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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
中二病覚醒編
13/71

#10 現実感

月曜日の朝、教室に入ると珍しく修司がうなだれていた。


訳を聞くと父親の仕事の都合で3年になったらまた転校するかもしれないらしい。

そのことで今転勤が決まった場合、父親が単身赴任するか家族で引っ越すかで揉めているらしい。

「母さんは僕も来年には受験もあるし、あんまり引っ越したくないみたいなんだ・・・」

確かに来年には高校受験が控えているのに周りの環境が変わるのは良くないだろう。

しかしその割りに修司の話し方はどこか他人事のようだった。

せっかく久しぶりにできた男友達なので俺は修司が居なくなるのはさびしいのだが、修司にとってはそれほど重要な事ではないのかもしれない。

「困った時はいつでも相談に乗るぞ」

と言ってはみたが、修司は

「うんありがとう」

とけだるそうに返事をするだけだった。


火曜日、早瀬にデートという名の肝試しに誘われた。


この前言っていた学校の裏山の廃屋だ。

余計な面倒ごとはごめんなので断った。


水曜日、早瀬がどうしてもというのでまだ明るいうちならと放課後裏山の廃屋に行くことになった。


面白いくらいに中村さんからのメモに書かれたように事が進んでいた。

にここまでピンポイントで起こることを当てるなんて、本当に未来が視えているのだろうか。


帰りの挨拶が終わると俺は早瀬に引きずられるように教室をでた。

鞠亜と咲耶は事前に話を聞いていたらしく、笑顔で送り出された。

こんなことになったのも咲耶の『寺生まれってすごい』発言のせいだ。


能面さんの一件が落ち着いた後、早瀬と鞠亜と咲耶はより仲良くなったのか前よりも3人でいるのをよく見かけるようになった。

咲耶がまた無責任なことを早瀬に吹き込まないように釘をさすつもりで咲耶に

「あんま早瀬に変な事言うなよ」

と言ったら、

「大丈夫だ。その件は”寺生まれってすごい”ってことで片付いたからな」

と全然大丈夫じゃない答えが返ってきた。


たぶん今早瀬の中では俺=困った時の処理係みたいな図式が成り立っているのだろう。

そんな過大評価されても実際俺自身は特に何ができる訳での無いのでやめてほしい。

最近早瀬が話してくる話題といえばすっかりオカルト系の話ばかりになってしまっているので咲耶がもう一人増えたような気さえする。

しかも咲耶と違ってマジでヤバそうな話を結構な頻度で持ってくるのでたちが悪い。

・・・いや、咲耶の場合俺が断るのわかってて敢てヤバそうな内容を隠していただけなのかもしれないが。


学校から裏山の廃屋に向かう途中、早瀬から今回行く廃屋のことについて聞いた。

元々は個人の家だったらしいが、やがて持ち主が体調を崩し息子夫婦が移り住むもすぐに引っ越してしまったという。後に別の人の手に渡り小料理屋を始めるもすぐに廃れて打ち捨てられたらしい。

「持ち主に次々と不幸がおとずれる呪いの館!」

とか早瀬は言っていたが、たぶんこんな片田舎の山の上なんて生活するうえで不便極まりないのでその辺が原因なんじゃないかと思う。

そんな立地じゃ通院にも不便だし、緑だけはたくさんあるが他に何も無いので都会暮らしになれた若い夫婦にはそれが耐えられなかったとか、脱サラして小料理屋を始めるもこんな他に観光名所も何も無い片田舎の山の中までわざわざ素人同然の人間が作る料理を食べに来る人間が何人いるのかとか。

