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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
中二病覚醒編
25/71

#22 蛇神

「鞠亜が天使って、比喩じゃなくて?」

「比喩じゃなくて」

「魂が普通の人間と違うって、そう言うことなのか?」

「そういうことだな」

狼狽する俺に咲耶が一つ一つ相槌を打つ。


「どういう訳か、鞠亜の魂の質量の大きさは他の比じゃない。というか、普通地上には存在しないレベルの大きさだ。しかも魂の種類が普通の人間とは根本から違う。天使が人間に転生したんじゃなく、天使がそのまま人間の人間の肉体に入っている状態だ」

咲耶は至極当然のように説明した。

「それは、どう違うんだよ」

「前者は人間に生まれるために自分の魂の一部を切り取ってそれを人間用の魂に作り変えて人間の肉体に入れるんだ。後者はその大元の魂がそのまま丸ごと人間用に作り変えもせずに人間の肉体に入っている状態だ。もっとも、これは母からの受け売りだから私も細かいところまではわからん」

母からの受け売り、ということは輝美さんは鞠亜の正体を前から知っていたのか。

「ただその場合、魂と体が根本的に合っていないので天使としての力も使えず、その無駄に魅力的な魂がただの人間の中に入っているので正にエサ状態で様々な物から狙われやすいらしい」

ついでに、と付け加えるように咲耶は話したが、それはつまり鞠亜は大変魅力的な魂を持っているが、寄ってきた相手に対して自分で防衛する術が無いということだ。

それが咲耶に鞠亜を極上の餌と言う理由なのだろう。


「まあそれはいいとして、今はその神社であった男だ」

よくねえよと思ったが、咲耶もこれ以上のことは知らないようだし、このままでは話がどんどん脱線していってしまうので俺も話を戻すことにした。

「龍ちゃんはその男の人はなんだと思う?」

鞠亜がいつに無く真剣な顔で尋ねてくる。

「たぶん、あの神社の神様だったんだと思う。それで、俺が知らないうちに違う次元に迷い込んだのを助けてくれたんだと思う」

「じゃあその男の人についてはどう思ってる?」

「俺は助けてくれたことには感謝してるけど、咲耶の仲を取り持てと言われてもなあ・・・」

正直あの神様が雛月の餌になりかねない。

俺が言葉を濁していると、今度は咲耶が話しだした。


「龍太、蛇婿という話を知っているか?」

「なんだよそれ」

咲耶からいきなり良くわからない話を振られた。

「いろんなバリエーションはあるが、簡単に説明するとある男が蛇に助けられてお礼に自分の娘を嫁に差し出す話だ。その後の話は今回はあまり関係ないがな」

「それがどうしたんだよ」

咲耶の言わんとしていることがわからず首を捻る。

「昨日の夜、肝試しから帰った後、私は白い大蛇にまとわり付かれる夢を見た。すぐに逃げたがな。大体、林間学校で行ったあの施設についてからずっと誰かに見られてる気がして気持ち悪かったのだ。しかし肝試しであの神社に行ってやっとわかったよ。あの視線の正体の主がな。やたら人の魂をあちら側に引っ張ろうとするから全力で弾き返してやったんだ。そうしたら今度は龍太の魂があちら側に連れて行かれた」

その咲耶の言葉を聞いて、血の気が引いた。


つまりマッチポンプだ。と咲耶は肩をすくめる。

「ということは、あのイケメンは最初から咲耶を狙ってて、手を出そうとしても当の咲耶にかわされ続けるから咲耶と繋がりのありそうな俺に恩を売って、咲耶を紹介させようとしていたということか?」

「しかも自分でさらって自分で助けるという自演っぷりなんだよね~」

俺の言葉に雛月が横から付け加える。

「まあうっかり弾みで龍太を別の次元に引きずり込んでしまって、侵入者と間違われて自分の眷族達に襲われてたのを慌てて助けたのかもしれんがな。親しい人間がそいつの眷属に殺されたなんてことになったら私の印象は最悪だしな」

