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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
中二病覚醒編
20/71

#17 拒否設定

廃屋の一件から一週間が経った。

咲耶も鞠亜も特に変わった様子も無くいつも通りに過ごしている。

こう何も無いと、先週起こったことも夢だったんじゃないかとさえ思えてくる。

咲耶からの電話の後、俺と親父の話の中心はすっかり咲耶になってしまい、結局親父から鞠亜の情報を聞きだすことはできなかった。


次の日の朝、教室に入るとすぐに鞠亜が小走りで俺のほうに来て、ちょっと話があると廊下に呼び出された。

人通りの少ない廊下に出ると鞠亜が興奮した様子で話し出した。

「大変だよ龍ちゃん!今日咲耶ちゃんにラブレターが来たの!」

「ラブレター?咲耶に?」

「そう!今朝咲耶ちゃんと下駄箱の前で会ったんだけど、手紙が入ってたの!手紙の内容は見てないんだけど、咲耶ちゃんそれ読んだ後笑顔になってね、それからずっと妙に機嫌がいいの!咲耶ちゃん相手に心当たりがあるみたいで、『まさか向こうから来てくれるなんて』とか言ってたの!誰なのか聞いても咲耶ちゃん教えてくれないし、龍ちゃん心当たり無い?」

結構な勢いでまくし立てる鞠亜。咲耶の反応からして心当たりは一つしかない。たぶん廃屋の仕掛けを作った奴だろう。

しかし鞠亜の祟られ体質の深刻さを知ってしまった今、全てそのまま話すのは気が引けた。

鞠亜を心霊だとか呪術だとかいう類の物に必要以上に近づけたくは無い。

「俺もよくわからないな」

そう答えると鞠亜は明らかに落胆したようだった。


放課後、咲耶が今日は少し用事があるので俺と鞠亜に先に帰るように言ってきた。

恐らく手紙の相手と会うのだろう。

今朝、鞠亜が言った通り、今日の咲耶は妙に機嫌が良かったように思う。

生活態度は普段とは変わらないが、目がキラキラと輝いて朗らかに笑っている。

その様子ははさながら恋する乙女の様だった。

一方、鞠亜は話すときも笑う時も終始目が笑っていなかった。

虚ろに開かれたその目はさながら死んだ魚の様だった。


俺と鞠亜は教室を出て行く咲耶を送り出した後、こっそりと咲耶の後をつけた。

本来なら咲耶が誰と友達になろうが付き合おうが知ったことではないが、手紙の相手が廃屋に仕掛けた物のことを考えるとこのまま見過ごせない気がした。

少なくともその手紙を渡してきた相手の顔くらいは見ておきたい。

鞠亜は鞠亜で咲耶にあんな顔させる手紙の主が気になって仕方が無い様だった。

正直鞠亜にはそのまま咲耶の後なんてつけず帰って欲しかったが、俺自身が咲耶の後をつける以上、そのことについては何も言えなかった。

咲耶は特別教室と空き教室がある第二校舎へと入っていった。

放課後、この校舎には理科研究部と料理研究部以外の関係者以外はは基本立ち入らないはずだ。

咲耶は一階の空き教室の前まで行くと、戸を開けて中を確認してから向かいにある女子トイレへと入っていった。


ここは前に修司の椅子と机を取りに来た教室だ。

空き教室は生徒が増えた時のために多少余裕を持って作られた教室らしいが、今は完全にただの物置になっている。

咲耶を呼び出した相手がここを選んでくれたのは都合が良かった。

すかさず俺と鞠亜は教室に入り、教室の隅に寄せてあった運動会用の得点ボードと看板の陰に隠れた。

コレなら看板やボードの隙間から教室の様子を窺える。


しばらくして教室の戸がガラッと開いた。

咲耶が戻ってきたのかと思ったがそうじゃなかった。

そこに現れたのは小柄な、たぶん学ランを着ていなければ小学生と間違えるような少年だった。

まさかコイツが咲耶を呼び出した手紙の主なのだろうか?イメージとしてはもっと凶悪そうな奴をイメージしていたが・・・

少年は辺りをキョロキョロと見回すとこっちを見て目を留めた。

見つかったか?

