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16th Period スパイダー防衛サイバー

 時計塔南広場跡地。一体どれだけの人々が犠牲になっただろう。オフィスビルはまだいい方だ。まだ朝方だったために、ホテルの瓦礫の下からはたくさんの遺体が見つかった。特にひどいのは、非常階段、エレベーターとおぼしき場所だ。折り重なるようになった数十人の遺体が見つかったのである。未知の恐怖から逃れる手段を見失い、とにかくその場を離れようとしていたのだろう。皆一様に顔を絶望に歪めていた。

 それを見た人々は、やはり心をひどく痛めた。そして同時に、再びかの兵器が現れた時は、必ずこの場に食い止め被害を広げるまいと、決意を新たにしていた。

 しかし、今まではほんの露払いに過ぎなかった事を、今まさに思い知らされるのだ。


「皆さん! 一旦退避してください!」

 未成が瓦礫の片付いた跡地に立ち、大声で叫んだ。作業に没入していた人々は、皆怪訝な顔をして彼の事を見る。一番近くにいたボランティアの男が首を傾げて未成の真剣な瞳を見つめた。

「退避? 鑑識さん、どうして退避しないとならないんだ」

 男の低い声に合わせて、周囲の人々も頷く。未成は頭を掻き、困ったような顔をした。そんな何気ない仕草だが、どこかに強い思いが感じられて、人々は何も言わずに未成の言葉を待った。

「……来るんです」

「え?」

「奴らが来るんですよ!」

 未成は腹の底から叫んだ。その剣幕に、人々は思わずたじろぐ。それらは前触れも無しに現れている存在であり、今の時点で襲来を察知できるはずもない。しかし、彼にはそんな考えを一掃してしまうような気迫があった。未成のすぐそばで彼の叫びを聞いた男は、おずおずと仲間達の方を向く。

「一旦下がりましょう。ここまで言われると、やっぱり何か起きそうな気がしませんか」

「は、はい。そうしましょう」

 二人がその場を離れると、他の人々もそれに従って持ち場を離れ始めた。警察に自衛隊員も、不審な表情はしていたものの、やはりその場を離れようと遅れて動きだす。まさにその時だった。

 急に重力が働き、人々の体を掴んで引き戻そうとしはじめた。必死に広場から離れようとするも、全く歩みが進まない。戦慄し、人々は今まで溜まっていた疲れも忘れて走り続けた。その背後に、身を切るような冷たさの霧が迫ってくる。足が滑り、宙に浮き上がった。そのまま霧の中へと引きずり込まれそうになる。その恐怖に人々が縮み上がった瞬間、今度はいきなり弾き飛ばされた。激しく地面に叩きつけられ、人々は苦しみに呻く。その背後には、にわかには信じがたい有様が広がっていた。

「来た……」

 未成は立ち上がり、広場に現れた集団を見つめる。六体の巨大なサイバー兵器がいた。二体のカマキリ、二体のサソリ、二体のクモ。だがそれだけではない。上空にも、スズメバチのような姿をとったサイバーが浮いていた。

 今回やってきたのはサイバー兵器ばかりではない。兵器の足元には、大きなバックパックを背負った兵士達の姿まであった。

 人々は悲鳴を上げ、散り散りになって逃げ出し始めた。脇目も振らず、とにかくサイバー兵器から離れようと走っていく。その真ん中に立ち尽くし、未成は不可思議な武装集団を見た。サイバーは、口々に任務開始の意を示し、近くの建物へと迫っていく。未成は様々な感情が入り交じった目でその姿を見つめ、それから時計塔の方へと目を向けた。


 戦車が火を吹いた。轟音と共に、その砲弾は一匹のサソリの長い尾を貫通した。尾は折れ地に落ち、異常を感じ取ったサソリが言葉にならない叫びを上げた。それを聞きつけた武装集団の一人が、タクトのようなものでクモを差し、サソリと自衛隊の間に振った。

