#8 視える人
家に帰ると、早速俺は親父に今日あったことを話した。
やるなと言われていたこっくりさんもやってしまったし、一発殴られる覚悟で話したのだが、
「そうかおまえもか・・・」
親父はそう言って溜め息混じりに頭をかいていた。
”おまえも”というのはどういうことだろう?
「今のところ咲耶ちゃんも鞠亜ちゃんも特に変わった様子は無いんだな?ならとりあえず、その雛月?というのも実際に見てみないと解らないし、今週の土日あたりにでも久しぶりに二人に泊まりに来るように言ってみてくれ。親御さんの方には俺が言っておくから」
親父の反応に違和感を覚えつつ俺はとりあえず、鞠亜と咲耶にライポで今週の土日久しぶりに泊まりに来ないかとメッセージを飛ばしてみた。
二人ともすぐに反応があり、あっさりと今週の土日に鞠亜と咲耶がうちに泊まりにくることが決定した。
二人がうちの寺に泊まりに来る事なんて中学に上がってからはなかった。
幼稚園や小学校の頃はよくうちでお泊り会をしたものだったが・・・そういえば何であんなに頻繁に鞠亜と咲耶はうちに泊まりに来ていたんだったっけ?
土曜日、鞠亜と咲耶は昼過ぎにやってくるはずなのだが、今日はもう一人客が来るらしい。
中村幸仁という人で、なんでも親父の知り合いで会った人の過去や未来が見えるらしく、占い師をしているそうだ。
俺は内心ホントかよと思いつつ親父の話を聞いていたが、10時過ぎにやって来たその人を見たとき、その思いはより強くなった。
すごく、普通なのだ。どこにでも居そうというか、身なりはきちっとしているが、占い師という感じではない。
20代後半から30代前半くらいの男の人だった。
「やあ龍太君久しぶり、大きくなったね」
ニコニコしながら中村さんが話しかけてくる。俺が幼稚園の頃に会ったことがあるらしい。
俺は全く覚えていないが。
客間で俺と親父と中村さんはしばらく談笑をしていた。といっても俺はほとんど二人の話をきいているだけだった。
しかしその会話の中からも親父がずいぶんと中村さんを信頼している事が見て取れた。
気になった俺は話が切れるのを狙って中村さんにどんな占いをしているのか聞いてみた。
「う~ん、僕の場合占いというか見えるものや感じたことをそのまま言ってるだけだから、自分ではあんまり占いって感じしないんだよね」
返って来たのはよくわからない答えだった。千里眼みたいなものなのだろうか?
俺が首を捻っていると親父が話を割って入ってきた。
「それは後で直接見るとして、そろそろ本題なんだが」
急に親父が真剣な顔つきになった。釣られて俺も姿勢を正す。
「今俺が解っていることはだいたい電話で話した通りなんだが、雛月の正体は何だと思う?」
一昨日親父はずいぶんと長電話をしている様子だったが、どうやら中村さんと話していたらしい。
「直接見ていないので今の時点ではなんとも言えないけど、咲耶ちゃんと言ったっけ、多感な年頃だと言うのに加えて、あの輝美ちゃんの娘なんだから何かしら変なものに目をつけられたり、逆に召喚しちゃったり、造っちゃったりしても驚かないけどね」
輝美と言うのは咲耶のお母さんのことだ。親父とは下の名前で呼び合っていたので覚えている。
なんで”あの輝美ちゃん”の娘だとそんな訳のわからん事をしても驚かないのだろう?
