26.満点の星空
「さて、今日はここまでにしましょう。なんとかクルエル山脈を抜けることが出来ましたね、よくぞ頑張りましたな、ヨゾラ殿!」
グレイスさんはそう言うと、毎度の事ながら俺に駆け寄り馬から下ろしてくれた。
本当にお姫様扱いである。
でも、これは正直助かる。
今の私ではちゃんと馬から降りることもままならない。
なんなら、馬から降りる度にいちいち落馬しないといけない状態だ。
笑っちゃうでしょ?
車を止める度に、どっかに衝突させて止めてるみたいなもんだよ。
どう? 私、天才でしょ?
「すいません、本当にありがとうございます……」
しかも、男性への拒絶反応は未だに健在であるらしく。グレイスさんに触れられる度に身体が僅かに硬直する。
「いえいえ、これくらいなんのその……」
そうは言う物のグレイスさんは悲しげな表情を浮かべる。
そして、毎度の事ながらグレイスさんはそそくさと野営の準備を始める。
本当に手際がよろしくてよ……
俺も流石に手伝わなければと周りをウロチョロして木の枝とかを拾う。
「ありがとうございます、ヨゾラ殿。あとは休んでいてくだされ」
「は、はい……」
その言葉を聞いた私は、ドサリと尻餅をつくように地面に腰をついた。
それにしても、あまりにも疲れた……
まさか、山越えがここまで辛いとは……
正直、なにもしてないのに疲れた。
これを趣味にしてる人がいるって正気かよ……
間違いなく、正気の沙汰ではない……
「ヨゾラ殿、明日からは剣の鍛錬を再開しますから、覚悟していてくださいね」
「は、はい! よろしいお願いします!」
はあ、一難去ってまた一難だ……
まあ、この一難は俺が望んで課してる物だけどね……
不意に空を見上げると、満点の星空が一面を埋め尽くしていた。
「ふわぁ、綺麗……」
きらめく星達に夜空を走る流れ星達……
元来、星とはこんなにも瞬いている物なんだ……
夜を表す黒だけではなく、空は紫に青と染められ。星々は白銀と青と赤と宝石の様に輝いている。
文明社会の光が無い所では夜空とはこんなにも美しく輝く物なのだろう。
そんなおり、グレイスさんが私に語りかけてくれた。
「ふふ、山の中で見れた星は更に格別でしたが、ヨゾラ殿は見ておりませんでしたかな?」
「ええぇ…… それなら教えてくださいよぉ…… もおぉ……」
はあ、ちくしょ~ みはぐったなぁ~
「ははは、なに今回は縁が無かっただけですよ。頂上で見る星はそれはそれは美しい物ですぞ。いつか見に行くといいでしょう」
「ははは、そうですね。星降る夜はリベンジの機会に残しておきます」
思わず笑みが溢れる。
ふふ、この世界で生きて行かねばならない理由が一つ出来た……
今日まで、感動したり奮起したりと感情を揺さぶられ続けたけど、こんなに穏やかな気持ちで未来の事を考えられたのは初めてなんじゃないかな。
不意に涼しげな夜風が頬を優しく撫でる。
気持ちの良い夏の夜風と言った感じだろうか、懐かしく、この身体に良く馴染む。
ああ、そうか。これが生きてるって事なのかもしれない……




