#37 目玉焼きだった物体
僕が咲耶さん達と山から帰った夜、早瀬家に一本の電話が入った。
食事時にかかってきた電話だったので良く憶えている。
電話を取ったのはオルカさんの母である交子さんだった。
交子さんは少し話すとすぐにかけ直しますと言って部屋を出て行ってしまった。
その少し緊迫した様子に、今の電話はあの山の中の神社のことなのではないかと思った。
その日、交子さんは皆が食事を食べ終わっても食卓に戻ってこなかった。
やがて僕が風呂から上がった頃、オルカさんの父の葵さんに呼び出された。
リビングには既にオルカさんと交子さんも座っており、なにやら大事な話があるらしかった。
二人の昔からの知り合いが亡くなったらしく、葬儀は県外で行われるそうなので二、三日家を空けることになるのでその間の留守を頼まれた。
交子さんに限定聴取の結界を張って何があったのか訪ねると、
「どうもウチの担当の封印の一つが壊さたらしいのよ。詳しい事は帰ってから話すわ」
と言われたが、その言葉を聞いて僕はああやっぱりな。と思った。
その日の内に交子さんと葵さんは荷物をまとめてと出かけてしまった。
きっと何があったのか確認しに行くのだろう。
確か咲耶さんが後から来て何があったのか調べようとしてもわからないように細工を施していたが、二人は僕や咲耶さんの仕業だと突き止められるだろうか。
その時、僕はどちらの側に着くべきなのだろう。
・・・・・もしそうなれば厄介なことになるのは確実なので、万が一の時のためにも何とかオルカさんの守護霊を完成させておきたい。
一方オルカさんの方は両親がしばらく家がいないので羽を伸ばせると喜んでいた。
「だからといって家で変な儀式とかしないでね」
とりあえず釘を刺しておくと、
「そ、そんなことしないわよ。悠君そういうの苦手だもんね~」
オルカさんはそう言って笑ったが、そう答える前に一瞬動きが止まったのと、目を合わせようとしない様子が全てを物語っているような気がした・・・。
「そんなことより、明日からはお母さんいないし私がご飯作るね!悠君何かリクエストある?食費ももらったし大抵のものなら大丈夫だよ。レシピだってネットで調べればいくらでも出てくるし」
オルカさんは自信ありげに言ったが、流石にこれからの食事全てを作ってもらうのも悪い気がしたので僕も手伝うよと言ったが、
「いいのいいの、それに普段はお母さんにまかせっきりだしたまには自分で一から料理してみたいの」
と楽しそうに言われると、そういうものなのだろうかも思った。
それで何かリクエストはある?と目をキラキラと輝かせながら再度尋ねられたけど、特にコレといって食べたい物は無かったので何でもいいよと答えたら、それ返って決めにくい~と文句を言われた。
「じゃあ逆に、コレだけは食べたくないとか、苦手な食べ物とかある?」
その後二人で夕食の片づけをしている時に聞かれたので、お粥かな。とだけ答えた。
まあ、別に鉄の味のする糊が出てきたところで食べられない事はないのだけれど。
「ふうん?お粥が嫌いってめずらしいわね。まあいいや、それじゃあお粥以外で何かおいしいもの作るね」
そう言って笑いながら食器を洗うオルカさんを見て、オルカさんに会って間もない頃のことを思い出した。
「ねえ悠人君私ね、ずっと一人っ子で兄弟とか憧れてたの。だから悠人君も私のこと本当のお姉さんだと思って遠慮なく接してくれると嬉しいな」
僕がこの家に来たばかりの頃にオルカさんに言われた言葉だ。
その翌日には
「敬語とさん付け禁止!」
と言われ、呼び捨てやお姉ちゃん呼びを提案されたが何とか説得しルカちゃん呼びに落ち着いた。
僕への呼び方も最初は
「悠ちゃんなんて可愛いと思う!」
等と言われ、それも説得し妥協案で悠君呼びに落ち着いた。
その後もときどき遊びに誘ってくれたり、お気に入りの本やCD等をかしてくれたりとよくかまってくれる。
一緒に心霊スポットに行こうと誘われた時は断ったが。
オルカさんはたまに暴走することもあるけれど、僕にとっては優しい姉の様な存在だ。
翌朝、僕はオルカさんの悲鳴で目が覚めた。
