第7話 優等生と違和感
時は流れ、ロアは十二歳になっていた。
あの日、草の汁で紙を濡らして叱られて以来、
ロアは学校では大人しい優等生として過ごしていた。
余計なことは言わず、先生の言うことをよく聞き、
与えられた課題を静かにこなす――
そんな『模範的な生徒』の仮面が、いつの間にか日常になっていた。
高学年になると、授業は実際の生活に役立つ内容が増えていった。
作物の育て方、病気の見分け方、危険な生き物の特徴――
ロアはそのどれにも、少しずつ違和感を覚えるようになっていた。
「実が熟すと、甘い香りが強くなる。鼻を近づけて確かめるんだぞ」
先生はそう説明したが、ロアにはどうしても腑に落ちなかった。
ロアには、実は熟すほどに内側の光が温かくなるように感じられる。
香りよりもずっと確かな『変化』がそこにあった。
別の日、先生は病気になった芋の鉢を持ってきて言った。
「病気の葉はザラザラになる。触ってみろ」
ロアには、触る前から分かっていた。
その葉からは、植物特有の爽やかな光の気配がすっかり消えていたからだ。
ザラザラかどうかよりも、もっとはっきりと『異常』が見えていた。
さらに、危険な生き物の授業では――
「毒のある虫や蛇は、まず音で気付け。
とくにヤミヌイヘビは危険だ。毒がある上に、草むらでは見つけにくいからな」
先生は脱皮した皮の標本を掲げた。
ロアは思わず目を細めた。
その縞模様は、ロアにはむしろ『危険だ』と叫ぶように強く光って見えた。
見つけにくいどころか、目をそらせないほどだった。
(……どうして、みんなにはこう見えないんだろう)
違和感は、日を追うごとに積み重なっていった。
やがて試験の日が来た。
ロアは先生の言った通りに答案を書いた。
自分の感じていることは、一つも書かなかった。
結果は、またしてもクラスで一位だった。
「今回の一位はロアだ。よくやった。次もこの調子で臨め」
先生にそう言われ、ロアは静かに微笑んだ。
けれど胸の奥には、どうしても消えないもやもやが残っていた。
(……本当に、これでいいのかな)
ロアは答えの出ない問いを抱えたまま、
優等生の仮面をかぶり直した。