俺が小学生の時に母さんがそんな話をしていたのを思い出した。


一応山の中といっても山自体そんなに大きくないし、道も舗装されているので廃屋には学校を出て20分ほどで着いた。

廃屋は二階建てで、ちょっと大きな一軒屋が寂れた感じだった。

人が住まなくなって10年以上経っているらしいが見た目としてはもっと経っているように思えるほど荒れていた。

そのせいか、何か今までに感じた事のないような嫌な感じがした。

早瀬に促されるままに中に入ってみると中には明らかに最近の物と思えるような空き缶やお菓子などのゴミが散乱していた。

さらにスプレーで書かれたような落書きもあり、俺はさっき感じたのとは別の意味で早くここから出たくなった。


二人でいろいろ探し回って2階の部屋に行ったとき、早瀬が小さく悲鳴を上げた。

何かと思って見てみると、押入れの中の壁にびっしりとお札のようなものが貼られていた。

その異様さに俺も一瞬息を呑んだが、お札がずいぶんと新しい事に気づいた。

そのお札もよく見るとただのコピー用紙に筆ペンなどで書いた物のようだ。

「たぶんここに肝試しに来た誰かの悪ふざけだろ」

俺がそう言うと早瀬は気が抜けたように笑った

「だ、だよね~びっくりした~」

そう言いつつ早瀬は俺の袖をしっかりと掴んでいた。

恐がりならなんで自分から進んで肝試しなんかやるのだろうか。

その後はひと通り見て回ったが特におかしなところは無かった。

ゴミが散乱してたり落書きがあったりしたが、早瀬いわくこの辺では有名な心霊スポットらしいので、たぶん俺たちみたいに肝試しに来た奴等の物だろう。


「とりあえず何も無いみたいだけど、治安は悪そうだからもう来ない方が良さそうだな。こんな山の中じゃ何かあってもすぐに助け呼べないし」

廃屋からの帰り道、早瀬は俺の言葉に同意しつつ

「もしかしたらもうあの辺には誰か埋められてるかもね」

などど懲りもせず軽口をたたいていた。

俺の袖は掴んだままだが。

ほんとになんでこいつは自分で恐いと思う物にわざわざ首を突っ込みたがるのだろうか。


別れ際、ずっと早瀬が袖をつかんでたのでとりあえず塩を渡して不安なら家に入る前に自分に振り掛けるように言った。

早瀬は少し黙った後、

「ありがとう」

と安心したように笑って帰っていった。


不覚にもドキッとしたのは内緒だ。




その日の晩、寝ようとしていると雛月が俺のベッドの前に立って俺を覗き込んでいた。

顔は咲耶そのものなので咲耶に見られているような気になる。

「・・・・なんだよ」

「今何してるのかな~と思って」

「見てのとおり今から寝るんだよ」

時計で日付が変わってしまっている事を確認しつつ、俺は何か違和感を感じながらも電気を消して寝ようとした。

「じゃあ寝る前に私と話そうよ」

雛月はいつになくニコニコとしていてずいぶんと機嫌が良さそうだ。

「ねえねえ、私前会ったときと違ったとこない?」

そう言われてやっと俺はさっき感じた違和感の正体に気づいた。

雛月が、透けてない。

黙っていれば本当に咲耶がそこにいると思ってしまう程に雛月の存在感は増していた。

「・・・・・」

俺は雛月の手を握ろうとした。


しかし俺の手はホログラムに触ろうとするように何にも触れなかった。



「昨日ね、あ、もう一昨日か、やっと餌場が完成して、定期的に沢山の餌が食べられるようになったんだ~」

嬉しそうに語る雛月に、親父の雛月が騒動を起こす鍵になるという言葉を思い出し、背筋が凍った。

「へ、へ~、餌場って、何だよ?」

なるべく平静を装いながら雛月に尋ねる。

「餌がいっぱい手に入るところだよ?」

その餌と言うのはどんな物を指すのだろうか、能面さんだったりこっくりさんだったりそういう、怪異の事を指すのだろうか。

それともそれらを生み出す人の恐怖だとか憎悪だとかの感情も含まれるのだろうか。

「その餌って、主に何を指すんだ?」

なるべく雛月の機嫌を損ねないようになんでもないふうに聞いてみる。

「う~ん、私ってね、言ってみれば咲耶の思いというか、心からできてるんだけど、そういうのって元は強い感情から生まれたりするじゃない?で、能面さんとかも元はみんなの能面さんはいるんだって思ったのが元でしょ?だから、咲耶は不思議エネルギーとか言ってたけど、それって要するに人の感情とかそこから生まれる思いとかじゃないかな?」

