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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
糸の記憶編
28/71

#25 呪いの人形買っちゃった☆

翌日の昼下がり、俺は家の近くの公園で鞠亜と待ち合わせをしていた。

昨日の夜鞠亜から電話があり、明日は行きたい所があるので良かったら一緒に行かないかと誘われたのだ。

鞠亜と待ち合わせして出かけるなんてデートみたいだな、なんて考える。


・・・どうせ雛月もいるのでそんな雰囲気には間違ってもならないことはわかっているが。


この暑い中鞠亜を待たせてはいけないと思って早めに家を出たら、待ち合わせ時間の20分前に来てしまった。


することもないので木陰のベンチに座って携帯をいじりながら待っていると前に人の気配がした。

鞠亜かと思って顔を上げるとそこにはコンビニの袋を持った柿芝がいた。


「おはようございます。高尾先輩」

俺は柿芝とあいさつを交わしながら、あの誘いはみんなで遊ぼう的なものだったんだなと悟った。

甘酸っぱい気持ちは一気に冷めていった。

柿芝は俺の隣に座るとコンビニの袋からアイスを取り出した。

それは真ん中から二つに割って食べるタイプのアイスで柿芝はその半分を俺の方に差し出してきた。

「まだ待ち合わせの10分前なのに、いつ頃来たんですか?」

柿芝からありがたくアイスを受け取りながら、一人早く来すぎたのがなんだか恥ずかしくなったので適当にごまかした。


「ああ、俺もついさっき来たんだよ」


「そうなんですか。ところで、高尾先輩は天野先輩が好きなんですか?」

いきなりの柿芝の発言に、俺はむせた。

「な、なんだよいきなり」

むせながらも返事をすると柿芝がわかりやすいですね~と笑った。


ほっとけ!