今まで咲耶のお母さんを見て特にそんなおかしなところは無かったように思うが、もしかして咲耶のお母さんも、昔、中二病をこじらせて似たような事をしていたのかもしれない。
「僕はあったことないんだけど、咲耶ちゃんってどんな子?外見とか性格とか好みとか」
話の流れは咲耶のことになっていた。中村さんは参考までにと言っていたが、どんな子ときかれても・・・
「えーと、外見は・・背は低くて髪は無駄に長くていつもツインテールにしてて・・・ガキっぽいです。性格は無駄に元気で馬鹿で・・・ガキです。好みは・・・甘いものが好きです。」
俺は思いつくまま答えていたが、だんだんただの悪口のようにも思えてきたので最後に何か褒めておこうと思った。
「でも、結構友達思いの根はいい奴です・・・たぶん」
鞠亜をいじめから守ったことを思い出して言ったが、途中で霊的な意味では一番危険にな目に遭わせてもいる事を思い出し俺は言い切ることができなかった。
中村さんの方を見るとなぜかニヤニヤして青春だな~とか言っていた。親父の方を見ると親父もニヤニヤしていた。
なにか俺はおかしなことでも言っただろうか。
「というか、相手を見ただけでいろいろ視えるならわざわざ俺にきかなくっても直接咲耶に会えばばすぐわかるんじゃないんですか?」
なんとなく居心地が悪くて話題を変えた。
「うん、そうなんだけどそれでも何でも全部視える訳じゃないし、君が咲耶ちゃんのことどう思ってるのかと思って。僕が見えるのはその人が今までしてきた事とこれからする事くらいだからね」
中村さんはそう言うと、君は幼なじみ二人にしばらく振り回されそうだねと笑った。
みんなで昼食を食べた後、中村さんの電話が鳴った。
中村さんの顔が携帯の画面を見て一瞬引きつったような気がしたが、すぐ元に戻り
「仕事関係の連絡が入ったからちょっと出てくるよ。1時間くらいで戻るから」
そう言って中村さんは出て行ってしまった。占い師の1時間くらい出なきゃいけない仕事関係の用事ってなんだろう。
しばらくして鞠亜と咲耶が揃ってやってきた。二人で袋に入れたスイカを持っていた。
鞠亜が満面の笑みでそれを差し出す。
「おじいちゃんの家から初物のスイカが届いたの!」
もうそんな季節だったか、鞠亜の父方のおじいさんは農家をやっている。
昔から家は鞠亜の家に季節ごとに送られてくる収穫した野菜などをよくおすそ分けでもらっている。
「昨日家でも食べたんだけど、すっごく甘かったの!きっとこのスイカもすっごくおいしいよ!」
ニコニコしている鞠亜と咲耶の横にはこれまたニコニコしている雛月が居た。
俺はちらりと親父の方を見た。雛月の方を少し見たが何事も無かったように鞠亜と咲耶からスイカを受け取って歓迎していた。
母さんがスイカを切り分けてる音を聞きながら俺たちは居間でくつろいでいた。
親父は鞠亜と咲耶と談笑している。昔からの付き合いとはいえ自分の息子と同い年の女の子とここまで打ち解けて話せる親父のコミュ力に自分を重ねて少し複雑な気分になった。
「ところで雛月ちゃんだっけ?ホントに咲耶ちゃんそのまんまだな」
少し最近の事など話した後、親父は普通に咲耶達に話しかけるみたいに雛月に話しかけた。
「健さん雛月のこと見えるの?」
咲耶は驚いたように親父の顔を見た。
健さんというのは親父のあだ名だ。
小さい時から鞠亜と咲耶には親しみやすいようにと親父がそう呼ばせている。
本名は健太だ。
「ああ見えるとも、服も咲耶ちゃんとおそろいだ」
親父がそう答えると咲耶は嬉しそうに笑った。
「健さんホントに見えてるのね!」
鞠亜も驚いたようで、おろおろしていた。
「え、え、そこに雛月ちゃん居るの?全然解らないよ~」
やっぱり親父にも雛月はハッキリと見えているようだ。
すると親父は自然な動作で懐から何かを取り出した。
「ちょっとごめんよ~」
そう言って親父は塩を雛月に塩をパラパラとかけ始めた。
ちょ、いきなり何やってるんだ!
