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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
糸の記憶編
27/71

#24 覇王の娘

咲耶の母親、輝美さんは拝み屋だ。

このことは咲耶は知らず、俺も親父から聞いたが他言無用と言われた。

しかし、輝美さん自身霊等が視えることについては隠さず言っていたし、輝美さんの過去の武勇伝を考えると案外咲耶も輝美さんの仕事についてなんとなく予想はついているかもしれない。


「昔、初めてお母さんに鞠亜を合わせた時、無言で鞠亜の後ろに居た白い人を殴り飛ばしてたわ」

それは俺も覚えている。

確かその日は咲耶の誕生日で、俺とまだこっちに引っ越してきたばかりだった鞠亜は咲耶の誕生日パーティーにお呼ばれしたのだ。

そして玄関先で待ち構えていた咲耶に迎えられ、リビングに案内されテーブルの上のケーキやご馳走に俺のテンションが上がっていた時、事件は起った。

優しく出迎えてくれた輝美さんが笑顔のままものすごい勢いで鞠亜の後ろの少し高い空間に向かって拳を振りぬいたのだ。

その場には咲耶の父である達也さんもいたが、視えない人なので笑いながら急にどうしたんだと言いつつもあまり気には留めていないようだった。

「なんでもないわ~ちょっとお手洗い行ってくるわね」

輝美さんはそう言ってリビングを出て行ったが、俺達には視えていた。

輝美さんが鞠亜の後ろに立っていた銀髪の神秘的な雰囲気の人の顔面に思いっきり拳を振りぬき髪の毛を引っつかんでその人を引きずりながら部屋を出ていくところを。

俺たちはあまりの光景にしばらく何が起こったのかわからず呆然と立ち尽くしていたが、咲耶のお父さんがろうそくに火をつけるからおいでと言う言葉で我に帰り、三人ともそのことについては口にすることも無く、何事も無かったかのように無理やりはしゃいだのは今でも憶えている。

ちなみに輝美さんはそれからしばらくして帰ってきたが、いい仕事をしたと言わんばかりの清々しい笑顔に俺の体感温度は一気に下がった。


輝美さんは俺達に対してはとても良くしてくれて優しかったのも憶えているが、その後も咲耶の誕生日であったことと同様のことがしばしばあり、鞠亜はすっかり輝美さんに対して怯えてしまい今でも少し引きずっているようだ。

俺はといえば、鞠亜の後ろにいる奴は基本的には良くない物だと言われていたのでそれらに対してあまり好感は持っていなかったし、当時から悪霊を祓う親父に憧れていたこともあり、繰り返し目撃するうちに恐いというよりもむしろかっこいいと思うようになっていった。

咲耶は普段からそんな光景は見慣れていたらしく特になんとも思っていないようだった。


「なんだか、エキセントリックな人ですね」

俺達の話を聞き終えた柿芝は興味深そうに言った。

「他にはどんなエピソードがあるんですか?」

実際興味があるらしく柿芝は更に話を引き出そうとしてくる。


「そうね、後は私が小学校に上がってから六年生の終わり頃までお母さんに力を封印されたりとかかしら?」

咲耶が不機嫌そうに言った。

「俺そんな話聞いたこと無いぞ?そもそも封印ってなんだよ」

「言ってないもの。私も当時は封印されてたことすら気づかなかったし。でも鞠亜は私が霊とか視えなくなったのはすぐ気づいたわよ?」

咲耶は事も無げに言い、俺はそうなのかと鞠亜を見た。

「だって、咲耶ちゃんそれまでは毎日あいさつ代わりに私の後ろにいる人について今日のはかっこいいねとか気持ち悪いね、とか何か一言言ってたのにある日突然言わなくなったから。聞いてみたら何も視えないって言うし」