俺は柿芝を軽く睨んだ。


柿芝は俺の態度をさらりと受け流し、言葉を続ける。

「先輩達三人は幼なじみで小さい頃からずっと一緒なんですよね?」

「・・・そうだけど、それがどうかしたか?」

「先日、鈴木先輩の家に行く時家の前でばったり会いまして、その時に天野先輩から宣戦布告を受けたんです」

あっちこっちで宣戦布告しすぎだろう鞠亜・・・

「でも高尾先輩はどっちかと言うと天野先輩の方が好きそうだなって思ったんですよ。毎日天野先輩と会う口実ができた時、嬉しそうでしたし」

確かにそれは嬉しかったが、自分ではポーカーフェイスのつもりだったのでそれを指摘されるとかなり恥ずかしい。


「これで鈴木先輩が高尾先輩のこと好きで、三角関係が一周したら面白いのにな~とか思っただけです。」

「何だよその昼ドラみたいな泥沼展開は」

「僕そういうドロドロした話好きなんですよね~」

柿芝はコンビニの袋に食べ終わったアイスの棒や袋を入れながら爽やか言い放った。

「何を言っているんだお前は」

「だってそっちの方が見ていて面白いじゃないですか」

柿芝は俺からもゴミを受け取り、コンビニ袋にまとめて少し離れたゴミ箱に投げ入れた。


「前に鈴木先輩が『雛月の自我を保たせるためには龍太が側にいた方が都合がいい』なんて言っていたので、僕はてっきりそうなんじゃないのかなと思ったんですけど」

俺も一昨日雛月にそう言われた時一瞬それも考えたが、咲耶の日ごろの言動を思い出す限り咲耶と俺の間にはフラグのフの字も立っていないような気がする。

歳の近い姉弟だとよく弟が姉に子分か下僕のように扱われると言うが、俺と咲耶がまさにそんな感じだ。

咲耶は3月生まれで俺は11月生まれなので俺の方が少し年上になるが咲耶の中では俺は完全に弟扱いな気がする。

「そもそも俺に対する接し方が明らかに好きな相手に対するものじゃねえよ」

そういう意味においては柿芝から手紙を貰った時の方がよっぽどそれらしい反応だったのではないだろうか。

「ツンデレなんじゃないですか」

「お前がアレをツンデレと思うのなら、お前の中のツンデレの定義は俺の認識しているものとは大きくずれていると言わざるを得ない」


だらだらと柿芝としゃべっているうちに鞠亜が公園にやってきた。

約束の時間の数分前だったが既に揃っている俺達を見て鞠亜は小走りでやって来た。

「ゴメンね、待った?」

「いや、まだ約束の時間の前なんだし俺達も今来たばっかだから」

困ったように謝る鞠亜をなだめていると、笑いをこらえているらしい柿芝が目の端に見えた。

「じゃあ早速出発しよ」

咲耶の声とは少し違う声に振り向くとそこには林間学校の時の乃亜の姿をした雛月がいた。

「何で乃亜の姿なんだ?」

思わず聞かずにはいられない。


「ああ、それは昨日僕が鈴木先輩に提案したんですよ。雛月が今の姿のままだとすぐに誰が術者かわかっちゃいますよって」

柿芝が答える。

確かに柿芝も咲耶の姿そのままの雛月を視て廃屋の事件の犯人を特定したと言っていた。

「だからこれからは私この姿でいこうと思うの。この姿気に入ってたし、普段からこの姿でいられるなんて悠人ナイス提案!」

そう言って雛月は悠人とハイタッチを交わす。

一昨日は悠人とは気まずそうな様子だった雛月だったが、今日はなぜか随分と親しそうだ。

「急に仲良くなってないか?お前等」

「誠意を持って向き合った結果ですよ」

柿芝は雛月と手を合わせたまま微笑んだが、何をどうしたら数日でそこまで仲良くなれるんだよ!?

内心全力でつっこんだ。


「それで、鞠亜は今日どこに行きたいんだ?」

「特にどことは具体的には決まってないけど、リサイクルショップとか古本屋さんとかかな。雛月ちゃん、人形とかに魂が宿った物が欲しいんだって」

俺が尋ねると鞠亜はそう答えて雛月の方を見た。

「第一希望は持ち主に対して敵対的な呪いの人形だけど、最悪魂が宿ってればなんでもいいかな」

雛月は目を輝かせながら言った。

「何だよ、餌なら鞠亜に寄って来るのを食べてればいいだろ」

「違うもん今回の目的は餌じゃなくて力のコントロールにあるんだもん」

そう言いながらむくれた。


「咲耶ちゃんにはもう話は通してあるから大丈夫だよ」

鞠亜が微笑みながら補足するように付け足したが、その言葉が引っかかった。

「ということはそれは完全に雛月の発案なのか?」

「そうだよ。この前の蛇神を取り込んだ時、一度相手を受け入れるフリをして精神を侵食してから魂ごと自分から進んで取り込まれるように誘導して取り込んだから、これをもっと精度を上げれば色々応用できるんじゃないかと思って」

雛月は得意そうに答えた。

「相手の精神を侵食して誘導なんて、そんなことできるのかよ」

「幻覚を見せる要領であの蛇神の中に本人のものを装った思考を流し込んだらいけたよ。もっともアレは元々求めてるものがわかってたから、それに合わせたこっちにとって都合のいい思考を植えつけやすかったのも大きかったんだけど」


得意気に話す雛月を見ながら、俺はクラクラと目眩を覚えた。

それはつまり、洗脳と同じじゃないか。

林間学校でのことを考えると、雛月は既に咲耶の周りの人間、更に咲耶自身に対して一時的にでも記憶の改ざんや幻覚を見せることができる。

これでもし雛月が更に精神の侵食の技術を身につければ、また雛月が勝手に周りの多くの人間に対して記憶の改ざんを行った時、今度こそ最後まで誰も気づけないかもしれない。


「まあ、林間学校の時みたいに大規模な干渉はもう私の独断じゃできないんだけどね」

不吉な考えが頭の中で次々と浮かんできた俺の考えを知ってか知らずか、雛月がそれを打ち砕くように呟いた。

「なんで、できなくなったんだよ?」

「この前の林間学校で咲耶の許可無しで咲耶の記憶まで改ざんしたのがいけなかったみたいで、咲耶から大規模な干渉は私一人ではできないようにロックかけられちゃったの」

拗ねたように言う雛月を見てそんなことができるのか少しとほっとしたが、しかしそれでも咲耶はその気になれば人の記憶の改ざんができる訳で、将来咲耶がそれを周りの人間にしない保証は無い。


