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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
糸の記憶編
31/71

#28 魂の冒涜

この章には〔残酷描写〕〔15歳未満の方の閲覧にふさわしくない表現〕が含まれております。

苦手な方はご注意ください。

糸を切ろうと薙ぎ払った瞬間、目の前で女の子の腹が破裂した。

僕の前に立ちはだかった女の子はそのまま床に倒れた。

女の子を挟んだ先にあの男が立っていて、なおもこちらに向かって糸を伸ばしている。

「なあ悠人、取引をしようじゃないか。もしお前がここで大人しく引き下がって今まで通り修行に励むのなら今回のことは不問にするし、コレもお前にやろう」

女の子を見ればまだ息はあるものの、大量の内臓が飛び散り苦しそうに咳き込む姿は素人目にももう命は助からないのは明らかだった。

「体が無くても式神にすればずっと一緒にいられるだろう?元々才能も乏しい役にも立たない落ちこぼれだったのだから式神として使役してやったほうがコイツも本望だろう」

僕の視線は今にも死にそうな目の前の女の子から動かせなかったけど、きっとあの男の顔は薄汚い笑みを浮かべていたことだろう。

糸がまだかろうじて息をしている女の子に伸びる。

次の瞬間、僕は糸ごと女の子の首をはねていた。


「これ以上、彼女の、僕達の魂を冒涜するな」




懐かしい夢を見た。体中にまとわり着く汗と体中に響き渡る心臓の音が気持ち悪い。

三年経った今でさえ頻度は少なくなったとはいえたまに当時の夢を見る。

このことについては後悔なんてしていないし、するつもりも無い。

進んで望んだ結果ではなかったが、だったら他にどうすれば良かったというのか。

そう自分に言い聞かせて深呼吸をする。

時計を見ると朝の七時で体を起こすと同時に目覚ましのアラームが鳴った。


顔を洗おうと洗面所に向かう途中、玄関でオルカさんに会った。

玄関先に置いたバケツの中の金魚を眺めていた。

「あ、おはよう悠君、今この子達の名前を考えてたの紅白の方が寿ことぶきで黒い方がそうなんてどうかしら?」

寿はともかく喪はないだろうと思いながらもいいんじゃないかと相槌を打つ。

彼女はすっかり昨日祭りで取ってきた金魚が気に入ったようだ。

「昨日調べたんだけど、金魚すくいの金魚って大体一ヶ月くらいで死んじゃうことが多いみたい。それを超えられると長生きするらしいんだけど。この子達は大丈夫かしら」

オルカさんそう言って心配そうに金魚を見た。

僕は超えられるといいねとだけ返して顔を洗いに行った。

昨日はオルカさんがあんまりあの金魚を欲しがって動かないから取ってみたけれど、こんなにこの金魚を気に入っているのならこれは案外使えるかもしれない。


昼過ぎ、駅前で鈴木先輩を待つ。

今日はこの前雛月によって大変なことになってしまっていた人形を人形供養の寺に持っていく約束だ。

もっとも、それは口実に過ぎないのだが。

時間ぴったりに現れた鈴木先輩は当たり前のようにすぐ僕を見つけた。

昨日よりも念入りに不可視の結界を施したのに。

「私にはもうそれ効かないわよ。もうパターン憶えちゃったもの」

得意気に鈴木先輩が言った。やはりこの人は侮れない。

僕は仕方なし不可視の結界の札を破り、僕と鈴木先輩の間に新しく限定聴取の結界を張った。


「今度はどんな結界を張ったの?今回は私も入っているけどさっきのとは少し違うわよね?」

結界を張るとすぐに鈴木先輩が反応した。

「周りの人に僕達の話の内容を聞き取れないようにしました。言葉が理解できないだけで声は聞こえる状態なのではたから見ても不自然には見えません。内緒話には便利でしょう?」