すぐわかるよ。と鞠亜は言ったが、俺は基本何が見えてもスルーだったしそれを自分から話題にしたこともほとんど無かったので全く気づかなかった。

「健さんに話したら子供の時は視えていても成長するにつれ視えなくなることもあるって説明されたから、すっかりそうなんだと思い込んでたのよね」

咲耶はでも違った。とため息をついた。

「お母さんは私の好奇心が強すぎるから悪い物にちょっかいを出して危険な目に遭わないようにするためだったって言ってたけど、そのお陰で六年生の終わり頃に気づかない内にその悪い物の方からちょっかい出されて死にかけたから本末転倒もいいところだわ。視えていれば少なくとも自分の今の状態はわかるもの」

きっとそれは、前に咲耶が鞠亜のとばっちりで危険な目に遭ったという時のことを言っているのだろう。

そして死にかけた。と言う表現も今までの鞠亜と咲耶の話しぶりからして、誇張でも何でもなく恐らくは事実なのだろう。


「もしかして、中学に上がったあたりから咲耶が輝美さんの仲が険悪になったのってその封印云々が原因なのか?」

今では面影も無いが、咲耶は小学校の頃は輝美さんのことが大好きで、昨日はお母さんと電話でどんな話をした、クリスマス等のイベントがある時にはお母さんからどんなものが贈られてきたなどよく楽しそうに話していた。

輝美さんが帰ってくると聞くと一週間前から『今度お母さんが帰ってくるの~』とずっとご機嫌だったものだ。

しかしそれがいつの間にかぱったりと無くなってしまったのだ。

「別に険悪って訳でもないけど、なんで龍太がそんなこと知ってるのよ?」

「達也さんが前にそのことを親父に愚痴りに来てたからだよ。険悪な訳じゃないならもう少し輝美さんと仲良くしろよ。達也さん随分心配してたぞ」

「・・・まあ、考えておくわ」

咲耶の答えはあまり前向きなものではなかったが、咲耶は昔からファザコンの気があるので達也さんの名前を出しておけばとりあえず達也さんの前では輝美さんと仲良くしようとするだろう。


「というか、輝美さんと険悪な状態じゃないなら、何でさっきあんなにテンション低かったんだよ?」

「お父さんが夏休み早めに取れたから、家族三人で久しぶりに一週間くらい旅行に行こうって・・・」

そう言いながら咲耶はうなだれる。

「それのどこにテンションが下がる要素があるんだよ?」

家が寺のせいで今までそんな長期の旅行に連れて行ってもらったことのない俺への嫌味か?

「旅行は嬉しいけど、逃げ場も無しに一週間お母さんと一緒って、何話せばいいのよ!」

「そこからかよ!?」

なんだその思春期の娘を持った父親のような悩みは。

俺がそうつっこむと咲耶は別に一緒にいるのが嫌な訳じゃ無いのよ、と咲耶は困ったように話し出した。


「なんというか、お母さんとどう接したらいいのかわからないのよ。小学校の終わり頃ちょっと悪い物に憑かれて死にかけて、火事場の馬鹿力でそいつを追い払って、その時に何かが弾けた様な気がしたのよ。そしたら急に色んなものが視えだして、幼稚園までは当たり前にできていたことも完全に忘れていたことに気づいて、視えなくなる直前にお母さんに何かおまじないみたいなことされたのを思い出したの」

そう話す咲耶の顔は憂鬱そうだった。

「それで、冬休みになった頃思い切ってお母さんに会いに行ってみたの。お母さんが私に何をしたのか知りたくて。お母さんの言い分はさっき言ったとおりだったんだけど。そのお陰で私は視える物も視えずに気づかないまま状況が悪化して健さんに助けを求める事もできずに死にかけたのだし心情的に納得いかなかったから、どうしてそんなことしなければいけなかったのか、他に方法は無かったのかとか色々文句を言ったのよ」

そうしたらね、そう言って咲耶は勉強机の中から一冊のノートを出して来て俺に渡した。

「真面目に全部読まなくていいから軽く見てみて」

咲耶にそう言われて俺はノートを開いた。

鞠亜と柿芝も俺の隣からノートを覗き込む。


「私がお母さんの封印を自力で破ったことと、私の文句の内容がどうやらお母さんに火をつけたみたいで、お母さんはノートを書きながら事細かに解説しつつどうしてそうしなければいけなかったのか、どうやってそうしたのかを私に説明したわ」