 クモは足早に動き、サソリの前に立ち塞がる。それと同時に二つ目の砲弾が尾のもげたサソリを追撃すべく放たれる。人の目には捉えられない速さの一撃は、今度こそサソリを貫いているはずだった。

 だが、相手は人ではないのだ。クモの体の一点が光り、同時に乾いた破裂音が周囲を満たす。そして、爆ぜて原形を留めない程に歪んだ砲弾がサソリの足元に落ちた。クモは一番前の足を振り上げ、不気味な不協和音を立てて威嚇を始める。目の当たりにした隊員達は息を呑む。だが、サイバー達の方にも動く気配は無く、双方睨み合う形になった。冷たい風が、二つの集団の間を吹き抜けていく。

 そこにできた空白をついて、白銀のプロテクターを身に付けた兵士達が一気に散開した。サイバーに気を取られていた自衛隊員達はそれに気付くのが遅れ、何もすることができなかった。一人が悔しそうに歯を食いしばり、近くの隊員を指差して何事かを話す。了解の意を示して、彼は後方にある車両に向かって走りだした。それを見送り頷くと、男は再びサイバー兵器に目を向けた。

「任務遂行!」

 自衛隊が攻撃の準備を整えたのと、サイバーがいつもの通りに叫んだのは同時だった。サソリが先手を切り、右手のガトリング砲を突き出し、狙いを定めにかかる。対して自衛隊は横一列にバズーカ砲を撃ち出した。十余の弾頭がサソリやクモに向かって一斉に襲いかかり、胸に響く轟音と共に炸裂した。巻き起こった灼熱の炎と眩い光に、隊員達は思わず目を背けて顔を手で庇う。

 使い捨てのバズーカを地面に放り投げ、拳銃を腰から引き抜きながら、隊員達は静かに爆風が晴れるのを待った。一秒立ち、二秒立ち、次第に砂煙が薄れていく。その中で待ち構えていたのは、恐ろしい事態だった。

 顔を上げた隊員達は、口さえきけなくなるほどの衝撃を受けた。その中に立っていたのは、紛れも無くクモのサイバー。ところどころに僅かな凹みがあるもの、ほとんど無傷のままだ。体の至る所から煙を漂わせ、目や体を光らせながら轟然と立ち尽くすクモは、しっかりとサソリのことを守り通していた。

 自衛隊達は、動く要塞に苦悶の表情を浮かべたが、まだまだ諦めなかった。今度は二台の戦車が同時に砲撃する。しかし、それもクモは簡単に撃ち落としてしまう。鈍い音を立てて、ひしゃげた金属の塊が地面に転がる。その堅牢さに、隊員の一人が顔を青くした。遠くを見れば、カマキリとクモを相手に、他の隊の仲間が同じ事をしている。どんな攻撃もクモに飲み込まれ、全く有効な攻撃を与えられないでいた。男は天を仰ぐ。その視線の先では、スズメバチ型のサイバーが飛んでいた。見張りでもしているかのように、それは彼らの上空を行ったり来たりしていた。守らなければならない。そんな決意も、たった八体のサイバー兵器の前に揺らぎかけていた。

「攻撃開始!」

 サソリの目が一段と強く輝いたのと同時に、その尾から放たれた眩い光線は、戦車の機関部を貫いた。鉄が弾ける鈍い音と共に、戦車は爆発した。そのそばにいた隊員達をも巻き込み、戦車は火の玉と化す。残された隊員達は、唇を震わせ、目を見開いてその光景を見つめていた。

 誰もが今すぐ逃げ出したかっただろう。こちらの攻撃は通用せず、サイバーは圧倒的な攻撃力をこちらに見せつける。だが、逃げるわけにはいかない。逃げればすなわち、日ノ出市、ひいては日本の終わりを意味してしまうからだ。歯を食いしばり、一人が叫んだ。

