#36 土地神
咲耶に俺の黒歴史を鞠亜と柿芝の前で晒された後、なんだかんだと色々とあったが、明日の準備もあるのでその日は早めに解散することになった。
咲耶と一度二人で話し合いたかった俺は、帰りにわざと携帯を咲耶の部屋に忘れてしばらくしてからそれを取りに戻った。
そのまま解散の時に残っても良かったが、あの誓約書の中身を晒された後に知り合いの前で咲耶の家に残ることを宣言する勇気が俺には無かった。
一度俺の家の近所を適当にぶらついてから咲耶の家に戻り呼び鈴を鳴らすと、待ち構えていたように咲耶が俺の携帯を持って出てきた。
いま少し二人だけで話せないかと咲耶に聞くと、いいわよ。とあっさりまた咲耶の部屋に通された。
部屋に入るなり咲耶はそういえば、龍太は小さい頃私を竹って呼ぶことがあったわね。と切り出した。
確かに当事の俺は咲耶を竹の生まれ変わりと信じて疑わなかった。信じたかったというのが本当なのだが。
「咲耶、お前は竹なのか?」
しかし、俺の中でそれはどうしても引っかかっていたとことだった。
咲耶は俺に竹のことを思い出させようとして自分の想定した竹のキャラクターを俺の前で演じていた様だったが、それは本来の竹とは随分とかけ離れていたし、どちらかといえば咲耶の分身である雛月の方が似ている。
つまり咲耶は前世の記憶が戻ったとか言っていたが、その中に竹の記憶は無かったということだ。
もっとも、前世の記憶云々も、昔俺がしつこく言っていたから適当に咲耶が方便で使っていた可能性も高いのだが。
「もしそうじゃなかったら、龍太にとって私はどうでもいい存在になるのかしら?」
全くの無表情で、感情の無い声で咲耶が言った。
そんなわけないだろうと俺は即答した。それには少し憤りも感じた。
それは嘘じゃない。
しかし、耕四郎に大分毒された黒の意識のままで同じ事を言われて同じ反応ができたかどうかは少し怪しかった。
「私は竹なんて知らないし、そんな記憶ないわ。ところでもう龍太は記憶も力も取り戻したわけだし、その竹の記憶は消しちゃいましょうか」
俺の心のうちを知ってか知らずか、突如咲耶は急に微笑んで物騒なことを言い出した。
「何でそうなるんだよ」
内心かなり動揺していたが、それが表に出ないように必死にこらえる。
「だって、龍太の中にいつまでも竹がいる限り、龍太にとっての私は私にならないじゃない」
そんな咲耶の言葉とは裏腹に、私を見てよと訴えた竹の姿が俺の脳裏によぎった。
これは、咲耶の中身が竹であってもそうでなくても、竹の記憶を消されるパターンだと俺は本能的に直感した。
「・・・・・わかった。咲耶は咲耶だもんな。悪かったよ。でも竹の記憶は消さないで欲しいんだ、今の俺の成り立ちにも関係してるし、竹と咲耶だと状況が結構近いし今後の役にも立つかもしれないだろ?」
俺がそう懇願すれば、咲耶は不思議そうに首をかしげた。
「え、今のは冗談のつもりだったんだけど・・・竹は人の記憶も操作できたの?」
どうやら俺は今とんでもない墓穴を掘ってしまったらしい。
「そんなことより、いつだったか鞠亜は咲耶の妾だみたいなこと言ってたけど、アレはなんか意味があるのか?」
今の冗談は冗談に聞こえねえよ!と内心叫びつつ、無理矢理話を逸らす。
そして言い終えた後でもっと他に話題無かったのかよ、明らかに不自然だろと心が折れかけた。
「ああ、小さい頃に鞠亜と約束したのよ。鞠亜がどんな悪霊を呼び寄せても怪奇現象を引き起こしても、私は鞠亜の味方でいるし、ずっと一緒にいるって。そしたらじゃあ結婚してって鞠亜から言われて、女同士は結婚できないって言ったら、じゃあ妾でいいからって言うもんだから。