当の雛月はといえば不思議そうに首をかしげていた。
すると親父は今度は棚からファーブリーゼを出してきて雛月にかけ始めた。
またしてもきょとんとしている雛月。そして咲耶と鞠亜。
「う~んやっぱりか~」
親父は朗らかに笑いながらファーブリーゼを棚に戻した。
親父が雛月をどかせて塩が散った床を掃除していると母さんがスイカを持ってきた。
皆でスイカを食べながら鞠亜が親父に尋ねた。
「健さん、さっきは何をやってたの?」
「う~ん、雛月ちゃんがどういうものかちょっと確かめようと思ってね」
親父は笑いながら答えているが、あれって塩とかファーブリーゼが雛月に対して効果があるのか調べてただろ。
効果は全く無かったが。
「母さんは咲耶ちゃんの隣に何か見えるかい?」
「いいえ?そこに何か居るの?」
親父は母さんに尋ねたが、母さんには鞠亜と同じで雛月は全く見えていないようだ。
俺にはほとんど咲耶と変わりないくらいにはっきり見えているのに。
その時玄関のチャイムが鳴った。どうやら中村さんが戻ってきたようだ。
中村さんは玄関で少し親父と話していたようだった。
「何、お客さん?」
咲耶が不思議そうにきいてきたので、とりあえず親父の知り合いの占い師の人とだけ言っておいた。
「わあすごい!どんな占いする人なの?よく当たるの?」
鞠亜は目を輝かせて食いついてきた。
「どんなのかは解らないんだけど、親父が言うには”恐いくらい当たる”らしい。」
その言葉を聴いて今度は咲耶が反応した。
「恐いくらい当たるって・・・」
咲耶が言いかけたところで中村さんが居間にやって来た。
「紹介するよ、占い師の中村君。恐いくらいよく当たるんだ」
中村さんが入ってきた瞬間、咲耶が一瞬身構えたような気がした。
「やあ初めまして君が咲耶ちゃんか、なるほどお母さん似だね」
何だろう・・・中村さんはさっきと変わらない調子で話しているのにどこか変な感じがする。
雛月を見ると身構えてあからさまに警戒していた。
「あの、私、天野鞠亜って言います。中村さんはどんな占いをしているんですか?」
鞠亜が目を輝かせて中村さんに話しかける。昔から占いとか大好きだったもんな~
「説明するより実際にやってみた方が早いかな、ちょっと手を出して」
中村さんはそう言うと鞠亜の手をとった。
「こうした方がよくわかるんだ。鞠亜ちゃんはちょっと外国の血が入ってるね。お父さん方のおじいちゃんのお母さんの旦那さん、つまり曾おじいさんがロシアの人かな」
「すごい当たってる!」
鞠亜が目を輝かせる
「でも、そんなん親父から聞いて知ってるだけじゃないのか?」
俺はつい思ったことを口にしてしまった。
「じゃあ今度は鞠亜ちゃんだけしか知らない事言おうかな」
中村さんはそう言うと鞠亜のの耳に内緒話をするような格好で鞠亜に何か囁いた。
するとみるみる鞠亜の顔が赤くなっていった。
「ななななんでそんな事知ってるんですかぁぁぁぁぁ」
耳まで赤くしながら鞠亜は顔を抑えて取り乱している。かわいい。けどなんかムカつく。
「じゃあそんな鞠亜ちゃんにアドバイス、今のはバレてないけど相手はうすうす感づいてるかもよ」
鞠亜が固まった。それから10秒位して立ち上がった。この短時間でずいぶんと冷や汗をかいていた
「わ、私、ちょっと急用思い出したんで頭冷やしに走ってきます!」
言い訳になりきれていない言い訳をして鞠亜は家を飛び出していった。
いったい何を言ったんだ。
「う~ん、ちょっといじめすぎちゃったかな・・・」
中村さんは頭に手をやりながらそう言っていたが全くそんな気配は感じない。
