#31 選択
夏祭りから帰った夜、家に二人の客が来た。
一人は中村さん、もう一人は初めて会う人だったが輝美さんにそっくりな顔の女の人だった。
年の頃からして輝美さんのお姉さんだろうか?
・・・咲耶の母方の遺伝子強すぎだろう。
その夜、親父は二人を迎え入れるなり書斎に篭って夜遅くまで話し込んでいるようだった。
翌朝、五時に俺は親父に起こされた。
俺の覚えている限りでは学校に上がってから朝親父が俺を起こしに来るなんて初めてじゃないだろうか。
普段は朝の読経の時間までに起きてこられなくても、そのまま寝坊して学校に遅刻しそうになってもほったらかしなのに。
親父は俺に「顔を洗って着替えてから書斎に来い」とだけ言った。
話し込んでいた面子や親父の様子からして咲耶がらみのことだろうとは思った。
身支度を整えて書斎に行くと、中村さんと女の人もいた。
もしかして一晩中話し合っていたのだろうか。
まあ座れ、と親父に促されて俺は親父の隣の座布団に中村さん達に向き合う形で座った。
「幸仁はともかく、この人と会うのは初めてだったな。紹介する。田中清實さんだ」
初めまして。と俺の向かいに座る田中さんが笑った。
「清實さんも昔ウチの寺に預けられていた人で、輝美の祖父の妹に当たる人だ」
ということは、咲耶から見て曾じいさんの妹・・・?
「え、ということは田中さんて今何歳なんですか?」
つい思ったことが口からこぼれた。
当の田中さんは、いくつだと思う?とニコニコ笑って聞いてくる。
「三十台の後半あたりだと思ってたんですけど・・・」
素直に答えると横から親父に、大体その倍だ。と言われた。
「は!?ということは、70過ぎ・・・?」
俺がそう言うと田中さんは少し不機嫌になった。
「私の歳なんて今はどうでもいいのよ。それより話を進めましょう」
自分で何歳に見えるか聞いてきたくせに、と思いながらも俺は拗ねる仕草もなんとなく咲耶に似ているなと感じた。
「まず、龍ちゃんは咲ちゃんのことどう思う?」
初対面でいきなり龍ちゃん呼びされた。
咲ちゃんとは言わずもがな咲耶のことだろう。
「どう、と言われても幼なじみとしか」
そう答えながらも中村さんと初めて会った時もそんな感じのこと聞かれたなと思い出す。
「じゃあもし、咲ちゃんと鞠亜ちゃんが大怪我をして死にそうになっていて、血が足りないとします。龍ちゃんなら輸血でどちらか一人だけを助けられるとして、龍ちゃんはどっちを助ける?他の人から血をもらうなんてのは無しよ」
清實さんはそう笑って俺に問いかけた。
鞠亜のことも知っている様だ。
「そんなの選べるわけ無いじゃないですか。もしどっちが好きかという意味で聞いているのなら質問自体が違います。二人はどちらも俺の大事な幼なじみなので、どっちが好きかでもう一人を見捨てるなんてことできません。咲耶と鞠亜、俺がどっちを好きでもその答えは変りません」
俺が答えると清實さんは笑顔は崩さなかったが声が少し低くなった。
あと目が笑ってない。
「そんな事は聞いていないのよ。どちらか一人しか助けられないのだったらどちらを助けるのかと聞いているの」
そうは言われても、もし本当にそんな状況になったとして、鞠亜を助けたところで鞠亜は咲耶の後を追って死にそうだ。
そうでなくとも一生そのことを引きずって苦しむだろう。
咲耶を助けても表向きは強がってそんな姿は見せないだろうが、やっぱり咲耶は一生そのことを引きずって苦しむだろう。
結局、どっちを選んでも生き残った方は一生苦しむのだ。
「なら俺は、最悪三人共死ぬことになってもギリギリまで二人に輸血します」
「・・・三人共死なれたら意味無いのよね」
清實さんは困ったように笑ったが、とりあえず納得してくれたようだ。
「それじゃあ龍ちゃん、今現在咲ちゃんは鞠亜ちゃんに殺されるという未来が待っています。でも龍ちゃんはなんでそんなことになるのか、どうしたら避けられるのかもわからないわよね?そこで昨日私達三人で話し合った結果、龍ちゃんにある程度事情を説明した上でこの後どうするか選んでもらいたいと決めました」