「怯んだら駄目だ! 俺達が逃げたらこの街はどうなる!」

 隊員達は、静かに武器を握りしめ、サイバー兵器を見る。その目に確固たる意思を宿らせ、彼らは頷いた。

 その時、いきなり上空から耳をつんざくような轟音が飛んできた。隊員達も、サイバー兵器達も一瞬そちらに気を取られる。その視線の先にあったのは、三機の戦闘機だった。風を切り裂きながら飛んできて、三機は急降下しながらサソリやクモに向かってミサイルを撃ち込んだ。クモは目を光らせ、そのミサイルの迎撃にかかる。そこを地上の隊員達は見逃さなかった。

「今だ! 撃て!」

 一人が叫び、今度は全員がクモに向かってバズーカを撃ち込んだ。クモは戦闘機の放ったミサイルを撃墜し、上空で爆破する。それと同時に、十数発のバズーカをその背中に受けてしまった。いくら守るためだけに生まれた存在といえど、一発で戦車に致命傷を与えるような攻撃を一斉に受けて耐えられるわけは無かった。腹に当たる部分が一気に弾け飛び、後には弱々しく光るクモの頭だけが残された。サソリはガラクタになってしまったクモを見つめ、その目を明滅させた。まるで、同僚の死に驚いているようにも見える。その隙に、戦車が尾のないサソリに一撃を見舞った。頭が潰れ、そのサソリはそのまま崩れ落ちて動かなくなった。それも確認した最後のサソリが、目を赤く光らせて自衛隊の人々を睨みつけた。

「敵隊撃滅!」

 サソリが甲高い声で叫び、その尖った尾から再びレーザーを放とうとする。しかし、盾を失ったサソリに反撃の機会などなかった。レーザーが放たれるより先に、戦車砲がサソリの胴体を捉えていた。サソリが崩れ落ちたのを確かめると、隊員達は、すぐにカマキリやクモと対峙している仲間たちの援護に向かった。


 その頃、大希達は時計塔の方角から逃げ延びてきた人々を病院に迎え入れるために奔走していた。機動隊員達が周囲を盾で固め、大希や剣人など武器を持たない警察官は人々が混乱しないよう必死に列を整理していた。

「列を乱さないで下さい! 焦らないで下さい! 病院はこちらです!」

「もう少しです! 走らんで下さい!」

 大希は広田と共に警棒を振りながら歩く人々の列の横に立って導いていく。体力のある者は先に行かせ、彼は疲れ果てている人々が何とか病院へ向かって歩き続けるのを見守っていた。焦るなと注意する大希だが、彼も十分焦っていた。手に汗をにじませ、せわしなく動き回り、とにかく落ち着かないという雰囲気だった。警帽を取って額に浮かんだ汗を拭い、荒く息をしながら彼は時計塔の方角を窺う。そんな時、恐れていた事が起きた。

 断末魔の震える叫びと共に、しんがりを務めていた機動隊員達が次々に倒れていく。大希はその衝撃に呆然となってしまった。その間にも機動隊員は胸を黒く焼き尽くされ倒れていく。その向こうにあったのは、レーザー銃を差し向け、隊員に向かって撃ち続ける銀色の兵士達の姿だった。

「うわあぁ!」

 それに気がついた人々は、我先にと走りだした。こうなってはもう歯止めが効かない。今までの整っていた動きが嘘のよう、人々は押し合いへし合い病院へ向かって駆けていく。足がもつれて転び、焦る余りに立ち上がれなくなってしまった人々が出てしまった。隊員達の列を蹂躙した兵士達は、その人々を見逃さなかった。銃口を差し向け、すぐさま引き金を引こうとする。その時、大希と広田は既に動き出していた。

「危ない!」

 二人が人々の前に飛び出したのと、兵士が引き金を引いたのは同時だった。光線の一本は大希の顔のそばを掠めて外れ、もう一本は広田の右の肩口に命中した。広田は思わず呻いて崩れ落ちる。それを目の当たりにした大希は、目をかっと見開いた。

