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にせ∞かみ  作者: 和久井 透夏
中二病覚醒編
12/71

#9 占い

「幸仁にあの後聞いたんだが、このままだと咲耶ちゃんが鞠亜ちゃんに殺されるらしい」


親父は帰ってきて自分の書斎に俺を呼ぶなり、そう言った。

「いや、話が唐突すぎるだろ。それに今回中村さんを呼んだのは雛月のことを聞くためじゃなかったのかよ」

俺がそう言うと親父は順を追って話すからまあ聞けと俺をなだめた。


「その雛月ちゃんのことなんだがな、まず俺の意見を言わせてもらうと正直よくわからない。アレが一体どういう存在なのか皆目検討がつかないんだ。少なくとも、俺は今まであんなものを見たことが無い。アレが咲耶ちゃんを守っているのか取り憑いているのかもよくわからない」


ここまでが俺の意見だと親父は一呼吸置くと一度廊下の外を確認してから中村さんの意見を話し始めた。

「幸仁が言うにはアレは本当に咲耶ちゃんの分身のようなものらしい。龍太、おまえタルパって知ってるか?」

俺は首を横に振った。

「タルパってのはチベット密教の秘奥義で、「無」から霊体を人為的に作り出す術なんだが、簡単に言うと妄想で霊のようなものを作り出して使役する術だ」

「ということは、雛月は咲耶がそのタルパとか言う術で作ったものなのか?」

そうきけば、なんとも歯切れの悪い答えが返ってきた。

「いや、たぶんそうなんだが、そもそも、タルパは達人が作っても他人にはせいぜいそういうものに敏感な人間が気配を感じるとかそんなレベルのものなんだ。仮にタルパだとしても、あんなにはっきり俺たちに視えるはずが無いんだ」


・・・つまり雛月は成り立ちはタルパに似ているけどそうとも言い切れない別の何かってことか?

俺が黙っていると親父は話を続けた。

「だがな、それも必ずしもありえないことじゃないんだ。タルパの存在の強さは何で決まると思う?」

そこで俺はあることに気づいた。

「さっきタルパは妄想で作るって言ったよな、ということは作った奴の思い込み度合いによるってことか?」

「まあ大体そんな感じだ。要するにそこにタルパが存在すると強く信じることによってそこにタルパという存在が生まれるんだ。だからそういう術を知らなくても、言葉を覚え始めたくらいの子供の妄想の中の友達の気配を存在しないと解っているのに親が感じるなんて事もたまにある」


咲耶の中二病妄想すごすぎだろ。


「で、その強い思い込みについてなんだが、咲耶ちゃんに会った時、幸仁がアレは咲耶ちゃんの認めたくない自分の心じゃないか、みたいなこと言ってただろ?あの年頃の子にはよくあるんだが、自分と認めたくない自分、自分と切り離してしまいたいたい自分に対する葛藤が強くなりすぎるとおかしな事を起こす事があるんだ」


確かに色々とおかしな事にはなっているが。


「情緒不安定になったり、非行に走ったり、自分の殻に閉じこもったりなんてことはよく聞くが、多重人格などの人格障害を起こしたりポルターガイストを起こしたりする子もごくまれにだが居るらしい」


・・・・・最後の方おかしくなかったか?ポルターガイスト?


俺の怪訝な顔に気づいて親父が補足を入れた。

「実際、ポルターガイスト現象は、思春期の少年少女などの心理的に不安定な人物の周辺で起きるケースが多いんだ」


マジか。


「つまり、あれだけ雛月の存在が俺たちにもはっきり視えるのは、咲耶の思春期特有の心理状態と葛藤のせいってことかよ、でも、それじゃあ雛月がこっくりさんを取り込んでから存在がはっきり見えるようになったのはどう説明するんだよ」