フォローのつもりなのかはよくわからなかったが、咲耶のこの憶測も酷い話である。

「つまり、その神様はドジッ子ってこと?」

鞠亜はそう言ったが、そんなうっかりで殺されたのではたまったものではない。


「それでその男は夢の中で龍太に私は龍太の物か聞いたわけだけれど、もしその蛇神が最初に私が言った様な言ったようなセコイ奴だった場合、もしそうだと言ったらじゃあ命を救ってやった礼にあの娘をよこせ。違うといったら、じゃあ俺が手を出しても文句ないよな助けてやった礼としてあの娘紹介しろ。とか言いそうだな」

咲耶はめんどくさそうに言った。

「それどっちでも同じじゃねえか」

「だから答えなくて正解だな。というか、前に悪夢からの逃げ方は教えてやっただろう」

「ああ星になるってやつか、とっさに思いつかなかったんだよ」

「しかし、龍太の方も付きまとわれているとなると、さっさと解決した方が良さそうだな」

咲耶はそう言って俺にテレビの前のソファーに腰掛けるように言った。


「龍太の夢の中にその男を呼び出して私もその夢の中に入る。それでカタを付けるぞ」

そう言って咲耶は俺の前に立った。

「鞠亜、もし龍太がうなされる様な状態になった時は起こしてやってくれ。逆に私の方は自分で起きるまでは何があっても放って置いてくれ。あと濡れタオル作っといてくれ。起きたら冷や汗かいてるかもしれないから。」

そう言って咲耶は鞠亜に他の部屋からタオルを持ってきて渡した。

冷や汗程度で済めば良いが。

「うん、わかった。咲耶ちゃん、がんばってね」

鞠亜はそう言うとソファーの近くに椅子を持ってきて座った。

そして咲耶が雛月、と呼ぶと雛月は咲耶の前まで来て咲耶と重なるように消えた。

「雛月を憑依させたのか」

「違う。元々雛月は私だ。元に戻しただけだ」

俺の問いかけにそう答えた後、咲耶は俺の額に手をかざした。

「なんだよ?」

「いいから目を閉じて力を抜け」

なんだかよくわからなかったがとりあえず咲耶の言うとおり目を閉じて背もたれに寄りかかり体の力を抜いた。

すると急に意識が遠のいていった。



気がつくとそこはついさっき見た霧に覆われた古河原神社だった。

目の前にはさっきの和服のイケメンが立っていた。

「なんだ、結構早く戻ってきたじゃないか」

「ちょっと色々ありまして。咲耶と話をつけてきました」

「そうか、あの娘は咲耶というのか」

イケメンは機嫌が良さそうだった。

「もう少し待ったら咲耶もここにくると思うので待ってて下さい」

「わかった」

イケメンは満足そうに頷いた。さっきは気づかなかったがイケメンの瞳は赤く、着てる着物と羽織は上等なもののように見える。

・・・・その赤い瞳に昨日の一つ目達を思い出した。

そういえば配色がそっくりだ。


そんな事を考えていると肩を叩かれた。

振り向けば咲耶が立っていた。

「待たせたわね」

なぜかその姿は二つ結びにセーラー服姿だった。

一応神様なので咲耶なりに正装してきたということなのだろうか。

「はじめまして、昨日は私の幼なじみがお世話になったようでありがとうございました」

咲耶はそう言ってイケメンに頭を下げた。

「ああ、大したことじゃない。それより、昨日君を見て一目惚れしてしまった。是非私の元に嫁に来てはくれないか」

キリッという効果音がつきそうな勢いでイケメンが咲耶の手を握り単刀直入にプロポーズしだした。

いきなりだなオイ。


「なぜ、私に?」

咲耶は微笑みながら首を傾げる。

大人しくしているのはそれが聞きたかったからだろう。

「一緒にいた長髪で癖毛の女は危険すぎる。強大な力を持っていながら尚も飽き足らず周りの霊的なエネルギーを食い尽くそうとしているように見える。君はそういう力が強い様だが、アレを放って置けばますますあの力は強くなる。アレは間違いなくいずれ君を食い殺す。私は君をそれから遠ざけたいんだ!」