いまいち何が言いたいのか解らない。

「つまり餌ってのは人の思いって事か?」

「う~ん、そんな感じ?」

何で疑問系なんだよと首をかしげながら答える雛月を見て思った。

「餌場の餌もそんな感じだしね~」

瞬間昨日早瀬と行った廃屋を思い出した。

いや、まさかな・・・


「ちなみに、その餌場ってどこなんだ?」

できるだけ楽しそうに、興味本位を装ってそうきくと雛月はずいぶんと楽しそうに人差し指を口の前に持っていき

「な~い~しょっ」

と笑っていたが、俺がそれに乗っかってじゃあヒントだけでも教えてくれよ~と食い下がるとじゃあヒントだけだよ!といって餌場について話し出した。

「ヒント1、それは人の集まるところです。ヒント2、いろんな感情があつまるよ!ヒント3、毎回一定数の人が集まるよ!以上!」

あんまりにも特定しずらいヒントだった。

しかも1と3ほぼ同じじゃないか。

なおも食い下がると

「じゃあ特定されない範囲でフェイクを混ぜながら答えるよ!」

と言いだしたので、そもそも俺に場所を教えるつもりはないらしい。


俺が諦めたのに気づくとと雛月は満足したらしく

「じゃあまたね!」

と上機嫌で壁をすり抜けて帰っていった。

元がはっきり見えるだけにより変な感じがした。




翌日学校に行くと最近元気がなかった修司がすっかり元に戻っていた。

すれ違いざまに咲耶にこっそり

「鈴木さん昨日はありがとう」

と言っていたのが聞こえたが、咲耶と何かあったんだろうか。


三時間目の体育で他のチームの試合を見ている時、修司から聞きたいことがあると言われた。

何か大事な話かと思ってきいてみると、

「昨日鈴木さんからきいたんだけど、この前天野さんと鈴木さんを呼んでお泊り会したってマジで!?」

とかいうので一気に気が抜けた。


幼なじみの女の子二人を呼んでお泊り会とかそれなんてエロゲ?とか、

女二人でおふろに入って洗いっことかエロ過ぎるだろとか、そんな感じのいつも通りの、周りに女子が居ない時の修司に戻っていた。


その日、早瀬は学校を休んでいた。

あの後何かあったのかとメールを送ったら、明日学校で話すと返信が来た。



次の日の放課後、俺は早瀬に校舎裏まで呼び出された。

「で、何があったんだよ」

早瀬の顔は随分と神妙なものでいかにも何かありましたと言う顔だった。

ため息混じりに早瀬は話し出した。

「昨日の夕方になってやっと消えてくれたの。塩は一応家の外にも撒いたから家の中には入れなかったみたいだけど、あの後ずっと家の前に立ってたのよ」

・・・・・早瀬は何の話をしているんだろう

「早瀬、それはもしかしてこの前の廃屋に行った後の話か?」

早瀬はそれ以外に何があるの?と呆れていたが何のことだか解らない。

「一昨日、あの変なお札を見た後、後ろに黒い人影が立っててその後ずっとついて来てたじゃない。でも高尾君があえて何も無い風に振舞ってくれたから私もパニックにならずに済んだんだよ?」

・・・今かなり衝撃的な話を聞いた気がする。

黒い影?そんなものは俺は全く感じなかったし気づきもしなかった。

「それで、結局あの影はなんだったのか、きいてみようかと思って」

そういうことか。

「悪いけど俺にも影の正体はわからん。とりあえず消えたならもう大丈夫だとは思うが」

とりあえずそうは言ったものの、俺自身何が起こったのかわからないのでそうとしか言いようが無かった。

「そうね、ありがとう。廃屋の事は手に負えそうも無いから噂を集めるくらいにしておくわ」

そう言って早瀬は帰っていった。


・・・いや、懲りろよ!


