6.運命の日・後編
「誇り高き少年よ、後は我輩に任せろ……」
老人がそう呟いた瞬間、銀色の閃光が走った。
まさしく一閃。
その瞬間、それは真紅の血飛沫を纏った。
すると、鈍い音が立て続けに起き、それと同時に男達が地面に次々と崩れ落ちた。
「ぐあっ!!」
「うわぁぁぁあっ!!」
男達の叫び声が挙げ、さらに次から次へと地面に倒れて行った。
老人は手錠が着いたままの状態であるにも関わらず、短刀を片手に次から次へと相手の急所を的確に狙い仕留めていく。
まるで舞いでも踊るかのように軽やかに、それでいて巧みに短刀を操る。
自らを繋ぐ鎖すらも操り、相手を翻弄し縛りあげトドメを刺す。
その様に思わず見とれてしまう。
そして、老人は俺が見とれている間に男達の全てを片付けてしまった。
明らかに別次元の強さだ……
一体、この老人は何者なんだ……
「ふう…… 久し振りの運動にしては少し骨がおれたわい……」
地面に伏した男達を見下ろすと老人は呟いた。
そして、短刀に付いた血を一振りで切るとコチラに視線を向けた。
「誇り高き少年よ、良くやってくれた。我輩一人では警戒されて無し得なかった、感謝する」
そう言うと老人はコチラに手を差し伸べてきた。
自然と吸い込まれる様にその手に答える。
その手に触れた瞬間、あることに気付いた。
この老人の手、非常にゴツゴツしている。
至るところに豆の後があり、相当鍛えていることがうかがえる。
短刀での見事な剣技。
あれは紛う事ない強者の証。
そして、この手は偽りのない、努力して来た者の証明。
「あ、貴方はいったい?」
「今、説明している時間は無い。先ずはここを離れよう」
老人はそう言うと、素早く私を立ち上がらせた。
そして、そのままの勢いで地面に転がった男達を馬車へと放り込んで行った。
「一体、何をしてるんですか?」
「遺体を馬車で運んで始末しようと思ってな。なに、見つかってもここの主人が殺してしまったことにすればいい。奴隷を売り買いする奴等にまともな奴らなどおらんからな、どうにかなるだろう」
は、果たして、本当にそうなのだろうか。
いまいち、この世界の常識がわからん。
彼の言ってる事が合っているのか間違っているのかいまいち判断できない……
「君はそこの死にかけを調べて鍵を見つけたくれ、きっと持っている筈だ……」
そう言うと老人は地面に転がっている一人の男を指差した。
俺が刺した男だ……
「まだ生きている様だが、殺したければ殺してしまえ。君にはそれだけの資格が有る……」
「や、止めてくれぇ。こ、殺さないでくれぇ!」
男は脇腹を押さえながら、うめくように言葉を発した。
その声に答えるように男の脇腹から血が吹き出す。
「ほれ、これを使え……」
老人が俺に短刀を手渡す。
キラリと光る刃が俺の目に映る。
「ふ、ふふ……」
思わず笑えてくる。
殺せる、コイツを……
この男を殺せる……
やっと、やっと……
「ひ、ひいぃぃ!! お、お願い、殺さないで!! 鍵は鍵はここに、ここに有りますから、命だけはお助けぇぇ!!」
男は急いで鍵束を取り出すとコチラに投げてよこした。
「ふむ、いい心がけだな。そのまま改心して真人間に成ることだな、生きていればだがな……」
老人は鍵束を拾い上げると自分に掛けられた手錠を解いた。
「さあ、君も……」
俺も老人に習って枷を解く。
鈍い金属音と共に手錠が解かれ、身も心もが軽くなった様に感じた。
首輪も解かれ、肩の荷が降りた……
「これでよし。では少年よ。この男の処遇はどうするか?」
老人が俺を眺める。
俺は地面に伏した半死の男を見た。
そして、俺は……
「放って置きます。それやり、速くここから離れましょう」
「うん、懸命だな。そうと決まれば君は荷台にいてくれ。男達の遺体から使えそうな物を選別して置いてくれ、逃亡の助けにしたい。頼めるかな?」
俺は無言のまま頷くと荷台へと飛び乗った。
老人は荷台にいる遺体から衣服を素早く剥ぎ取ると、それを纏い御者に変装すると馬車の手綱を握った。
すると、おもむろに馬車は歩き出した。
外の世界へと向けて……