ノートの中には沢山の図や説明文、注釈などがびっしりとノートの後半あたりまで書かれていた。

「昼過ぎに着いたのに夜私がもうこんな時間だからお父さんに連絡しないとって言うまでほぼノンストップあれこれで説明されて、連絡したあとも徹夜で質問したことだけでなく関係有ること無いこと沢山の知識を叩き込んでくれたわ」

ノートの中には恐らく咲耶の家の家系図と思われる物やその中には赤い線で丸を付けられている人が何人かいて、それぞれその人物に関する説明やエピソードらしきものが添えられていた。

どうやらこの人達は普通ではない力を持っていたらしい。

他にもチャクラだとか呼吸法だとか魂の種類だとか、色々オカルト的な内容が事細かに書かれていた。

天使の魂について説明されていた部分もあったので、恐らく咲耶はこの時鞠亜の魂について聞いたのだろう。

「正直、疲れたとか有益な情報を得たとか、そんなこと知りたくなかっただとか思うより、ただただ引いたわ」

確かにいくら自分から聞いたとはいえ、尋ねていっていきなりこれだけの情報量をそんな短時間でひっきりなしに説明されたら誰でも嫌になるだろう。

俺ももし、親父からそんなことされたら・・・・いや、別に引かないな。

むしろ親父は色々と俺に隠しすぎだ。いっそこれ位やって欲しい。


「あの、これ僕達も見ていいんですか?家系のこととか家の事情とか結構事細かに説明されてますけど」

しばらく家系図のあたりを読んでいたらしい柿芝が言った。

「平気よ。母の血筋ではたまにそういう才能を持った人間が生まれるらしいの。詳しくは私も知らないけど、昔その才能のある人間のせいでお家断絶一歩手前の事態なったことがあったそうで、それ以来そういう才能のある人間が生まれた時は寺に預けるようになったと言ってたわ。

私の力を封印したのはその寺に預けられた人間の子供でどうやら才能のあるらしい私を、お父さんを守りながら私を寺に入れずに育てるためにお母さんなりに考えた結果の対策でもあったんだって。でも結局私は自力で封印破っちゃったし、もうそれも意味が無いだろうからせめてどうしてこうなったのか位は教えておこうってことだったらしいわ」

上手くいえないけど、愛は感じるけど重い上に独善的というか一方通行なのよ。

ため息混じりに咲耶は言った。


「要するに、咲耶は輝美さんが咲耶の意思も関係無しにあれこれ大事なことを決めていってしまって、それを自分が知らされないのが悔しかったのか?」

「まあ、小学校の頃は普段家にいなくても毎日のように電話で話したりして、お母さんと私の間に隠し事なんて何もないと思ってのよね。それがある日いきなり壊されて、まあ動揺するじゃない。その後会いに行ったら重い話をされて仕方が無かったって言われても頭は納得しても気持ちは納得しないわ」

「だったら尚更これからのことも含めて輝美さんとじっくり向き合って話し合った方が良いんじゃないか?輝美さんの考えが一方的なものでも、今の咲耶ならそれに意見することもできるだろ?」

じっくり話し合う、ね。咲耶はそう呟いてしばらくうつむいた後、意を決したように顔を上げた。


「じゃあ私は明日から一週間家族で旅行に行ってくるから、その間雛月のことお願いね。鞠亜の守護霊状態にして、引き寄せられてきた奴片っ端から食べさせるから」

そう言う咲耶はすっかりいつもの調子に戻っていた。

「は?俺にどうしろって言うんだよ!?しかも明日って急だな」

「鞠亜と雛月の様子見がてら毎日10分でもいいから鞠亜に会いなさい。雛月がフラフラどっかに行ったり、勝手に鞠亜に憑依しようとしたりしないように見ておいて欲しいのよ」

