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IF Routes  作者: ひまうさ
3/3

オーサー×アディ「1二人で過ごした時間」

幼馴染に10のお題より


<お題元>

サイト名: 創作者さんに50未満のお題

URL: http://box.usamimi.info/

管理者: 月守暦

 人気のない森の奥へと足を踏み入れた僕は、さして苦も無くアディの姿を見つけた。


 風に流れるアディのまっすぐな黒髪が太陽の光を反射して、滑らかな光を放つ。

 Tシャツにデニムの短パンだけというラフな格好からは、色白だけれど陽の下で走りまわる少し焼けた足を投げ出している。

 足先に動きやすいスニーカーを履いているのが少しアンバランスに見えなくもないけど、多分ミュールやヒールといった普通の女の子の靴を履くと走りにくいとかそういった理由だ。


 僕の見ている前で、アディは彼女自身の腕を枕に、グラスの葉の上に寝転がり、物憂げに空を見上げる。

 僕を振り回している普段の勝気な姿からは想像もできない顔をしているけれど、こんな場面を見慣れている僕は黙って隣に座った。


「遅い」

「……ごめん」


 僕を見もしないで、不機嫌につぶやくアディに、僕はただ謝罪を口にした。

 約束していたわけじゃないから、謝る必要なんてないのだけれど。


 二人で青空を流れる雲をしばらく眺めていると、不意にアディが笑い出した。


「何謝ってんの、オーサー」


 アディを見ると、苦笑しながら起き上がるところだった。


「仕事はいいの?」

「うん、今は休憩時間だから。


 アディこそ仕事は?」


 僕の問いかけに、アディは眉根を寄せて、曖昧に笑う。


「午後から休み」


 何かあったのだろうと、僕にすぐ予想がつくのは、アディと過ごしてきた時間が一番長いからだ。

 だから、こういう時に何があったかと尋ねると意地になって言わないことを知っているので、僕は何も言わないことにしている。


「お弁当、食べた?」


 急に言われたことに驚いた僕は、苦笑しつつ手元の包みを差し上げた。

 それは今朝、アディから渡されたものだ。

 珍しいなと思ったけど、アディは怒ったような顔をしていたので、何も聞けなかった。


 今なら、聞いてもいいだろうか。


「そんなに忙しかったの?」

「少しね」


 アディが驚くのも無理はない。

 村では飲食店以外の仕事は皆、正午に食べるのが普通でなのだが、既に太陽は傾き始めている。

 人によってはティータイムと称する時間だ。


 隣で包みをひらくと、籐の籠にサンドイッチが五個ほど入っている。

 そんなに大食いのつもりはないのだけど、いつも僕のお弁当には多めに入っているのだ。

 何度か減らしてくれるように頼んだこともあるのだけれど、成長期だからと断られている。


 ハムサンドを掴んで口に入れる僕を、アディがじっと見つめている視線が何か恥ずかしい。

 口の中のものを飲み込んでから、問いかける。


「何?」


 アディは少し唸ってから、なんでもないと顔を背けた。

 それから、僕がまた食べ始めると、じっと見つめてくる。

 理由を聞きたいけれど、何度もはぐらかされて、しまいには立ち上がってしまったアディに慌てる。


「さて、と」

「え、もう行くの?」


 慌てて口に全部のサンドイッチを詰め込んで、お茶で流し込もうとした僕は、喉につっかえて息が止まる。


「あはは、慌てない慌てない」


 笑いながら僕の背中を叩いてさするアディを涙目に見上げると、彼女は瞳の奥に柔らかな光を宿していて。


 そんな顔を見たら、居ても立ってもいられなくって。


「わっ」


 とっさにアディの腕を自分に引き寄せていた。

 倒れこんできたアディはとてもやわらかくて、愛しくて。

 背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。


「オーサー……?」


 いつもアディは僕に何も言わない。

 それが心配させまいとしているのだと知っているけれど、僕は時々悔しくなるんだ。

 こんなにずっと一緒にいるのに、旅を終えて、やっとその心を手に入れたのに。


 アディの中では、どうしても僕は守るべき弟という位置を出られなくて。


「アディ、僕はアディの何?

 僕はそんなに……頼りない?」


 腕の中で息を飲んだアディの身体が小さく震えた。


「頼りなくなんて、ない」

「もう隠し事はしないって、あの時に約束したよね」


 旅の終わりに、僕は誓った。


「僕は何があってもアディを置いていかない、一人にしないよ。

 だから、なんでも話して欲しいっていうのは、僕のわがまま?」


 こんな問いかけ自体が卑怯だとわかっている。

 アディは優しいから、そんなことないと言ってくれるだろうけど、だからって何でも話すなんて無理だ。

 それぐらいわかっているのに、僕は今でもアディが消えてしまいそうで、怖いんだ。


 また、僕を置いていってしまいそうで。


「頼りにしてなかったら、一緒にいない、よ。

 オーサーがいなかったら私は、とっくに全部投げ出して、楽な道を選んでた。

 私が私であることを諦めないでいられたのは、オーサーがいてくれたから」


 腕を突っ張って、身体を離したアディが僕を見つめる。

 その目は少し潤んでいて。


「オーサーがいてくれるから、今の私は私でいられるんだよ」


 旅が終わっても、今でもアディは夜中に目を覚ます。

 すべてが終わっても、過去の傷が癒えるわけじゃないし、きっとこれからもアディはアディであることに苦しみ続ける。

 僕にできるのは、ただそばにいることだけしか無いのだけれど。


「アデュラリア、君が好きだよ」


 返答を待たずに、その口を塞ぐ。


 僕はアディのそばにいることしかできないけれど、きっと君を離さない。

 だから、どうか、僕から逃げないで。


 ずっと、貴女の隣にいさせてください。

しばらく書いていなかったので、リハビリ兼ねてIF話です。

いまいちな出来……。

だったので、結局書きなおしたら、なんだか甘めになった?


次は「2幼き日の思い出」



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