「貴様ら!」

 鬼のような形相となった大希は、拳銃を取り出して兵士達に向けた。兵士達は動きを止め、銃口を大希に向けたまま静かに口を開いた。

「我々に抵抗するつもりか。死ぬ運命にある者が!」

「死ぬ運命? 何を言ってんだ。お前らどいつもこいつも、頭イッてんのかよ!」

 大希は湧き上がる怒りに任せて叫ぶ。その勢いに気圧されたか、わずかに兵士達の口元が歪んだように見えた。しかし、それが彼らに影響するということもなく、一人が手を挙げると同時に兵士は再びぴたりと大希に狙いを定めた。

「狂ってなどいるものか! 我々は生きるために戦っている! 悪いと思わないではないが……我々の手でこの世界の歯車を狂わせる他、我々に生き残る術はないのだ! だから我々は……お前達を殺す!」

 言い終わるやいなや、兵士達は一斉に引き金を引く。大希は思わず目を見開いて身を固めた。

 しかし、光線はいつまでも放たれない。異変に気がついた兵士達は必死になって引き金を引く。だが、やはり銃は使い物にならなくなってしまっていた。兵士は銃を見下ろし、悲鳴にも似た叫びを上げる。

「何故だ! 何故銃が!」

 高らかな足音が響き兵士ははっと顔を上げた。バイザー付きヘルメットのお陰でその表情は窺えない。しかし、きっと恐怖で歪んでいるに違いなかった。

「確保!」

 大希と、遠く離れていて命拾いした機動隊員達が兵士達に殺到した。警棒で急所を激しく打ち据え、地面に突き倒す。そして腕を捻り上げると、それぞれ手錠を取って兵士の両手に嵌めた。大希に喉元を突かれた兵士は呻きを上げ、か細い声で呟いた。

「何故だ……何故銃が動かない……」

「俺が知るかよ」

 大希は怒りに任せて男を道路に叩きつけると、踵を返してうずくまっている広田の元に駆け寄りひざまずいた。

「おやっさん、大丈夫ですか」

「ああ。相当痛いが、血はあまり出てないみたいだ。何とか動ける」

 広田は歯を食いしばりながら立ち上がる。右手に押さえられた制服の肩口は真っ黒に焼け焦げ、ひどく痛々しい姿を晒していた。大希は思わずその傷から目を背けると、そのまま機動隊員達の方角に向き直る。

「なら行きましょう。……すいません、後をお願いします」

 二人は隊員達と頷き合うと、病院へ向かって一歩ずつ歩き出した。


  その頃、一人の兵士が右肩を押さえ、ビルの壁を伝って歩いていた。今も絶え間なく血が溢れており、手で押さえたくらいではどうしようもない。口元をしかめ、兵士はヘルメットを片手で脱ぎ捨てた。その中からあらわになったのは、つり上がった涼しげな目元、つやのある頬、張りのある唇。兵士は正真正銘の女だった。

「くう……こんな所で……」

 兵士――北星栄花(ほくせいえいか)は肩を押さえながら呻く。彼女は多数のサイバーと共に現れ、クモに指示を送ったあの兵士だった。歩兵達が散開した後は、物陰に隠れてサイバー達の動静を見守り、いつでもマニュアルの指示を出せるようにしていた。だが、それが仇となり、クモが爆発した時にその破片が深く彼女の肩を抉ったのだった。

 彼女はとにかくその場を離れた。どこに向かっているかもわからないままに。傷は相当に深く、それでも彼女は必死に涙をこらえて前を見つめ続けていた。しかし、彼女の体を力強く支え続けた精神力も、もう限界だった。彼女は血の気を失い、その場にふらつき、倒れこんでしまう。

「こんな所で……死ねない」

 彼女は目を見開き、その目の奥に命の炎を燃え上がらせてらんらんと光らせていた。痛みをこらえ、何とか立ち上がろうとするものの、力の抜けきった体ではもうそんな事すらもできなかった。栄花は顔をくしゃくしゃに歪め、必死に泣くのをこらえながら呟いた。