・・・だからこそ咲耶には今のうちに道徳心や倫理観を叩き込んでおかないと追々大変なことになるのだろう。


「それより、早くリサイクルショップに行こうよ、呪いの人形が売れちゃうよ」

思い出したように雛月がそう言って歩き出して早く早くとせかすので、俺達も仕方なく俺達も後を付いていくことにした。

そう簡単に呪いの人形など見つかる訳が無いし、鞠亜も楽しそうなので二人が満足するならそれでいいだろう。



「鞠亜鞠亜!見て見て!これ間違いなくそうだと思うの!」

雛月が興奮気味に指差す先には年季の入った着せ替え人形があった。

それは『どれでも百円』と大きく書かれた紙が張ってあるラックの中に他の古ぼけたおもちゃと一緒に無造作に入っていた。

一目見ただけでこれは良い物ではないとわかる禍々しいオーラを放っていた。


・・・・・・本当にあったよ、呪いの人形


あっさりと一件目で見つかってしまった呪いの人形に内心頭を抱えながら柿芝の方を見ると、

「探せばあるものですね」

と柿芝も驚いていたようだ。


「じゃあお会計行ってくるね」

と人形を持ってレジに向かう鞠亜を少し離れた場所から見ていると、レジに呼ばれて会計をした店主と思しきおじさんが少し動揺したのが見えた。

「そういえば、捨ててもなぜか帰ってくる呪いのアイテムとかよく聞きますよね」

店主の反応を見た柿芝の一言に、もはや俺はそうだなと他人事のように頷くことしかできなかった。

でもまあ、あの程度ならたぶん万が一の時にも雛月が勝手に対処するだろう。


「思ったより早く終わっちゃったね、一日歩き回るつもりできたんだけど。これからどうする?」

店を出た後鞠亜が言った。

「だったら、早く帰ってその子と遊びたいな」

雛月はそう言って待ちきれないように鞠亜の鞄をなでた。

その様子は新しいおもちゃを買ってもらった小さい子供そのものの様に感じた。

「もう、雛月ちゃんったらしょうがないな~」

そう言う鞠亜の顔は迷惑どころかむしろ嬉しそうな緩みきった顔だった。

そういえば、鞠亜の中での雛月の位置づけはどうなっているのだろう。

もう一人の咲耶みたいな感じなのだろうか。


「どうせ明日もまた会うし、雛月がいいなら今日はもういいんじゃないか?」

「そうだね、ゴメンね龍ちゃん柿芝君せっかく来て貰ったのに。今日はもう帰らせてもらうね」

明日俺の家に集合することに決めて、鞠亜と雛月は帰って行った。


「ところで高尾先輩、この後時間ありますか?少し話したいことがあるんですけど」

鞠亜と雛月が見えなくなった後柿芝が言った。

「ああ、俺も柿芝とはもう少し話してみたいと思ってたし、ウチに来いよ」

「ではお言葉に甘えます」

こうして俺は柿芝を俺の家に招くことになった。

心無しか柿芝の目が据わっていた様な気がしたが気のせいだろう。


家に着くと俺は柿芝を自分の部屋に通して適当にくつろいでおいてくれと言って一階に何か出せそうなおやつが無いか物色しに降りた。

とりあえずクッキーの詰め合わせと缶の緑茶があったのでそれを持っていくことにした。

部屋に戻るとなぜか部屋の空気に違和感を感じた。

なんだか部屋が狭くなったような、妙な閉塞感がある。

まるで親父の書斎みたいだ。

襖を閉めてクッキーとお茶を出しながらなんとなくそんなことを思っていると柿芝が口を開いた。

「一応外部から話を聞かれないように結界を張らせて貰いました」

・・・どうやらこの圧迫感はその結界のせいらしい。


「単刀直入に聞かせてもらいます。高尾先輩は鈴木先輩や天野先輩をどうしようとしているんですか?」

「どうしようって言うのは、どういうことを指すんだ?」

「そのままの意味ですよ。多くの物を魅了する天野先輩とそれらを取り込んで強い力を得ようとしている鈴木先輩。高尾先輩はその二人を使って何をしたいんですか?」

俺にそう問う柿芝の目は酷く冷い物の様に感じた。

「・・・俺は別にあの二人と平和に平穏に日々を過ごしたいだけだよ。だからもし何かの理由で二人が殺されたり、危害を加えられるようなことが起こるならできるだけそれから遠ざけたいだけだ」


「そのためなら、二人が被害者にならないためなら、加害者になるのはかまわないと?」

それは、雛月が鞠亜に寄って来ている悪霊や狩りと称してその辺の霊的な存在を雛月の餌にしていることを言っているのだろうか?

