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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
中二病覚醒編
18/71

#15 予感

廃屋から出ると外は日が傾きかけていた。

廃屋に入る時に感じたいかにも禍々しい、ヤバそうな雰囲気はすっかり無くなっていた。

ヤバそうな雰囲気がなくなっただけで廃屋そのものが不気味なのは変わらないが。


咲耶は随分と機嫌が良かった。

そのことについて指摘すると

「当たり前だろう。こんな仕掛けを作れるなんて、作った奴は呪術関係に詳しい人間に違いない。なんとしても見つけ出して色々と話を聞きたい」

とか言っている。

俺はわざわざこんな山の中の廃屋に、目的は解らないがただ人の恐怖心を集めるための仕掛けを施すような人間がまともな奴とは思えなかったが、咲耶があまりにも機嫌が良さそうなので黙っている事にした。


咲耶にこの仕掛けを作った人間を見つけだすような手段があるとも思えなかったからだ。


廃屋からの帰り、咲耶が行きにある時期までにある程度の力をつけていないと消される。と言っていたことについて聞いてみた。


「私の人生には何度か死の危険が高まる時期がある。それがもうすぐ始まる。それだけだ」

「何でそんなのわかるんだよ」

「なんとなく」


なんとなくかよ。


「たぶん今回は今年の冬から来年の冬までの間だ。逆にそれ以外の時期なら何をしても死なん」

なんてアバウトなと思いつつ、中村さんが言っていた時期と微妙に被っていることが気になった。

「お前は何を持ってそんなフワッとした予感をそんなに力強く言い切れるんだよ」

「別に信じなくてもいい。ただなぜかそのことについては確信が持てる。そして私にはその時期を乗り越えて神になり、やらなければならないことがある」

「やらなければならないことって、なんだよ?」

「・・・わからん」

わからないのかよ!正直ただの中二病の戯言と聞き流したかったが、中村さんのトンデモ発言やさっき廃屋で見てしまったものもあるので、あながちただの妄想とも言い切れない。


というか、中村さんの話によると、咲耶は新世界の支配者候補、鞠亜の魂が普通の人間じゃない、俺の親父と咲耶の母親も心霊関係の仕事をしている、その二人の幼なじみにはたまに予知夢を見る千里眼の人がいて、中村さんは人を見ただけで魂の情報という物が解る。らしい・・・俺の周り特殊な人間多すぎだろ。


早瀬が聞いたらさぞ喜びそうな話である。


「そういえば龍太、最近雛月の言葉遣いがおかしいのだが、変な言葉を教えているのはお前か?」

「は?変な言葉ってどんなだよ?」

「ぬるぽ?とかガッされなかったから私は神とか、ワクテカ?とか微レ存?とか」

は?なんで雛月がそんなネットスラングを・・・そういえば、餌場ができたとか言ってた時も、時も特定されない範囲でフェイク混ぜながらとか言ってたような、

「いや、俺は知らないけど・・・」

いくらなんでも俺は現実でそんな言葉は使わない。

「なら雛月、アレは誰から教わったのだ?」

「え?オルカだよ?」

自転車の後ろの方で雛月の声がした。

思わず自転車を止めて振り向くとそこには咲耶の姿しか見えなかった。

「心配するな、今は雛月の姿は消してる」

そんな事もできるのか、感心しかけて自分の頭を振った。

いやいやそうじゃない。そんなことよりどうして早瀬が雛月にネットスラングを教えてるんだよ!

「だって、餌場が完成して咲耶以外に最初に話したのオルカだったし。ネットにまつわるいろんな話とか聞けて面白かったよ。幽霊もネットの掲示板に書き込んでたりできるらしいよ!そのあと成美君の相談聞いたり、龍太の家に遊びに行ったりして楽しかった~」


ということは、ある時までは見えるは見えるけれど半透明で、咲耶と親しいごく一部の人間しか見えなかった雛月がある日を境に、4日前の水曜日には既に雛月は咲耶とある程度接触の有る人間には咲耶と間違えるほどはっきりと視えるようになっていたということか。

親父や中村さんはその成長の早さに少しあせっていたのも頷ける。

その成長を急激に早めたのが餌場なのだろう・・・


「咲耶、その餌場ってどこだ?」

「雛月が餌場についてどこまで話したかは知らぬがそれは極秘事項だ」

ダメ元で聞いてみたので断られたこと自体についてはなんとも思わなかったが、それよりも俺はあることが気になった。

さっきから引っかかってはいたが、もしかしてコイツ、自分の分身と言っておきながら雛月の行動や思考を完全には把握してないんじゃないか?

