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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
糸の記憶編
30/71

#27 人形救い

「結局、あの後、呪いの人形はどうなりました?」

明日には咲耶が帰ってくる昼下がりの俺の部屋、柿芝が鞠亜と雛月に尋ねた。

鞠亜が呪いの人形を買ってから、俺は毎日鞠亜と柿芝と会っていたのだが、その間鞠亜と雛月からあの人形のことは全く聞かなかった。

「う~ん、あんまり上手くはいってないかな・・・」

雛月は珍しく自信がなさそうに口篭った。

「今朝、夢にあの人形が出てきて、必死に助けを求められました」

「あ~・・・鞠亜に寄ってきた悪霊とかを取り込ませたり、思考とか記憶とかいじったりしてたから・・・・」

雛月が気まずそうに視線を逸らしながらおずおずと答える。

「・・・・・・その人形は今どこにありますか?」

柿芝の声が少し低くなった気がした。

「今は、私の部屋に」

鞠亜が申し訳なさそうに答えた。

「今からそれを見せてもらってもいいですか?できれば今の部屋に置かれた状態のままで」


俺達はその後全員で鞠亜の家へと向かった。

鞠亜の部屋の前で片付けるから待ってて、と待たされている間柿芝に尋ねた。

「なあ、そんなにヤバイ状態なのか?」

「実際に見てみないとわからないですけどね」

柿芝は呆れたような顔で答えた。

その様子を見てそこまで深刻なものではないのかもしれないと思った。

「高尾先輩は、最近天野先輩の家に来たことはありますか?」

「いや、最近は全く。ただ鞠亜が呼び込んでしまう悪霊が家に住み着いて大変だから親父が定期的に結界を張ったりしてるとは聞いた」

「その結界、無効化されてますよ」

柿芝がなんでもないような口調で言った。


「は!?何言ってるんだよ、でも家の中には何も・・・」

「家の中には何の気配も無いですよね?でもそれらが入ってこれないように守っているであろう力も感じないんです。たぶん雛月がまとめて取り込んだんだと思いますよ」

俺の方を向いた柿芝と目が合った。

「なんでそんなことになってるんだよ・・・」

「さあ?邪魔だったんじゃないですか?実際この家に入ってくる悪いものなんて大部分は天野先輩が目的なんですから、雛月が天野先輩に張り付いて随時寄って来る物を取り込んでいれば家の結界なんて必要ないんですよ。天野先輩が家にいる時は雛月も一緒にいる訳ですし。ところでこの部屋の中には何がいるんでしょうね」