悲鳴といっても切羽詰ったものではなく、何かをやらかしてしまった時の絶叫のような悲鳴だ。
大方何かを焦がしてしまったとか、こぼしてしまったとか、そんなとこではないだろうか。
台所を覗いてみれば、案の定オルカさんが煙を上げるフライパンを持ってあたふたしていた。
見れば大分焦げたベーコンの上に固焼きの形の崩れた目玉焼きが乗っていた。
期待を裏切らない展開に、もう一つの皿を見れば、ボロボロに崩れたベーコンと目玉焼きだった物があった。
もう一つのコンロの方を見れば味噌汁が沸騰して吹きこぼれていた。
・・・なぜ味噌を溶いた状態の味噌汁を煮立たせるのか。
慌てるオルカさんをなだめながら火を止めて、とりあえずもう出来上がりな様なのでご飯をよそおうと炊飯器を開けると、なぜか明らかに二人で食べるには多い量のご飯が炊き上がっていた。
「・・・・・ルカちゃん、ご飯何合炊いた?」
「二人分だから二合だけど?えっ!なんで!?ちゃんとお米2って書いてある線の所まで入れたのに!」
・・・多分、水を入れる線一杯に米を入れてしまったのだろう。
なら水の量はどう計って入れたのか聞くと、2の次の目盛りの3の所まで入れていたようだ。
道理でご飯がちょっと硬い。
この家に来てから今まで一度もオルカさんが台所に立っていた所を見たことが無かったのでなんとなく予想していたが、まさかコレほどまでとは。
・・・・というか、普段家で家事をしなくてもこれ位家庭科の授業で習いそうなものだが。
「悠君ゴメン・・・」
あまりのことに絶句してしまったが、涙目で謝ってくるオルカさんを見て僕は我に帰った。
きっとこれでもオルカさんなりに精一杯がんばってくれた結果なのだ。
そうだ。別にオルカさんが料理ができなくてもこれからは僕が料理をすればいい。
幸い父と二人暮らしをしていた時に家事は一通りやっていたから普通の食事くらいなら僕にも作れる。
僕は自分にそう言い聞かせて、オルカさんを慰めつつ料理を配膳した。
飲んでみて気付いたのだが、多分この味噌汁はだしを取っていない。
単純に忘れたのだと思う。
具の人参は生っぽく、たまねぎとわかめはもはや煮物状態で味噌汁にぎっちぎちに入っている。
分量を間違えたのだろう。
目玉焼きはお約束どおり小さい殻が入っていたし、ベーコンは焼きすぎて硬かった。というか、焦げながら干からびていた。
多分、一般的にコレはおいしいとは言えない物だろう。
だけど、まあ別に食べられない訳じゃない。
「ゴメンね悠君、無理して食べなくていいから、納豆とかふりかけとかあるしこっちで食べて」
冷蔵庫から納豆を取り出しながらオルカさんはそう言ったけど、僕はコレを残す気にはなれなかった。
「ルカちゃんがせっかく作ってくれたんだから、僕はこっちを食べたいな」
「・・・・そんなこと言われたら、この失敗の総決算みたいな料理、残せなくなるじゃない」
ポツリとオルカさんはそう呟くと、冷蔵庫にまた納豆をしまって元は目玉焼きだった物体に箸を付け始めた。
オルカさん的にもこれは失敗作らしい。それも残したいレベルの。
「ルカちゃん、次からは食事は僕が作るよ」
そう提案すると、オルカさんはうなだれながら了承してくれた。
「悠君にちょっとはお姉さんらしい所見せたかったのにな」
しょんぼりした様子で言うオルカさんが、少し可愛らしかった。
「あ、そういえば今日の午後から咲耶が遊びに来るから言っとくね。ほら、この前夏祭りで会った桜柄の浴衣着てた方の女の子」
実は咲耶さんは昨日の夜、僕が呼んだ。
本来ならもう少し時間をかけて守護霊を作る予定だったけれど、今のこれからどうなるかわからない状態ではなるべく早めに作っておくに越したことは無い。
咲耶さんもそのことについては悪いと思っているらしく、全面的に協力してくれることになった。
「ルカちゃんって、普段友達とどんなこと話してるの?」
「なあに?藪から棒に」
「僕の前では怪談とか遠慮して話してないけど、普段はどうなのかなって思ってさ」
なんとなく、普段オルカさんが咲耶さん達とどんな話をしているのか気になった。