「そんなこともできるなんて、柿芝君は器用ね~」

笑いながら術をただちょっと便利なことの様に受け止められるのはなんだか新鮮な気がした。

今まで受けてきた物とは全く違う反応に奇妙な嬉しさを感じた。


「・・・悠人でいいですよ」

「なら私も咲耶で良いわ」

じゃあ行きましょうか、そう言って僕達は僕の指定した寺の有る駅まで向かう電車に乗った。

目的の駅までは乗り換えは無いが快速でも一時間かかる。

電車の中は結構空いていて簡単に並んで座ることができた。


「さて、何で電車でも結構かかる場所にある寺に郵送することもできるのにわざわざ足を運ぶのかは帰りにでも聞くとして、せっかくだから色々と悠人君のこととか知りたいわ」

咲耶さんがニッコリと笑った。

「僕も咲耶さんのこと色々知りたいです」

僕も笑って返す。お互いの力の程はまだわからない。

しかし、学校に張り巡らされていた術や周囲の人間への影響力の強さを考えると、少なくとも彼女は僕が出会ってきた中でも最も強い部類に入るだろう。


前に邦治さんが言っていた魂と肉体と精神全ての力を覚醒させ進化した人間、神人なのかもしれない。

だとしたら僕は今初めて自分以外の神人と会っていることになる。

彼女は僕と仲良くしたいと言っていたが、自分の力のほとんど通用しない相手、しかも相手の力が未知数ともなれば結局こうして上辺を繕いながらお互いの腹を探り合うしかない。

僕も今後のためにも彼女協力関係が築けたらとは思うが、そのためにはリスクも伴う。

しかし、そのリスクを考えても得られる物は十分に大きいだろう。


「悠人君、この前私を呼び出す手紙くれた時、便箋に変な模様が入っていたけど、あれって手紙を出した相手への印象を操作するものじゃない?」

やっぱり言ってきたか、と心の内で呟く。

咲耶さんと二回目に会った時には既に術は破られていたのでいつかそのことについて言われるのではないかとは思っていた。

とりあえずここはあえて開き直る。

「まあ手紙を読んでも捨てられて無視されれば終わりですし」

「その答えは肯定と取るわよ。雛月が急に悠人君になついたのも同じ理由かしら?」

やはりこちらもばれていたようだ。

もしかしたら僕は泳がされていたのかもしれない。


「そうですが、僕に対する印象以外には特にいじってませんよ。それに、会って10秒も待たずに正面から同じ事をしようとしたのは誰ですか?」

非難される前にこちらの言い分も言っておく。

結局、僕も咲耶さんも相手に対して最初にやろうとしたことは同じなのだ。

「違うわ。私は悠人君の意識に干渉して人となりを知りたかっただけだもの」

咲耶さんが憮然と答える。

「・・・あれでどうやって相手の人となりを視るんです?」

「意識?というか魂を同調させて相手になったつもりで記憶を思い出そうとすると大体相手のことは視えるわ。鞠亜や龍太ならそれもできるんだけど・・・」

その言葉に一瞬ドキリとした。僕の周りには常に三重の結界を張っている。

一つ目は相手が僕のことを霊視しようとした時に視ることができないようにするもの。

二つ目は霊視しようとした相手に偽の情報を視せるもの。

三つ目は霊的な力を使って僕を探し出そうとする人間は僕を認識できなくなるものだ。

しかし、もし咲耶さんが今言ったように目の前にいる相手と魂を同調させてさらに操作することができるのなら、それも意味がなくなってしまうだろう。

相手になったつもりで相手の記憶から何から視られるというのなら、僕のことが気に入らなかった場合、そのまま僕の意識を乗っ取ることもできそうだ。


「でもやっぱりある程度防御の心得がある人には全然効かないわね」

肩をすくめる咲耶さんを横目に護法の心得があって本当に良かったと思った。

気を取り直して話をそらすつもりで咲耶さんの話から一つの推論を上げてみる。

「それもありますが、たぶん咲耶さんが二人を小さい頃からずっと知っているというのも大きいと思いますよ。昔から一緒にいる分、魂の親和性も高いんじゃないでしょうか」

「ああ、それはあるかもしれないわね。二人のことは小さい頃から知っているせいか何考えてるのか手に取るようにわかるし、鞠亜にいたっては、視える物を視えないようにしたり魂レベルでの干渉が他の人に比べてとてもしやすいわ。龍太は最近変なお守りをつけるようになってそこまで深くは干渉しずらくなったけど」