「なあ咲耶、お前って雛月が今何してるかとかって逐一わかったりしないのか?」

できるだけオブラートに包んで聞いてみる。

「その気になれば完全に意識を共有することもできるが、アレは結構疲れるからあまりやりたくはないのだ。それに、本人に聞けばすぐだしな」

つまりその気になればできるけど、めんどうだから雛月の管理、と言うか監視はあまりしていないということか。

それって例えば雛月と咲耶の意見が対立した時、雛月が嘘とかつきだしたら、コントロールが効かなくなって結構危ないんじゃないか?と思ったが、その気になれば意識を完全に共有できると言っているし、無用な心配なのだろうか。



咲耶を送り届けて家に帰ると俺は親父を探した。

鞠亜の事や廃屋のこと、それに咲耶のこと、聞きたいことや話したいことが山ほどあった。

親父はちょうど電話を切ったばかりのようだった。

「親父、聞きたいことがある」

「なんだ、帰っていたのか」

「さっき咲耶から聞いたんだが、鞠亜の祟られ体質って、そんな深刻だったのかよ?」

親父は俺の次の言葉を遮るように俺の頭を軽く小突いた。

「とりあえず、そういうことはあんまり母さんに聞かせたくないから客間行くぞ」

そう言うと親父は客間の方へ歩き出したので俺もその後を追った。


親父は客間のテーブルの前の座布団に腰を下ろした。

俺もテーブルを挟んだ向かい側の座布団に腰を下ろした。 

「それで、どこまで聞いたんだ」

「鞠亜が小学校の終わりごろから週一ペースでお祓いを受けないといけないような状態になって、酷い時には一週間で10個のお守りが全滅したって」

「・・・それは咲耶ちゃんから聞いたんだな?それはどういう経緯で聞いた?」

親父の声が急に低くなったのが解った。

俺はここ最近の廃屋にまつわる出来事、咲耶が廃屋に一人で行こうとしていたこと、さっき廃屋で起こったことなど一通り話した。

そのことについて相談したい事もいくつかあったからだ。


「つまり、その廃屋で黒い影が出ると言う噂を聞いて咲耶ちゃんが興味を持った。お札のある正確な位置は解らないので雛月ちゃんが龍太に聞きに来た。そこで咲耶ちゃんが一人で廃屋に行こうとしていることに気づいて着いて行ったら、案の定黒い影が現れて雛月ちゃんはその本体を取り込んだ。さっきの話は廃屋に向かう途中に聞いた。ということでいいか?」

俺が頷いて返事をすると、親父は少しおかしな所が無いか?と聞いてきた。俺は何のことか解らず解らないと答えた。

「なんで咲耶ちゃんは廃屋の事を聞きたいなら直接龍太に連絡してこなかった?廃屋に向かう途中、咲耶ちゃんと話している時、雛月ちゃんはどこに居た?鞠亜ちゃんの話をしている時の咲耶ちゃんは様子はおかしくなかったか?」

親父は平静を装おうとしている様だったが、何か焦りのような、不安のようなものを感じているみたいだった。

「咲耶にも聞いたけど、咲耶は雛月の行動を完全に把握してる訳じゃないらしい。その気になれば意識を完全に共有できるけど疲れるからあまりやりたくないとか言ってた。雛月が俺を訪ねてきたのはよくわからないけど、雛月なりに気を利かせたんじゃないか?咲耶と話してる時は特に変わったことは無かったけど、雛月はそのときはいなかったよ。たぶん姿を消してたんじゃないか?」

おかしい所と言えばせいぜい咲耶の口調が中二病モードになっていたくらいだが、それはいつものことなのでこの場合のおかしなことには入らないだろう。


「じゃあ鞠亜ちゃんの話をしていたのは龍太から見て、間違いなく咲耶ちゃんだったんだな?」

「アレは咲耶そのものだったよ。何度か咲耶を触ることがあったけど、別にすり抜けなかったし、アレは咲耶だよ」

親父はしばらく黙った後、言いづらそうに口を開いた。

「鞠亜ちゃんの祟られ体質が結構深刻で小学校の終わりからは週一回お祓いをしていることも、お守りが酷い時では一週間で全滅した事も事実だ。だが鞠亜ちゃん自身そのことは咲耶ちゃんにも隠したがっていたはずだし、お守りが全滅した話は先週、鞠亜ちゃんのお守りを確認した時に解った事で、そのことはこちらでは言わなかったから、鞠亜ちゃんも知らないはずなんだよ」


・・・・・は?つまり、咲耶は本来知っているはずの無い情報を知っていたってことか?