改まったように清實さんが言った。
「選ぶ?何をですか?」
「それも事情を説明した後教えるわ。とりあえず先ずは一つだけ。龍ちゃんはもし咲ちゃんを守れる力が手に入るとしたら、欲しい?」
そんな聞かれ方をしたら答えなんて決まっている。
「そんなの、欲しいに決まってます」
俺がそう答えると清實さんはニッコリと笑って立ち上がった。
「そう、それじゃあ外に迎えの車を待たせてあるから乗ってちょだい。必要なものは全て向こうで用意させるから体一つで来てくれて大丈夫よ」
「まさか、今から泊まりですか?」
急な申し出に、思わず聞きかえしてしまった。
「そうよ。どうする?来る?もし私達と一緒に来てくれるなら今の事態の説明と、それの解決に必要な力をあげられるかもしれないわ」
そんなことを言われてここで引き下がれる訳も無かった。
「・・・行きます」
俺は一度部屋に戻って携帯だけ持って清實さんが待っている玄関先に向かった。
靴を履いたとき、一つだけ言っておきたいことがあると親父に呼び止められた。
「もし、色々な事情を見たり聞いたりしても、咲耶ちゃんはあくまで鈴木咲耶という独立した一つの人格を持った人間だ。それだけは忘れるなよ」
「そんなの、当たり前だろ?」
その時、俺は何で親父がわざわざそんな当たり前のことを言うのかわからなかった。
ウチの駐車場に止まっていた黒いワンボックスカーに乗せられ俺は家を後にした。
車の中にはもう一人40歳前後の男の人が運転席に座っていた。
中村さんはその人と親しげに話しながら助手席に座った。
俺は清實さんと一緒に一番後ろ席に座らされたが、窓は全てカーテンがかけられており外の様子はよくわからなかった。
「さて、それじゃあ私達の本拠地に着くまでの間に軽く事情説明でもしましょうか」
車が動き出したと同時に清實さんが言った。
俺はお願いします。とだけ答えた。
「先ずはどこから話したらいいのかしら?あ、私が千里眼を持ってたりとか予知夢を視るって話は聞いてるかしら?」
俺はいえ、聞いてないですと答えたが、さっき清實さんが咲耶の親戚で昔ウチの寺に預けられてたと聞いた時点でなんとなく清實さんが前に中村さんが言っていた千里眼の人なんだろうな、と予想はしていた。
「まあ、そんな感じで私の家系にはある例外を除いて一代おきに一人そんな不思議な力を持った女が生まれるのよ。姫巫女と呼ばれているわ。昔は神社の宮司をやってた家系なの。
でもある事件が元で神社は無くなって、今はその時の熱心な信者さんたちが作った教団があるの。それがこれから行く籠目教の本部よ」
若干身構える俺をよそに清實さんは続ける。
「籠目教というのは明治の終わり頃、水の神である龍神を祭っていた御龍神社の娘で、千里眼のみならず他にも様々な神通力を持ち、生き神と崇められた瀧澤竹を崇拝していた信者によって作られた、所謂新興宗教と言うやつね。ちなみに彼女は私の祖母の妹にあたるわ」
「・・・一代おきで、その瀧澤竹さん、田中さん、輝美さんと来て、じゃあその次の咲耶が例外ってことですか?」
前に咲耶のノートに書かれていた家系図に、確かそんな名前があったと思う。
「ええ、そして瀧澤竹もその例外だったのよ。それまで御龍神社では姫巫女はご祭神である龍神の嫁として一生独身で過ごすのが慣わしだったから。ただ竹の母の代はなぜか子供が彼女一人しか生まれず、親戚も皆なぜか子宝に恵まれなかった。そこで特例として当事の宮司が婿養子を取って竹の母に結婚させたのよ。それと、私のことは清實でいいわ。この苗字って嫌いなの」
清實さんは付け加えるように言った。
田中なんて一般的な名前だが、何が不満なんだろう。
「そうして生まれたその竹さんはとんでもない力を持っていて、多くの人に崇められたけど何か事件が起って瀧澤家はお家断絶の危機に陥ったということですか?」
前に咲耶に聞いた話の記憶を手繰り寄せてみる。