イケメンは力強く、説得するように咲耶に語りかける。

しかし、咲耶はというとその言葉を聞いたとたん噴き出すように笑い始めた。

イケメンはそれをみてポカンとしていた。

咲耶はひとしきり笑った後こう切り出した。

「ごめんなさい、あなたの意見があまりにも的外れだったから。なるほど、乃亜はあなたから見てそう視えるのね」

「笑い事ではない、私は真剣に・・・」

「確かに、私があの子に殺されるかもみたいなことは今まで色んな人から散々言われてきたけれど、ちょっかいを出そうとして簡単に私に逃げられるような人が、どうやって私をその未来から遠ざけるのかしら」

咲耶は笑っていたが、その話の内容は俺にとっても耳が痛いものだった。


「それに、わざわざ自分で原因を作っておいてそれを助けて恩を売るような人は信用できません」

依然、咲耶の顔は笑顔のままだったが、その声は冷たく感じた。

「コレも君のためなんだ」

「そうですか。じゃあ私と戦って、もし貴方が勝ったらぜひ私をお嫁さんにしてください。ただし、負けたら私の餌になって私に力を貸してくださいね」

そう咲耶が言ってイケメンの額を人差し指で突いた瞬間、イケメンは神社の方へ投げ飛ばされた。

境内の木戸が盛大に吹き飛んだ。


「まさかコレで終わりなんて言わないですよね?」

咲耶が邪悪な笑みを浮かべて言った。

「・・・・いいだろう」

イケメンは神社の中から出てくると、見る見るその姿は白い大きな蛇になっていった。

というか、大きくなりすぎだ。

頭は普通乗用車くらいなら難なく丸呑みできそうなくらいでかいし、体も一軒家が丸ごと納まりそうなほど太い。

長さに関してはそこらじゅうに胴が放りだされているのでとてつもなく長い事くらいしかわからない。

その迫力ははもはや蛇というよりも龍だった。


「なんなんだよアレ・・・」

俺は呆然としたが、咲耶は大きければいいってものじゃ無いのよと言って大蛇にむかって言った。

咲耶は叩き潰そうとする大蛇の尻尾を軽やかによけながら大蛇の頭上に軽やかに飛び乗った。

しかし蛇は頭ごと地面に叩きつけようとして体をうねらせる。

あっけなく咲耶は振り落とされ神社の石畳に着地する。

そしてそれをそこで待ち構えていた大蛇の尻尾が巻き取った。

「もうこれで勝負はついただろう」

大蛇がそう語りかける。


「ええ、そうかもしれないわね」

咲耶はニッコリと笑った。

「無制限混沌の歌( アンリミテッド カオス スクリーム)!」

いつのまにか大蛇の頭上に立っていた雛月が大声で技名を叫ぶとともに放たれた拳は大蛇の頭を貫いた。

ドスン、という大きな音ともに地面に落ちた大蛇の頭に向かって咲耶はコレで私の勝ちね!と嬉しそうに宣言した。

しかし、

「まだだ・・・」

大蛇がそう呟いた瞬間、神社のあちこちから昨日見た全身真っ白の一つ目の妖怪達がわらわらと出てきた。

それと同時にまた体が動かなくなり昨日の恐怖が蘇った。

体中からダラダラと汗が流れ出る。

ヤバイヤバイヤバイそんな言葉が頭の中でグルグルと廻る。

逃げなければ!しかし体は例のごとく動かない。

パニックになりかけた瞬間、俺は鞠亜に揺り起こされた。

「龍ちゃん大丈夫!?すごい汗だけど」

鞠亜が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

俺の顔は汗だくで心臓はうるさいくらいに音を立てていた。

「ああ、大丈夫だ」

助かった。そう思いながら急いで咲耶の方を振り返る。

咲耶は大丈夫か!?


