第2話 サファイア
ある日ロアは、父・ガルンに連れられて鍛冶場へ行った。
鉄の匂いと熱気が渦巻く場所。
ロアは普段なら怖がって父の後ろに隠れているが、その日は違った。
棚の上に置かれた『それ』は、
ほかの石とはまるで違っていた。
透きとおったその石は、
触れてもいないのに指先がひやりとするような光を宿し、
奥底では、静かに沈んだ色の気配がきらりと揺れていた。
ロアは気づいたときには走り出していた。
「あれ……ほしい……!」
普段は大人しいロアが、その石を指さして泣きそうな声を出したものだから、
ガルンは目を丸くした。
「ど、どうしたんだ急に。ただの石だぞ、あれは」
ロアにはただの石は見えなかった。
それは、ほかのどんな石とも違う――
絶対に特別なものだと、本能で強く感じた。
まるで夜空の星をひと粒だけ閉じ込めたような、
神さまの落とし物のような光だった。
「いやだっ……!!あの石がないと……僕、帰らない!!」
鍛冶職人のおじさんは、驚きながらも笑った。
「はは、ロア坊、これがそんなに気に入ったのか。
そんな価値あるもんでもないし、持っていきな」
そう言って、おじさんはその石を気前よく手渡してくれた。
ロアはそれを両手でそっと包み込んだ。
「……きれい……」
ガルンは不思議そうにロアを見つめた。
その目にはどこか心配と、少しのあたたかさがにじんでいた。
「本当に変わった子だなぁ……。でも、そんなに気に入ったなら……よかったな」
家に帰ってからも、
ロアはその石をずっと眺めていた。
光がきらめくたびに心が惹き寄せられる。
触ってもいないのに、冷たいのに、どこか優しい。
ロアはその石を布に包んで、枕元に置いて眠った。
その日から、
その石――サファイアはロアの『最初の宝物』になった。
そして誰も知らなかった。
ロアだけが、その石のきらめきに『青』を見つけていたことを。




