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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
中二病覚醒編
19/71

#16 家族

私、鈴木達也すずきたつやの朝は娘の咲耶に起こされることから始まる。

「お父さん、朝~」

娘が毎朝枕元に起こしに来てくれるのは咲耶が幼稚園の頃からの習慣である。

たまに娘が起こしに来る前に目が覚めることもあるが、起こして欲しいのでそんな時は狸寝入りをする。

その後、各自身支度をしてから朝食の用意をする。

我が家の朝は基本パンなのでそれにハムエッグやインスタントのスープやサラダ、フルーツなど適当に添えてできあがりだ。


朝食を取りながら、7月も半ばに差し掛かり、毎日の天気予報の最高気温の高さにうんざりしながら朝食を取る。

今朝のパンは新しく買ったパン焼き器で焼いたものだ。

「このパン、モチモチしてて美味しいな」

「そうね、まさかお米からこんなパンらしいパンができるなんて思ってもみなかったわ」

「元は米だけどこれにはぬか漬けや納豆は合いそうに無いな」

「いえ、この中身の白い部分だけをちぎってお茶碗に入れればあるいは・・・・」


いやいや、その組み合わせは・・・冗談だよな?


娘の咲耶は小学校までは活発でよく笑う子だったのだが、中学に上がったあたりからすっかり大人びてしまった。

真顔で冗談を言う姿は母親にそっくりだ。


しかし、それを言うと咲耶は不機嫌になる。小さい頃はよく家に母親がいないことに不満を漏らしていたが、今ではそれも無くなりむしろ毛嫌いしている。

恐らく幼少期の不満が思春期に入ってそのまま反抗心に繋がったのだろう。

その反動か咲耶はこの年頃の娘にしては珍しく父親の私に対しては好意的だ。

料理や洗濯、掃除などの家事も進んでやってくれている。


妻の輝美は仕事の関係でほとんど家には帰ってこない。


輝美は少し特殊な仕事をしていて全国を転々としている。彼女にとってその仕事は何を置いても優先しなければならないものらしく、


「もし結婚して子供ができたら、私は子供のために一箇所にとどまる事はできないので自分の代わりに子供の面倒を見てくれるのなら、お付き合いをしてもいい」


と、かつてプロポーズとも言える形で交際を申し込んだ時に言われた。

当時は彼女と付き合えるのなら何でもいいとその条件を飲んだが、いざ子供ができてその通りになってみると、母親が家にいないことに寂しさを感じている咲耶を見るたびに申し訳なく感じた。


輝美も家にいない時は、毎日電話やSkyP2で連絡していたし、私や咲耶の誕生日やクリスマスなど節目節目でプレゼントを贈ってきてくれたりなどするので、少なくとも家族の事をどうでもいいとは思っていないようだ。


SkyP2とは、P2P技術を利用したインターネット電話サービスでPC間の通話が無料でできるソフトである。ウェブカメラと連動してビデオ通話もできるので、重宝している。


ただ実家とは絶縁状態で、小さい頃から寺に預けられて育った彼女の家族観は一般的なものとはかなりずれているような気はする。

もう少し家に帰ってきて欲しいとも思うが、輝美の稼ぎが無ければ、高卒で市役所に就職した私が20代で新築のマイホームに住むことも、現金で新車を購入することも、娘の将来ための学費を貯めることも、比較的裕福な生活を送ることもできないのでその辺はあまり強くは言えない。

しかし話を聞く限り輝美の仕事は不安定な仕事のようなので、私も仕事は続けたい。


平日は朝食を食べた後、それぞれ学校と職場に向かう。咲耶が中学校に上がってからは、私が家に帰る時間には咲耶が晩御飯の用意をしてくれている。

休日には、咲耶とパンにつけるジャムなどをたまに一緒に作ったりもする。


咲耶が小さい頃、テレビでジャムの作り方が紹介されていて、随分夢中になって見て家でも作りたいとせがまれ、ちょうどお隣の天野さんからおすそ分けで貰ったすっぱいイチゴがあったので一緒に作ったのがきっかけだった。


ジャム作りが楽しかったのか咲耶は今度はマーマレードが作りたいと言い出した。

そしてマーマレードを作ると他にもジャムを作りたいと言う。

ジャムがなくなるとまた作ろうと咲耶がせがむ。

以来、我が家ではその作ったジャムを消化するため毎日の朝食はパンになった。


それで味を占めたのか咲耶はその後、自家製のパンを作りたいだとか、1からケーキを作りたい、ぬか漬けを作りたいなどと言いだした。


私は母親と一緒にいさせてやれなかったり、平日はあまり一緒にいてやれない負い目もあったので休日を利用して、咲耶が作りたいと言った物は何でも片っ端から咲耶と作った。

実際やってみるとなかなか楽しいもので、上手くできなければ原因を考えやり方を工夫しながら何度も作った。

おかげで今ではふっくらしたスポンジケーキの焼き方から茄子のぬか漬けのベストな漬け加減まですっかりマスターしてしまった。


なんでも出来合いのものがスーパーで買える現在、これらは全くの無駄技術ではあるが、おかげで咲耶との共通の話題ができ、咲耶が中学生になった今でもコミュニケーションが取り易くなったのは功名である。