「う~ん、都市伝説と怪談とかの話もするけど、この前は日本神話の話で盛り上がったかなぁ。アマテラスが男だって説があるの知ってる?」
初めて聞いたと答えつつ、もしかしたら咲耶さんがあの神社について色々と調べていた時にオルカさんにも尋ねたのかもしれないと考えた。
「それでアマテラスとスサノオの間には子供もいて、天岩戸に引きこもっちゃったのもアマテラスがスサノオに乱暴されたのが原因な訳だけど、アマテラスを男だとすると夢が広がるよねってことでそれを題材にしたマンガを借りたんだけど、これが中々面白かったのよ。悠君も読む?」
話の流れが怪しくなってきた。というか、そんな物を好んで進めてくるのは恐らく鞠亜さんの方だ。
「いやでもあれはそれぞれ持っていたものを噛んで吹き出して生まれたんじゃなかったっけ?切り捨てた死体や洗い流した汚れから神様が生まれる位だし、別に肉体関係は無かったんじゃないかな。それに、乱暴されたのってアマテラスの侍女じゃなかったっけ?」
まあそれは私もそう思うけど、とオルカさんは前置きをした後、
「でもそっちの方が面白いじゃない!」
と笑った。まあ娯楽に正確さを求めると言うのは僕も野暮だとは思うが。
しかし、確実にオルカさんが鞠亜さんに毒されてきている。笑えない。
「絵もきれいだし神話のネタがあちこちに入ってて面白いよ!」
と尚も勧められたが、丁重にお断りをした。
「それにしても、ルカちゃんは神話にも興味があったんだね」
「古今東西、魔術とかおまじないって結構神話を下敷きにしたり引用してるものって多いから、そういうのを辿って調べていく内に色々と神話も漁るようになったのよ。日本神話は結構人間臭くて好きよ」
都市伝説だとかおまじないだとかの元を辿って突き詰めていったら古い民間伝承や土着の宗教等に行きあたることもあることらしい。
「黄泉の国に死んだ奥さんを迎えに行ったのに最終的に奥さんに毎日自分の国の人間を千人殺される宣言されてじゃあこっちは一日に千五百人生まれるようにするって言い返したり、自分を歓迎するために体から食事を出した女神を『汚い』って言って切り捨てたり、たった一晩寝ただけで妊娠した奥さんに対して『本当に俺の子供か?』とか言い出したり、この自由な感じが良いわよね!」
まあ確かに神話と言う割には中々人間臭い話ではある。
「だから実際に起った事を神話風にして伝承として残したんじゃないかとも思えるのよ。日食とか地震というよりは自然現象や地元の豪族のスキャンダルとかね」
そう語るオルカさんの目はきらきらと輝いており、どうやら何かのスイッチを押してしまったらしいと僕は気付いた。
その後は延々とオルカさんによる神話や民間伝承の紹介やこんな解釈の仕方もあるという説明やオルカさん自身の推論を聞かされることになった。
それなりに信憑性のありそうな話や、ただのトンデモ話まで様々だったが、どの話も面白く僕もつい夢中になってしまい気が付けば昼過ぎになっていた。
食器を片付けて遅めの昼食を作ろうとした時、呼び鈴が鳴った。
咲耶さんだった。
「オルカ~、借りてた本返しに来たわよ~」
咲耶さんの手にある本を見れば、『実践!魔術入門』と書かれていた。
オルカさんにとってはただの読みの物でしか無いのだろうが、咲耶さんにとってその手の本はそのまま実用書になりそうだ。
咲耶さんは僕らの様子を見て、早く来すぎたと謝ったが、時間的にはもう昼過ぎなので僕は食事ができたら呼ぶので食事ができるまで咲耶さんと適当にくつろいでいるよう促した。
咲耶さんに自分も手伝うと言われたが、そうすると手持ち無沙汰になったオルカさんが手伝いと称して乱入してこないとも限らないのでそれは断った。
しばらくして昼食のチキンライスも出来、オルカさんの部屋まで二人を呼びに行ったが返事はなかった。
一度声をかけてからドアを開ければ、ベッドに横たわるオルカさんに咲耶さんが手をかざしていた。
「何やってるんですか」
そう問えば、平然と咲耶さんは答えた。
「何って、オルカの守護霊を作るんでしょ?作ってから憑かせるまでの手順もあるし、一度深い眠りについてもらったわ」