「・・・じゃあ私は鞠亜ちゃんを迎えに行ってくるわね」
そう言って母さんはすたすたと玄関に歩いていった。
・・・・なんだろう、体のいい人払いのような気がする。
今部屋に残っているのは俺と親父と咲耶と中村さんだ。
「じゃあ今度は咲耶ちゃんを占ってあげるよ、手を出して?」
さわやかな笑顔で中村さんは言った。
「・・・別に手を握らなくても、占えるんでしょう?」
咲耶が真似するように笑顔で返す。
確かに親父の話では見るだけで占えると聞いた。
でもなんで咲耶がそんな事わかるんだろうか。
「うん占えるよ。でも手を握ったほうがよくわかるんだ」
中村さんは笑顔を崩さずなおも食い下がる。
「じゃあ、見ただけで占った事が当たってたらそうします」
何で咲耶は上から目線なんだろう。
「そこに居る雛月ちゃんは、咲耶ちゃんの自分だと認めたくない自分なんじゃないのかな」
「・・・・・はずれです」
咲耶は少しむっとした様子だったが、俺は中村さんの言葉の意味がよくわからなかった。
「そっか~じゃあ、雛月ちゃんは咲耶ちゃんにとってどんな存在なのかな?」
中村さんは雑談をするように咲耶に話しかける。
「雛月は・・・私の分身です。雛月は私です」
咲耶は少し考えたようだったが返ってきたのはいつもの答えだった。
「じゃあ、雛月ちゃんにとって咲耶ちゃんはどんな存在なのかな」
咲耶の隣に座っていた雛月は眼を丸くした。
「え、私?」
夢の中で聞いた咲耶と同じ声が聞こえる。
雛月は自分に話しかけられたことに驚いていたようだった。
「うん、雛月ちゃん」
「私は私だよ、咲耶は親みたいな片割れみたいな感じ」
中村さんが微笑みながら肯定すると、雛月は咲耶以外に話しかけられたのが嬉しいのか、ずいぶん楽しそうに話し出した。
「雛月しゃべれるのかよ」
俺が思わずつっこむと雛月は拗ねたように頬を膨らませた。
夢の中でもしゃべってたじゃないかと言いたいんだろう。
俺がしゃべれるのかと言ったのは現実で咲耶の意思と関係なく自由にしゃべれるのかということだ。
「龍太とは夢の中で何度も話してるもん!」
そう言って雛月はそっぽを向いてしまったが、俺は能面さんを食べた時しか夢の中で雛月に会った覚えはない。
「まあ、人間見た夢を全部覚えてるわけじゃないしな」
親父がそう言うと咲耶が不思議そうな顔をした。
「え、夢って皆毎日全部覚えてるものじゃないの?」
「忘れてることのほうが多いだろ普通」
どうやら咲耶は毎日の夢を完全に覚えているらしい。
夢をコントロールするにはまず夢を思い出せるようになることが大事だとか前に聞いたことがある。
結局、咲耶は中村さんに占ってもらう事は無く、五人で雑談をしてるうちに母さんと鞠亜が帰って来て、今度は母さんのことを占った。
内容が当たってるかどうかはわからないが母さんは当たっていると興奮していた。
母さんの占いが終わると中村さんはそろそろ帰るというので親父が駅まで見送りに行くことになった。
母さんや鞠亜も見送りに行くと言っていたが、親父は駅前の本屋に行くついでに送るだけだからと断っていた。
その後は鞠亜と咲耶と三人でゲームをしたりDVDを見たりしていた。
夕方俺たちが夕食の下ごしらえを手伝っていると親父が帰ってきて俺を親父の書斎に呼び出した。
親父は腕組みをしていた。
そして、少しかすれた声で話し出す。
「幸仁にあの後聞いたんだが、このままだと咲耶ちゃん鞠亜ちゃんに殺されるらしい」
唐突過ぎて、俺は親父の言っている言葉の意味が解らなかった。
次回更新予定は7/12です。