咲耶が小学生の頃は、輝美が昔預けられていた青善寺に咲耶が学校から下校し私が仕事を終えて迎えに行くまでの間、咲耶を預かってもらっていた。

この寺の住職が高尾健太というのだが、私の高校時代の先輩だったり、輝美の幼なじみだったりする。

そんな健太先輩には妻子共々とてもお世話になっているので、よく菓子折りを持ってお礼がてら妻と娘の惚気話をして張り合ってみたりしつつ仲良くさせてもらっている。

その先輩には咲耶と同い年の龍太君という男の子供がいて、咲耶とも仲良くしてくれいているようだ。

礼儀正しい子で咲耶と中学に入ってからも仲が良いそうなので、この子になら娘を嫁にあげてもいいかなと思っている。

両親もよく知っているし、何より家が近いのが良い。

嫁に行ってもいつでもすぐ会えるのだ。



昼休み、携帯を見てみると輝美からメールが入っていた。休み時間になったら電話をかけて欲しいという。

最近は毎晩のようにSkyP2で話しているので急ぎの用事なのだろうか。とりあえず輝美に電話をかけてみる。

「もしもし、たっちゃん?」

何度かの呼び出し音の後に聞こえたのはフランクな呼びかけとは正反対の平坦な声だった。恐らく電話の向こうでも眉一つ動かさない涼しい顔で話しているのだろう。

「メールが来てて確認したんだけど、何かあったの?」


「ええ、今週の終わりあたり、咲耶が夏休みに入ってからしばらく家に帰ろうと思うの」

「そうなのかい?じゃあ早速咲耶にも連絡しないと」

「ダメよ、咲耶には私が帰るまで黙ってて。びっくりさせたいのよ。夜SkyP2で話しても良かったけど、そうしたらうっかり咲耶にバレちゃうかもしれないでしょう?」

この時間に私に電話をかけるように言ってきたのはどうやらサプライズで帰ってきて咲耶を驚かせたいかららしい。


それは楽しみだと答えつつ、私は一抹の不安を感じる。

最近、咲耶はあまり母親を良く思っていないような言動があるからだ。


「私のお母さんって、あんまりお母さんって感じしないのよね。ほどんど家にいないし。むしろ龍太のお母さんの春子さんの方が私のお母さんって感じがするわ」

「私の家族はお父さんだけだと思ってるわ」

「お母さんなんていなくても特に問題は無いものね」


そんなことを最近口にしていた。どれもすぐに注意したが、恐らく普段からそう思っているだろうことが垣間見えた。


咲耶が小学校6年生の頃、冬休み初日に『お母さんに会いに行ってきます』という置手紙を残して姿を消したことがあった。

輝美との連絡は基本電話であったし、輝美からの配達物には住所も書かれていなかったので輝美の住所なんてわかるはずがないと思っていた。

慌ててあたりを探し回り、咲耶の友達の家にも確認してみたが、どこにも咲耶はいなかった。夜の7時を過ぎても帰ってこなかったので警察にも連絡した。

それから1時間後の夜8時、東京に住んでいる輝美から連絡があった。

家に帰ったらドアの前に咲耶がしゃがみこんでいたと。


後で聞いた話だと、咲耶は私の携帯のアドレス帳に登録されていた輝美の住所を調べ、電車を乗り継いで東京に出た後、いろんな人に住所を聞きながら輝美の住んでいるアパートまで来たらしい。