「・・・わかったよ」

咲耶にそう言われて渋々OKしたふりをしたが、咲耶がいない間も毎日鞠亜と会う口実ができて内心ガッツポーズをしたのは内緒だ。

「もし何か困ったことがあったら柿芝君に助けを求めたらいいわ。頼りになると思う。柿芝君、お願いできるかしら?」

「もちろんですよ」

柿芝はニッコリと笑って返事をしたが、俺はコイツを信用していいものか少し不安が残った。

その後、俺と鞠亜と柿芝はお互いの連絡先を交換した。


「そういえば、鈴木先輩のお母さんは呪術的な物も扱えるってことですよね。先輩の学校の仕掛けはお母さんから習ったんですか?」

柿芝がふと思い出したように言った。

「アレは私のオリジナルよ。というか、お母さんは私にそういうのを教えたがらないの。相談しても自分で考えろって言われて終わりだし」

咲耶の顔がまた不機嫌そうになった。

「柿芝君は、親から呪術を教わったの?」

鞠亜が話をそらすように柿芝に尋ねた。

「父から少し。親は両方とも視える人だったので僕も視えるとわかったとき、最低限自分の身は守れるようにある程度は教えようと決めたようです」

「何か呪術関係の家系だったの?」

すると咲耶がここぞとばかりに食いついた。

「父方は昔はそうだったみたいですけど、正直よくわかりません」

「じゃあそのお父さんから色々と教わったのね。お父さんや、お母さんとは仲良い?」

どうやら咲耶は他の家庭では呪術や視える物ととどう向き合っているのか気になったらしい。


「どっちも仲は良かったんじゃないかと思います」

「・・・良かった?」

「はい。両親はもう死んでしまったので」

部屋の空気が凍りついた。

「そうだったの、なんか、ごめんなさい」

「いえ、大丈夫ですよ。今は親戚の家にお世話になってますけど、皆さん良くしてくれますし」

気まずそうに謝る咲耶に慌てて柿芝が注釈を付ける。

「だから全然平気ですよ。まあ、お世話になっている家の一つ上のお姉さんがそういうの好きみたいでこの前も心霊スポットに行ったりしてて心配ですけど」

柿芝も気にした様子も無く答える。

ん?柿芝の一個上でオカルト話が好きな最近心霊スポットに立ち寄った女子・・・?

俺の中で一人の人物が浮かび上がった。・・・いや、まさかな。

「・・・柿芝はどの辺に住んでるんだ?」

「近いですよ。大通りの向こう側のコンビニの角を奥に行ったあたりです」

確か、早瀬の家もあのあたりだったはずだ。


「なあ、そのお姉さんってもしかして」

俺がそう言いかけた時、柿芝が思い出したように言った。

「クラスは確か、先輩達と同じ2-4です」

「・・・ああ、前にオルカちゃんが話してた最近来た従弟の子って柿芝君だったんだね」

鞠亜が合点がいったというように笑った。

「早瀬がそんな事言ってたのか」

「うん、弟みたいでかわいいって言ってたよ」

「そうだったのか・・・」


しかし、そうなると早瀬は柿芝の作った仕掛けによって一日だけとはいえ学校を休む程怯えさせられていたということになる。

「なあ柿芝、早瀬のことが心配なら、なんで早瀬がこの前廃屋に行って黒い影をつれて帰ってきた時放置してたんだ?」

「だって、そうでもして恐い思いさせておかないと危なっかしいんですよ。よく自己流で変なおまじないをしようとするし、もう少し危機感を持ってもらうにはちょうどいいかと思いまして一日放置してました。家の中には入れませんでしたし、基本的にアレは人に危害を加える物ではないので」

早瀬の危なっかしさについては思い当たる節がありすぎるので、その辺に関しては早瀬の自業自得としか言いようが無い。

「あ、それとオルカさんには僕の父方の家のことはくれぐれも秘密でお願いします。絶対めんどくさいことになるので」

俺もなんとなくそれは思った。


しかし、咲耶といい輝美さんといい柿芝といい霊的な強い力を持っている人間の家は家庭に事情のある人間が多い気がする。

鞠亜の母親も、鞠亜がこっちに引っ越してくる前は鞠亜の周りであまりに怪奇現象が続くせいで一時期ノイローゼになっていたと聞いている。

そう考えると、俺の家が特に問題も無く平和に暮らしているのがどんなに幸せなことかわかる気がした。




次回更新予定は11/1です。

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