俺が黙っていると親父が腕を組んで話し始めた。


「咲耶ちゃんがこのことを知っている理由について考えられるものを上げると、

1、鞠亜ちゃんの様子から咲耶ちゃんが事情を察していて、お守りも鞠亜ちゃんにバレない様にこっそり確認していた。

2、咲耶ちゃんはもう近しい人間に自在に干渉して記憶まで読めるようになっている。

3、咲耶ちゃんが雛月ちゃんを派遣して逐一周りの人間の様子を確認していた。というところだろう」


3は気配で気づきそうだと思ったが、廃屋からの帰り、雛月の声がはっきりしたのに姿が見えなかったことを考えると、雛月にとって姿や気配を消す事なんて俺が思っている以上に簡単なのだろう。


「そして考えられる最悪のケースとしては、4、雛月ちゃんが自主的にすべて勝手に調べていて、今回龍太が咲耶ちゃんと思って一緒に廃屋に行ったのも雛月ちゃん、影の本体を取り込んだのも雛月ちゃんの意思という状態だな」


「それはないだろ、さっきも言ったように咲耶にはちゃんと触れたし、本体を探してた時、咲耶はちゃんと依り代の折り鶴を持ってたし、天袋だって自力で開け閉めしてたんだぞ?」

「咲耶ちゃんに幻覚見せられた時、血が滴る音や感触まで感じたんだよな?ならもう雛月ちゃんは幻覚に触った時の感触まで与えることができるんじゃないか?天袋に関しては直接開け閉めしているところを見てないならそのまま戸をすり抜けて、依り代の霊的な核となる部分を霊体として取り出したんじゃないか?」


言われてみればそう思えないこともなかった。そういえば咲耶を肩に乗せた時、軽すぎなかったか?咲耶は小柄ではあるが、少なくとも体重は40キロ代のはずだ。あの時、それ程の重さを感じただろうか。自転車を漕いでいる時も咲耶が腕を回している感覚はあったけど、ペダルの重さは一人でこいでいる時と変わらなかった。

天袋を開ける時も、確かに咲耶が戸を開けるところを見ていたわけではないし、あの時、天袋を開ける音はしただろうか。

目の前が軽くクラクラしながらも俺は親父に尋ねる。


「もし、4だった場合は何がまずいんだよ」


「たとえさっき言ったように龍太が咲耶ちゃんだと思っていたのが雛月ちゃんでも、それが咲耶ちゃんが意図して、その指揮の下に雛月ちゃんがやっているのなら問題無い。だが、咲耶ちゃんも知らないうちに全てが行われていたとすると、それは咲耶ちゃんが雛月ちゃんを完全にコントロールできていないということになる。仮にその状態が続くようであれば、次第に雛月ちゃんは咲耶ちゃんの言う事も聞かなくなり、最悪、主従が逆転する事態になりかねない」


咲耶と雛月の、主従が逆転する・・・?


「そうなった場合、咲耶はどうなるんだよ?」

「重度の多重人格症患者のような状態になり、雛月ちゃんが咲耶ちゃんの体を乗っ取って、咲耶ちゃん自身は雛月ちゃんの精神の檻の中に閉じ込められて、二度と表に出て来れなくなるかもしれない」

「なんだよそれ、雛月ってそんな危ない存在だったのかよ」


俺は思わず立ち上がった。


「落ち着け、今のは最悪のケースの話だ。それに、元々タルパというのはそういう危険をはらんだ術で、だからこそ高い精神修行を積んだ修行僧だけに密かに伝えられてきた奥義なんだ。最近はすっかりネットなどでそういった方法が出回ってしまっているようだがな」