早瀬の後姿が見えなくなった頃、気づくと俺の横には当然のように咲耶がたっていた。

「さて、何があったか教えてもらおうか」

「っ!お前いつの間に!?」

驚く俺をよそに咲耶は続ける

「話を聞く限り、廃屋に溜まっていた霊か何かを拾ってきてしまったようだが、お札とは何だ?」

「なんだよ、あれお前がまた変な儀式とかでやったんじゃないのかよ?というか、鞠亜どうしたんだよ」

「鞠亜は今日クラス委員の集まりがあるらしい。それより廃屋で何があったのか話してもらおうか」

それから咲耶はしつこく廃屋で見た物や感じた事をきいてきた。

俺も仕返しに雛月の餌場についての事とかきこうとしたが適当にはぐらかされてしまった。




その日、俺は家に帰ると中村さんに電話をかけた。

「やあ、友達からの衝撃の告白はもうされたかい?」

電話をかけて、中村さんの第一声がこれであるが、その辺は軽くスルーして俺は単刀直入にきいた。

「中村さんこの前来た時一度も俺に触ってませんよね?それでぴったり起こることを当てたと言う事は手を握る必要なんてなかったんじゃないですか?」

「うんそうだよ。あれは警戒した咲耶ちゃんに席を外させないためのギミックだったからね。手は触れなくても占えるけど、その人とちゃんと話して言葉を交わした方が相手のレコードにアクセスしやすいんだ」

中村さんは当たり前のように答える。

「じゃあ、咲耶のこともしっかり解ったんですよね?」

「まあね、でもその内容を全部君に話すわけには行かないんだ。未来が思いも寄らない方向に変わってしまうかもしれないからね。」

親父もそんな事を言っていたなと思い出した。

「昨日、雛月が俺の部屋に来ました。もう見ただけだと咲耶本人と区別がつかない状態になっています」

「知ってるよ」

「これから雛月はどうなるんですか?」


「神になる・・・とか言ってなかったかい?」


ギクリとした。咲耶の中二病はただの妄想じゃなかったのか?

「まさか本当になるって言うんですか」

「まだ確定じゃないけどね。」

確定じゃない、と言う事は可能性はあると言う事じゃないか。


「・・・それと鞠亜が咲耶を殺す事と何か関係があるんですか?」

「詳しくは言えないけど、ある。とだけ答えておくよ」

全部は答えられないと思うけど何かききたいことや、変わったことがあったら、この電話番号かメモに書いてあるメールアドレスに連絡してきてよ。

そう中村さんは締めくくった。

「中村さんは、どうしてそんなに俺達のことを気にかけるんですか?」

それは自然に浮かんだ疑問だった。

仕事だってあるだろうし、咲耶が殺されるかもしれないと言っても、こんな金にならないことにどうして熱心に相談に乗ってくれるんだろう。

「君のお父さんも含めて、こういう力を持ってる人間には横のつながりがあるんだよ。それでお互い困った時には助け合っているんだよ。それぞれの得意分野でね。」

まあそれは建前で、と中村さんは続けた。

「今回の咲耶ちゃんが神になるって言うのはね、実はいろんな物のバランスを大きく崩す事になりかねないんだよ。だから今回僕が呼ばれたんだけど、もしかしたらこれからもっと他の人の手を借りないといけなくなるかもしれない。それだけ重要な事だってことは覚えておいてほしいんだ」


中村さんの声は随分と真剣な物だったが、話が突拍子も無さ過ぎて、俺には全く現実感がなかった。



次回更新予定は7/26になります。

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