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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
中二病覚醒編
23/71

#20 有馬乃亜

林間学校当日、鞠亜は体調不良で休んだ。

小学校の時から鞠亜は泊まりがけの学校行事には参加しない。

昔はただ病弱なのだと思っていたけど、今ならわかる。

泊まりがけともなれば出先で呼び寄せた悪霊に対してすぐに対処できないからだ。


林間学校の班は男女それぞれ3人ずつの6人で、3で割り切れず余った生徒はそれぞれ一人ずつその六人の班に入る。

俺のクラスでも3つの班はこの7人班で俺の班も7人班だ。

俺の班は女子が鞠亜、咲耶、早瀬、有馬乃亜(ありまのあ)の4人、男子が俺と修司と中島弘樹なかじまひろきの3人だ。

中島は修司と仲が良くその繋がりで俺も最近よく話すようになった。

女子の方は鞠亜が休んだので3人になり、俺達の班は実質6人になった。


林間学校学校からバスでの移動中は修司や中島の他にも何人かの男子と一番後ろの席でトランプをしていた。

ふと前の席を見やると早瀬と有馬さんが通路を挟んで楽しそうに話していた。

有馬さんの隣の席には見えないが咲耶が座っていて3人で話しているようだ。

林間学校の施設に着くと俺達は施設の体育ホールに集められ、オリエンテーションの後、各自持参した昼食を取り休憩時間になった。

休憩時間中、咲耶達は他の何人かの女子達と一緒に雑談をしているようだった。

その間も有馬さんは咲耶のすぐ隣に座り、二人は随分と仲が良さそうに見えた。


「なあ、有馬さんって咲耶とあんなに仲良かったけ?」

なんとなく俺がは修司にそう聞いてみた。

「何言ってるの?二人は普段からあんな感じじゃないか」

「普段から?俺は今初めて見たような気がするんだが」

「そんな訳無いじゃないか、二人は龍太の幼なじみでほぼ毎日一緒に下校してるんだから」

修司は怪訝そうに俺にそう言った。

その言葉に俺は混乱した。


「は?鞠亜じゃなくて?」

「え、鞠亜って誰?」

修司が当たり前のような顔で聞いてくる。

「鈴木鞠亜だよ、同じ班で今日風邪で来られなかった」

「ウチの班の女の子は鈴木さんと有馬さんと早瀬さんだけだよ?」

修司の答えはは冗談でもなんでもなく、本当に鞠亜とは誰なのかわからないようだった。

というか、むしろ俺が変なことを言っているかのような反応だ。

そんな事はありえない。

普段あまり話さないクラスメートの名前をド忘れする位ならわからないでもないが、同じ班の、しかも普段一緒に給食を食べている仮にも少し前まで好きだった相手の名前を今日急に忘れる訳がない。


「俺達の班、7人班だったよな?」

たまらず俺は修司に確認する。

「最初から6人だったじゃないか、龍太もしかして寝ぼけてる?」

しかし修司の答えはさっきと変わらなかった。

俺は修司をはさんで座っていた中島にも尋ねる。

「なあ、俺達の班って最初から6人だったっけ?」

「何言ってんだよ当たり前だろ?・・・もしかして高尾お前、何か変なものでも視たんじゃないのか?座敷わらしみたいなヤツ」

中島の反応も修司と似たようなものだった。あまつさえ茶化してくる。


「座敷わらしって、家にいるとその家が栄えるってやつ?」

「そうそう、あとその家で何人かの子供が遊んでると一人だけ増えてたりするんだよ」

「でもいきなり知らない子が増えてたらすぐわかるんじゃない?」

「ところが遊んでる時はみんな最初からいた気がするし皆顔も知ってるんだよ。でもそこに人数分のおやつを持っていくと必ず一つ足りない。いつの間にか誰か増えてるんだよ」

すぐ横で修司と中島の話を聞きながら咲耶達の方を見た。

すると有馬さんが振り向いて俺と目が合った。

有馬さんはニッコリ笑うとこちらに小さく手を振ってきた。

つられて手を振り返しながら必死に有馬さんについての記憶を辿るが全く思い出せない。

幼なじみという有馬さんのことを思い出そうとしても鞠亜のことしか思い浮かばない。

周りの話や態度からすると鞠亜の位置にそのまま有馬さんが居るような状態だ。

だったら、有馬さんて誰なんだよ。


俺はトイレに行くフリをしてこっそり体育ホールを抜け出して鞠亜の携帯に電話をかけてみたが、鞠亜の携帯の電源は入っていなかった。

とりあえず、つい先日咲耶が電話で言っていたことも気になったので、これも咲耶の仕業という気がして咲耶にライポでメッセージを送りトイレのある場所から少し奥に行った人気の無い廊下の裏に呼び出した。

