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第2章 再生

 事件解決速報が流れる草薙の病室に担当医が駆け込んできた。

「草薙さん、移植ドナーが見つかりました! これから適合チェックを行い問題無ければ移植手術をします」

「えっ」

 草薙は驚きを隠せずに医師から視線を外した。

「移植待機リストの上位が不適合で順番が回ってきました。同意書にサインして頂けますか?」

 医師が同意書を草薙に渡すと同時に病室に本条が入ってきた。

「考えてる時間は無いよ! もうこれが最後のチャンスかもしれない」

 草薙が同意書のサインを躊躇している様子を見た本条は、医師の話を遮り割り込んできた。

「ドナーはどういう方なんですか?」

「個人情報保護によりドナーの情報を教える事はできません」

 草薙が医師に尋ねるも、毎回聞かれている事なのか機械的な返事が返ってきた。

「わかりました。宜しくお願いします」

 草薙は同意書にサインを書き始めた。

 手に持つボールペンは、移植ドナーの人生を背負って生きていく責任で鉄製のペンのように重く感じていた。

 サインを終えた草薙は、医師に書類を渡すと本条に語り掛けた。

「生きて、いいんだよな?」

 本条は草薙の顔を見つめると、涙を流し満面の笑みで頷いた。


 グランド・セントラル駅テロ事件の翌日、FBIテロ対策ユニットの作戦室では、事件のデブリーフィングが行われていた。

「昨日のテロ事件、犯人は逃したが爆弾は解除できた!みんな良くやった」

 ロイスは反応する隊員は一人もいない事は知っていた。

 ヴィンセントを失った喪失感、ヴィンセント一人で事件を解決したという無力感に苛まれている隊員達。何よりロイスが責任を一番感じていた。

「隊長、ヴィンセントを撃った犯人の情報は?」

 シェルビーの質問は沈痛な雰囲気を切り裂いた。

「今回、初めてH・A・D・E・Sの実行犯に遭遇する事が出来た。実際に見たのはヴィンセントとケニーだけだが、入院中のケニーから情報を聴取している」

 ロイスは作戦室のモニターの電源を入れ、資料を読み始める。

「①犯人は60代 ②中肉中背 ③アジア人 これらの情報をケニーから聞いている」

「防犯カメラの映像は?」

 シェルビーは間髪入れず質問した。

「やはり、防犯カメラはハッキングで映像は残っていない。人相等はケニーの情報を頼りに似顔絵を作成する予定だ」

 ロイスが資料を読み終え、デブリーフィングが終了にさしかかった所で三班班長が口を開いた。 

「一つ、疑問が残ります」

「なんだ?」

「地下通路は、退避命令が出るまで捜索を行っていました。N.Y市警に変装した犯人は当初から退避した後に爆弾を設置する計画だったのでは?」

「その可能性は高いな」

 ロイスは何か言いたげな三班班長を見ると、続けて言い放つ。

「退避命令が早かったと言いたいんだろう? 異常が発見できない以上、人命を優先する事は当たり前だ」

 苛立つロイス。

 退避しなければそもそも事件が起きなかった可能性があった事は十分に理解していた。結果的にヴィンセントが爆弾を発見、解除した事で事件は解決したが、判断が適切だったとは微塵も思っていない。

「今日はここまでだ。このまま帰って休養してくれ」

 隊員達は重い腰を上げ部屋から退室していく。ロイスは机に両拳を二回叩きつけると、椅子に座り深いため息をついた。


 事件から三日後、ケニーは右肩の銃創の痛みも落ち着き、退院の手続きを取っていた。看護師に書類を渡し、荷物を手に取ると、病室にスーツ姿の男が二人入ってきた。

「ケニー・ハーパーさんですね?」

 二人組の片方の男が尋ねると、男は胸ポケットからIDを取り出し、ケニーに見せてきた。IDにはNSA(国家安全保障局)と書かれていた。

「先日の事件について、犯人の情報を教えて頂けますか?」

「犯人の情報はFBIに報告済です。そちらにも情報は伝わっていると思いますが・・・・・・」

 ケニーは左手に持った荷物をベッドに置くと、適当に返答した。

「あなたは唯一犯人の顔を見た貴重な情報源です。これから数日間、データベースの人物写真と犯人の照合をして頂きます」

 拒否反応を見せるケニーの顔を見た男は、間髪入れずに話す。

「これは国家命令です。拒否権はありません。このままペンタゴン(国防総省)に向かいます」

 ケニーは考える間もなくNSAの捜査官二人と病院の外に出ると、キャデラック社のセダンに乗り込んだ。

 ペンタゴンまでの移動時間約三時間の間、捜査官二人は終始無言で、ケニーの質問にも一切答えなかった。この後待ち受ける顔写真の照合作業が大変になる事は容易に想像でき、体力温存の為に睡眠を取る事を選んだ。