柿芝はそう言って鞠亜の部屋のドアへと視線を移した。

『鞠亜に寄ってきた悪霊とかを取り込ませたり、思考とか記憶とかいじったりしてたから・・・・』さっき雛月が言っていた言葉が気になってしょうがなかった。


「ごめんね、少し手間取っちゃった。入って」

しばらくすると鞠亜が少し申し訳なさそうに笑いながらひょっこりとドアから顔を出した。

部屋に入って先ず最初に気づいたのはびっくりするほど何も感じないことだった。

「人形はね、クローゼットの中に入ってるの」

そう言って鞠亜は窓の反対側にあるクローゼットを開けた。

しかしクローゼットを開けても俺は何も感じなかった。

「人形はこの中だよ。開けても出ないようにしてるから大丈夫」

と雛月がクローゼットの隅に置かれた靴箱を指した。

この靴箱からも何も感じない。

「じゃあ開けます」

柿芝はそう言うと靴箱の蓋を開けた。


それを覗き込んだ瞬間、俺はなぜか急に気持ち悪くなりその場にへたり込んだ。

吐き気が込み上げてくる。

「高尾先輩、吐くならトイレでしてください」

「なん、だよそれ」

何とか吐き気を押さえ込みながら箱を見ないようにしつつ言葉を搾り出した。

「ただの人形ですよ。もっとも、色々無理にに融合させられたりいじられたりしたせいで中身が酷いことになってますが」

「えっ、えっ、これってそんなに大変なことなの?」

俺達の反応を見て鞠亜が急にうろたえ始める。

なんで鞠亜はコレを見て平気でいられるんだ。

こんな見た瞬間に苦しみならがら助けを求めて蠢く沢山の声と人かどうかもわからない生き物の姿が頭の中で再生される物を。


「大丈夫。鞠亜には視えてないよ。視えない様にしてるから」

雛月が俺の前にしゃがんで言った。

「龍太もそんなに辛いなら視えない様にしてあげたいけど、最近龍太にそういうことしようとすると弾かれるからできないんだ」

不満そうに雛月がそう続けた。

「いや、いい。ちゃんと自分で受け止める。どんなものが視えても聞こえても自分で受け止めるから」

そうだ。こんなものが視えた位でひるんでたら、きっとこの先鞠亜にも咲耶にも向き合えなくえなくなる。そんな気がする。

こんな時こそ自分を強く持たないでどうするんだ。

「無理は良くないですよ」

柿芝が俺の方を振り返り茶化すように言った。

「うるせぇ、少なくともお前も雛月もそのまま視てるのに俺だけ後ろで目をそらしてるなんてできるか」

「まあいいですけどね」


「もうこれ以上酷くなる前に取り込んだほうがいいと思うんだけど、雛月だけでできる?」

「・・・ちょっと難しいかも。でも明日咲耶帰ってくるし、その時でも良いかなって」

「あんまりこの状態で長く置いとくのも可哀想だから僕がやるよ。自分達から大人しく進んで取り込まれることを望むようにすればいい?」

「うん、そこまでやってくれればこの前の蛇神の時と同じ要領でできると思う」

雛月のその言葉を聞くと柿芝は雛月の頭をガシッと力強く掴んだ。

「それは良かった。でも今回のことは反省しようか」

そう言う柿芝の目は据わっていた。

「う、ご、ごめんなさい」

雛月もそれに気圧されたのか謝罪する。


「それはこの子にも言ってあげてよ」

柿芝はそう言うと箱の中に手を伸ばした。

「・・・・・・・・・」

柿芝は箱の中の人形に意識を集中しているようだった。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

しばらくすると部屋中に小さい子供のような泣き声が響き渡った。

やがて柿芝の前に小さい女の子が現れた。

ピンクのワンピースのすそを握り締めて泣いていたのははこの中にあった人形を大きさをそのままの状態で人間にしたような女の子だった。

柿芝がバトンタッチとでも言うように雛月に目配せをして女の子の前から下がった。

雛月は女の子の前に来ると、壊れ物を扱うように丁寧に両手で救い上げた。

「ごめんね」

そう言って雛月は人形を胸に抱いた。途端に女の子は雛月に抱きつくと吸い込まれるように消えていった。