まあ、当事私も鞠亜も妾の意味もよくわかってなかったのもあるけど。別に鞠亜は私の嫁!とか言っても良かったんだけど、そうすると龍太の言ってた竹の設定とは遠ざかっちゃう気がするし・・・」
とにかくそんな感じで大変だったのよ。と咲耶はむくれたが、その努力はあまり、というか全く俺が記憶を取り戻す手がかりにもなってないことについては黙っておくことにした。
・・・・そういえば、幼稚園の頃鞠亜と咲耶がそんなことを言い合っていたのを見かけたような気がする。
「それに、本命は別にいるもの」
ボソリと咲耶がそう言った様に聞こえたが、聞き返してみても咲耶はさあね、とはぐらかすばかりだった。
「ねえ龍太、ちょっとその数珠をはずしてみてくれないかしら」
咲耶が俺の左腕に付けられた数珠を指して言った。
輝美さんには封印を解いても、龍神の力を使うとき意外は普段からこの数珠を付けるようにと言われている。
輝美さん曰く、コレは俺の周りに霊的な壁を作るものらしく、それにより外からの霊的な攻撃はある程度防げるし、俺の力が勝手に外に漏れて暴発することも防げるらしい。
コレをはずせというのは、何かするつもりなのだろうか。
俺の頭の中で廃屋の中で見せられた幻覚や、さっきの咲耶の竹の記憶を消す発言、いつだったか雛月が俺の部屋に来て何かしようとして未遂に終わった時の記憶が駆け巡った。
・・・・・いや、それでは咲耶を信用してないのと一緒だ。
そう思い直して俺が数珠を外すと、咲耶が俺の手を握ってきた。
「ねえ龍太、龍太の家にある大きな桜、春になると一杯に花を咲かせてきれいよね。今、見てみたいと思わない?」
咲耶のその言葉を聞いて、すぐに咲耶が今何をしようとしているのか理解した。
蝉の声が辺りから聞こえてくるこの茹だるような暑さの中、桜を咲かせようとしているのだ。
まあおぞましい幻覚を見せられるよりはいいかと俺は咲耶のその言葉に頷いた。
「じゃあ咲かすわね」
咲耶がそう言った時、一瞬咲耶と意識が繋がったような感覚になった。
それと同時に俺の家の桜が満開に咲いているイメージが、本物の俺の家の桜に重なったような気がした。
窓から俺の家の方を見れば、さっきまで葉っぱが青々と茂っていたウチの寺の桜の木が、満開に花を咲き乱れさせていた。
遠くの物にも幻覚を重ねて見せられるということなのか?と俺が首をかしげていると、親父から電話がかかってきた。
突然寺の桜が満開になったが、咲耶の仕業なのかと聞かれた。
親父にも同じ幻覚が見えているのか?
俺は頭を捻ったが、親父曰く寺に来ている檀家さんや霊感のれの字もない母さんにも見えているらしく、コレは恐らく幻覚ではなく本当に桜が咲いているのではないかと言われた。
咲耶のほうを見れば満足げに窓から桜を眺めながら上手くいったと呟いていた。
「龍太と一緒なら、幻覚も現実にできる。そんな気がしたの」
嬉しそうに微笑む咲耶に、もはや竹を重ねるなと言う方が無理な話だった。
「本当に、何でもできそうな気がする」
さっきとは打って変わって急に咲耶が悲しそうな顔でそんなことを言い出したので、どうしたのかと聞いたが、咲耶はなんでもないと言って最後まで教えてくれなかった。
柿芝が尋ねた。
「咲耶さん、今回の標的は土地神なんですよね?」
そうよ?と咲耶は当たり前のように答えた。
俺達は今、地元から電車で一時間程かかる山の中の古びた神社の前にいる。
その神社には天照大神の名が掲げられていた。
「さすがに日本神話の最高神を土地神と言うのは無理があると思うんですが」
柿芝がそう言えば、咲耶は事も無げに、
「だって今回の目的は天照大神の名前を借りて封印されているこの神社の本当のご祭神だもの」
と言い出した。
その土地神のために代々専門の拝み屋がいるという時点で嫌な予感はしていたが、コレはかなりの大物なのではないだろうか。
