじゃあいつもの場所ね。とだけ言い残して電話を切ってしまった。

突然なんなんだとも思ったが、それはいつものことなので俺は特に気にするでもなく適当に身支度していつも待ち合わせている公園に向かった。


夏休みだからか、公園には結構人がいて、公園のベンチも子連れのお母さん方で所々埋まっていた。

空いている席を探して辺りを見回せば、少し離れた木陰のベンチに腰掛けていた咲耶と目が合った。

咲耶の所まで行き、どうしたのかと話しかけた時、頭上から強烈な視線を感じた。

見えるはずが無いのに明らかに頭上に自分を見下ろしている何かがいると確信させるような強い視線。

まさかこの視線の主が前に咲耶が言っていた雛月が目を付けられたと言う術者なのだろうか。

しかし相手がこちらを視ている今ならば、こちらからも相手を視ることができる気がした。

左手の数珠を外して頭上に意識を集中させる。

すると河原に立っている一人の女の子が視えた。その女の子を見下ろす形で俺が視ていると、その女の子は俺の方を見上げ、目を見開きニタリと笑った。


その瞬間俺は咲耶に腕をつかまれ意識を引き戻されると共に、頭上でバチバチッと大きな音がした。

何事かと俺が上を見上げると同時に、咲耶に胸倉を掴まれ強制的に視線を戻された。

「なんてことしてくれるのよ!馬鹿なの!?」

咲耶は随分とキレていたが、おれはなぜ咲耶がそんなに怒っているのかわからなかった。

「今のは相手が広範囲に気配をバラ撒いて反応した相手を探そうとしてたのよ。何あっさり一本釣りされちゃってんのよ!」

「へ?」

思わず間抜けな声が漏れた。


「いや、でも今ので相手逆探知できたし・・・」

「今の龍太が繋がってた意識を頼りにすぐに文月に辿らせたけど、一瞬にして逃げられたわ。相手もそれ位最初から想定していたのよ。というか、そのせいで無駄に相手に私の手の内を見せちゃったじゃない」

咲耶はそう恨み言を吐きながら俺の両頬をつねってきた。どうやら今の一瞬の内に釣れた俺の意識に干渉しようとしてきた相手の意識を退け、かつ反撃のために文月を相手の方に送っていたらしい。

「ていうか文月って誰だよ?」

名前的に雛月の兄弟みたいだが。


「私だ」

その声と共に現れた白い蛇に、一瞬俺は固まった。

「・・・いつかの蛇神じゃねぇか」

今は文月よ。と答えながら首にゆるく巻きついた蛇を撫でる咲耶に少しイラッとした。

「なんでそんな大事なこと黙ってたんだよ」

「なんだ嫉妬か見苦しい」

「うるせえ」

チロチロと赤い舌を出しながら文月が答える。

表情は蛇なのでよくわからないが、人の形をしていたら確実に勝ち誇ったような顔をしているであろうことが手に取るようにわかる。


「聞かれなかったもの。まあ、正確には文月はあの蛇神ではなくて、完全に取り込んだ後その記憶とか感情の一部を引き継いで私が新しく作った蛇神よ。雛月を鞠亜に完全に憑けている以上、私自身の側にいて力を使う時の補助をしてくれる存在が必要だったし、雛月一人に力を持たせておくのも危険だってことはわかったしね」

淡々と咲耶は説明したが、その横で、そもそもなんでそんなことお前に説明しなくてはいけないのかと言っている白蛇を訳も無くしばきたかった。


「というか、何で蛇の姿なんだよ?お前最初に出てきたとき人の格好してなかったか?」

「咲耶の趣味だ。一般的に若い娘にはあの姿で現れた方が受けがいいからな。しかし咲耶はこっちの姿の方がなんだか落ち着くと言うし、この姿なら常に巻きついていても文句を言われないどころか喜ばれるからな」

またしても勝ち誇ったように言う文月とその体を撫でながらこのスベスベ感が結構癖になるのよとご満悦な表情で言う咲耶に、いつか俺を巻きつけて羽衣だなんだとはしゃいでいた竹を思い出し複雑な気分になった。

「実際、お前じゃ役不足だから私が作られたんだろう」

その言葉には言い返したかったが、反論の言葉が見つからなかった。


「さっき私も初めて今みたいな視線を感じたから、もし龍太がまだそれを感じていないか、それに変な反応を返していなければ今後今みたいな視線を感じても絶対に反応しちゃダメよって龍太に教えようとした矢先に釣られるんだから困っちゃうわよね。

