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第12話 通過儀礼

※この話には血の描写を含む狩猟シーンがあります。苦手な方はご注意ください。

それから数日が経った。

ロアは、一人で狩りをする宣言をしたものの、まだ一つも獲物を仕留められていなかった。


リネアは言う。

「ロア、あなたはまだ子供なんだから、無理しなくていいのよ。……一人で狩りだなんて、危ないわ」


リオも言った。

「そうだよ兄ちゃん。俺も一緒に行くよ!」


「ううん、リオはちゃんと学校に通わないと。……大丈夫、もう少し頑張ってみるよ」




ロアは日が落ちてくると、すぐに森へ向かった。


まずは宵ウサギの狩り。


ロアは息を整え、弓を引いた。

だが放った矢は、宵ウサギのいた場所から大きく外れて落ちた。


もう一度。

狙いを定め、深く息を吸う。

しかし矢は、また外れた。


「父さんなら簡単にできるのに……!」


視線が定まらず、宵ウサギの影を追うたびに焦りが増していく。



どんどん夜は更け、兎たちの姿は消えていった。


ロアはため息をつき、森の奥へ進んだ。

昨日仕掛けた罠を確認するためだ。


落ち葉を踏み分け、罠の場所に近づく。

だが、そこには何の気配もない。

落とし穴の縁も土の崩れ方も、昨日と変わっていなかった。


「……今日も、だめか」


足取りが重くなる。


何か食べられるものを……と、ロアは木に手を伸ばし、実をもぎ取った。

熟れた果実は、木の上でひときわ強く浮いて見える。

ロアはそれを見つけるのが得意だった。


「僕、狩人には向いてなかったのかな……」


果実はどんどん籠にたまっていく。

けれど、冬を越すには到底足りない量だった。



ロアはそのまま夜明けまで森をさまよい続けた。


「そろそろ帰らなくちゃ……」


すると、視界の端で『何か』が光った。

ロアは息を呑み、罠をいつもの場所ではなく、その光の近くに仕掛けた。




翌日の宵、ロアはまっすぐ森の奥へ向かった。


「もしかしたら……かかっているかも」


薄い期待を抱きながら、罠の方向へ歩いた。



罠の場所に着いた瞬間、ロアの心臓が跳ねた。


月の光が穴の中へ差し込み、底で何か大きなものが揺らめいている。


「……きた」


そこには、大きな月光鹿の雄が罠にかかっていた。


「これが……月光鹿」


牡鹿は荒れ狂い、前脚で空を掻きながら、月を求めるかのように跳ね上がっている。

動くたび、満月の光が毛並みに流れ込み、その輪郭が浮かび上がる。


淡くぼやけて見えるはずの毛並みが、

ロアには、宵の満月の光をそのまま吸い込んだように見えた。


まるで、月から降りてきた生き物のようだった。


ロアはしばらく立ちすくんでいた。


牡鹿は大きな角を振り回しながら暴れている。


「……やらなきゃ……僕が……」


ロアは槍を構えた。




槍を握る手が汗で滑る。

心臓が耳の奥で鳴っている。


ロアは目をぎゅっとつぶり、槍を突き立てた。


柔らかい感触――腹に刺さったのだ。


牡鹿は激しく暴れ、苦しげな声をあげる。


「早く......早く殺してあげないと......!」


震えるまま目を開き、喉元をめがけて槍を思いきり突き込んだ。


その瞬間――


血が――熱く、重く、濃い液体が、激しく吹き出した。

命の灯がほとばしるように、視界いっぱいに燃え上がる。


牡鹿は断末魔の叫びを上げている。

ロアはその光に焼かれそうになりながら、強く、強く槍を押し込んだ。


やがて牡鹿の目から光が消え、

ばたん、と地面に倒れ込む。


――ロアはこの瞬間、『子ども』をやめた。

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― 新着の感想 ―
色を見ることのできない民の中で、唯一色を認識できる少年ロア。その視点がとても印象的で、どんなふうに世界が見えているのか想像しながら読むのが楽しかったです。 純粋なロアが、他者と異なるがゆえの孤独を抱え…
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