咲耶がこの情報をどこで手に入れたかも気になるが、もしかしたら咲耶の干渉というのは耕四郎の様に人の記憶を覗き見ることもできるのではないだろうか。
実際咲耶の中身が竹と同一のものであるとするならば、それくらいできてもおかしくはないし、そうだとすると親父か輝美さん辺りから漏れたのではないだろうか。
咲耶ならやりかねない。
「それじゃあ早速始めましょうか。まずは神社の周りに結界を張ってくるわ。神社の敷地から逃げられないようにできるだけ強力なヤツをね」
咲耶はそう言うと神社の境内の周りを一周歩いて回った後、ポンと手を叩いた。
瞬間神社の境内の外側が一面真っ白になった。
全体的に白い霧で覆われて先は見えない。まるでいつかの蛇神に夢の中で会ったときの様だった。
「龍太、ちょっとこの先を真っ直ぐ歩いてみて?」
咲耶はそう言って来た道を指差したが、先は霧で覆われていて全く見えない。
迷ったらどうするんだと言えば、咲耶に赤い裁縫用の糸を持たされ、もしもの時はそれを辿って戻ってくればいいと咲耶に押し切られて俺は来た道を真っ直ぐ歩くことになった。
足元に気をつけながらも少し進めば目の前が真っ白になり、一瞬前後不覚に陥ったが、すぐに目の前にさっきいた神社の裏側が見えた。
更に進めば咲耶達の後姿が見えた。
近づいて話しかければ鞠亜は驚き、柿芝はなる程と納得した様子で、咲耶は得意気に笑った。
咲耶に言われるがままに持っていた赤い糸を引っ張ると、反対側の咲耶の持っている糸が引っ張られた。
どうやら空間が前と後ろで連続したように繋がっているようだ。
鞠亜は大層驚いていたが、俺は先日籠目教本部の座敷で似たような事態に遭遇したので余り驚かなかった。
「それじゃあ、無事に結界も張れたことだし、悠人君はちょっとあの神社の中にある封印の要を壊してきてくれるかしら」
なんでもないように咲耶が神社の拝殿を指差して柿芝に言った。
しかし、さっきも思ったのだが、天照大神の力を借りて代々専門の拝み屋がいて管理されているような強固な結界を、そう簡単に壊せるものなのだろうか?
まあ、俺が思い浮かべられる封印といえば輝美さんの物だけなので、一般的にはどういうものなのか多少認識がずれているかもしれない。
強い力を封印するにはそれだけ強い力も必要な様にも思えるが、その辺のことは柿芝の方が詳しいのかもしれない。
「・・・その前に、少し聞きたいんですけど、この神社に封印されてる土地神ってなんなんですか?明らかに祟り神か何かですよね」
「私もよくはわからないわ。ただこの辺りに昔からあった物だけど、今は封印されているらしいって位ね。ただ、この神社の中からはとても強い力を感じるの。それに、なぜだか私はどうしてもコレを取り込まなければいけない気がするの」
確かに神社の中からは肌がピリピリとするような異様な気配が漂っており、それはその封じ込められている土地神の力の大きさを物語っていたが、今の発言はまるで中に封印されてるヤツに引き寄せられているかのようだった。
「その情報を、どこで知りましたか?」
悠人の声が低くなった。
「最初は思いつきよ。オルカの家に遊びに言った時、なんだか急に頭の中にそんな情報が浮かんだの。この神社の場所と一緒にね。それで気になって雛月にこの辺を調べさせてみたら本当に神社があるし、図書館とかでこの辺の歴史を調べたらその情報を裏付けるような内容が出てきたし、拝み屋は、最初に浮かんだ情報の中にもいたけど、実際この封印は結構頑丈で簡単には破れそうもないし、結構マメに管理されているみたいだから、それをしている人いないと説明がつかないもの」
当の咲耶はそれを気にするでもなく楽しそうに答えた。