「まあ瀧澤家は断絶しちゃったんだけどね。竹は行方不明になって、上に兄と姉が一人づついたけど、姉はもう結婚して家を出ちゃってたし、跡取りだった兄は行方知れずになっちゃうし」
しかし清實さんの答えは俺の予想とは少し食い違っていた。
「あれ、俺はお家断絶一歩手前って聞いたんですけど」
「ああ、それは竹の姉の嫁ぎ先の家がとばっちりでそうなりかけただけよ。最終的にそこの家の人間は私や輝ちゃんみたいな人間を家の人間とは認めず、寺に預けるようになった訳だけどね」
さばさばした物言いとは裏腹に清實さんの顔は少し悲しそうだった。
「まあ、青善寺の高尾家も親戚と言えば親戚なんだけどね」
「・・・・・へ?」
いきなりの親戚発言につい間抜けな声が出た。
「言ったでしょ?跡取りだった兄は行方知れずになったって。行方知れずになっていた兄は、青善寺の婿養子に入って住職やってたのよ。私が預けられた時はもういい歳だったけどね。だから遠縁ではあるけど、一応親戚にはなるわね」
・・・・・・・俺と咲耶は小さい頃から親戚同然の付き合いだったが、まさかホントに親戚だったとは。
「健ちゃんと輝ちゃんはできるだけ咲ちゃんと龍ちゃんには知らせないで普通の子供時代を送らせたかったみたいよ?」
何で黙ってたんだとも思ったが、確かにこの事情を聞く限り、あまり子供に進んでしたい話でもないだろう。
「それで、清實さん達は咲耶をその竹さんみたいに祭り上げて、世界の支配者にしたいんですか?」
ようやく話が見えてきた。つまり中村さんも籠目教の信者であり、咲耶に竹さんと同じ様な、いや、それ以上の役割を期待しているのだ。
「幸ちゃん達はそうみたいだけどねぇ」
しかし清實さんはどこか他人事のようだった。
文脈からして幸ちゃんとは中村さんのことだろうか。
「清實さんは違うんですか?」
「本人がそうしたいのなら、そうすれば良いけれど、周りがそれを勝手に期待して押し付けるのも違う気がするのよねぇ」
当の咲耶はむしろ進んでなりそうな勢いだが・・・
「でもだからこそ子供のうちは普通のそこそこ幸せな生活をさせてあげたいし、今のうちに一般的な道徳心や倫理観を身につけさせるのは賛成よ。小さい頃から自分は普通じゃないと言い聞かされて、隔離されて育てられたらそれこそいざ完全に力に目覚めた時に何するかわかった物じゃないもの。私も輝ちゃんも一時期はそれはそれは荒れたもの・・・」
まあ実家でそんな扱いされた挙句、寺に預けられたら嫌にもなるだろう。
いや、荒れて手が付けられなくなったから寺に預けられたのか?
どちらにしても気持ちのいい話ではない。
「その、竹さんは神人だったんですか?」
これ以上この話を続けても、清實さんや輝美さんの若い頃の話しか出てきそうに無いので話題を軌道修正する。
「そうだったんじゃないかしらねぇ。今から100年位前、つまり竹が生きていた時代にも神人らしき人間がちらほら生まれて、また神代が到来しそうになった時期があるのよ」
「・・・神代?」
「まあ・・・昔、神様が普通にそこらにいて暮らしてた時代のことね。神話にあるようなことが現実に繰り広げられるような時代と言うか、神話の時代そのものね」
・・・・・・また訳のわからない話になってきた。
「神界だとか霊界とか天界、魔界なんてものは元々は今私達がいる次元に同時に存在していたものだったのよ。それがある時どういう訳か分かたれた。それが今の世界。でもそれもある時期が来ればまた一つになると言われているわ」
「・・・・・それで、咲耶みたいな神人が現れてきている今がその時期だと?」
「そういうことになるわ。でもね、なぜか100年前は神人らしき人間があちこちに生まれたんだけど、急に収束しちゃったのよね。千里眼事件って知ってる?」
いえ、知らないです。と答えながら俺はどこからが本当で、どこからが清實さん達の思い込みなのかと考えていた。
少なくとも本人は本気で話しているのはわかる。
だんだんこの手の話にも耐性がついてきている自分が恐い。