というか、今みたいな軽率な行動とる前にちゃんと自分で考えろと言いたいわ」

正直、その言葉は咲耶にだけは言われたくなかったと思いつつ、ふと俺達の周りに全く人影が見当たらないことに気付いた。

それ以前に俺達の周りの半径4、5メートル以降が霧に包まれていて見えない。

「やっと気付いたの?さっき干渉されそうになったから空間後と切り取って結界を張ったのよ。とりあえず外の気配は消えたけど、念のためもうしばらくここで様子を見ましょう」

辺りを見回す俺にと咲耶がため息をつきながら言った。


「それも文月の力なのか?」

「ええそうよ?前は信仰もほとんど無くなって霊感のある人間の魂を別の次元に引きずり込む位しかできなかったみたいだけど、私の物になって私との結びつきが強くなったら肉体ごと別の次元に引きずり込めるようになったのよ」

嬉しそうに咲耶は話したが、

「おいちょっと待て、ということはこの前の神社での結界も・・・」

言いかけて俺は口をつぐんだ。ここまで説明されればこれ以上確認を取る必要も無い。

そして一瞬間をおいて、そうだけどそれがどうかした?と首を傾げる咲耶にだよなぁ、と一気に脱力した。

咲耶は基本的に自分の好き勝手に行動する。

自分がそうしたいと思ったら周りの人間が何を言っても聞かないし、そのために相手の協力が必要だったとして、相手がそれを嫌がるようなら相手がそうせざるをえないように仕向ける。一人でできそうな場合は黙ってことを進めて事後承諾だ。

そんな人間に今更何を言っても無駄と言うものだ。


「話を戻すけど、相手の方が最初から反応してくる奴を探してたってことは今俺が視た女の子が犯人ってことか?」

「まあそうなんでしょうけど、お互い透視して視たら少なくともお互いの顔位はわかるし、相手もそれをわかっているはずなのにそうしたってことは、最悪こっちに自分の身元がばれてもかまわないとでも思っているのかしら?

それくらい自分の力に自信があるのか、あるいはその程度じゃ自分の素性まで調べることはできないだろうと高を括っているのか・・・。まあ実際気配を追うにも完全にそれも消えてしまったし・・・」

咲耶は唸る様に言っていたが、それはつまり俺はさっきので相手に顔を見られたけど、そのせいで相手に身元まで割れるかもしれないってことか?と俺が尋ねると、咲耶はようやく今の事態に気付いたかといわんばかりに盛大にため息をついた。


「例えば龍太の顔や気配を覚えて四六時中様子を透視すれば家も家族構成も交友関係もわかるんじゃないかしら?まあ相手がどれくらいの精度でどれ位の時間持続して透視をできるのかはわからないけれど、今ので気配を覚えられていたらいつでも相手は龍太の様子を探れるんじゃない?」

マジか。それもう積んでるんじゃないかと言えば、

「とりあえずはその数珠付けとけば気配は辿れないんじゃないかしら」

と咲耶が俺の手の中にある数珠を指差した。確かにこの数珠が霊的な壁を俺の周りに作るものなら、遠隔で俺の気配を探っても見つけられないかもしれない。

「龍太はその辺の考えがまだ全然できてないから危なっかしいのよ。なまじ自分で力を使えるようになったから特にね。だから今回本当は私一人で片を付けるつもりだったのだけど、まあ視られたものは仕方ないから龍太も協力してよね」

と咲耶は呆れたように言った。

・・・お前はアレを一人でどうにかするつもりだったのか。


「それにしても、柿芝の時と随分と態度が違くないか?」

咲耶が柿芝の廃屋のしかけを見た時は、自分以外にもこんな事ができる人間がいるなんて!是非仲間になりたい!見たいな感じだったはずだが。

俺がそう尋ねると咲耶は苦虫を噛み潰したような顔で答えた。

「まあ、あの時は私の方が悠人君よりも強いと思って、何かあっても完全に干渉しちゃえば問題ないと持って強気に出ちゃったけど、実際やってみたら全然干渉できないし、付き合っていく内に完全に一対一でやり合ったら負けるだろう感じたけど、悠人君自身とはそんなことしなくても思いの外、仲良くできそうだったから奇跡的に今の関係が成り立っている訳で、これは悠人君にも忠告されたけど私は少し自分以外に何かしらの力が使える人間に対しての考えが甘かったって痛感したわ」