それに、と親父は続ける。

「咲耶ちゃんが意図してやっている場合、案外こちらの反応を見ているのかも知れん、咲耶ちゃんは幸仁のことを随分と警戒していたからな。こっちが咲耶ちゃんの様子を伺っているところにあえて知らないはずの情報を話して俺達やその周りの動きを見ているのかもしれない。咲耶ちゃんは他に何か気になることは言ってなかったか?」

まさか、あの基本的にバカだと思っていた咲耶が罠を張っているとでも言うのだろうか、それとも、中学に上がった頃から始まったあの中二病も咲耶のフリなのだろうか。

「咲耶も、今年の冬頃から来年の冬頃までの間に自分の死の危険が高まるとか言ってた。あと、ある時期までにある程度力をつけないと消されるとか、神になってやらないといけないことがあるとか言ってた」

「そのやらないといけないことってなんだ?」

「俺も聞いたけどわからないらしい」


親父はそうか、とだけ答えると俺に今すぐ咲耶に電話をかけるように言った。

俺と廃屋に行ったのは本当に咲耶か、そうでなければ咲耶は知っているのか確かめるためだ。

俺が携帯を取り出したとき、ちょうど携帯が鳴った。

咲耶からだった。

親父に指示されハンズフリーモードにして電話を受けた。


「正解は私の指示で雛月に調べさせて、一緒に行ったのは雛月と幽体離脱した私、でした~。だから心配いらないわ」


咲耶の第一声に、俺の心臓は止まりそうになった。

とりあえずあたりを見回してみる。

「見回しても今の状態の雛月が視えるわけ無いわ。龍太は勘違いしているみたいだけど、雛月を視えないようにするのは雛月を視えるようにするよりずっと簡単なのよ?」

受話器の向こうで咲耶の楽しそうな声が聞こえた。この口ぶりからして俺達の動きは咲耶に筒抜けのようだ。


「雛月ちゃんの波動をこっちじゃ解らないくらいに落として視覚を共有している、というところかな」


親父は座って腕を組んだまま微動だにせず話す。

言っている事はよくわからない。


「咲耶ちゃん、もしかして今日修司君が帰った後、幸仁がここで話していたことも聞いてたんじゃないかい?」


「私の人格を矯正して新世界の支配者に~ってやつ?聞いてたけど、私はどうもあの人信用できないわ。健さんや龍太はそんな事ないんだろうけど」


なんだろう、今俺がこうして話しているのは本当に俺の知っている咲耶なのだろうか、まるで違う人間のように感じる。

中二病のような偽者じゃない、本物の、神になりえそうな何か得体の知れない存在のように思えてくる。

咲耶を迎えに行ったとき蹴られた脛の痛みも、自転車の後ろから腰に手を回された感覚もそれらがすべて咲耶が見せた幻覚のオプションだと言うのなら、その気になればもっと本格的な痛みも、肺や心臓を押しつぶし呼吸できなくなるような圧迫感だって演出できるはずだ。


「人間は思い込みだけで死ねるんだよ」



三度、中村さんの言葉が自分の中に恐怖と共に重く沈んでいくようだった。


その時、急に受話器の向こうで咲耶の笑い声がした。

「私はそんなポンポン簡単に幻覚で人を殺すような人間じゃないわよ?」

この反応からして、まさか考えていることも筒抜けなのだろうか、焦って親父の方を見るとなぜか哀れむような、慈愛に満ちた目で目で俺を見ている。

「龍太顔に出すぎ~」

咲耶はなおも受話器の向こうで笑っている

「別に人間なんて、包丁が刺されば死ぬし、しばらく息できなくても死ぬし、頭打って打ち所が悪くても死ぬじゃない。包丁を持っているからといってその人が人を殺すとは限らないでしょ?でなきゃ全世界のご飯時に毎回惨劇が繰り広げられちゃうわ」

ケタケタ笑う声に若干むっとしつつも、今日の朝、咲耶は意味も無く大量殺人なんかしないと言っておきながらあっさり今、雰囲気に飲まれた自分が嫌になった。

咲耶の道徳心が無くなる時と言うのは、きっと今みたいに周りの身近な人間皆から恐れられて完全に孤立してしまった時だろう。

コイツはまだヘラヘラと電話の向こうで笑っているが、今自分が手にしている力の重大さにどれだけ気がついているのだろうか。




次回更新予定は8月30日です。

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