「明治の終わり頃あたりに透視とか念写とかできる人があちこちに出てきてね、それを科学的に証明しようとした学者さん達がいたのよ。それで一時期日本中でものすごいブームになったらしいんだけど、結局『千里眼は科学にあらず』って全部インチキ扱いされて終わったのよ。
その頃、竹も千里眼を持つ龍神の姫巫女として有名になったらしいんだけど、ある日家の人間が竹以外いなくなった時、神社が全焼したのよ。
竹もその時行方不明になって、その後警察から詐欺容疑で神社が告訴されたんだけど、竹もいないものだから周りの人間の証言しかなくて、竹の力も証明できず、最終的に神社は潰されてしまったのよ。
でも竹の力を目の前で見ていた人間達は竹を詐欺師扱いされたことが許せなかった。そうしてできたのが籠目教。
ただ、祭り上げる肝心の竹がいない。
跡取りの兄は行方知れず。そこで竹の姉、つまり私の祖母である田中松や、その子供達に白羽の矢が立ったのよ」
なんだか雲行きが怪しくなってきた。
「でも祖母にもその子供達にもそんな力なんて無かった。当然よね。順番的にまだなんだから。それでも当事の信者達は納まらず、子供達の誘拐事件にまで発展した。竹のおかげでお金持ちになった信者は多かったし、なんとか竹の代わりが欲しかったのよ。それで一代おきに竹のような子供ができるなら、竹の姉である松の子供と子供を作ればいいと考えるわけよ」
「・・・・・・・」
子供を誘拐してその子供と子供を作るという発想に背筋が凍った。
「その後も色々あったんだけど、まだ13歳の子に聞かせる話じゃないわね。最終的に無事に成人できたのは五人兄弟の末の弟、私の父だけだったわ。まあ松おばあちゃん曰く、田中の家の人は松おばあちゃんや子供達を守ろうと手を尽くしてくれたらしくて、松おばあちゃんと嫁ぎ先との仲は良好だったのがせめてもの救いね」
「結果その生き残りの父から生まれたのが私なんだけど、その父の子供の四人兄弟で女は私しかいなかったの。祖母曰く顔も竹の小さい頃にそっくりだったらしくて、そのせいもあってか私は小さい頃周りから異常に過保護に育てられたのよ。でも、ある程度物を理解して話したりできるようになった途端、座敷牢に入れられたわ。知るはずの無いことをペラペラと言い当てたのがいけなかったのね。
それを聞きつけた籠目教はあの手この手を使って私をさらおうとしたみたい。そんな日が続くうちに家族もだんだん私がいるからこんな目に遭うんだと思い出したみたいだけど、今までの経緯からしてじゃあどうぞなんて私を差し出すのも我慢ならなかったんでしょうね。家族は私にあたるようになったわ。だけど当事の私ったら素直だったから周りの態度をそのまま受け取って全部自分が悪いんだと思っていたわ。
それからしばらく経ったある日、家の蔵をぶち壊して籠目教の人間が迎えに来たのよ。家にきた信者たちは、まあ欲にくらんだ目をしていたわ。そこに家族が駆けつけて修羅場になって、弾みで私が突き飛ばされて瓦礫に頭をぶつけて血が出たとき、ついに私の堪忍袋の緒が切れたのよ」
「・・・・・何したんですか」
もう嫌な予感しかしないが、聞かないわけにはいかないだろう。
「咄嗟に千里眼で視て知ってたそいつらの秘密や普段の様子を片っ端から暴露しつつ、お前の会社は今月中に倒産するとか、大事な一人娘が今から通り魔に惨殺されるとか相手が最も避けたいであろう災いを予言してやったわ。竹は千里眼だけでなく言霊といって言った事を本当にする力があったらしいから、それを聞いた家族や籠目教の人間は皆真っ青になってたわね。
まあ私にはそこまでの力は無いんだけど、当事はそんな事誰もわからないものね。
座り込んでおしっこを漏らす人もいたし、今言った事を訂正してくれと土下座して泣きついてくる人間もいて、自分は今までこんな奴等に怯えていたのかと思うと全てが馬鹿馬鹿しく思えたわ。
そして、その時場を収めたのが、完全に行方知れずだった竹の兄である瀧澤大吉だったのよ。まあその時は既に結婚して高尾大吉になっていたのだけど。