箱の中を覗くとさっきと同じように着せ替え人形が入っていたが、さっきのような地獄絵図が視えることは無かった。




「ということで鈴木先輩、明日一緒に人形供養の寺に行きましょう。ついでにその時保留にしてた僕の頼みも聞いてください」

それと人形はまた何かされると可哀想なので明日まで僕が預かります。と柿芝は付け加えた。

雛月が人形を取り込んだ翌日、俺達はお土産を渡したいからと呼ばれた咲耶の家でこの呪いの人形に関する事の顛末を話した。

咲耶はその話を聞くとすぐに柿芝に謝罪と感謝の言葉と述べ、現在に至る。

「わかったわ。今回は迷惑かけたし、元々私がいない間鞠亜と雛月のことを頼む代わりに柿芝君のお願いを聞く約束だったもの。ところで、頼みって私は何をすればいいの?」

「境内に着いたら教えます」

柿芝がそう答えると二人の間にしばらく沈黙が流れた。


「そう、わかったわ。ところで、柿芝君この後は暇かしら?夕方町内会のお祭りがあるのだけど、良かったら柿芝君も一緒に行かない?」

少し間が開いた後、咲耶は急に元気良く柿芝を今日の夏祭りに誘った。

昔から毎年3人で一緒に行っていたので俺達の間では何も言わなくても一緒に行くのはすっかり当たり前になってしまっている。

「すいません、先約があるので。もしかしたら会うかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」

「あら残念。でも柿芝君にも付き合いがあるものね。この一週間ずっと柿芝君をつきあわせてしまってごめんなさいね」

「いえ、僕も得るものはありましたから。それでは今日はこれで失礼します」

そう言って柿芝は帰っていってしまった。


「ところで鞠亜、私がいない間雛月を鞠亜の側に置いておいた訳だが、例の睡眠障害の様子はどうだ?」

柿芝が帰ってしばらくした後、急に咲耶が真剣な顔になって鞠亜に言った。

「あれ、そういえば、私一度も倒れてないや」

鞠亜が今気づいたように首をかしげた。

「なら良かった。鞠亜さえ良ければ、これからも雛月を鞠亜の側に置いておいても良いだろうか?その方が鞠亜も安全だと思うが」

「え、良いの?私はもちろん大歓迎だよ」

「それは良かった」

咲耶がにやりと笑う。


「ちょっと待てよ。それホントに大丈夫なのか?もしまたこの前みたいに・・・」

俺はそう言いかけて口をつぐんだ。

少なくともそれは鞠亜や雛月の前でするべき話ではない。そう思った。

「対策なら既にいくらかしてある。それに、背に腹は代えられん」

対策と言うのは雛月にかけたロックのことだろうが、しかし一体何に対して背に腹は代えられないのだろう?

「とにかく、浴衣の着付けの時間もあるし今日はこれで解散しましょ。六時にいつものところに集合ね」

咲耶はそう言って話を終わらせると、俺は家から追い出されてしまった。

鞠亜とはお互いの髪を結う手伝いをし合うらしい。

・・・なんだこの話させてもらえない感は。



待ち合わせの時間にいつも咲耶達と鞠亜と待ち合わせる公園で待っていると、少し遅れて浴衣を着た二人が現れた。

鞠亜は去年と同じ朝顔の柄の浴衣だったが、咲耶は去年とは違う桜柄の浴衣を着ていた。髪も前髪を分けて額を出し、後ろの髪も一つにまとめている。

「咲耶は浴衣新しくしたのか」

「ええ、中学生にもなって金魚柄なんて子供っぽいもの」

咲耶は不機嫌そうに言った。

どうやら去年屋台のおじさんに俺の妹と間違えられたのをひきずっているらしい。

「いいんじゃないか。今年は妹と間違えられないと良いな」

そう言って咲耶の頭を撫でてからかってみると、咲耶から顎に頭突きをされた。

しかし、咲耶はこうして額を出すと本当に輝美さんに似てる。

あと何年かして咲耶の背ももう少し伸びたら生き写しのようになりそうだ・・・

その時不意にとても懐かしいような感覚に襲われたが、結局何がそんなに懐かしいのかわからなかった。


この夏祭りは毎年町内会が地元を盛り上げようと企画しているもので、駅前の商店街でもそれに合わせてイベントをやったり、近所の公園でも屋台が沢山出たりと毎年賑わっている。

