願いだけの神社
願いが叶うことで有名な霊験あらたかなその神社は、今日も願いを叶えてもらおうと多くの人が押しかける。
「お願いします」「お願いします」「お願いします」
滝のように浴びせかけられる願いを、神社に祀られている神は今日も必死に捌いていた。
だがあるときふとある疑問が頭をもたげた。自分が必死になって願いを叶えているこの人間たちは、本当に「私自身」に対して願っているのだろうか?
そういえばもう久しく自分の名前を唱えて願いを言う人など見ていない。
それに気が付いた神は、なんだか急激にやる気がなくなるのを感じていった。
「なんだ、馬鹿馬鹿しい。なんで私の名前も知らないようなやつの願いなんて叶えなきゃいけないんだ。やめたやめた。しばらく遊びにでも行こう」
そう言って神は神社を離れて別のどこかへと行ってしまった。
それから数年後、さすがにもう遊ぶのをやめて働くかと久しぶりに神社へと戻ってきた神は目を丸くする。願いが叶わなくなったので誰も来なくなったと思っていたその神社は、神がいたときよりもさらにやってくる人が多くなっていたのだ。
願いが叶う霊験あらたかな神社であるという噂は消えておらず、誰もいないはずの神社に向けては相変わらず「お願いします」が滝のように注がれていた。
それを見た神はふんと鼻を鳴らすと呟いた。
「なんだ、こいつらはただ願いを言いたいだけだったのか、馬鹿馬鹿しい」
そうして神はまたどこかへと消え、今度は戻ってくることはなかった。