俺が食って掛かると親父はこともなげに答えた。

「それはたぶん本当に取り込んでいるんじゃなくて、咲耶ちゃんがそういうモノを倒して取り込めばどんどん強くなる!って思い込んでるからその思い込みが反映されてるだけだなんじゃないか?それにどんなに本格的で、鞠亜ちゃんが一緒に居たって、こっくりさんで呼び出せるレベルの低級霊なら輝美の娘である咲耶ちゃんに払えたって不思議じゃない」


今なんかすごく引っかかる事を言われたような・・・。


「咲耶の母さんってただのキャリアウーマンじゃないのかよ?」

咲耶のお母さんは咲耶が小学校に上がる頃からは単身赴任で年に何度かしか帰ってこなかった。咲耶の父さんも共働きで夕方まで家に居ないので、咲耶は小学校までは学校が終わるとそのまま俺の家で夕方まで過ごしていたんだ。

「ああ、表向きはそう言ってるけど、その輝美の仕事って拝み屋だから」


拝み屋?


「は?今初めて聞いたんだけど、咲耶はそのこと知ってるのかよ」

「今初めて言ったしな。咲耶ちゃんはこのこと知らないから今のは他言無用だぞ」

いろいろ言いたい事はあったがなんと言ったらいいのか解らなかった。


「話はそれたがさっきの占いの件なんだが・・・」

親父が頭に手をやりながら切り出した。咲耶が鞠亜に殺されるというヤツだ。

「幸仁の話では早ければ来年の春、遅くとも来年の冬あたりは、鞠亜ちゃんが咲耶ちゃんを殺すことになるらしい。どういう理由でかまではわからなかったそうだが、その未来はお前のがんばり次第では回避可能らしい。で、咲耶ちゃんのタルパがその騒動の鍵になる」

占いのところだけ話が飛びすぎだろ。


「タルパって、雛月が解決の鍵って事か?」

「逆だ。騒動を起こす鍵だ」

親父の話が急に要領を得ないものに変わった気がする。

「なんでさっきからそんな回りくどい言い方なんだよ」

「悪いな、あんまりそれをストレートに伝えると、それによって未来が変わって手の施しようが無い状態になるかもしれないんだ。かといってこのまま黙っていてもさっきの出来事がそのまま起こるから、どうしてもこういう言い方になるんだ。」

親父はため息交じりにうなだれながらそう言った。

どうして親父はここまで中村さんの占いに絶対の信頼を置いているんだろうか。


「幸仁からこれを預かってきた。一人で見るようにだそうだ」

親父は一息つくと俺に一枚の封筒を渡してきた。糊付けされて×印がつけられたそれに特に変わった様子は無い。

封筒をまじまじ見ているとふいに襖が開いて鞠亜がひょっこりと顔を出した。

「健さん、龍ちゃん、夕御飯の用意できたよ!」

時計を見るともうすぐ7時になるところだった。

俺は封筒の中身は後で見ることにして親父と今に向かった。



夕食を済ませると

「お風呂の用意ができるから、咲耶ちゃんも鞠亜ちゃんも先に入ってね」

と母さんに勧められ、鞠亜と咲耶は当然のように一緒に風呂に入っていった。

今まで特になんとも思ってなかったけど、鞠亜の気持ちを知った今になるとこれ、鞠亜的にはどうなんだろう。

二人を見ていると普通に仲の良い、親友のようにみえる。

鞠亜はそれ以上の感情を抱いているようだが。

もし仮に、例えば、鞠亜が咲耶を殺すような事があるとすれば、それはどんなときだろう。

咲耶に鞠亜よりも仲のいい親友ができたり、咲耶に彼氏ができたりとかだろうか?