「クックック・・・フハハハハ・・・アッハッハッハッハッハ!!」

咲耶の方を振り向くとテンプレの様な見事な三段笑いの寝言を決めていい笑顔で眠っていた。

あの後一体何が起こったんだよ・・・・。

しかしこの様子なら大丈夫そうなので放っておく事にした。


「あ、龍ちゃん、はい濡れタオル」

「お、おう、ありがとう・・・」

鞠亜からタオルを受け取り汗を拭う。

一方咲耶の寝顔は冷や汗どころか無茶苦茶楽しそうな顔だった。

今夢の中で何が起こってるんだよ・・・


「龍ちゃん、夢の中で何があったの?」

鞠亜が心配そうに聞いてくる。

「咲耶が例のイケメンに求婚されて、咲耶が自分と戦って勝ったら嫁になってやるから負けたら雛月の餌になれ、みたいなこと言って、そしたらイケメンがとんでもなくでかい蛇になった」

大体要約するとこんな感じだ。

「ふふっ咲耶ちゃんらしいなぁ」

鞠亜はふわりと笑った。


「さっき調べてみたんだけど、蛇が人間の娘を生贄に要求したり、お嫁さんにしようとする話って結構あちこちにあるみたい」

鞠亜はスマホをいじって関連する記事を俺に見せてくれた。

「蛇って日本だと水の神様として祭られてることが多いみたい。昔、食べ物がその土地で取れた物しか無かった時代は日照りが続いて作物が枯れると村全体の死活問題になるから、水の神様である蛇神に生贄をささげて雨を降らせてくれるようお願いしてた所もあったみたい」

そういえば神社の裏に川があったことを思い出す。

「じゃあ、あそこに祭られてたのって」

「やっぱりそういう水の神様なんじゃないのかなぁ。でも最近は昔みたいに雨が降らなくても食べ物に困ることは無くなったし、そういう部分はすっかり忘れ去られてとりあえず祭られてるだけみたいな感じで寂しかったんじゃないかな。咲耶ちゃんって相手の心情に対して鋭い所あるし、そこが気に入られちゃったのかも」

しかし、いくら寂しかったからといって、あんな目に合わされたのではこっちはたまったもんじゃない。


「でも、もし咲耶ちゃんの分身の雛月ちゃんの餌になって取り込まれたら、その蛇さんの魂はずっと咲耶と一緒にいられるから寂しくはなくなるね」

鞠亜がふと思いついたように言ったが、俺はその考えをロマンチックと言ったらいいのか血生臭いと言ったらいいのか少し悩んで、結局何も言えなかった。


15分後、咲耶は爽やかな顔で起きてきた。

「一件落着だ!」

と言っていたのでたぶんもう蛇については大丈夫だと思う。


「結局、どうなったんだよ?」

先ほどの咲耶の見事な三段笑いを思い出しながら尋ねる。

「最終的にはあの蛇と和解して、あの蛇とその使いを全部雛月が平らげて終わったな」

咲耶が鞠亜から濡れタオルを受け取りながら答える。

「まあ、なんとなく予想はついたけどな」

「それよりすごいぞ!あの蛇も中々のものだったが、その眷属も合わせたら雛月がとんでもなくレベルアップしたぞ!」

咲耶が興奮気味に話す。

「どうレベルアップしたんだよ?」

「雛月」

咲耶が窓の方に向かって声をかけると窓辺に雛月が立っていた。

雛月は頭上高く手を伸ばし、それを一気に振り下ろした。

途端に今まで晴れていたのに激しい天気雨が降り出した。


「雨を降らせられるようになった!」


嬉しそうに咲耶は笑ったが、俺はなんだか咲耶が遠くに感じられた。




次回更新予定は10/18です。

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