・・・・確かに今思えば竹を殺したのはもしかしたら咲耶の様に他人の夢に現れてそれをコントロールできたり、いきなり刀をどこからとも無く出す様なことのできる人間だったかもしれないと考えると、迂闊にそんな相手と関係を結ぶのは危険だろう。

それにもし本人が自分の力をコントロールできなければそれだけで周りにかなりの被害が及ぶ。

小さい時の咲耶や鞠亜の様に。


「でもこんな罠を仕掛けてくる位なんだからあの子は咲耶と接触を図りたいんじゃないか?何かそんなことをされる心当たりとか無いのかよ」

「そうね、この前の神社の封印を解いたせいでそこの拝み屋が私を探しているのか、長崎の術者が私を探しに来たのか、鞠亜に熱烈な思いを寄せる人間の嫉妬による犯行か、中村さん関係か、全く関係無い所からの刺客か、どれだと思う?」

心当たり多すぎだろう。とも思ったが一つ引っかかる物がある。

「なんだよ中村さん関係って?」

「これは私の勘なんだけど、あの人何か企んでいるような気がするのよ。嘘は言わないけど本当のことも言わない気がする」

・・・林間学校前に咲耶が中村さんは意図的に咲耶と鞠亜を殺し合わせようとしているのではないかと言っていたが、確かに一度籠目教で一通りの説明を聞いて中村さんの希望を聞いた今では正直それもあながち間違ってはいないと思える。

その場合、危険なのは咲耶ではなく鞠亜の方なのだが。


「正直、相手が私を知らない場合は極力相手に私のことは知られたくないのよね。それで家族や周りの人に何かあっても困るし」

咲耶のその言葉には俺も賛成だった。実際相手の目的がわからない以上、下手に関わるべきではなかったのだろう。

今更ながら自分の軽率な行動に頭を抱えたくなったが、今となっては後の祭りだった。

「とりあえず特に何も起きないし、今日はもうこれで解散ね」

咲耶はそう言うと手で空を切る様な動作をした。

すると辺りの霧は晴れ、俺達はさっきと同じ公園に立っていた。

公園にいる人達は誰も俺達が急に現れたに驚いていない、というか気付いていないようだった。

「それじゃあ明日には今後の方針を考えておくから、それまでは何があっても何を視てもスルーするのよ」

「俺に拒否権は無いのかよ」

別れ際、俺にそう言い付けた咲耶にそう抗議すれば、あんなのことをやっておいてまだ何かやらかす気なのと眉をひそめられた。

「そうじゃなくて、俺も何か方法考えるから。二人で考えよう」

そう言えば、その意見を採用するかは私が決めるわ。と咲耶は答えたが、その顔は少し驚いていた様だった。

流石に俺だって責任は感じるし、全部咲耶に丸投げしてまかせっきりにするのは我慢ならなかった。




俺と咲耶はその後今後の方針についてお互いに意見を出し合い議論を重ねたが、結局夏休み中にあの日以上の出来事は起らなかった。

夏休み明けの新学期、始業式を終えて教室で帰り支度をしていると、なにやら廊下が騒がしくなった。

今日は部活も無くホームルームも終わり、全ての生徒が帰りだす時間なので騒がしいのは当たり前だが、それとも少し違うようなざわめきだった。

「あ、いたいた修司おにーちゃーん!一緒に帰ろぉ~」

可愛らしい女の子の声が教室に響き、声の方を振り向いて、俺は固まった。

透き通るような白い肌に亜麻色の髪をしたおかっぱの、全体的に華奢な感じの美少女が立っていた。

・・・・・こんな子ウチの学校にいただろうか?というか俺はこの美少女に見覚えがある。

透視を逆探知したときに河原に立っていた女の子だ。

それにあの子、今修司を呼んでなかったか?修司の方を見るとなぜか苦笑いをしていた。

「修司、なんか美少女が呼んでるぞ」

そう言ってやれば、うん、そうだねと少し困ったように笑いながら女の子の方に歩いていった。

しかし女の子と目が合った時、

「見ぃつけた」

と言わんばかり一瞬彼女がニタリと笑った様な気がした。

次回更新予定は1/7です。

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