5.運命の日・前編
遂に運命の日がやって来た。
俺と老人が売れる日だ……
再び空を拝む事が出来るかと思ったが、残念な事にそれは叶わないみたいだ……
檻から連れ出された先にはガレージの様な役割を担っているのだろうか、大きな部屋に馬車が止められていた。
この世界に来てから空を一度も眺めていない。
私はこのまま、空を見ることなくまた檻の中に、暗い部屋の中に閉じ込められるのだろうか……
嫌だ……
ふざけるな、そんなの真っ平ごめんだ!
見ると、今までずっと俺の事を弄んでいた男が、俺の手錠に繋がれた鎖を握っている。
「ほら、ヨルちゃん。速く、この馬車に乗るんだ……」
男は俺の尻を撫でながら呟く。
本当に、最後の最後まで気持ちの悪い奴め……
「ほら、速く……」
男が俺を馬車に乗せる為に背中を小突く。
俺はそれを拒む。
出来る限り、男にしなだれ離れない様にする。
「ヨルちゃん、速く馬車に乗るんだ」
本来なら折檻モノだろうが、この男は俺を女として見てる。
だから、くっつけばくっつく程、鼻の下を伸ばして油断する。
「な、なんだよヨルちゃん。今日はやけに積極的じゃねぇか……」
男とは悲しい生物だな。
「ダンナ、速くして下さい。コイツもさっさと馬車に繋がないとならないんですから」
「あ、ああ。そ、そうだったな……」
見ると、老人が部屋の中に連れてこられていた。
「まったく、厄介なジジイともこれでおさらばだ……」
老人は何人もの男達に鎖を握られ、身動きと取れない程に拘束されていた。
思わず息を飲んでしまう。
まさか、これ程警戒されているとは……
果たして、俺達の計画は上手く行くだろうか……
いや、でも、ここでやるしかない……
いま、この場所で……
俺は男の腰にぶら下げられた短刀を見る。
行けるか?
「へへ、なんだ、コイツが欲しいかヨルちゃん」
男がそう呟く。
不味い、気取られたか?
「まったく、最後の最後にデレやがって。もっと早くにデレてくれればよぉ……」
そう言うと、男はカクカクと気持ちの悪い仕草で腰を振りだした。
「ああぁ、商品でなけりゃあぁ、なけりゃなぁ、最後までヤッちまうのに……」
見ると、男は完全に鼻の下を伸ばしている。
これが最後だからか俺の尻に夢中だ、ここぞとばかりに俺の尻を揉みしだいてる。
これは絶好のチャンスだ……
焦らす様に男の股間に触れる。
優しく、なぞるように……
「おっふ…… ヨルちゃん……」
その瞬間、男の腰にぶら下げられた短刀を引き抜き男の脇腹を刺す。
刺す刺す刺すッッ!!
「うぐッ!」
肉を引き裂く気色の悪い感触と共に、男の鈍いうめき声が部屋に響いた。
すかさず、短刀を引き抜き、俺は老人の元に駆けた。
「キ、キサマァッ!! 何をやってんだ!!」
「クソッ、速くあの女を捕らえろッ!!」
老人の鎖を握っていた手が離れ、コチラに向かって来た。
迫り来る男の手の数々に俺の身体がわずかに硬直する。
だ、駄目だッ!!
ここで負けるなッ!!
恐怖に負けるなッ!!
恐怖に打ち勝てッ!!
コイツらなんかに……
こんな奴らに負けてたまるかッ!!
「うわぁぁぁあっ!!」
俺は男達に向かって駆ける。
手に取った短刀を力一杯握りしめ。男達の中へと突っ込んで行く。
すかさず男達の手が俺を襲う。
首を、腕をと取られ、鎖を引かれ、私はあっという間に組み敷かれてしまった 。
短刀も手から弾かれ、地面を滑るように転がって行ってしまった。
「クソッ!! クソッ!!」
「このクソガキッ!! よくもダンナを刺しやがったなッ!! ブッ殺してやるッ!!」
男の拳が振り上げられコチラに降り注ぐ。
視界が弾け、頭が揺れる。
鋭い激痛に顔が歪む。
でも……
それでも……
俺は笑った。
俺の視界に移った景色を見て思わず笑ってしまった。
何故なら、コチラを組み敷く男達の後ろに短刀を持った老人が立っていたからだ……
「誇り高き少年よ、後は我輩に任せろ……」