「いやだ。いやだ……こんな、こんな所で。一人でなんて、死にたくない……」

 歯を食いしばり、必死に意識を失うまいとするものの、目の前は霞み、体は中身をそっくり鉛に詰め替えられたかのように重く、動かなくなっていた。

「私、何のために生きてたのさ……」

 最後に弱々しい口調で呟き、彼女は意識を失ってしまう。その頬を、一筋の涙が伝っていった。


 ちょうどその時、目の前を横切ろうとしている人影が二つあった。大希と広田だ。二人は周囲に気を張りながら、病院を目指してゆっくりと歩いていた。そして二人が彼女が倒れる路地の前に差し掛かった時、ついに大希は足を止めた。

「ちょっと待ってください。あれ……」

 大希は路地を指差す。そこには、肩口の装甲が吹っ飛んだ状態の兵士が倒れていた。彼の位置からではそれ以上よく見えない。大希は広田の顔を一瞬窺うと、広田をその場に残し、腰の警棒に手を当てながら兵士のもとに駆け寄った。

「お前、ここで何を……」

 大希は目を見開いた。その兵士の肩にこびり付いていた鮮血が、彼から言葉を奪い去ってしまう。大希は敵味方の関係を忘れ、思わず兵士のそばに駆け寄った。

「おい、お前大丈夫か? おい!」

 傷からは、あまり激しくは無いものの、今でも血がしみ出していた。ポケットから慌ただしくハンカチを取り出すと、兵士の肩口に当てて止血を試みる。その瞬間、大希は思わず不審な表情をした。そっと兵士の腰元に腕を回すと、そっと兵士を仰向けに返した。

「……お、女?」

 大希は目を瞬かせた。血の気を失い、真っ青な顔だったが、そのやや気の強そうな顔立ちは、十中八九の男が『美しい』というだろう。大希は思わず頬を染めてしまった。

 だが、彼女の右肩を触れてすぐに現実へと帰った。ハンカチは既に真っ赤で、到底止血などできない。大希が左手を真っ赤にしながら歯がゆそうに右手を動かしていると、広田が通りの方から覗き込んできた。

「おい、何してる?」

「兵士が大けがで倒れてるんです! 手伝ってくださ……って今の広田さんじゃ無理か……」

 大希が苛立ったように声を荒げる様子を見て、広田は肩口を押さえながら近づいてきた。そして女兵士の姿を覗き込むと、睨むようにして大希のしかめっ面を窺った。

「お前、こいつを助けるつもりか? 街を散々に壊して、人をたくさん殺した兵士を?」

「……おやっさん。僕もその事は許せません。……でも、犯罪者である以前に重傷者です。……我々には、彼女から『裁かれる権利』を奪い去る権利はありません。……そうですよね?」

 広田は唇を噛み締める大希を、さらに眼光を強めて覗きこんだ。大希は負けじと見つめ返す。そんな硬直が数秒続いた後、広田は溜め息をついた。

「……そういう事にしよう。だがどうする? 悪いが俺は助けられないぞ」

「ううん……一体どうすればいいんだよ……」

 大希がどうすることもできずにいたまさにその時、外の通りの方から聞き慣れた声が飛んできた。

「大希! そんな所で何してるんだい!」

 大希ははっと顔を上げる。そこにいたのは、紛れも無く未成だった。不思議そうな顔をして、大希達のことをじっと窺っている。大希は考える間もなく叫んだ。

「未成! 手伝ってくれ! けが人がここにいるんだ!」

「え? あ、うん!」

 未成は一足飛びで大希達のところまでやってきた。そして兵士のことを見た瞬間、彼は思わず息を呑んだ。

「栄花。やはり君は……」

「何だって?」

「い、いいや何でも無いんだ。とにかく行こう。このままじゃ危ない」

 二人は改めて周囲を見渡し、鉄の棒や捨て置かれた板を駆使して即席の担架を作る。そして、そっとその上に女性兵士を載せた。広田は改めて兵士の傷を見つめ、顔をしかめながら深々と溜め息をついた。

「全く、仕方ないな……大希、俺の事はいい。先に行け」

「すみません。じゃあ未成、行こう」

 二人は頷き合うと、急ぎ足で病院に向かった。



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