22.クルエル山脈・前編
強い日差しに照らされ、熱を持った生暖かい風が頬を撫でる。
肌らジリジリと焼け、蒸された空気が肺に充満する。
陸にいるのに窒息してしまいそうな感覚に陥る。
渓谷の様に伸びる山道はある程度ではあるが整備されており、馬で行くことが可能ではある……
けれど、険しくはないけれど登ったり降りたり、やけに遠回りしたり。なんだか無駄に歩かされている気分にさせられる。
遅々として山を登っている感じがしない……
もちろん、その間も熱さはコチラの体力を奪っていく。
「ヨゾラ殿、大丈夫ですか?」
俺の前を進むグレイスさんが心配そうに声をかけて来てくれる。
彼の表情から見るに、今の俺はかなりくたびれた顔をしているのだろう……
実際、熱さと馴れない乗馬のせいでくたくただ……
「もう少ししたら水場がある筈なので、今日はそこで休みしょう」
「は、はいぃ……」
馬が歩く度に身体が揺れる。
いちいち体幹が揺れ、それに耐える為に腹に力を入れる。
そのせいで身体の芯から疲れていく……
思い出したかの様に現れる坂道も私の体幹ゲージを緩やかに削って行く。
簡単に言うと、すごくつかれるぅ……
車って本当に凄い乗り物だったんだね……
「はあ、はあ……」
汗が頬を伝う……
私は投げやりに汗を拭う……
そんな時、生暖かい風が頬を撫でて去っていく……
ふと、眼下の景色に目を向ける。
昨日までいた、アルバの街がそこには見えた……
その街並みは既に小さくなり、今までの歩みが思ったよりも険しくて長いものだったのだなと思わされた。
そして、その先には広大な景色が一面に広がっている。
深緑の森林にその中に見える小さな村。さらに遠くにはポツリと見える大きな湖と街々……
最後にうっすらと見えたのは、城のような物の影。
「アレが我輩達のいた場所、帝都オーレンですぞ……」
私の目線を察したのかグレイスさんが呟いた。
「帝都……」
再び生暖かい風が頬を撫でる。
そして、物語の様な世界が眼前に広がっている。
ああ、少し前まで鳥籠みたいな檻の中にいた私がこんな所にいるなんて……
「ヨゾラ殿、大丈夫ですか? やはり、まだ馴れない馬での登山は難しかったですかな?」
もう一度、頬を生暖かい風が撫でていく……
息を吸うと、暑く蒸された空気が肺を埋め尽くした……
窒息しそうな苦しさが身体を襲う……
つらい……
でも、それでも……
「いえ、大丈夫です! まだ、まだ頑張れます!」
あの暗い檻の中を思い出せば、まだまだ頑張れる。
私はここまで来たんだ……
あの帝都を抜けて、この山脈をここまで登って来たんだ……
どんなにつらくても頑張れる。
この世界には、あの暗い檻の中には無かったものがあるんだもの……
自由……
そして、希望……
そうだ、私はもう自由なんだ、いつ諦めたって、いつ辞めたって、挫折したっていい……
なら、もう少し頑張ろう……
もう少し、この世界をこの目で見たい……
もっと、違う景色を見て見たい……
私は馴れない手綱を握り直し、新たな決意を胸に歩き出した……




