23.クルエル山脈・後編
しばらく馬を進めると、ほんのり水気を含んだ風と共に水場にたどり着いた。
「ヨゾラ殿、よくぞ頑張りましたな。今日はこのくらいにしましょう」
そう言うと、グレイスさんは素早く馬に降りるとコチラに駆け寄り、私を馬から下ろしてくれた。
「ひ、ひいぃ……」
若干、男性への拒絶反応が起きたが、グレイスさんはそんなこと気にせず俺の手を取ると、おぼつかない足取りの俺を水辺まで優しくエスコートしてくれた。
水まわりは、ほのかに草も生えていて周りと比べると温度も少し低くなっている様な気もする。
「さぞかしつらかったでしょう。さあ、座って下さい」
彼は、水辺の畔にはえた木の根本に俺を座らせ、甲斐甲斐しく履いていたブーツを脱がしてくれた。
足が凄いスッキリした、めっちゃっ気持ちぃ……
「あ、ありがとうございますぅ……」
「いえ、まだ馴れないでしょうに、よく頑張りましたな……」
グレイスさんはそう言いと俺の肩をポンポンと叩くと野営の準備を始めた。
まるでお姫様扱いだ……
「至れり尽くせりで申し訳ありません」
「いえ、気にしないで下さい。ヨゾラ殿は良くやっていますよ。ここは我輩に任せて休んでいて下さい」
彼はその間も野営の準備を淡々と進めている。
非常に手際が良く、手慣れているのがうかがえる。きっとこれぐらいのことはお手の物なのだろう……
頼もしい限りだ……
そして、私は身体能力弱々過ぎて情けなくなる限りだ……
だけど、なんとか今日までやってこれた。この山もなんとかなりそうな気がする……
「もう少し…… もう少し頑張るぞ……」
そんな事を呟くと、少し涼しい風が私の頬を優しく撫でて行った。
今日の出来事はたったこれだけのこと……
少し長く馬に乗っただけ……
だけど、ほんの少しだけ自分が強くなれた様な気がした……
物語の主人公みたいに上手くは行かないけど。
それでも、こんな些細な事が意味のあることみたいに思えた……