思った通り、幼なじみ二人は既に咲耶さんからの影響を強く受けていたようだ。

高尾先輩のお守りと言うのはあの数珠のことだろう。

恐らくは寺の住職でもある彼の父親がつけさせた特別な物なのだろう。

やたら強固な力が篭っていて下手に触るとめんどくさそうだったので触らなかったが、それで正解だったようだ。



話をしていると簡単に時間は過ぎるもので、気がつけばもう目的の駅はすぐそこだった。

「ねえ悠人君、寺で用事とお願い事済ませたらその目的とか教えてくれるかしら?」

駅に降りた時、咲耶さんにそう聞かれたのでもちろんですよと答えておいた。

目的の寺までは迷うことも無くスムーズに着き、僕達は寺の境内に足を踏み入れた。

寺の中は閑散としていて僕達しかいないようだった。

本殿にはずらりとあちらこちらから持ち込まれたのであろう人形が並んでいる。

中々におあつらえ向きで、オルカさんのオカルト情報もたまには役に立つんだなと思った。

「では境内に着いたことですし、本当の目的を話したいと思います」

僕は咲耶さんに9センチ四方の木箱を渡した。

「これにこの境内にいる全ての人形の中身を入れちゃってください。雛月を見る限り、魂を取り込んだり再構成して出したりするのは得意でしょう?」


「・・・この前の人形、20センチ以上はあったと思うんだけど」

咲耶さんはすぐにその中身に気付いたようだ。

「中身はとっくに雛月の餌になっているのでそれはただの抜け殻ですよ」

「悠人君はその抜け殻に中身を詰めて、何をしたいのかしら」

もっと不機嫌になるかと思ったけれど、咲耶さんは意外と落ち着いていた。

「中身の意識を統合して守護霊を作ります」

「それは、誰のための?」

「オルカさんですよ。あの人は普段から危なっかしいし、この先僕が迷惑をかけるかもしれないので」

「・・・わかったわ。とりあえずこの寺中の人形の中身をこの箱に詰めてあげる。ただし、後で詳しく理由を聞かせて頂戴」

どうやら咲耶さんも最初から僕が人形の供養なんかする気がなかったのを薄々気付いていたようで、あっさり了承してくれた。


「出てきなさい、文月ふみつき

咲耶さんがそう呟くと、赤い目をした大きな白い蛇が咲耶さんの体に巻きついた状態で現れた。

これは、ニシキヘビ位の大きさだろうか。

「なんですか、それ」

「最近拾った蛇神よ。文月、お願い」

咲耶さんがそう言って白蛇を撫でながら言うと、本殿の中にある人形に沢山の小さな白蛇達が巻きついているのが見えた。

「境内の中ということは、本殿の中にある人形や離れに安置されている我の強い人形もだろうか?」

「ええ、できるかしら」

「もちろん、この程度なら一瞬で終わる」

「頼もしいわね」

咲耶さんはそう言ってマフラー状態で巻きついている白蛇を撫でた。


蛇はすぐに境内全ての人形の中身を食い尽くしたらしく、しばらくすると咲耶さんに巻きついている蛇は咲耶さんが左手に持っていた箱を尻尾でつつき終わったと言った。

箱に視線を向けると確かに中に人形の魂が蠢いているのがわかった。

「ありがとう。もう戻っていいわよ」

咲耶さんがそう言うと大きな白蛇は素直に消えた。

「咲耶さんは雛月以外にも自分の使いを持っていたんですね」

「まあ、下僕その二ってところかしらね」

その表現は結構意外だった。

その二ということはその一もあるということで、雛月のことだとわかるが咲耶さんは普段から雛月のことを自分の分身だと言っていたのでもっと特別視というか、自分と同等のように扱っているのかと思っていた。

式神も上下関係をはっきりさせておかないと後々大変な事になるのはよくあることなので、なんだかんだ言っても咲耶さんがそのあたりのことはしっかり弁えているのがわかって好印象だった。


「ところで、悠人君はこれでどうやってオルカの守護霊を作るの?」

帰り道、咲耶さんが僕に箱を渡しながら尋ねた。

「今考えているのは、金魚に人形達の魂を移植して金魚をいたく気に入っているオルカさんになつかせて守護霊にする方法ですかね」

「金魚って、魚でしょ?そんな感情なんてわくの?」

咲耶さんが不思議そうに首を傾げる。

「新しく魂を上書きするにはむしろ何も無い方がやりやすいんですよ。それに、元々金魚すくいの金魚は早死にしやすいらしいですし、オルカさんが飽きずに熱心に世話をしているうちに死んでくれれば、捨てられた人形達の願望も叶って好感度MAXの間に化けさせればいけると思います」