大吉さんは計ったようにその場に現れて、事情を聞くと一番に私を抱きしめてそれは辛かったろうと慰めてくれたわ。その後は色々あったけど私は大吉さんが住職をやっているという青善寺に預けられることになったの。大吉さんはとても私を可愛がってくれたし、その子供、と言っても上二人は既に嫁いでて家にいたのは末っ子の長男だけだったけどとても良くしてくれたわ。
大吉さんが上手く周りに根回ししてくれたお陰で、それ以降は両親も籠目教の人間も大人しくなったの」
それだけ聞くとハッピーエンドにも聞こえるが・・・
「そんな事があったなら、何で今清實さんは籠目教にいるんですか」
「私から籠目教に入ったのよ。籠目教の人間が何でそんなに竹の代わりを欲しがったかって言うと、実はもう一つ理由があって、どういう訳か竹が神社にいた頃竹を崇拝していた人間の内何人かに竹ほどじゃないけど、ちょっと特別な力が発現したのよ」
特別な力?俺がそう聞くと清實さんは大きく頷いた。
「人の記憶が視えるだとか、未来を予知できるとか、怪我や病気を治せるとかね。竹はそのどれもできたし、その力の強さも比べ物にならないくらい強かったみたいなんだけどね。ただその力も竹が失踪した途端なくなっちゃったみたい。
その力を使ってお金持ちになった人もいたから、竹のような力を持った人間を崇めればまたその力が戻ってくると考えたのね」
呆れたように清實さんが肩をすくめた。
「でも、それでどうして清實さんが籠目教に入るんですか?」
「私が青善寺に預けられて10年位経った頃、籠目教の人が尋ねてきたのよ。自分の孫にかつて自分が持っていた力が宿ったってね。話を聞いてみたら他にもそんな子が何人がいるみたいなんだけど、私が教主にならないのならその子達のうちの誰かを教主にするとか言い出したのよ。年聞いてみたら一番年上の子でも8歳よ?当事私も16歳になってたし、私が教主になってでもその子達を守らなきゃと思って入ったのが始まりね。それにそうすれば、私の後に生まれてくる姫巫女達も守れそうだしね」
その言葉は妙に引っかかった。
「信者のお孫さん達はともかく、姫巫女達を守るって、 そのために清實さんも輝美さんもうちの寺に預けられたんじゃないんですか?」
だからこそ親父の何代前かもはわからない、当事のウチの寺の住職は清實さん達を預かると言い出したのではないのか?
その後結婚することが無くても出家ということにすれば、そのまま実家に帰る必要も無さそうだが。
「ある脅威が無ければそれでも良かったんだけどね」
清實さんは腕を組んで小さくため息をついた。
「脅威・・・?」
「青善寺に預けられてしばらくして落ち着いた頃、大吉さんに頼まれて神社の跡地で昔そこで何があったのか視たことがあるのよ。竹は殺されていたの。別の神人にね」
「・・・・何を視たんですか?」
「竹以外の人間が出払った頃、何人かの人間が尋ねてきたんだけど、その中の若い男が突然どこからとも無く刀を出して竹を斬りつけたのよ。死体は回収されてたわ。それからそいつ等は家の中や蔵を一通り探し回って、いくつかの品物を持って後は全部燃やしてたわ」
「そいつらは、なんなんですか?」
「心あたりが多すぎてわからなかったらしいわ。竹は崇められてもいたけど、同時にいろんな方面から危険視もされていたから」
不意に、蛇神を取り込んだ後雨を降らせられるようになったと無邪気に笑った咲耶の顔が浮かんだ。
もし、咲耶の力も周りに知れ渡れば、竹さんの様に崇められて利用されるか危険視されて殺されるかの未来が待っているのだろうか。
例えば相手の精神に干渉して記憶を書き換える、なんて使い方によってはいくらでも悪用できそうだ。
「そうやって直接殺しに来たり拉致しに来たりする人間もいるから、それに対抗するためには仲間は多い方がいいでしょう?」
清實さんはそう言って笑ったが、つまり清實さんは自分の後に生まれてくるの姫巫女達や、信者のお孫さん達を守るために、昔自分や自分の親戚をさらいに来た人間達を仲間と呼んでいるのだ。
