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13th Period 救助本部

 時計塔下広場に設置された救助本部。そのとある天幕の中で、理加は椅子に座って黙り込んでいた。隣の机に置かれたココアには手を付けようともせず、彼女はひたすら目の前に座っている健の胸元あたりを見つめていた。一方の健は、机に向い合ってココアの入った紙コップを傾けるばかりで、理加の方は見ようともしない。そうして二人はただただ沈黙を貫いていたが、やがて理加はおずおずと顔を持ち上げ、健の横顔に目を向けた。

「まだ、お礼言ってなかったよね……助けてくれてありがとう」

 健はちらりと理加の方を見遣り、それから再び目を逸らした。

「礼なんていらねえよ。人として当然のことをしたまでだろ」

「ご、ごめん……」

 淡々とした返事に、理加は思わず表情を曇らせながら再びうつむいてしまった。引っ込み思案も過ぎる態度に、健は溜め息をついてしまう。

「どうして謝るんだよ」

「ご、ごめん」

 健は再び溜め息をついた。首を振りながら肩を竦めると、ゆっくりと体を理加の方に向け直し、わずかに表情を緩ませた。

「まあいいや。……同じ職場だってのに、まともに話したのはこれが初めてか」

「そうだね。三年ぶりかな……」

 理加は小さく微笑み、上目遣いに健を見つめた。

「三年か。そんなに経っちまったか……」

「うん。元気に仕事してる?」

 健はわずかに口角を持ち上げ、小さく頷いた。

「当たり前だ。理加はどうなんだよ」

「私だって一生懸命頑張ってるよ。もう社会人なんだから」

「そうか」

 二人は声を潜めて笑いあったが、それきり言葉が途絶えてしまった。すると、再び二人は自然と目を逸らし合ってしまう。まるで磁石が反発しあっているかのようだった。しばらくはそのままの姿勢で動かずにいた二人だったが、やがて健が立ち上がる。

「俺、お茶もらってくるわ。理加はいるか?」

「あ、うん。お願い」

 理加が頷いてみせると、健は片手を挙げ、そのまま立ち去っていった。そこへ興味津々な様子のさくらが現れ、そっと健が座っていた椅子に腰を下ろす。

「ねえねえ。理加と健って、昔から関係あったの? 三年ぶり、なんて言ってたけど」

 さくらに見つめられ、理加は小さく肩を竦めた。

「私、大学生の時に友達に引きずり出された合コンで、おんなじように引き出されたあの人に会ったの。付き合ってたこともあるんだ。一応」

 聞いた途端、さくらは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。

「本当に! どうして言ってくれないのさぁ」

「失恋した話なんか好きでしないよ」

「まあね」

 さくらと理加は困ったような笑顔で見つめ合い、それから吹き出してしまった。

 大希は未成や剣人と一緒のベンチに座り、安堵に満たされた表情でさくら達を見つめていた。

「何はともあれ、助かってよかったよな」

 大希はぼそりと呟いた。目の前の床几に置かれた小さなラジオを見つめながら剣人は頷く。

「ああ。本当に間一髪だった。もう少し未成の判断が遅れていたら……」

 未成は目を伏せた。遺体を安置している天幕の中、変わり果てた姿になった理加を前にして泣き叫ぶさくらの姿。そうなっただろう。目頭を押さえ、未成は呟く。

「ああ。無事で本当によかった……」

「しっかし、本当に不思議だよなあ」

 温かいお茶を飲みながら、大希はふと思い出したように呟いた。剣人は首を傾げ、大希の方を見た。

「何だ? あのカマキリの事か?」

 大希はお茶の缶を見つめたまま首を振る。

「それもそうだけどさ、俺が言いたいのは未成のことだよ」

「ぼ、僕?」

 未成は自分の胸を指差した。いかにも意外そうにしている。

「ああ。あの時、どうして理加さんがあんな深くにいるってわかったんだ?」

 引きつった笑みを浮かべ、未成は反対側にいる剣人の方に振り返った。今まで気楽そうな表情をしていたくせに、いつの間にか真剣な表情に化けている。気の抜けた笑い声を漏らし、未成は愛想笑いした。