 

 ケニーはペンタゴンの入口ゲートの解除音で目を覚ました。3.11同時多発テロ以降、厳重なセキュリティが敷かれ、無数の警備員が国防の中枢を警備している。

 ケニーは捜査官2人に連れられ、建物入場ゲートでボディチェックを受けると、エレベーターで地下に向かった。

「エレベーターを降りたら正面の資料室受付で携帯電話を預けて下さい」

 地下三階でエレベーターが止まり、捜査官がケニーを誘導する。

 ケニーは受付の女性にスマートフォンを渡すと、捜査官の一人が暗証番号、指紋認証で資料室のドアロックを解除した。

「どうぞ」

 ケニーが資料室に入ると、国立図書館のような華やかさとは程遠い、重く冷たい空気を感じ取る。

 米国歴史上における、数々の国家機密が眠る部屋の膨大な資料に圧倒されたケニー。

「こちらの席へお座り下さい」

 捜査官がケニーをPCが設置された机に案内する。大量のファイルが積まれているのを確認すると、早くも憂鬱な気分がケニーを襲う。

「こちらのファイルに綴じているリストの個人IDをPCに入力して下さい。リスト対象者の情報が閲覧できるので、事件当日見た犯人の顔と一致、もしくは似ている人物だったらチェックをお願いします」

「このリスト、全てですか?」

 ケニーは顔を引き攣りながら質問すると、捜査官は無言で頷いた。

 ケニーは一冊目のファイルを開き、検査作業に取り掛かった。撃たれた右肩の影響で上手くキーボードを打てない為、作業スピードは遅い。

「曖昧な回答はテロ幇助の罪に問われますので集中して回答して下さい」

 ケニーは、キーボードを強く叩き無言の抗議をする。ヴィンセントの件、撃たれた痛み、事件の整理がつかないままペンタゴンに連行。正直、整理のつかない気持ちには最適な環境だと内心感じてはいるが、体は休息を欲していた。

 

 ケニーは四杯目のコーヒーに手をかけた所で十一冊目のファイルに入っていた。モニターに映る一人の男を見た瞬間、切れかけた集中力が一気に戻った。

 ヴィンセントを殺した犯人、振り向きざまに自分を撃った犯人の顔がそこに映っている。

 ケニーは犯人を見つけると捜査官に声を掛けた。モニターに映る犯人の情報には【 KUSANAGI 】と記されていた。


 病室で草薙は目を覚ます。看護師が草薙に気付くと、内線で担当医に慌てて連絡していた。

「草薙さん、体調はどうですか?」

 看護師は草薙を呼び掛けると、手を少し動かし応答した。

 草薙は自分の胸に視線を下ろす。術後の処置を見れば大手術だった事が素人でも理解できた。

 担当医が病室に入り草薙を確認すると、安心した表情をした。草薙は担当医の顔を見て手術は成功したのだと悟った。

「草薙さん手術は成功しました。術後特に異常は無かったので、しばらく入院して様子を見させて下さい」

「ありがとうございました」

 草薙は今出せる最大声量で感謝を伝えた。

「これからリハビリをして、日常生活に戻るには約半年かかります。頑張りましょう」

 医師は草薙の症状を確認し、次の患者へ足早に去って行くと、入れ替わりで本条が入ってきた。

 本条はヒールの音を高鳴らせ、目覚めた草薙のベッドに近寄ると、安堵の表情を浮かべている。

「おはよう」

 本条は一言だけ囁く。

 草薙は本条の表情で生きている実感が湧いてきた。目を瞑ると新しい心臓の拍動音が鮮明に聞こえ、高揚感を感じていた。

「本条、ありがとう。俺一人ではここまで病気と闘えなかった」

「移植コーディネーターの仕事をしたまでよ。でも、寝顔見れなくなるのは残念だな」

「術後、来てたのか?」

 草薙は恥ずかしそうな表情を見せる。

「当たり前でしょ! 術後の経過観察も大事な仕事」

 二人の会話を遮るように看護師が病室に入ってきた。

「まだ目覚めたばかりなので、そろそろ面会は終了してください」

 看護師が申し訳なさそうに本条に伝える。

「また来るね!」

 本条は草薙に小さく手を振り病室を出て行った。

 草薙は再び目を瞑る。心臓の鼓動がとにかく心地良かった。

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