確かにそうではあるが、それならそうと一度声をかけてからにして欲しい。
「この前の人形達の魂で守護霊を作るって言うの、どこまで進んだの?」
「アレから一週間も経ってないので、そんなには進んでないですよ。今は金魚の水槽が置いてある靴入れの中の水槽の真下に当たる位置に例の人形の魂を集めた箱を置いて金魚と人形の魂を同調させようとしているところです。オルカさんの両親は二人とも視える人なので気付かれないように結界を張る方が大変ですが」
ため息をつきながらそう話せば、それじゃあまずは金魚と人形の魂を同調させればいいのねと言うが早いか咲耶さんは玄関に向かい、靴入れの中の箱の位置を確認すると、水槽に向かって手をかざした。
それと同時に、人形と箱との間が何かで結び付けられたような感じがした。
金魚と箱を見れば、さっきまではそれぞれバラバラの気を放っていたのに今では同一の安定した気を放っていた。
「コレで第一段階はクリアね。次はどうしたらいいのかしら?」
いきなりのことで呆気に取られながらも、廃屋で集めた恐怖の感情を貯めた折り鶴を取り出した。
「ちょっと魂ををいじってオルカさんが危険な目にあったり、オルカさんに自分達の存在が知られることを強く恐れるように暗示をかけます」
そう答えると、ああそのためのあの仕掛けだったのね。と咲耶さんは頷いた。
正確には人に暗示をかける上で一番汎用性が高いので、もしもの時に何かに使えるのではと考えたのが始まりだったが、まあ結果オーライだろう。
「元から強い感情があってそれを流し込むだけだから相手の感情を誘導する必要が無くて楽ね。それを自分の感情だと思い込んでしまえば、嘘でも本当になるものね」
咲耶さんは感心したように頷きながら、それじゃあそれも私がやっちゃっていいのかしら?と聞いてきたのでお願いしますと答えた。
作業はすぐに終わった。
本来の予定では今の状態に成るまで早くても一ヶ月はかかる予定だったのだが。
最後にオルカさんに憑かせる段になって、咲耶さんはオルカの両親も視える人で、金魚下に置いてあった箱の結界を見る限り、出来れば今回のことも隠したいのよね?と少し考えるそぶりを見せた。
確かにばれないに越したことは無いので、オルカさんに憑かせた後は守護霊にも不可視の結界を常時張るつもりであると咲耶さんに伝えると、
「それじゃあ悠人君の負担が重くない?」
と言われた。確かに常時自分以外にも結界を張っているとなると他の術を扱う時に十分に集中できないだろうし、それなりに消耗もするとは思うが、オルカさんの両親を欺くためにはコレ位やってもまだ不安だ。
「だったら、その守護霊に隠れ場所を用意して普段はそこへ隠れられるようにしてあげればいいのよ」
咲耶さんのその提案はもっともだったが、でもそんな場所を用意しても常にオルカさんといなければ万一の時に対応できないかもしれない。
「だから、オルカの魂の中にそのスペースを作ってその守護霊を住まわせてあげればいいのよ。それで後は龍太の数珠みたいな表向き何も変ってないように偽装できるような物を持たせたりすればいいんじゃないかしら」
人の魂その物をいじるなんて出来るのかと咲耶さんに問えば、鞠亜も出来たし多分大丈夫よ。と言われた。
僕は咲耶さんのその発言を頼もしく感じると共にこの人を敵に回した場合の恐ろしさを感じた。
「次にこの金魚を見に来た時に、この子達の魂がオルカの魂に取り込むようにすればいいわね」
そう言って咲耶さんはもう一度金魚と人形の魂に暗示をかけた後、オルカさんの魂をいじるためにオルカさんの部屋に向かった。
作業自体はそんなに時間はかからなかったが、僕はさっきからあることが気になっていたのでそれが終わると咲耶さんに尋ねてみた。
「咲耶さん、今日は雛月も文月も出さないんですね」
すると咲耶さんは僕のほうを振り返ってニッコリと笑った。
「この前の土地神、というか暁津比売を取り込んでから、雛月や文月を通さなくてもある程度自分だけでも強い力が使えるようになったのよ。外部の電源を使わなくても、内蔵の電池で活動できるようになった感じ」