でも、俺の知ってる鞠亜はたとえそんなことになっても、咲耶との仲が悪くなろうとも、それで咲耶を殺すような事はしない。

だぶんおとなしく身を引くか、なんとかして関係を修復しようとするだろう。


というか、咲耶はどうなんだろう?フリでも鞠亜を守るために鞠亜と付き合ってることにしているのだから、少なくともそういう、女同士で付き合うということに関して偏見はなさそうである。

だからと言って咲耶が同性でもそういう対象として見られると決まったわけではないのだが。

・・・たとえば、咲耶が面と向かって鞠亜の気持ちを全否定してこっぴどく振ってしまうとか・・・・・・いや、それは無いだろう。

咲耶は馬鹿で中二病だけど基本的には面倒見はいいし、特に付き合いの長い鞠亜をひどく傷つけるようなことはしたがらないだろう、断るにして少なからず気を使って言葉は選ぶはずだ。


そういえば、咲耶は好きな奴とか居るんだろうか。


俺は二人が風呂に入っているうちに自分の部屋に行き、封筒の中身を見てみることにした。

封筒の中には3枚のメモ帳の紙が入っていて、いかにもその場の思いつきで書いて入れましたという感じの走り書きだった。

しかしその文面を読んで俺は凍りついた。


小さい時、鞠亜と仲良くなるまでは俺が咲耶が好きだったこと。

小学校2年の鞠亜と咲耶と違うクラスになった時、友達ができずぼっちだったこと。

鞠亜と咲耶には見栄を張って友達ができない事を隠していたこと。

実は二人は気づいてて3年で同じクラスになった時、男子女子でそれぞれ分かれていたのにはよく話しかけたり遊びに誘ったりしたのはそのせいだったこと。

あの年頃にしては冷やかしたりからかったりする奴が居なかったのは、咲耶が裏で俺がいかに内気でかわいそうなやつか、だいぶ思いつめているとクラスの奴らに言って同情させ、鞠亜が先生に俺は引っ込み思案で悩みを溜め込むタイプなので、できるだけ注意して見守ってほしいと先生相談していたということ。


今までの事と書かれた1枚目には要約するとそんな内容の、恐らく俺しか知らないはずの秘密や知りたくなかった過去の出来事がぎっちりと書いてあった。

最後は”いい友達をもったね”とコメントが添えられていた。

イラッとした。

でもそういえば小学校3年以降卒業まで男子も女子も先生も妙に優しかった気がする。

思えば鞠亜と咲耶とはそれからずっと同じクラスだった。


2枚目にはこれからの事と書いてあり一週間の俺の予定が書かれていた。

日曜:鞠亜ちゃんから相談を受ける

月曜:友達が転校すると言い出す

火曜:友達にデートに誘われる

水曜:友達とデートする

木曜:夜中に雛月ちゃんがやってくる

金曜:友達に告白される


三枚目は中村さんの携帯の電話番号とメールアドレスが書いてあった。

・・・・・俺は2枚目をもう一度見直した。なんか一見リア充なイベントが乱立してないか、早くも俺の中での占いの信憑性が揺らぎ始めた。

だって俺がこんなにモテるはずが無い。

しかし、鞠亜が咲耶を殺すとか言う予言や親父の反応も気になる。

1枚目に関しては親父から話を聞いて推測で書いたのかもしれないし、小学校の時のくだりは俺的にあまり確認したくない。

これからの事についてはまだ起こっていないことなのだから一週間後、占いが当たっているかを見て考えればいいんだ。


それにしても、鞠亜と咲耶、雛月については名指しされているってことは、友達というのは早瀬か修司のことだろうか。

内容からすると女の子みたいだから、この友達って早瀬のことか?早瀬から告白されるのか?早瀬は転校するのか??

これに出てくる友達というのもすべて同一人物の事を指すものなんだろうか?

まさか修司に告白されるということもないだろう。

・・・告白ってまさか罪の告白とかそういうんじゃないだろうな、実は裏でこんな事やってましたごめんなさい的な。

それだと生霊の事で心当たりがない訳ではないが、そもそもあれって本人は自覚あるのか?