「俺も進んでそんなことはして欲しくは無いけど、そうしないと二人が身を守れない場合は仕方が無いだろう」

「では二人がそうしてより力をつけて、もし高尾先輩の手に負えなくなった時、高尾先輩は二人をどうしますか?」

「もう既に手に負えてねえよ」

俺は素直に答えた。

「その割には余裕ですね。二人を恐ろしいと思ったことは無いんですか?」

「まあ、咲耶には小さい頃から色んな意味で恐い目によく合わされたし、鞠亜にも間接的には多少恐い目には合わされたこともあったけど、別に今更それで縁を切ろうなんて思わねえよ」


「あの二人はどちらもそこにいるだけで家族や親しい人間に次々に被害が及ぶレベルの人間ですよ。先輩もそんな二人と幼少期から兄弟同然に育っているのなら今まで何も無い訳では無いでしょう。仮に高度な何がしかの術でそれを抑えていたとしても、今の状態を見る限り二人の力を抑えられなくなるのも時間の問題ですよね。それだけの危険人物達を止めるでもなくただ見守って、あまつさえ力をつけることに協力して、本当は何がしたいんですか?」


柿芝のその物言いに反論したい気持ちになったが、咲耶の母である輝美さんがウチの寺に預けられていた理由や鞠亜の家の事情についてのことがある以上、材料が揃いすぎていて何も反論できなかった。

「・・・・何が言いたいんだ」

「さっき高尾先輩は二人を危険から遠ざけたいといってましたが、二人に力を付けさせるということは今度はそれだけ二人の周りの人間を危険に晒すという事ですよ」


これだけはハッキリと言える。

「少なくとも鞠亜と咲耶は、そんなことしようとは考えていないと思う」


「本人にその気が無くてもそうなってしまうことがあるんですよ!」

柿芝が急に立ち上がって声を荒げた。

「どうしたんだよ、急に」

いきなりの柿芝の行動に驚きながらも俺は平静を装って尋ねた。

「・・・僕が、そうだったからです」

その今にも泣きそうな震えた声に、俺の心臓は握りつぶされそうになった。


「・・・すいません、取り乱しました」

柿芝はそう言って座りなおした。

「いや、辛いこと言わせて悪かった。その、もし良ければ親父に柿芝のこと相談しようか?少なくとも鞠亜に施されてる何がしかの術ってのは、親父のだろうから」

「いえ、ご心配なく。力のコントロールは自力で身につけましたから。それに僕はもう、僕に術を施してコントロールしようとする人間が信用できない」

その言葉が重過ぎて俺はそれ以上柿芝に家のことについて聞く気にはれなかった。

「僕が聞きたかったのは、高尾先輩は二人を最終的にどうしたいのかということです」

俺はやっと柿芝の言わんとしていたことが理解できた。

「つまり、柿芝は俺が鞠亜と咲耶を上手いこと誘導して二人の力を利用して、日本中の人間を支配したりだとか世界征服だとかそんなことを企んでいるとでも思ったのか?」

「長期的に見れば、それも理論上は可能だと思いますよ」

柿芝はしれっと答えた。


確かに今の雛月なら人の記憶を改ざんする事も、思考をある程度誘導することもできる。

蛇神を取り込んでからは天候も操れるようになった。

そしてこれからも雛月は様々な存在を取り込んで力を付けていくだろう。

力をつければそれだけ干渉できる人間も増える。

咲耶は将来新しい世界の絶対的支配者になるという中村さんの言葉がもう既に現実味を帯びてきていることにゾッとした。




次回更新予定は11/8です。

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