「・・・・・・前にも思ったんですが、咲耶さんは夏祭りの時、どうやって僕を見つけたんですか?」
楽しそうな咲耶の様子とは裏腹に、柿芝の顔はどんどんと険しいものになる。
「どうって、柿芝君はもしかしたらオルカと一緒にいるんじゃないかと思って、オルカに干渉してオルカの視てる景色を共有したら案の定悠人君がいたから、オルカの見ていた景色から場所を特定して、周りの結界にもこっそりオルカ側から干渉して結界の領域を広げただけよ?」
しばらくの沈黙の後、柿芝は小さなため息を付いた。
「わかりましたよ。そこの神社の中の封印の核を壊せばいいんですね」
今の二人のやり取りに、どんな意味があったのかはわからなかったが、柿芝を封印を壊す気にさせるには充分だったらしい。
「でも、そんな強固な結界なら僕も壊せるかわかりませんよ」
柿芝がそう言えば、悠人君なら大丈夫よ。と咲耶は答えた。
俺達は四人で拝殿に上がり、鞠亜が懐中電灯で辺りを照らした。
「なんだか寂れている割には中はきれいだね、定期的に掃除とかしに来ている感じ」
鞠亜が不思議そうに辺りを見回す。
今、鞠亜には雛月が憑依している。
見た目は鞠亜のままだが、顔つきや雰囲気が、どことなく林間学校で見た有馬乃亜を髣髴とさせた。
コレは咲耶からの指示で、ただのこけおどしなのだそうだが、これで一瞬でも隙を作れたら雛月と咲耶と柿芝で一気に畳み掛けるつもりらしい。
雛月が憑依した鞠亜は、霊的な存在にとってかなりの脅威に映るらしいのだ。
そんな簡単にいくものなのかとも思ったが、昨日俺がいれば咲耶の力はそれなりに強化されることもわかったし、いざとなれば俺もその中に加わる事もできる。
輝美さんの封印がなくなった分、多少魂が肉体に合って無くても幼稚園の頃よりは力を使えるはずだ。
拝殿の中は少しじめじめしていたが、確かに山の中の寂れた神社にしてはきれいだった。
御神体の鏡も覗いてみたが、特に何も感じなかった。
咲耶は御神体が置かれている台の下に置かれた黒いつぼを出してきてコレが封印の本体だと言った。
本体が黒いので懐中電灯で照らさないとわからない位だったが、壷の蓋と本体の継ぎ目にはお札が張られており、いかにもと言う雰囲気をかもし出していた。
「じゃあとりあえずコレ剥ぐわね」
そう言うなりいきなり咲耶はそのお札を剥ぐと壷の蓋を開けた。
いきなり何をしてるんだと思いつつ、中を見てみると壷の中にはなみなみと透明な液体が注がれており、中には勾玉が入っていた。
コレには一体どんな意味があるというのか。
「それじゃあお願いするわね。龍太も鞠亜も下がった方がいいわ」
何がなんだかよくわからないままに、俺達は壷から離れた。
柿芝は俺達が離れた事を確認するなり、右手を振り上げた。
気がつけばその手にはいつの間にか刀が握られていた。よく見えなかったので正確には刀のようなものだったのだが。
柿芝はそれを壷の上に振り下ろし、あっさりと壷は割れてしまった。
床には壷がきれいに二つに割れて転がり、中の勾玉も砕けてその破片は床に散らばった。
一緒に壷の中の液体も床に広がった。
同時に、まるで花のような甘い香りが辺りに広まった。
鞠亜の持っていた懐中電灯の明りは急に消え、拝殿の中の光は扉からの光だけになってしまった。
そして気がつけば黒い影が壷のあった位置に立っているのが見えた。
笑っている、顔も見えないのに直感的にそう感じた。
それと同時に、ひどく懐かしいような気分になった。それは咲耶も同じようで、咲耶も驚いたように立ち尽くしていた。
黒い影は咲耶の前にやってくるなり、咲耶に重なった。
しかしその瞬間、咲耶の体は拝殿の外に吹き飛ばされた。
何が起こったのかわからなかったが、咲耶を追って外に出れば、すぐにわかった。