「そんなものかしら。完成したら見せてね」

咲耶さんが僕の顔を覗き込むように体を傾けながら笑う。

「成功したら常にオルカさんの周りをうろうろさせるんですぐわかると思いますよ」

なぜだか少し楽しくなっている自分に少し驚いた。


「ねえ、悠人君さっき『この先僕が迷惑をかけるかもしれない』って言ってたけどどういうことかしら?」

駅で電車を待っている時、咲耶さんが言った。

「両親が死んだ後母方の遠縁の柿芝の家に引き取られて、その家があんまり田舎で周りに学校が無いものだから、今はオルカさんの家に下宿させてもらってるんですけど、その家どうもきな臭いんですよ」

この先、咲耶さんにも迷惑をかけるかもしれないので今のうちに説明しておいた方がいいだろう。

「きな臭いって?」

「大雑把に言うと、僕の今までの人生における艱難辛苦かんなんしんくの大部分はこの家の、というか僕を引き取った70過ぎの義理の父の陰謀なんじゃないかという疑惑があります」

「ごめん、大雑把過ぎてわからないわ」

色々あるけれどどこから説明していいのかわからないので結論から先に言ったら、返ってわかりにくかったようだ。

ちょうど電車も着たので席に座って説明をすることにする。


「ええっと、どこから話したものでしょうか・・・」

「最初から全部。長くなってもいいから」

「・・・・長い上に重いですよ?」

「その話を聞きたいのよ」

咲耶さんは真剣な眼差しで僕に事情を話すよう促した。





僕の家は陰陽師の家系でした。

と言っても、それは僕のおじいさんの代までで、僕の家は普通のサラリーマン家庭でした。

兄はそうでもなかったんですが、僕はその血を強く受け継いだのか昔から色んなものが視えていました。

幼稚園の時、テレビで陰陽道の力を駆使して戦う戦隊物の番組を見たんですが、その時そのレンジャーの術を真似してやってみたんです。

式神を召喚する術だったんですけど、できちゃったんですよ割と簡単に。

現れたのは僕と同じくらいの背丈の鬼でした。気を良くした僕は、父と母に隠れてそいつとよく遊ぶようになったんです。

まあそれだけなら小さい頃よくあるイマジナリーフレンズとなんら変らなかったんですが、やがてそいつは僕にあれこれと指図するようになったんです。


玄関にあるあの札は気に入らないから燃やせだの、部屋にゴミを撒き散らせだの、どれも小さな事ですが聞けないことばかりだったので拒否したら、途端にその鬼は不機嫌になって家の中で暴れだしたんです。

食器を片っ端から割ったり、本棚をたおしたり、当時吊り下げるタイプだったリビングの電灯を床に落としたり、とにかくやりたい放題でした。

その間消えてたはずのテレビのチャンネルがひっきりなしに変っていたのも僕の恐怖心を煽りました。

とにかく恐くて僕が泣き出した時、それを止めてくれたのは父でした。

父は暴れまわる鬼を無言で殴って黙らせた後、柱に鬼を縛り付けました。

僕が泣きながら事情を説明すると父は僕が術に使ったお札、と言ってもチラシをちょうどいい形と大きさに切って裏にそれらしい模様を描いてだけなんですけど。

それを鬼の前でなにやら小さな声でブツブツいいながら燃やし始めました。

すると鬼は足元からみるみる燃えていき、最後には消えてしまいました。


父はその時僕のことを心配してくれましたが、同時にとても叱られました。

無闇に式神を作り上下関係もはっきりさせないまま好き放題やらせていたのでは式神になめられて命令も聞かなくなるし、何より未熟な状態でそんなものを扱おうとすれば最悪自分の方が飲み込まれてしまうと言われました。