そう思う俺をよそに少年はこちらに近づいてくる。


そして鞠亜の隠れている看板の前まで少年が来たとき、再び教室の戸が開いた。

「私を呼び出したのはあなた?」

咲耶はニコニコと笑いながら少年に話しかけた。こんなに無邪気な笑顔の咲耶は久しぶりに見た。

雛月は毎回こんな感じで笑っているが、咲耶本人のこんな顔は久しぶりだ。

・・・・・・いや、もしかしたらコイツは雛月なのかもしれない。

「はい。一年の柿芝悠人と言います。来てくれて嬉しいです」

少年、柿芝の顔は咲耶の方を向いてしまったのでわからなかったが、声から笑顔になっているだろうことは想像できた。


「早速だけど、裏山の廃屋に面白い仕掛けをしていたのはあなたってことでいいのかしら?」

「はい。その仕掛けを壊したり、この学校にもっと面白い仕掛けをしているのは鈴木先輩ですよね?」

「ええそうよ。やっぱりわかる人にはわかるのね」

あっさり白状した柿芝だったが、それ以上に聞き捨てならない言葉が聞こえた。

廃屋の仕掛けより面白い仕掛け、もしかして餌場の事だろうか。いや、それ以外に思いつかない。

「僕、自分以外にこんな仕掛けが作れる人に会ったことが無かったので、是非お話してみたいと思ったんです」

「私もあなたと話してみたいと思っていたの。ところで、あなたは私と仲良くしてくれる人かしら?」


突然パキッと小さな音がした。

それ以外には何も起こらなかったが、咲耶は随分と驚いたような顔をしていた。

「もちろん鈴木先輩さえ良ければ是非、『対等な友人』として仲良くさせていただきたいです」

柿芝は音を気にするでもなく話を続けた。

一方、咲耶は今度はなぜか随分と嬉しそうな顔になった。

咲耶が駆け寄って柿芝の左手を両手で握る。

「すごい!今のどうやったの!?あなたの波長は今日一日観察して完全に掴んだと思ったのに!」

「先輩が波長を合わせて来たので自分の波長をずらしただけですよ」

「・・・じゃあコレは?」

今度はバチッと大きな音がした。

しかし今回も何も起こらなかった。


「先輩の大本の波長から辿ってはじき返しました。メールで言うとドメイン指定拒否みたいな感じです。さっきやったのはメールアドレスの変更、みたいな感じでしょうか」

柿芝は余裕しゃくしゃくといった感じだ。


柿芝の例えのおかげで、なんとなくコイツ等が今何をやっていたのかはわかった。

咲耶は柿芝に波長を合わせて干渉しようとしたが、柿芝にはじき返されて失敗したのだろう。

しかし、咲耶の干渉と言うのはこんな簡単にはじき返せるものなのだろうか?

こんなにあっさり咲耶の干渉を拒否できるこの柿芝とは何者なんだろう。

「そんな方法もあるのね、波長がわかってても干渉できないことがあるなんて思いもよらなかったわ!良かったらメアドとか聞いてもいいかしら?もっと色々情報を交換したいわ。あ、ライポは入ってる?」

その後二人は楽しそうに連絡先を交換していた。

咲耶も咲耶で、柿芝は自分の脅威になりかねない奴なのに、どうしてこうも友好的なんだろう。

「情報交換なら携帯より交換ノートでしませんか?情報量も多いので、その方が色々便利だと思うんです」

「それもそうね。じゃあ帰りにでも買って行きましょうか」

そうして二人は空き教室を出て行った。

もしかして今、とんでもないコンビが結成されたんじゃないか?