柿芝が咲耶の胸を刀で貫いていた。
俺の後ろで鞠亜の悲鳴が背後で聞こえた。
当の咲耶は場違いな程無邪気な笑みを浮かべていたが、俺はこの笑い方に見覚えがあった。
暁津比売だ。
確か竹が禊の儀を行った直後もこんな笑い方をしていた。
「咲耶!しっかりしろ!お前は咲耶だろ!!」
気がつけば、俺はそう叫んで咲耶の元に駆け寄っていた。
柿芝を押しのけ咲耶の肩を掴んで、何度もそう呼びかけた。
「何出てきてるですか!この人はもう咲耶さんじゃありません!下がっててください!」
柿芝がそう言って俺の腕を掴んだ時、俺のこめかみに強い衝撃が走った。
咲耶の頭突きだった。
「うるさいわね、龍太が肩揺らすたび悠人君の刀が動いて痛いのよ。あ、悠人君、もう大丈夫だからコレ消してくれるかしら」
その様子はすっかりいつもの咲耶だった。
柿芝が咲耶に言われるがまま刀を消せば、咲耶の体の傷はみるみる塞がった。
「悠人君、私が乗っ取られたと思って介錯しようとしてくれたのね。まあ私が取り込まれれば私が干渉している人間にも被害が及ぶかもしれないし、良い判断だと思うわ。もっとも、私はコレくらいじゃ死なないけど」
あっけに取られる俺と柿芝を尻目に咲耶が淡々と話し始める。
鞠亜が駆け寄ってきて咲耶に怪我はないかと聞いていたが、ついさっきまで胸を刀で貫かれていたのに今はもう咲耶の胸元にはその傷跡すらなかった。
それどころか、服を見る限り出血した様子すら無い。
しかし、破けたままの服は元にはもどらず、それは今起ったことが幻覚ではないことを物語っていた。
「咲耶ちゃん、とりあえずコレ着て」
鞠亜は素早く俺と咲耶の間に入ると自分の上着を脱いで咲耶に着せ、ファスナーを上げた。
そして、それと同時に俺への非難の視線を送ってきた。
「違う、今のは別に変な意味は無くてただ破けた服を見てただけだ」
慌てて弁解したが、この言い方も良くなかったらしく、ますます鞠亜の軽蔑の視線が強くなった。
本当に誤解だ。確かに下着まで切れていたので帰りはノーブラかとか、思ったより大きいとか思ったけど、別にそこまで深い意味は無い。・・・多分。
「ところで、封印を壊して出てきた土地神はどうなったんですか?」
さっきから黙っていた柿芝がやっと口を開いた。
「取り込んだわ。というか、私もさっき気付いたんだけど、アレは元々私の魂の一部だったみたい」
首をかしげながら咲耶は不思議そうに答えた。咲耶も詳しくはわかっていないのだろうが、咲耶がそう思うということは、やはりアレは暁津比売の魂なのだろう。
どういうことですか?訝しむ柿芝に、咲耶が満足な答えを用意できるようには思えなかったので、俺は柿芝と咲耶と鞠亜に咲耶の血筋や御龍神社の姫巫女、そして祖先神である暁津比売のことや暁津比売をその身に下ろす禊の儀について軽く説明した。
龍神のことは伏せて。
「事情はわかりましたが、何で先輩がそんなこと知っているんですか?」
少なくともこの前咲耶さんにそのことを聞いた時にはそんなこと知ってる様子ありませんでしたよね?と尚も柿芝が訝るので、あの後親父に聞いたんだよ。と答えた。
「御龍神社が無くなってからは姫巫女はウチの寺で預かることになったらしい。特殊な力を持った姫巫女は一般家庭では荷が重いみたいだからな。前に咲耶がノートに書いてただろ?大体そんな感じだ。それでこれは俺が親父から聞いたんだが、どうやら瀧澤家の祖先神の暁津比売の魂は色んな土地に封印されているらしくて、それを全部集めると暁津比売が復活するって何代か前の姫巫女が禊の儀の直後に予言したらしい」
「仮にそうだとしてどうして・・・」
柿芝はそう言いかけて口をつぐんだ。
「どうしたんだよ?なにか気付いたのか?」