父は陰陽師ではありませんでしたが、父も視える人だったので祖父から最低限自分の身が守れるように陰陽道の心得を教わっていたそうです。

そうしてその日から僕は少しずつ父に自分の身を守るための陰陽道だけに留まらず色々な事を習いました。

父も厳格に陰陽道の修行をしたことが無い人だったのでベースは陰陽道でも教えてもらった事もほとんど父の自己流の物が多かったと思います。


実際父からそれらを教わる時、僕は修行と言うよりは遊びと捕らえていました。

特に荒行などを行うことも無く、休みの日に兄を差し置いて父を独り占めできる時間が当時は楽しみでした。

しかしそれも一ヶ月もすれば父から教わる事は何も無くなり、それ以降は父から教わった事を元に新しく術を考えては父に披露していました。

そんなある日、家に一人の男の人が尋ねてきました。

その人は父の家の大元の本家の当主に当たる人で、明火一弥あきほひとやと言う人でした。

僕の家の苗字も同じで紛らわしいので以降彼のことは一弥と呼びますね。

一弥の顔は親戚の集まりで何度か見ていたので僕も両親も特には警戒していなかったように思います。

「この家に神が降りてくる夢を見ていても立ってもいられずやって来た」

とか言っていたような気がします。


ちょうどその時僕は前日見たカンフー映画に影響されて庭で強い気をこめた拳を空に放って遊んでいたところでした。

イメージ通りにできて上機嫌になっているとその一弥が驚いた様子で駆け寄ってきました。

一弥は一通り今僕がやったことについて褒めた後、悪い鬼がやってきて襲われた時、僕ならどうやって身を守るかと聞きました。

僕は褒められて得意になっていたので、一弥がこれに向かってやってみてと言って出したお札に最近自分が考えた護身の法を披露しました。

加えて基本的な護身の法を知っているかと聞かれたのでこれも父に一番最初に習った基本的なものを披露しました。

一弥は大層それに感心した様にまた僕を褒めちぎりました。


その後、立ち話もなんだからと両親は一弥を家に入れました。

一弥の持ってきた菓子折りを食べながら話を聞くと一弥の家、つまり本家はまだ陰陽師として活動しているらしいのですが、どうやら現当主である一弥さんには子供がいないらしく僕のように才能の溢れる子なら是非養子として引き取って跡取りにしたいと言われました。

普通に考えて色々つっこみどころ満載なんですが、なぜかその時両親はそれをとてもすばらしい申し出のように感じたようでした。

当の僕もそれがどういう意味なのか全くわからなかったのに二つ返事で「一弥さんの所に行きたい!」と言って両親にせがんでいました。

今考えるとこの時点で僕ら家族はまんまとこの人の術にかかっていたんだと思います。


不自然に話はとんとん拍子に進み、最初に一弥が家に来たその日の内に僕は一弥の所へ養子に行くことが決まり、次の週には僕は荷物をまとめて一弥の家に住んでいました。

一弥の家は無駄に広い純和風の屋敷で、親戚の集まりで何度か行った事はありましたがその都度トイレに行こうとして迷ったり帰ろうとして迷ったりしていたのであまりいい印象は無かったのですが、養子として迎え入れられて初めて門の前に立ったとき、なぜかその家が自分の家になることが嬉しかったのは今でも憶えています。

明らかにおかしいですよね。

でも当時は僕も含め誰もそうは思わなかったんです。


その家には僕以外にも三人の子供が分家から養子に貰われてきていました。

僕より一つ上の女の子の美琴みこと、同い年の那照くにてる、二つ年上の速彦はやひこ三人とも僕と同じように一弥にその力を見込まれて迎え入れられたようでした。

僕達にはそれぞれ日常の世話をする使用人が付けられました。

と言っても四人とも僕らとせいぜい三つ四つしか歳の変らない子供でした。

美琴に一番歳が上そうな、三と言う男の子が、早彦には六、那照には八、僕には九と言う女の子が着きました。

そして僕が家に着いたその日の夜、一弥は僕らに言いました。

「君達は四人共甲乙付けがたい才能の持ち主だが、これから君達にはその才能を伸ばす修行に励んでもらう」


その日僕らに用意された夕食は一杯の白粥だけでした。

それから毎食ごとに粥の中の米は減っていきいき食事も一日三食から一食になり最後には一日一食、糊状態の汁を啜るだけになりました。

しかし僕らはそのことについて特に何も不思議にも思わず、当たり前のようにそれを受け入れていました。

後は毎日行水代わりに滝に打たれたり、複雑な模様の絵の上にを紙を重ねてなぞって描いた物を百枚描いたり、座禅を組まされたりさせられました。

それにも一日中に終わらせるノルマがあって、それを終わらせれば余った時間は比較的自由で、折り紙やガラス玉などのおもちゃは沢山用意されていたのでそれで好きに遊んだり書斎にある本を読んだりしてました。

最初は特に気にしてはいなかったんですが、一月も経つと那照の体がすっかり痩せ細り、とうとう彼は倒れました。

僕らが一弥にそのことを報告すると那照は遠くの病院で療養させると言うことでそのまま家の人達に運び出されて行きました。

その日以降の食事、と言っても糊なんですが、しばらくの間とてもおいしい物になりました。

なんというか、動物系のだしが利いていて。

次回更新予定は11/29です。

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