すぐに今から行くというメッセージが返ってきてしばらく待っていると咲耶がやってきた。


「なによ」

「お前、鞠亜に何したんだよ」

「は?なにが?」

「大体、有馬乃亜って誰だよ」

「乃亜は乃亜じゃない。何を言ってるのよ。それに、鞠亜って誰よ?」

その時、初めて俺は今の状況に言い知れない恐怖を感じた。

この状態を作り出したのが咲耶なら、咲耶が鞠亜のことを忘れている訳が無い。


「どうしたのよ龍太、顔色悪いわよ。何があったのよ、鞠亜って誰?」

咲耶は俺の様子を心配して何があったのか聞いてくるが、質問の内容から本当に鞠亜のことを憶えていないのだと確信した。

この世から鞠亜が消えてしまったような気がしてまた気が遠くなった。

「とりあえず座りなさいよ。ゆっくりでいいから何があったのか話して」

そう言って咲耶は俺を廊下の隅に座らせて俺の背中をさすり始めた。

こんなところを誰かに見られると恥ずかしいので辞めさせたかったが、同時に小さい頃寺の墓場で倒れた鞠亜が目を覚ました時、安堵と興奮で泣き出す俺と咲耶の背中を鞠亜がさすってくれたのを思い出して泣きたくなった。

俺は咲耶に俺の覚えている俺達の幼なじみは天野鞠亜という女の子だったこと、鞠亜の容姿や性格、祟られ体質のこと、昨日までは普通に鞠亜がいたこと、その鞠亜の位置に幼なじみと言われてもピンとこない有馬乃亜という女の子がいるということを話した。

咲耶はそれを信じられないというような顔をしながら聞いていた。

俺が一通り話し終えると咲耶は自分の携帯を取り出し何かを確認しだした。

そしてそれが終わるとしばらく黙り込んだ後、血の気の引いた顔で話し出した。


咲耶自身も動揺していたが話をまとめると、咲耶はついさっきまで有馬乃亜を鞠亜だと思い込んでいたようだ。

自分の中の全ての鞠亜に関する記憶が有馬乃亜と置き換わっていたらしい。

しかし、俺の話を聞いてまさかと思い咲耶が自分の携帯の写真を確認してみると、乃亜と撮ったと思っていたはずの写真にはすべて違う女の子が写っていた。

その時やっと鞠亜のことを思い出したらしい。

「何コレ・・・」

咲耶も俺の言っていた事がわかったらしく絶句していた。

この様子を見ると咲耶が犯人とは思えなかった。

「鞠亜には連絡してみた?」

「電話かけてみたけど繋がらない」

俺達がそう話していると、廊下の隅に座っている俺達の足元に影が差した。


「あ、咲耶ちゃんもこんな所にいたぁ、龍ちゃんもいる。咲耶ちゃんトイレ行ったまま全然帰ってこないから探しに来ちゃった」

そこに立っていたのはニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべた有馬乃亜だった。

鞠亜に似たくせっ毛だがその髪は黒く、肌も日本人離れした白さだがその顔は整ってはいるが鞠亜とは違う。

俺と咲耶が黙っていると乃亜は俺達の前まで歩いてきて目線を合わせるようにしゃがんだ。

「ふぅん、気づいたんだぁ」

乃亜は首を傾げながら笑った。長いまつげに覆われた黒目がちな瞳が細められる。

乃亜がそう言った瞬間、咲耶は勢いよく立ち上がって乃亜を見下ろした。


「なにやってるのよ、雛月」

その声は静かで冷たいものだったが、咲耶からは明らかな怒気を感じる。

「雛月じゃないよ、有馬乃亜だよ。今は鞠亜とこの体を共有してるの。せっかくだから見た目も私と鞠亜を足して2で割ったような感じにしてみたの。かわいいでしょ?」

悪びれた様子も無く咲耶に合わせて乃亜も立ち上がる。

確かに言われてみれば、黒い髪や、目のすぐ上で切りそろえられた前髪、顔立ちなどはどこと無く咲耶の面影があった。

面影があるだけで咲耶とは別人にしか見えないのだが。

「・・・咲耶、つまりどういうことなんだ」

俺はとりあえず二人に合わせて立ち上がりながら咲耶に解説を頼む。


「つまり、雛月が鞠亜に憑依した状態で周りの人間に干渉してたのよ。私や龍太の記憶にも干渉してたみたいね」

咲耶は不機嫌そうに言う。

「何でそんなことしてるんだよ」

俺が思わずそういえば、乃亜は待ってましたとばかりに説明しだした。

「鞠亜が林間学校に行きたいって言ってたから連れてきてあげただけだよ。危ないって言っても私がずっと鞠亜にくっついていれば鞠亜も守れるし。でもみんなを説得するのはめんど臭そうだったから、鞠亜と同じポジションで祟られ体質じゃない女の子の設定を作って周りの人間に干渉してその設定を植え付けたの」