二人の足音が遠ざかるのを確認して俺はボードと看板の陰から出た。


「鞠亜、もう出てきても大丈夫だぞ」

しかし、しばらく待っても鞠亜は出てこない。

不審に思ってボードをどけてみると、鞠亜は倒れていた。

慌てて鞠亜の肩を叩きながら鞠亜を呼んでみる。すると案外あっさり鞠亜は目を覚ました。

「う~ん、あれ、私いつ寝たんだっけ?」

まるで居眠りしていたただけのような様子である。

「俺が聞きたいよ、大丈夫か?気分悪いのか?」

「うん大丈夫だよ~なんか眠いけど」

あくびをしながら笑う鞠亜に安心しつつ、部屋に入って来た時の柿芝の様子を思い出す。

まさかとは思うが、アイツが鞠亜に何かしたんじゃないだろうか。

「鞠亜、意識が途切れたのっていつかわかるか」

「う~ん、気がついたら寝ちゃってたからな~・・・メイド服の女の子が入って来て、でも実は男の子だった所くらいかな?」

「鞠亜、それは夢だ。柿芝悠人は普通に男で、咲耶とわりと楽しそうな雰囲気で帰って行ったぞ」

「あれ?そうなの?ごめんね、最近こういうの多くて・・・」

鞠亜は気の抜けた声で言った。


「最近こういうの多くてって、まさかしょっちゅう今みたいに急に意識が無くなる事あるのか?」

今まで鞠亜のそんな様子を見た覚えが無かったので衝撃だった。

「うん、睡眠障害らしくて、朝とかお昼は大丈夫なんだけど、夕方から夜にかけて結構あるんだ」

「睡眠障害って、大丈夫なのか?」

「ちゃんと病院行ってるし、大丈夫だよ」

病院に行っていると言う事は、症状に応じた薬も処方されているはずで、それでも夕方のこんな早い時間に自分の意思と関係なく眠り込んでしまう状態が大丈夫なはずは無い。

困った様に笑う鞠亜に、胸を締め付けられる思いがした。

最近気づいたのだが、鞠亜は何かあるとなんでも自分の中で溜め込むような癖がある。

クラスの女子からいじめられかけた時も、心霊的な物にかなり深刻な被害を受けていた時も、いつもなんでもないような顔をして笑っている。

内心相当しんどいはずなのに、そんなそぶりも愚痴も相談も一度も聞いたことが無かった。


この話を知ったのだって、咲耶や親父の話があって初めてわかったことだ。

幼稚園の頃からずっと一緒にいるのに、どうして鞠亜は相談してくれないのだろう。

親父や咲耶ほど頼りにはならなくても、話を聞いて一緒に悩むくらいはさせて欲しい。

「なあ鞠亜、もし何か不安なことや困ってることがあるなら、なんでも遠慮せずに話して欲しいんだ。睡眠障害のこととか、咲耶のこととか、その、祟られ体質のこととか」

祟られ体質のこと、そう言った時鞠亜の目は驚いたように見開かれた。

「龍ちゃん、もしかして健さんから何か聞いた?」

そう聞く鞠亜の顔は急に曇った。


「小学校の頃は月一ペースでお祓い受けてたけど、今は週一ペースじゃないと間に合わないこととか、小学校の終わりごろから家にも悪いものが住み着くようになって、家に本格的な結界を張らないと住めないような状態になってるのは聞いた」

「そっか・・・」

俺の答えを聞くと鞠亜は俯いてしまった。

「龍ちゃんはさ、その話聞いてどう思った?いつも一緒にいる相手がこんな状態で、自分も身の危険感じた?こんなお化けホイホイみたいな人間と一緒にいても・・・」


「俺は!鞠亜がどんな体質でどんな状態でも、鞠亜は鞠亜だと思うし、俺はそれでも鞠亜が好きだよ!」

どんどん涙声になっていく鞠亜の話を聞いていられなくて、これ以上言わせちゃいけない気がして俺は鞠亜の話を遮った。

ついでに勢いで告白もしてしまった。


鞠亜は驚いたように顔を上げた。

「鞠亜の話なら、どんな愚痴でも相談でもなんでも喜んで聞くんだからな!」

勢いあまって鞠亜の両肩をつかんで、なおも俺はまくしたてる。

「えへへ、そっか・・・」

目に涙をためながら笑う鞠亜に心臓が跳ね上がる様な勢いで脈打つのを感じた。

「こういう話をしてそう言ってくれたのは龍ちゃんで3人目だよ」

「3人?親父と咲耶か?」

「・・・うん、そんなとこかな」

また困ったように鞠亜は笑った。

・・・この反応は、今の発言を告白とは思っていない様子だ。


少しの沈黙の後、吹っ切れたような様子で鞠亜が口を開いた。

「じゃあ龍ちゃん、すっごく重くてどうしようもない話なんだけど、たぶんドン引きすると思うけど、私の悩み、と言うか愚痴を聞いてくれる?」

「あ、当たり前だろ!」

どうやら早速鞠亜からの相談、というか愚痴らしい。どんな内容でも、ずっと俺だけ蚊帳の外状態で距離を置かれるよりずっとマシだ。

「私ね、きっと中学は卒業できないと思う。持って一年、もしかしたらもっと早く死んじゃうと思う。祟られ体質的な意味で」

「え、どういうことだよ?」


いきなり愚痴のレベル超えてないか?