その日の晩、俺は占いの事を考えてしまいなかなか寝付けずにいた。時間はとっくに日付が変わって1時13分を時計は指していた。

気分を変えようと一階に下りて縁側に腰掛けていると同じく眠れないのか一階の客間に寝ていた鞠亜がやって来た。

パステルカラーのパーカーにお揃いのショートパンツ寝巻きが恐ろしく可愛かった。

「あれ、龍ちゃんも眠れなかったの?」

鞠亜はそう言いながら俺の横に腰掛けた。

「ああ、まあな」

結局、占いの事が気になって悶々と悩んでたらこんな時間になってたなんて言えない。

「なんだかドキドキして眠れなかったんだ」

「それは・・・咲耶が隣で寝てるからか?」

「う~ん、それもあるけど、龍ちゃんの家でまたお泊り会なんて久しぶりだったから、ちょっとワクワクしすぎちゃってるのもあるかも」

鞠亜ははにかみながら笑う。最後にお泊り会をやったのは小学校6年の中頃だっただろうか。


「ねえ、雛月ちゃんってどんな感じ?」

「どんなってなにが?」

「どんな姿かとか雰囲気とか」

どうやら鞠亜は雛月がどんなものか気になっているらしい。

昼間俺と親父と鞠亜と咲耶で話していた時、雛月の姿が視えなかったのは鞠亜だけだったのですこし疎外感を感じているようだった。

「姿は鞠亜も能面さんを食ったとき見ただろ?見た目はそのまんま咲耶だよ。雰囲気は陽気な咲耶って感じだ」

俺はできるだけ簡潔に説明をしたが、そこで鞠亜は首をかしげた。

「能面さんを食べた時ってあの夢の中?あの時も私はぼんやりした人形のモヤモヤしか見えなくて、能面さんもそのモヤモヤに吸収されてるようにしか見えなかったよ?」

え、そうだったのか・・・夢の中だったし3人とも同じものが見えていると思っていた。そもそも3人同じ夢を見ているということ自体おかしいと言えばそうなのだが。


「私も雛月ちゃんとお話してみたいな~、あと陽気な感じの咲耶ちゃんってどんな感じなのか見てみたい」

縁側から投げ出した足をパタパタさせながら鞠亜が言った。

「咲耶に言えば話くらいはできるんじゃないか?」

「私もそう言ったんだけど、なんか話をはぐらかされちゃって、あんまり私と雛月ちゃんを近づけたくなさそうなんだよね」

「それは考えすぎじゃないのか?」

「そうかなあ、でも最近こんな事が多くて、咲耶ちゃんとの距離を感じちゃうなぁ」

この前告白したら咲耶にはぐらかされたらしいしな。


というか、ここまで来ると逆に咲耶は薄々鞠亜の気持ちに気づいててわざと気づかない振りしてるんじゃないか・・・?

「俺からはそうは見えないけどな、俺から見れば羨ましいくらいに仲良いと思うけど」

とりあえず気休め程度に鞠亜を慰めたつもりだったのだが、鞠亜は急にハッとしたような顔をした。

「ご、ごめんね!こんなこと龍ちゃん話すのはマナー違反だよね、龍ちゃんだって咲耶ちゃんのこと好きなのに・・・」

どうやらまだ俺が咲耶のことが好きだという誤解をひきずっているようだ。

俺が羨ましいのは咲耶なんだが・・・


「いや、それはごk」

「あ、あのね!あの時はああ言ったけど別に龍ちゃんが私に遠慮して身を引く必要なんて無いんだからね!私は私でがんばるけど、龍ちゃんは龍ちゃんでがんばっていいんだよ!?選ぶのは咲耶ちゃんなんだから!」

それは誤解だと言おうとする俺の言葉を遮って鞠亜は一気にまくし立てた。

俺が勢いに押され、

「お、おう」

と返事をするとそれを肯定ととったらしく、鞠亜は俺の手をガシッと効果音がつきそうな勢いで握ってきた。

「お互いがんばろうね!」

俺の目を見て力強く鞠亜はそう言うと、じゃあおやすみとスッキリしたような顔で戻っていった。


放心した俺が我に帰り、鞠亜の誤解がより強固なものになってしまったことに気づき、自分の軽はずみな返事を死ぬほど後悔したのはもう少し時間がたってからだった。




次回更新予定は7/19です。

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