自信たっぷりに乃亜は答えるが、咲耶の表情はみるみる険しくなっていった。


「雛月。私は鞠亜に対して私からの指示がない場合、一切の接触を禁止していたはずだけど」

咲耶がそう言って乃亜の手を握ると、乃亜の姿は消えてその場には鞠亜が立っていた。

咲耶が強制的に雛月を鞠亜から引き剥がしたのだろう。

「咲耶ちゃん、雛月ちゃんを責めないであげて。雛月ちゃんは私が一人でうじうじしてたから見かねて手を貸してくれただけなの」

鞠亜自身今の話をそのまま聞いていたらしく、すぐに雛月を庇うように抗議する。

「・・・今回の話を持ちかけたのはどっち?」

「色々方法を考えてくれたのは雛月ちゃんだけど、最初に林間学校に行きたいって言ったのは私」

「鞠亜の両親には?」

「同じように雛月ちゃんが干渉してる」

「雛月と憑依している時、鞠亜はどういう状態なの?」

「雛月ちゃんと二人でお互い意識があるまま体を共有してる感じかな。普通に私がしゃべったり体を動かすこともできるし、雛月ちゃんがそうすることもできるよ。視覚とか聴覚とかそう言う感覚は二人とも感じられる。会話の内容も食事の味も二人で共有してて全部わかるよ」

咲耶と鞠亜のしばしの問答の後、咲耶は鞠亜の手を放した。


「雛月、もう乃亜になっていいわよ」

咲耶がそう言うと鞠亜の姿はたちまちさっきの乃亜の姿になった。

「じゃあこのまま有馬乃亜として林間学校に参加してもいいよね?」

咲耶の様子からしてこんな調子で話す乃亜を張り倒すかと思ったが、実際には大きなため息を一ついただけだった。

「もう鞠亜がこっちに来てしまった以上、しょうがないから鞠亜が家に帰るまでしっかり守るのよ」

咲耶は乃亜に言うとさっさと戻るように促した。

乃亜も咲耶のその反応が予想外だったらしく目を丸くしたが、すぐに上機嫌になって体育ホールへ戻っていった。


乃亜が戻った後、咲耶は俺にどうやって鞠亜のことを思い出したのか聞いてきたが、俺は上手く答えられなかった。

「俺にも良くわからないけど、有馬乃亜の名前と顔はわかってたのに、鞠亜の記憶と結びつかなかったんだよ。だから修司から幼なじみとか言われてもピンとこなかったし、鞠亜のことを聞いたら皆知らないって言うし」

そんな俺の答えを聞きながら、記憶の上書きが俺だけ上手くできていなかったのだろうと咲耶は結論付けた。

しかし咲耶はこうも言った。

「でも、なんで龍太だけ上手くできなかったのかしら?」

咲耶は首を傾げていたが、それよりも俺は雛月が自分の意思で鞠亜に憑依し、俺達の記憶を操作して主であるはずの咲耶自身が全く気づけなかったという事実の方がずっと恐ろしかった。


その後は各班に別れ、テントを張ったり、ハイキングコースをそれぞれ回ったり、夕食のカレーを皆で作って食べたりと特におかしなことも無く時間は過ぎていった。

その時気づいたのだが、乃亜は鞠亜よりもテンションが高い。あと咲耶だけでなく俺や早瀬、修司や中島にもやたらスキンシップをとろうとしてくる。

鞠亜も初めての林間学校でテンションが上がっているというのもあるだろうが、雛月の影響が大きい気がする。

雛月は普段の状態では物に触れることも食事をする事もできないのでそれができるのが嬉しいのだろう。

乃亜は終始上機嫌で何をするのも楽しそうだった。


1日目は何事もなく、無事に終わった。


2日目の夕食が終わった後、学年主任の菅原先生が怪談を語り始めた。

これからやる肝試しの余興だ。

菅原先生は普段はただの中年のおっさんなのだが、学生時代は落語を嗜んでいたらしく国語の教科書の本文そのままの朗読を面白おかしく話し出す、生徒にも人気の高い先生だ。

その話は図らずも神様にいたく気に入られてしまい神隠しにあってしまった女の話だった。

よく聞くありふれた話ではあるが、菅原先生の話術はかなりのもので、話が終わる頃には最初はうるさかった生徒達がすっかり大人しくなってしまっていた。

ちなみに今回やる肝試しは、各班ごとに別れてそれぞれ順番に今日ハイキングで行った山の中にある神社まで行って、その神社の境内にある今回の肝試し用に置かれたお札を持って帰ってくるというものだ。

くじ引きで俺達の班は一番最後に出発する事になった。

もう嫌な予感しかしない。


順番を待っている間、早瀬と中島を中心に隣で待機していた班も巻き込んで神隠しの話で盛り上がるのを見ながら俺は一緒に盛り上がる乃亜と咲耶を観察する。

咲耶の顔が若干引きつっている気がする。

これから乃亜を連れて肝試しをするというときにこの話題は不吉すぎる。

ただでさえ、雛月が咲耶の意思に反して勝手に動いて今の状態を引き起こしてしまっているのだから、咲耶も平静を装ってはいるが心中穏やかではないだろう。

咲耶は雛月に自分が指示するまでは鞠亜への接触を禁止していたと言っていたが、咲耶はこうなることがわかっていたのだろうか。

色々なことが頭の中をよぎって、俺も冷静な状態を保てなくなりそうだ。

いや、闇雲に考えても仕方がない。

これから起きることを1つずつ片付けるだけだ。




次回投稿予定は10/4です。

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