そんなさらっと『今回のテスト絶対前より点数下がってるよ~』みたいなノリで言える話じゃなくないか?

「年々私が引き寄せる悪霊とかの数やレベルが上がってるみたいなの。あと、引き寄せた悪霊同士で共食いみたいなデスマッチとか起こるみたいで、マメに祓わないと倒した相手の力を取り込んで更に強い悪霊になっちゃうらしくて大変なの。で、この勢いだとそろそろ私に引き寄せられる悪霊が健さん達の手にも余るようなのが出てきそうで、このままだと近々お守りとか結界とか全部食い破ってくるような悪霊に連れて行かれそうなんだ~」

鞠亜の口調はさっきと打って変わって随分と軽いもので、思わず鞠亜の顔を覗き込んだら、今日一日で一番虚ろな目をしていた。

この目は、変な方向に吹っ切れている目だ。


「あ、龍ちゃん蠱毒こどくってしってる?」

「いや、知らないな」

俺がそう答えると鞠亜は声だけ楽しそうに蠱毒の説明を始めた。

「虫とかを使った呪術でね、器の中に沢山の虫を入れて共食いさせて、最後に残った一番強い一匹を呪いに使うらしいよ。私が聞いたのはその虫を殺してその怨霊を使役する。みたいなやつなんだけどね、割と成り立ちとか似てるし、私に引き寄せられた悪霊達もそんな感じで使役できないかな~」

「いや無理だろ。というか、そんな話どこで聞いたんだよ?」

「オルカちゃんと咲耶ちゃんがこの前その話で盛り上がってたから」


やっぱりあの二人か・・・。

あの二人が揃った時の話題は大体想像がつく。

どうせ7割、8割は怪談とか都市伝説とか古今東西の呪術などオカルト的なことだろう。

「お守りとか結界とかお祓いとか色々もう限界みたいだし、もし死なないで済むならこのまま咲耶ちゃんと親友としてずっと仲良くいられるだけで良いと思えるけど、どうせもうすぐ死ぬならせめてそれまでの間咲耶ちゃんを独り占めできるとかそんな餞別代わりの幸せが降って来てもいいと思うの」

ものすごいぶっちゃけようだな、というか今まで鞠亜はそんなこと考えて過ごしてきたのか。

色々追い詰められすぎて思考と感情が変な方向に迷走しているような状態なのだろうか。

「あ、もちろん健さんにはすごく感謝してるよ、健さんがいなきゃ当の昔に私はここにいないだろうし」

思い出したかのように鞠亜は言った。

親父へのフォローのつもりなのだろうが、とって付けたような言い方で、まるでイタズラがばれた子供みたいな感じだった。

その反応に、さっきまでの半ば自棄のような様子から、いつもの俺が知っている鞠亜に戻ってきてくれた気がして、なんだか笑ってしまった。

鞠亜はその俺の反応にむくれていた。


その様子を見てまた笑いながら俺はある仮説を立てる。


咲耶の死の危険が高まるのが今年の冬から来年の冬まで。

その間に咲耶が鞠亜に殺される。

咲耶はある時期までに力をつけなければじぶんが消されると言っていた。

咲耶は過去に鞠亜に引き寄せられた悪霊と対峙したことがあるような様子だった。

鞠亜に引き寄せられる悪霊はそろそろ手に負えなくなってくる。


ここ数ヶ月で得られた情報をまとめると、咲耶の死亡フラグも鞠亜の深刻な祟られ体質も、これから起こることと関係あるように思える。

中村さんの言葉を思い出す。


「龍太君なら、二人の未来を変えられる」


つまり、鞠亜と咲耶を助け出す方法はどこかにがあるはずだ。

だったら、俺がこの二人の未来を変える。

咲耶も鞠亜も死なない、誰も殺させない未来に作り変える。

そう心に誓った。

次回更新予定は9/13です。

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