第11話 裂けた背、残されたもの
※この話には血の描写を含むシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
秋になり、森の動物たちは冬に備えて丸々と太りはじめていた。
ロアたちも、寒さに向けて懸命に獲物を狩る日々が続いている。
その日、ガルンとロアは日が沈むと同時に森へ向かった。
まだ薄明かりが残っていて、宵ウサギが草むらを駆けまわっている。
「ロア、あの宵ウサギを狙ってみろ」
ロアは弓を構え、息を整えて放つ。
だが矢は大きく弧を描き、兎の後ろに落ちた。
宵ウサギは鋭く光る目でこちらを一瞥し、すぐに走り去っていく。
その光は、人や他の獣とはどこか違い、ロアには灯火のように見えた。
ロアは肩を落とす。
「弓を始めて一年はこんなもんさ」
ガルンが穏やかに言った。
「気を取り直して、今日はいつもより森の深くに行くぞ」
二人は並んで森の奥へと進んだ。
「ここらで休憩にしよう」
ガルンが荷物をおろしたそのときだった。
ロアの背後から、低い唸り声が聞こえた。
振り返る間もなく、木陰イノシシが地面をえぐりながら突進してくる。
――その瞬間、ガルンが体当たりするようにロアを突き飛ばした。
ロアの体は地面に転がり、視界が揺れる。
湿った土が口に入り、苦い味がした。
振り返ると、ガルンが倒れていた。
そのすぐそばを、巨大な影が駆け抜けていく。
木陰イノシシの荒い足音が、森の奥へ遠ざかっていった。
「父さん!!」
ロアはよろめきながら駆け寄った。
ガルンの服の背中は裂け、まるで炎が燃え移るように血が滲んでいく。
「父さん! 起きてよ、父さん!!」
息はある。だが意識はない。
ロアは震える手で、ガルンの体に布を巻き付けた。
抱えようとするが、ガルンの身体は重く、起こすことすらできない。
ロアはガルンを藪の中まで引きずって横たえ、村へ向かって走り出した。
足がもつれそうになりながらも、必死で駆ける。
息が荒くなり、喉が焼けつくように痛む。
口の中には、鉄のような苦い味が広がっていた。
村に着くと、男たちがすぐに動いた。
森へ戻り、ガルンを担架に載せて運び出す。
ガルンは途中で意識を取り戻したが、苦しげに呻いていた。
ガルンは村の診療所に運び込まれた。
背中には大きな傷があり、脚も折れているらしい。
ロアは診療所の隅で立ち尽くしていた。
「僕が……僕がしっかりしていなかったからだ」
胸の奥が冷たく沈んでいく。
ベッドのそばでは、リネアとリオが泣きながらガルンの手を握っていた。
そのとき、ガルンがうっすらと目を開けた。
「あなた!」
リネアが顔を上げる。
「……皆、すまない……迷惑かけたな」
ガルンはゆっくり体を起こそうとしたが、痛みに顔をゆがめ、そのまま崩れ落ちた。
「あなた、無理しないで!」
リネアが慌てて支える。
「だめだ……冬の食料が……足りない……」
ガルンは苦しげに息を吐きながら言った。
「早く……回復しないと……」
言い終える前に、ガルンの意識はまた遠のいていった。
ロアは拳を握りしめた。
震える声で、それでもはっきりと言った。
「僕がやるよ。
僕一人で……狩りをする」