そう尋ねながら柿芝の顔を見ると、柿芝は顔面蒼白といった様子になっていた。
「咲耶さん、さっき、この神社のことはウチに来た時に思いついたって言いましたよね?その時、オルカさん以外に家に誰かいましたか?」
「いたわよ?お母さんが。そういえば、丁度お父さんも仕事が休みだったみたいで少し顔を合わせたけど、二人とも優しそうな人だったわね」
咲耶がニコニコと話す中、明らかに柿芝の顔色が悪くなっていった。
一体どうしたのだろう。
「あ、そういえば悠人君と龍太にちょっと話しておきたいことがあるのよ」
咲耶は急に思い出したように言い出した。
「実は昨日雛月が少しやらかしたみたいなのよ」
少し、と咲耶は言うが嫌な予感しかしない。
「昨日解散した後、暇つぶしに咲耶の親しい人達の視界に干渉して、色々見たりして遊んでたんだけど、なんかそのせいで長崎のヤバそうな術者に目を付けられたかもしれない」
軽いノリで雛月が咲耶の言葉に続ける。
「必ずしも相手がこっちに手を出してくるとは言い切れないけれど、一応報告しておくわ」
びっくりよね~と軽く笑う咲耶に鞠亜がゴメンね、私がちゃんと止めてればと謝っていたが、咲耶はあまり気に留めてないようだった。
「・・・・ちなにみに、そいつはどうヤバいんだ?」
「雛月の干渉からどこに雛月がいて、周りにどんな人間がいるのか逆探知できる程には」
それ結構危険なんじゃじゃないか?と俺が尋ねると、結構じゃなくてかなりですよ。と隣で柿芝が大きなため息をついた。
「私もしばらくは警戒しておくけど、相手に敵意があるとも限らないし、こっちからはその相手のこと上手く探れないし、何かあったらその時対処するわ」
咲耶は大したことではないとでも言いたい様だった。
というか、なんで長崎なんだ?
「修司君が父方の実家に行っているじゃない。せっかくだから長崎の町並みを見て旅行気分を味わいたいな~、なんて考えて修司君に干渉した結果、地元の術者に見つかってまんまと修司君への干渉から逆探知されたらしいのよ」
困ったもんだと言わんばかりに咲耶は肩をすくめたが、林間学校の時といい、人形のときといい、やらかしすぎではないだろうか。
「すぐに反応が無くても、その後そいつが仕掛けてくるとも限らないし気をつけておくけど、相手は私の干渉から辿ってきたわけだから、もし私に何かあった場合、私と強い繋がりのある人達も危険に晒されることになるかもしれないし、もし身の回りで何か変なことがあったらすぐに教えてくれるとありがたいわ」
強い繋がりとは、咲耶からの干渉と言うことだろうか?
確か咲耶は自分と親しい人間ほどより深く干渉できると輝美さんが言っていたが・・・
「つまり咲耶と親交のある人間全員が危なくなるってことか?」
「まあそこまで親密な相手じゃなければ大丈夫だと思うけど、鞠亜と龍太、それにオルカとか修司君辺りは危ないんじゃないかしら。悠人君は上手く干渉できないから大丈夫でしょうけど」
要するに、俺達は咲耶と運命共同体ということなのだろう。
「悠人君は黙っていても特に危険はないけれど、できれば協力してくれるととても私は助かるわ」
咲耶はそう言って柿芝に右手を差し出した。
柿芝は先ほどから俯いていたが、しばらく間をおいて、
「そんなの、断れるわけ無いじゃないですか」
そう言って咲耶の手を握った。
籠目教から帰ってきたときは、いつの間にか柿芝と咲耶達はすっかりと距離が縮まっていたことに少し驚いたが、今のこの柿芝の反応は単純に最近親交を持つようになった二人と助けようとしているだけの物と言うには何か違和感があるように感じたが、その違和感の正体はなんなのかはわからなかった。
次回更新予定は1/24です。




