27.棒振り
俺は木の棒を振り上げ勢い良く振り下ろす。
「私は再び閃きました!! 今度は男になる呪いをかけてもらえば良いんです!! そうすれば元通り!! どうですか!? 天才でしょ私!!」
私もとい、俺は素振りを繰り返しながらそう口にする。
そう、まさしくこれこそ逆転の発想である。
流石に私、天才。ふん!!
ふんふん天才、私。ふんふん!!
これで俺は元に戻れるン!!
フンフンフンのフンッ!!!!
「それも無理ですな……」
フーーーーーンッ!!!!
思わず手に握っていた木の棒がスッポ抜けて彼方へとブッ飛んでいった。
「なんでや、なんでなんや!!」
思わずエセ関西弁が飛び出してしまう。
グレイスさんは難しそうな表情を浮かべると、おもむろに口を開いた。
なによその顔はッ!!
それは私の呪いに対しての顔ッ!?
それとも私の剣の素振りに対しての顔ッ!?
どっちなの、ねぇッ!?
ねぇッ、どっちなのよッ!?
「そんな簡単には呪いの効果を無力化出来たら呪いの意味を成しません。ですから、呪いがかかっている状態ですと、他の呪いにかからなくなるんです」
「そ、それは確かに……」
て、でも、そうなると……
もう全然駄目やんけ!!
詰んどるやんけぇ、ワレェッ!!
「ですから、天命に任せろと言っているじゃありませんか……」
グレイスさんが憐れみの目でコチラを眺める。
うぅ、トホホぉ~
もう呪いはコリゴリラだよ~
「はい、それでは素振りの続きを始めてくださいね」
グレイスさんはすっ飛んで行った木の棒を拾い挙げると、俺に手渡した。
「あ、はい……」
俺は切り替えて素振りを再開する。
ここ数日、ずっと素振りをしっぱなしだ。
て言うか、素振りしかしてない。
素振りっぱなし。
「あの、素振りばっかりですが。これでいいんでしょうか?」
「うむ、まずハッキリ言っておきますが、ヨゾラ殿には才能が無いです。ほら、素振りを続けて……」
本当にハッキリ言うなこの人……
ビックリしてグレイスさんを見つめてしまう……
「ほら、素振りを続けなさい。まあ、なのでヨゾラ殿の人生を懸けて、その上段の構えを極めなさい」
「へあ? 冗談でしょ!?」
また、ビックリしてグレイスを見つめてしまう……
しかも、変なTHE親父ギャグみたいなのも言っちゃった……
「ほら、素振りが止まっていますよ。君がやっている素振りは上段の構えの基礎です」
「じょ、上段の構えって…… 冗談でしょ……」
また、言っちゃった!
て言うか、これただ振りかぶって剣を振るだけじゃん。
これを人生を懸けて極める?
ど、どう言うことですか?
冗談ですか?
「君が、やれ槍だの剣だのと納めても実用段階にまで至るには何年もかかります。最悪、人生の全てを費やしても実戦で通用する物にはならないかもしれない」
それはごもっとも、妙に納得できる。
なんとなく自分でもわかる。私には才能は無いし、肉体も女体化してしまったせいでかなり弱体化してる。
この体たらくで実戦なんて笑わせる。
「ゆえに上段の構え、それだけを極め実戦段階まで引き上げる。君は才能は無いが決して馬鹿ではない。それならば一つだけでも戦う手段さえあればどうにかできるかもしれない。そう言った考えでの鍛練となります……」
え?
も、もう実戦を考えてるの?
ちょっと早急じゃない?
いや、でもらいつ戦う事になるかわからないのは確かか……
そう考えるとグレイスさんの考えは真っ当な気もする。
いや、多分だけど正解なんだろう……
手に力を込め素振りを再開する。
この世界は綺麗で美しい。
でもそれと、同じくらい厳しくて険しい。
彼と旅をしていて痛い程痛感している。
今の私は彼がいないと生きていけない。それだけ脆弱な存在だ……
だから、一刻も早く強くならねばならない。
最悪、一人でも生き延びることが出来る程度に……
この鍛練はその為の物なのだろう。
無駄を省き、生きるために特化した鍛練。
グレイスさん、彼が考えてくれた生きる手段の一つ……
そう思うと自然と手に力がこもる。
「うむ、いいぞ。素振りのキレが増した。そのまま続けるように……」
俺はなんて運がいいのだろう……
でだしこそ最悪だったけど、彼に出会えて旅を出来た……
また、山に登りたいと思えた……
生きる理由が出来た……
なら、生きなければ……
折角、私のことを思って真摯に鍛えてくれる彼に報いる為にも……
強くなって生きなければ……
生きる、生きてやる……
私はこの世界で生き抜いてやる……
私は決意を胸に剣を振るった。
ただ無心で剣を振るった。
この剣がただの棒切れだとしても、いつかこの棒が剣と成る日の為に……