今年は喉自慢大会も開催するようで、親父が司会をすることになり張り切っていた。

「修司君やオルカちゃんも一緒にこれたら良かったのにねえ」

鞠亜がわたあめを食べながら呟く。

「まあ修司は夏休みの間中父方の家にいるらしいし仕方ないな。早瀬は他の奴と行くって言ってたしどっかで会うんじゃないか?」

修司は夏休み前の家出騒動の後、父方の祖父母の家のある長崎で親族会議という名の説明会が開かれるらしく、夏休みの大部分はそちらで過ごすことになるらしいと話していた。

事情が事情だけに直接会って話をしたいのだそうだ。

しかし当人である両親だけでなく、更にそこに祖父母まで出てくるなんてよっぽど複雑な事情があるのだろう。


「そうだね~そういえば、柿芝君も先約があるって言ってたけど、案外オルカちゃんと来てるのかもしれないね~」

「・・・探せば見つかりそうね」

鞠亜の言葉を聞いて咲耶はイタズラを思いついた子供のように笑った。

「どうせなら、気づかれずに見つけたいわよね。雛月」

「はいはーい」

雛月は咲耶に呼ばれて現れたかと思うとすぐに咲耶と一体化してしまった。

咲耶は目をつぶるとしばらく何かに集中しているようなそぶりを見せた後、おもむろに左手に持っているりんご飴で左斜め前の方向を差した。

「見いつけた」

そう笑う咲耶の顔はまるで獲物を狙う狙撃者のようだった。


咲耶は金魚すくいの前まで行くと、パンという音を立てて手をたたいた。

すると、不意に金魚すくいの前で浴衣を着た早瀬と柿芝の姿に気付いた。

今まで何で気付かなかったんだろう。

「また破けた・・・」

「ルカちゃん、もう五回目なんだからいい加減諦めたら?」

「うう、でもあの赤と白のひらひらなの欲しい・・・」

どうやら早瀬はもう五回金魚すくいに挑戦し、失敗しているらしい。

悔しそうに早瀬が金魚の入ったプールを覗き込む。

「おじさん僕にもポイ一つください」

柿芝はそう言って屋台のおじさんに百円を渡し、ポイを受け取るとあっさりと金魚を掬い上げた。


「わあ!悠君すごい!次はあの黒いのとってよ!」

その様子を見て早瀬は嬉しそうにまた次のリクエストをする。

そしてまた柿芝がその黒い金魚を掬い上げる。

「じゃあ次はね~」

「あ、破けた」

早瀬が次の注文を付ける絶妙のタイミングで破れたポイを見せる柿芝の顔は笑っていた。

「今、わざと破いたでしょ」

「二匹もいればもういいでしょ。はい」

柿芝はめんどくさそうにしながらも金魚が入った袋を早瀬に差し出した。

「まあ欲しかった子も手に入ったしいいか。ありがとう悠君」

そうして二人でどちらとも無く笑いあいながら次はどこへ行こうかと話し合いながら振り向いた。

と同時に一部始終を見ていた俺達と目が合った。

柿芝は一瞬驚いたように目を見開いた。


「あれ、咲耶に鞠亜、それと高尾君もいる」

真っ先に口を開いたのは早瀬だった。

「偶然ねオルカ、そっちが例の悠人君?」

わざわざ探し当てて後ろから見てたくせに白々しく咲耶が今気づいたかのように話す。

「そうだよ~紹介するね、こちら私の従弟の悠人君。悠君、向かって右から鞠亜ちゃん咲耶ちゃん高尾君。三人とも私と同じクラスなの」

「・・・初めまして、柿芝悠人です」

どうやらここは完全に初対面の体で行くらしい。

まあ、実際知り合いだったことがわかった時に何繋がりかと問われるとあまり早瀬には話したくないのは俺も同感だ。


「よろしくね~、ところでルカちゃんって呼び方可愛いね。私もそう呼んでいい?」

鞠亜もそんな空気を感じ取ったのか柿芝とは初対面を装いつつ別の話題を振る。

「いいよ~じゃあ私もまりりんって呼んでいい?」

「えぇ、恥ずかしいよう」

「じゃあマリアーヌは?」

「あんまり変ってないよ~!」

「全然違うよ~咲耶はどっちがいい?」

「恥ずかしさは変わらないよ!」


鞠亜と早瀬はしばらくキャッキャと言い合った後、咲耶に話を振った。

「ここは間を取ってマリアンかしら」

咲耶が神妙そうな顔を作りながらわざとらしく腕を組んで答えた。

「咲耶ちゃんまで~」

「あはは、じゃあそれにしましょ。それじゃあね咲耶、高尾君、マリアン」

早瀬はそう言って笑いながら柿芝と人ごみの中に消えていった。


「想像以上に仲良さそうだったな」

並んで歩く二人の後ろ姿を見ながら呟く。

「そうね、ちょっと安心したわ」

そう言う咲耶の顔はなぜか何かをやり遂げたかのように爽やかな笑顔だった。

いつかの白い人をどこかに引きずって行って戻ってきた時の輝美さんの顔を髣髴とさせる。


「なんだか嬉しそうだな」

「まあ今日お祭りでやりたかったことの半分はできたもの。後はひたすらこのお祭りを楽しむだけよ」

「やりたかったことの半分って、柿芝と早瀬を見つけただけじゃないか」

「その柿芝君を本人に気づかれずに見つけることに意味があるのよ」

どういうことだよ?俺がそう聞こうとした時には咲耶はヨーヨー釣りの屋台に行ってしまった。

・・・・柿芝に気づかれず柿芝を見つけることに何か意味があるのか?

前に中村さんが柿芝を探そうとしてもどうしても本人を見つけられなかったと言っていたが、まさか柿芝が普通に探したら絶対に見つからないような術でも使ってたとでもいうのだろうか。


だとしても何のためにだ?




次回更新予定は11/22です。

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