埼玉から東京なので、別に子供の小遣いでも行ける範囲ではあったが、私は咲耶の行動力に驚かされた。

その後、咲耶は輝美からこってりと絞られたようであるが詳しいことは解らない。


しかし、その頃からあまり母親の話をしたがらなくなり、むしろ毛嫌いしているような言動が目立つようになった。

恐らく咲耶はせっかく母親に苦労して会いにいったのに、冷たくあしらわれて結構傷ついたのだろう。

輝美もあまり感情が表情や声に出るタイプではないので、心配して叱ったのが鬱陶しくて怒っているように咲耶に誤解されてしまったのかもしれない。

それ以降、輝美が帰ってきても咲耶は輝美とほとんど話さなくなってしまった。


大丈夫だろうか・・・


私自身は二人が和解して昔のように仲良くなってくれれば嬉しいのだが。


そして輝美は今現在咲耶に毛嫌いされているという自覚はあるのだろうか。

咲耶が急に無口になったのも、SkyP2で話している時全く寄ってこなくなったのも

「やっと親離れして大人になったのね」

位にしか思っていない節がある。


一度そのことについて真面目に話したこともあるが、

「それくらいの年頃には良くある事よ。私も経験があるわ」

と言っていた。

輝美自身、実家とは小さい頃に寺に預けられた後ずっとほったらかされ、現在でも年賀状のやり取りもしない絶縁状態になっている。

私は咲耶と輝美にはそんな風になって欲しくないと抗議したが、

「私もそうは思うけれど、何事もなるようにしかならないわ」

という返事が返ってきた。

私の実家にはお中元お歳暮や遠くへ行ったときのお土産を欠かしたことがなかったので、余計に自分の実家への態度が冷淡に感じる。


輝美が帰って来た時に何とか咲耶と輝美が打ち解けられるようにしたい。

確か、咲耶が夏休みに入るのは今週の土曜日からなので、とりあえず当日には輝美と咲耶の好物のコロッケでも作ろうかと思う。


私自身の両親も母は去年、父は一昨年死んでいる。

兄は3人いるが遺産相続の件で酷く揉めて、「一円も要らないからもう連絡してくるな」と言い放って以来特に連絡も取り合っていない。

だからこそ自分の家庭は大切にしたいのだが、輝美も咲耶もあまり家族というものがどういうものか、まずその根本のイメージが無いような気がする。

しばらく輝美が帰って来られると言うのなら、家族3人でどこか出かけたり、ジャム作りでもコロッケ作りでも何か一つの事を一緒にやってみるのも良いかもしれない。



仕事を終えて家に帰ると咲耶が鼻歌を歌いながら上機嫌で夕食を作っていた。

そういえば最近咲耶は随分と機嫌が良い。

何か良い事でもあったのだろうか。食事の時、咲耶はそれを聞くと天使のような笑顔で、

「なんでもないわ」


と答えた。

この笑顔はなんでもない顔ではない。

もしかして好きな人でもできたのかと聞いてみた。

すると

「もう、そんなんじゃないわ、まあ、気になると言えばそうだけど」

と、肯定とも取れる返事が返ってきた。

私は内心驚きつつ、相手のことを探ることにした。

「もしかして、龍太君かい?」

笑いながら聞いてみると咲耶が顔を真っ赤にして否定した。

「な、なんでそこで龍太が出てくるのよ!?全っ然関係ないわ!」

コレは照れ隠しなのか、本当に違うのか。とりあえず、ではどんな相手なのか聞いてみた。


「どんなって、う~ん、同じ趣味を語り合える仲間、かな」


咲耶は言葉を選びながら答えているようだが、もしかして単に自分と同じ趣味を持った友人ができて嬉しかっただけなのだろうか。


「それは、女の子?」

「男だけど?」


つまり趣味の合う異性の友人ができた、ということか。

年頃の娘に異性の友人ができて、少し気になるなどと言っている。

これは私の経験則や同僚の話からしても、今後友情が恋心に変わる可能性が高い。

内心動揺しつつも、平静を装いながら下世話なことだが、親としてコレだけは言っておかねばならない。

「そうか、友達ができるのは良い事だし、もし付き合うことになっても応援するけど、まだ中学生なんだから節度を守った付き合いをするんだよ」

「いや、付き合わないけど、お父さんの言う節度を守った付き合いって具体的にどんな感じなのよ?」


具体的に、私個人が娘に交際を申し出てくる相手に求める娘との付き合い方、流石に交換日記から始めろとは言わないが、せめて高校を卒業するまでは清い仲を保って欲しい。


しかしそのまま咲耶に言ってもドン引きされそうなので、オブラートに包んで話す。

「少しずつ、段階を踏んでいって、順序を間違えないでくれればそれでいい、かな」

咲耶にはあまり伝わらなかった様で、首をかしげながらふーんと相槌を打っていた。

「その男の子とは今どんな感じなのかな」

打ち消すよう別の質問をしてみる。

「どんなって?」

「ほら、よく話すとか一緒に下校するとかよくメールするとか」

「うーん、学年違うから学校ではあんまり話さないし、帰るときは鞠亜と龍太と帰ってるし、メアドとかはこの前交換したけど・・・交換ノートとかしてるくらい?」


笑いながら話す咲耶に、もしかしたら相手はかなり古風な人間なのかもしれないと思った。

次回更新予定は9/6です。

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