「やだなあ。そんなに真剣な顔しないでよ。勘だよ。勘」

 大希と剣人の顔が一気に歪んだ。

「勘?」

 未成は手の汗をズボンで拭きながら、困惑の入り混じった愛想笑いを浮かべる。

「本当に勘なんだよ。ホテルはまだあまり手が回ってないようだったし、探せば一人くらい助かってる人がいるかな、って思ったんだ」

 未成の引きつった愛想笑いを覗き込むように見つめ、大希はため息をついた。

「お前……単なる勘であんな自信満々に『信じろ』なんて言ったのかよ」

 大希は責めるような口調だったが、未成は肩を竦めただけで全く笑みを絶やさなかった。

「まあね」

 大希と剣人は再び顔を見合わせた。未成がそう言い張るのでは仕方がない。

「……まあ、結果オーライだけどさ……」

 それきり三人は黙り、ラジオの声に耳を傾けた。まず、昼の地震の被害状況が小さく伝えられた。震度は五弱、この地震によって崩壊した建物はなし。だが、沿岸部付近で古い水道管が破損し、断水に陥ったし、北部で一部が停電した。そして、謎のロボットによって倒壊したビルからの救助活動に深刻な影響を及ぼした。そう伝えられた。そして、今日の朝に起きた事件に話が移っていく。剣人はラジオをじっと見つめてため息をつく。

「さあ、ラジオは今日のトピックスをどう伝えるつもりだ」

『本日午前七時頃、南広場にカマキリに似た姿のロボットが突如出現、そして周囲のビルを襲撃しました。これによってビル四棟が全壊、現在判明しているだけで百二名が死亡、五名が重体、二十三名が重軽傷を負っています。現在はロボットも起動を停止して自衛隊に回収されており、現場では懸命の捜索活動が続けられております。今後も襲撃の可能性は懸念されておりますが、現在対策は検討中との事です。以上、日ノ出市のニュースでした』

 キャスターは一気に事実を並べ立てるに終始して、そのままニュース自体が終わってしまった。しばしぼんやりとしていた大希だったが、ニュースの内容が飲み込めてくるにつれゆっくりと頷き始めた。

「そうだよな。ラジオだし、コメンテーターを呼ぶことは少ないか」

「変な憶測吹きこまれて不安になるよりずっといいさ」

 聞くことは聞いたと、剣人は手を伸ばしてラジオの電源を切ろうとする。その時、戸惑ったように上ずり気味の声で、キャスターがいきなり話し始めた。

『全国のニュースの前に、速報です。現地時間で午後一時、ドイツのベルリンでマグニチュード六・〇の地震が発生しました。多くの建物が半壊または全壊し、多くの死傷者が出ております。また、他にも中国の上海、インドのムンバイ、ロシア連邦のモスクワなど、各国の大都市にて、それぞれの現地時間午後一時にマグニチュードが六・〇付近の地震が発生しており、不可解な規則性に気象庁は首を傾げております』

「おいおい。どういうことだ? 世界はどうなってんだ」

 大希はラジオを揺すぶった。未成は冷や汗を垂らしながら唇を噛み、剣人は戸惑って目を瞬かせた。

「中国やインドはともかく、ロシアやドイツじゃそんなに大きな地震は起きないだろ。パリの時もそうだったし、何だか地球おかしいぜ」

 大希が呟くやいなや、再びラジオから必死な声が飛んできた。その声の中にバタバタと走り回るような音や紙をめくるような音も交じっている。

『ニュースです。現在、沖縄に上陸した台風二十五号が、さらに勢力を強めて北上しております。このままの速度で北上すれば、明日未明に本土へ上陸するものと見られています。非常に強い大型の台風で、沖縄では現在毎時百ミリの大雨を記録しています……』

 地震の次は季節はずれの台風。三人は呆然としてラジオを見つめていた。


 雷鳴が轟き、豪雨降り注ぐ夜、円形の空間の中に銀色の巨大なサソリとクモは佇んでいた。サソリは一対の刺々しいハサミを携え、尾の先には直径四十ミリほどの砲身が備え付けられていた。一方、クモの体には無数の穴が空き、虹色の光沢が体の表面を舐めるように動いている。

「二次元間転送装置、システムオールグリーンです」

「スコーピオン強攻型サイバー、スパイダー防衛サイバー、配置完了しました」

「いつでも運転開始できます」

 円形の空間を見下ろすように立つ塔の中、膨大な機材に囲まれながら十人ほどの作業服を着た人々が慌ただしくやり取りを交わしていた。その中で、人間のシルエットが映っている一際大きなモニターの側から、女性の声が静かに発せられる。

「了解です……転送を開始して下さい」

「了解! 転送開始!」

 ディスプレイに向かい合っていた一人の男がエンターキーを叩く。その瞬間に二体のロボットがいた空間に霧が吹き込まれ、ロボットの姿は見えなくなっていく。

 塔の中から、そんな様子を見つめている女が一人いた。目を猫のように細めてその光景を見つめている彼女はどこか呆然として、そしてまたどこかに恐れを抱えた様子でその光景を見つめていた。

「こんなこと……絶対におかしい……」



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