そういえば咲耶さんは何かをする時は必ず自分の使いにやらせていた気がするが、要するに今までは自分だけはそうする事ができなかったからわざわざ使いを出してその力を借りていたということだろうか。
「悠人君はそんなことしなくても最初から自分である程度力を使えたみたいだけど、私は他から力を借りてこないと、そんなに強い力を使えたためしが無かったのよね。だから自分の分身を作って、他の霊的な存在を少しづづ取り込ませて、自力で実用的な力を使えるようになったのは本当につい最近よ」
高尾先輩や鞠亜さんの話だと、結構前から力使ってたんじゃないんですか?と問えば、咲耶さんは小さく首を振った。
「私は親しい人間の魂に干渉してその力を引っ張ってくることしか出来ないわ。だけど私の母や龍太や鞠亜や健さん、私の周りには常に親しくて強い力を持った人達がいたからその辺で困る事は無かったけどね。だけど、いつまでも皆の力を借りているだけじゃダメなのよ。私自身が私の魂を取り戻して力をつけなくちゃいけない」
どうしてそう思うんですか?僕がそう問えば、
「それが私が生まれてきた意味だから」
と困ったように笑った。
「悠人君は神人ってどうして生まれてくると思う?」
わからないと答えれば、私もわからない。だからこれはあくまで私の推測なんだけど、と咲耶さんが言った。
「前にも話したけど、私は小さい頃母から力を封印されてて小学校の時にその封印を自力で破ったんだけど、その時からちらちら私じゃない私の夢を見るようになったのよ。身内から殺されて魂をバラバラにされてそれを封印されて、自分の子孫達に乗り移って何とかして復活しようとするんだけど、また身内や知らない人から殺される夢」
その話はこの前高尾先輩から聞いた暁津比売の話と共通する点があった。
「神人って、神を先祖に持つ一族が何とかしてその先祖を復活させようとしてきた結果生まれるんじゃないかしら。つまり、その一族の願いと言うか執念の結晶みたいなもので、私達はその先祖の神様の魂を降ろす器に過ぎないんじゃないかしら。一族の人間がそう思っている訳じゃなくて、その先祖の神が自分の血を引く自分の子孫達にそうするように干渉して働きかけているんじゃないかしら」
咲耶さんのその仮説にはゾッとしたが、自分の時はどうだっただろうと考えると、その話に当てはまるとも言えなくも無いが、そうとも言い切れないような部分もあった。
「だけど仮にそうだとするとね、今生きている私はその何とかして復活しようとしている存在その物なのよ。そのことを考えると今までずっと続いてきた私の家系の姫巫女だとかの話も全部私が元凶なのよ。それにこの前暁津比売を取り込んでからはそれがよりはっきりしてくるし、大体殺されるのって6歳前後か14歳前後だし、このままだとまた私は殺されるのかとも思うともう・・・・」
咲耶さんの声はだんだんと小さくなり、言い終わる頃には俯いてしまった。
確かにコレだけその夢を裏付ける証拠が出ている中でこの状況というのはかなりキツイだろう。
僕が咲耶さんにかける言葉を捜していると、静かに咲耶さんは立ち上がった。
「私はただのんべんだらりと楽しく過ごしたいだけなのに・・・」
咲耶さんの拳が強く握られた。
「だから、それを邪魔するなら誰であろうと容赦なく潰すわ」
顔を上げてそう言い放った咲耶さんは、昨日神社で咲耶さんの胸を貫いた時と同じ笑顔だった。
『力というものは本来使うためにあるのよ。私は必要になったら迷わず使うわ。私や私の周りの人が幸せになるために』
以前咲耶さんがそう言っていたのを思い出した。
しかし、咲耶さんの魂の一部を封印していたのは鬼灯という呪術を扱う家系が寄り合ったコミュニティだ。
もし咲耶さんの言うことが本当で、過去に殺しに来たのが鬼灯の人間であったとして、彼等は何のためにそんなことをしたのだろうか。
そして仮に鬼灯が咲耶さんを殺しにきたとして、僕はどうすべきなのだろう。
ベッドの上で眠るオルカさんは幸せそうな笑みを浮かべていた。
次回更新予定は1/31です。