俺は、その心の強さに圧倒されつつも切ない気持ちになった。
「・・・竹さんにはそうやって守ってくれる仲間はいなかったんですか?特別な力を持っていたから崇拝していたとか、そういうただ利用しているだけの人間は除いて」
それまで散々持て囃されて利用されてきたのに、いざという時、竹さんの側には誰一人としておらず、突然尋ねてきた人間にあっさり殺されしまうなんて、寂しすぎる。
そう考えると胸が締め付けられるような思いがした。
「少なくとも私の祖母と大吉さんとご祭神の龍神はそんなの抜きにしても竹を守ろうとしそうだけどねぇ」
清實さんは少し考えるように言ったが、家族はともかく龍神をそれと同列に扱うということは、その龍神は林間学校の時の蛇神の様な、ある程度の力と自我を持った存在だったのだろうか。
「その龍神も竹さんを殺した奴に殺されちゃったんですか?」
「いいえ、もしその龍神が竹が襲われた時、側にいたら返り討ちにしてたんじゃないかしらねぇ、大吉さんや当事を知る籠目教の信者に聞くかぎり、竹に危害を加えようとする奴は片っ端から、家ごと竜巻や土砂崩れで潰したり、呪いをかけたりしてたみたいだから」
なんだその凶暴なご祭神は。
「それじゃあ祟り神じゃないですか」
俺がそう言うと清實さんは不思議そうに首を傾けた。
「あら、知らなかったの?神は祟るものなのよ」
別に祟るのは神だけじゃなく人もだけどね。くすくす笑いながら清實さんはそう続けたが、笑えない。
でも、それなら竹さんが襲われた時その龍神はどこにいたんですか?そう尋ねれば、清實さんは首を横に振った。
「竹のそばにいなかったのよ。大吉さんと龍神が一緒にいたのは視えるんだけど・・・大吉さんが龍神と全焼した神社の跡で立ち尽くしている姿は視えたから、それは間違いないと思うんだけど・・・」
「じゃあ、龍神はその後ずっと大吉さんに憑いていたんですか?」
「・・・・まあね」
清實さんのその答えはどこか含みのあるものだった。
「龍ちゃんは自分の名前の由来とか聞いたことある?」
車が止まり、これから降りると言う時にぼそりと清實さんが言った。
どういうことなのだろう・・・・・・・・・・まさかな。
車から降りると俺の目の前には無駄にでかい純日本風の屋敷があった。
ふと横を見ると手入れの行き届いた庭と庭の真ん中に流れる川があった。
その敷地の全てが絵になっていて、まるでドラマ等に出てくる富豪の家のようだった。
莫大な遺産をめぐって殺人事件が起りそうだ。
「さあさあ着いてきて~」
車から降りて突っ立ったままそんなことを考えていると、清實さんに声をかけられた。
言われるがままに清實さんの後に着いて歩いた。
屋敷の中もまた広く、どこの高級旅館だと言うような内装に、籠目教の懐具合が伺えた。
そうして俺が案内された部屋は、四方襖に囲まれた六畳程の部屋だった。
部屋の中には二つの座布団が置かれており、俺と清實さんはそれに向かい合って座った。
「それじゃあここに来るまでの間に大体のいきさつは説明したわけだけど、龍ちゃんは咲ちゃんを守る力が欲しいのよね?」
もちろんです。と俺は答えた。
「でもあまり時間もかけられないから、長くても一週間、目標は三日で済ませましょう」
まるで夏休みの宿題を片付けるかのような言い方だ。
「・・・そんな短くて済むんですか?」
随分簡単に手に入りそうな話に拍子抜けをした。
「ええ。その代わりものちょっと苦しいけどね。まあ元からあるものを目覚めさせるだけだから、それ自体はそこまで難しいことじゃ無いのよ」
「・・・・・・何をやるんですか?」
何か、清實さんの様子に不穏な気配を感じた。
「まず、これを飲んで頂戴」
そう言って清實さんはラムネに入っているビー玉程の大きさの銀色の玉を懐から出した。
「なんですか?それ」
清實さんはニッコリ笑って答えた。
「毒よ」
飲んだら死ぬわ。と清實さんは続ける。
「まずそれを飲んで死んで頂戴」
次回更新予定は12/20です。




